第5話<反省と再出発>

「あー!失敗した、失敗した、失敗した!早すぎたのかな、勢いでやりすぎたかな、ムードも無かったよな。あー!」


 神崎幸はベッドの上で頭を抱えながら転がった。シガレットを咥えていれば成功したかもしれない。しかし、それではつまらないだろう。もし演算して「不可能」と出てしまったら夢も希望も無くなってしまう。それになんだかずるい気がする。


 何度、部屋の壁に体を打ち付けたか分からない。もし両親がいれば「もう、うるさい!何時だと思ってんの!」と怒られるくらいベッドの上でのたうち回った。

 だが今両親はいない。母親は幼い頃に交通事故で死んでしまったし、父親は生きているが別々に住んでいる。

 正直、いなくて清々する。僕は電視によるイジメが起き始めたこと、そして自分の人生をつまらなくしたことで父親のことを恨んでいる真っ最中だ。あのクソ親父。


 張り詰めた顔を振り、スマートフォンを開く。そしてSNSアプリ「RINE」を開き「マコ」と表示されたところをタップした。マコこと「立花誠」にメッセージを送る。マコはよい相談相手である。彼は小学校以来の友達である。


「マコさんよ、恋愛相談に乗ってくれまいか」


 しばらく経ったあとに


「仕方ないな。いいよ、聞いてやる」


 と返信が来た。


「実は―」


 僕はすかさずイジメで死んでしまった彼女に一目惚れしたこと、告白して拒否されたことを話した。


「お前が朝、誰もいない方を見ていたのはそういうことか。しかし、即断即決すぎだろ、お前(笑)」


「いや―吊り橋効果的なやつでいけるかなと」


 僕は吊り橋効果を期待していた。彼女は不安だろうから、流れで付き合えるかなと。今思うと僕は最低の男だ。


「バカか、そんなのいける訳ないだろ。そういえば、お前、目のこと詳しく言ってないだろうな」


「大丈夫だよ。特別製としか言ってないから」


 マコの両親も電視の開発チームの一員である。その為か、僕よりも電視に精通している。どうせ、親づてに聞くだろうから、僕が特別製の電視を持っていることも言ってある。


「お前のデバイスは特別製なんだぜ。『電視β版』は非表示の自動解除が出来る上に、次世代のコンピューターを上回る高速演算機能が付いている。その存在が知られたら、お前、電視をくり抜かれるぜ」


 軽い文面で怖い事が送られてきた。僕は背筋を伸ばした。そして、急いで返信をした。


「怖いこと言うなよ」


「それだけ価値があるってことだ。まあ、それは置いといて、お前振られたけど、彼女のこと諦められないんだろ」


 マコが話題を変えてくれたおかげで緊張がほぐれた。


「まったく諦めてない。自分の視界からの非表示は解除出来たけど、全体非表示をどうにかして解除しないと。どうしたらいいと思う?」


「俺にも分からん。一応調べてみる。まあ、恋愛の方は根気強く話しかければいいんじゃないか。彼女が見えるのは世界でお前だけなんだから。彼女内心、心細いだろうし。だけど、お前だけがあの学園内一の美女を見られるとか。うらやしいな!」


 僕は優越感で頬が緩んだ。照れ隠しの返信を送る。


「うるせえよ。とりあえず分かった。頑張ってみる」


「お前、今頭に血がのぼっているから夜風に当たってこいよ。俺は寝る」


「分かった。そうしてみる。おやすみ」


 僕はスマートフォンをベッド横に置き、夜風に当たろうと立ち上がった。マコはよく僕に助言をくれる。そういう時は決まって何かが起こる。退屈な毎日において、マコの助言はよい刺激になる。僕は薄手のパーカーを羽織り、散歩に出かけた。

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