第4話<初対面告白>
霧島知里は考えていた。いや、半ば、諦めの混じった妄想をしていた。
(私を見つけてくれる人は本当にいないのだろうか。どこかに私を見つけてくれる人がいるのではないか)
自分でも笑ってしまう。希望的観測であると。そんな思考をしていると、自分に向かってくる気配が背中に近づいてくる。
(まさか、私に向かってきて来る人なんて……いるはずがない。気のせいだ)
完全に気を抜いていた。抜ききっていた。
「霧島さん、ちょっと、いいかな」
突然話しかけられ私は声の方を見た。
(誰も私を見ることは出来ないはずなのに―)
そこには男子生徒が一人立っていた。
(彼は確か「神崎幸」という名前だったかな)
幸という名前に聞き覚えがあったがそれよりも気になることがあった。私は椅子から立ち上がった。ガタッと机に膝をぶつけた。
「なんで見えているの?私、『死んだ』はずなのに……」
妄想していた結果になったのにもかかわらず、私の心にあるのは恐怖心だけだった。
「なんて言えばいいのかな。僕のは特別製でさ。君を見ることが出来るんだ。これじゃあ電視を使っている意味ないよね。あはは……」
しばらく、静寂が続いた。
(多分、彼はフォローのために笑ったのだろうな)
私の第六感がそう言っていた。私は相手の心を読むことが出来た。それを私は第六感と呼んでいる。でも、それだけでは、この恐怖心は拭えない。私は恐怖心をのせて口を開いた。
「そんな電視、私聞いたことない。そういえば、あなたの名前神崎だったよね。神崎って電視開発者の、だから、特別製なの?―」
彼の素性を知りたかった。それを知って、自分を安心させたかった。その為には、話すしかない。私の第六感は、万能なものじゃない。会話の中でしか、私は心を読めない。自分の心と相手の心を共鳴させることが出来ない。
「まあまあ。そんな事いいじゃないか。そんな事……。」
彼は私の話を遮った。彼の顔に影が落ちる。遮るのも会話の中の一つのアクションだ。その会話から彼がこの話題に触れては欲しくないことが分かった。
「それよりも……」
彼はモジモジしながらも真剣な眼差しで私を見ている。この行動の意味が私には分からなかった。
「突然こんなことを言うのも変かもしれないけど……僕と付き合ってください!」
私は呆気にとられた。頭がショートしてしまった。それは、彼が凄まじい勢いで頭を振り下げたからではない。ただ単に状況が理解出来なかった。
(出会って一日で告白をする人なんてこの世に存在しないでしょ。普通!)
心の中で私が叫ぶ。ただ、あまりにも呆気にとられたせいか、恐怖心はなくなっていた。ただ胸がどきどきしている。この高鳴りの名前を私は知らない。
「なっ、何を急に言い出すんですか!」
私は後ずさりした。椅子にぶつかり、ガタンという音がした。その音と私の大きい声がこの空間にシーンとした雰囲気を作り出した。
「一目惚れなんです」
彼は頭だけを持ち上げ、主張した。静かな空間が彼の言葉に重さを加えた。
「だっ、だとしても、こんな急に告白だなんて、普通ありえません!」
私は体を後ろに反らせたまま食い気味に言った。胸に押し当てた手に心臓の鼓動が響く。
「確かに。だけどこの気持ちが抑えられないんだ。君は『死んで』しまったから、日常生活で大変なこともあると思う。だから……僕に君を支えさせて欲しい」
彼の言葉には誠実さが感じられた。
(だけど……)
「結構です。私は『死んで』も平気ですから。では、さようなら」
私は髪を弄りながら教室から早足に出ていった。こうして、私と彼のファーストコンタクト、私が非表示にされてから初めての会話は終わった。
走って帰りながら、昔、母に言われた事が頭をよぎった。
「あなたの知という字は神様と契約する時に使う矢とそれを入れる器を示しているの。里も神を祭る
(まさか、彼がそうだって言うの?)
胸の高鳴りはまだ続いている。
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