第169話
俺の言葉にアリサは、「分かったわ」と、答えてくる。
「アルス君、フィーナちゃん。私の体に触れてもらってもいいかしら?」
彼女の言葉に俺とフィーナは頷き、彼女が差し出した手の上に自身の手を重ねる。
アリサは、俺とフィーナが手を重ねたのを見てから詠唱を開始し、魔法を完成させた。
「「「――ッ!」」」
魔法が発動したと同時に、俺は強い立ち眩みを覚える。
それと同時に、いくつかの記憶が流れ込んできた。
それは、俺がフィーナを狼から助けた場面であり、アリサが酒場で毎日のように飲み明かしている光景であったりした。
「――もしかして……」
立ち眩みが納まったところで俺は二人へ視線を向ける。
「アリサさん! この魔法は、相手の記憶を見ることが出来るんですか?」
「出来るけど……」
彼女の答えに俺は内心、舌打ちをする。
想定外だ。
「――でも。フィーナちゃんの記憶は一瞬だけ流れてきたけど、アルス君の記憶は流れて来なかったわね」
「――え?」
「フィーナちゃんはどうかしら?」
アリサの問いかけに、フィーナも頭を左右に振って「アリサさんの記憶は、流れてきましたけど……」と、俺の方へ視線を向けながらアリサの問いかけにフィーナが答えた。
「それにしても……、やっぱりアルス君は特別なのかもしれないわね」
「――え?」
「だって、普通は同期すれば少なからず記憶が流れてくるのに、アルスくんはまったく記憶が流れて来なかったから……。植物と同期しても記憶が流れてくるのに――」
彼女の言葉に俺の心臓の鼓動が跳ね上がる。
アリサの言い様は、まるで俺が彼女たちとは――。
――否。
俺の存在そのものが、この世界とは異なるということを提示しているように聞こえてきた。
――魔王城に入ってから1時間近く経過。
「フィーナちゃん。その剣と槍は、アイテムボックスに仕舞って大丈夫よ」
「は、はい!」
現在、俺達は魔王城の宝物庫とも呼ばれる場所に居る。
ちなみに、アリサが時間停止の魔法に影響が出ないようにアイテムを吟味してから、フィーナがアイテムボックスに入れているため、俺がすることは、まったくと言っていいほど何もない。
「はぁ……」
俺は小さく溜息をつきながら城の宝物庫の壁に背中を預ける。
何もしなくても良いと言うのは楽かもしれないが、それはそれで張りがないというか何というか……。
手持ち無沙汰な俺は、二人の作業見ながら床に座り込む。
やることがないなら仕方がない。
しばらく休憩するとしよう。
体重を背中に預けたところで、背中を預けていた壁が音を立てて崩れた。
「アルス君。大丈夫?」
「アルスくん!?」
二人が倒れた俺の方へ駆け寄ってくると心配そうな表情で語りかけてきた。
「はい。大丈……ぶ?」
何か――。
そう、何かを自分の手が掴んでいた。
「これは――」
「見たことが無い文字ね」
「うん」
アリサも、フィーナも俺が手に持っている物の表面に書かれていた文字を見て首を傾げていた。
――ただ……、俺にだけは、その文字を読むことが出来た。
それは、分厚い本であり。
「異世界アガルタについて?」
本の表紙の文字は日本語で書かれていた。
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