第168話

 以前、城の中に出入りしていた蔓の方に到着したところで、アリサが何かを察したのか「……ま、まさか……。ここから登っていくの?」と、問いかけてきたので俺は彼女の問いかけに「はい」と、即答する。


「……他の場所はないの?」

「ないですね。それより、エルフなのに木登りとか苦手なんですか?」

「――ッ!?」


 俺の言葉に、アリサが自分自身の胸に視線を向けたのが分かった。

 つまり、胸が大きいから蔓を伝うのが――、木登りが苦手ということか。


「大丈夫です。僕が縄か何かで引っ張りあげますから」

「そ、そうね。お願いするわ……」

 

 彼女が頷くのを確認したあと、まず俺は一人で蔓を登っていく。

 城壁まで上がったところで、城の中を見るが以前と代わり映えはしていない風景。

 まずは尖塔の階段へ向かう。

 

「たしか……、このへんに――」


 以前、見かけたロープを手に掴みアリサとフィーナが待っている場所へ戻る。

 二人とも俺が戻ってきたのを見て安堵の表情を見せている。

 やはり、どこかしら緊張していたのだろう。


「いま、ロープを下ろします」


 俺は、城壁の出っ張りにロープを巻いてから縛る。

 そして、ロープを下に下ろす。


「まずはフィーナからで!」

「分かったわ」


 俺の意図を酌んでくれたのか、アリサが即答してくる。

 フィーナを上げたあと、二人掛かりでアリサを城壁の上まで引き上げた。


「時が停止しているのね」


 城壁に上がって開口一番にアリサが、興味深い言葉を発してくる。


「時が停止している?」


 無意識のうちに反応した俺の独り言にアリサが頷いてみせる。

 

「ええ、城の中は時が停止しているようね。でも、これだけ巨大な建造物に対して時間に干渉するほどの魔法を掛けるなんて信じられないわ」


 彼女は、俺達に説明しながらも鋭い視線で城壁上から見える城の中庭などを注視していた。


「アリサさん。このまま、ここで話をしていても時間を浪費するばかりですから城に入りましょう」

「待って!」


 城壁から降りる唯一のルートである尖塔へ向かって歩き出そうとすると、アリサに手を掴まれた。


「どうかしたんですか?」

「アルス君。このままだと、アルス君は良いかも知れないけど、私達は身動きが取れなくなるわ」


 彼女の言葉に俺は首を傾げる。


「それは、どういう意味でしょうか?」

「さっき、アルス君に言ったわよね? 時が停止しているって」

「はい。聞きましたけど、それが何か?」

「今は、アルス君が傍にいるからいいけど、離れたら私やフィーナちゃんは一瞬で停止している時に呑み込まれるわ。まずは、同期をしましょう」

「――そういえば……。でも、すでに精霊魔法は発動していたのでは?」

「発動はしていていたけど、それは表面上に過ぎないの。でも、これは予想外。まさか……、時を止める魔法まであるなんて思わなかったから――」

「そうですか……」

「だから一言断っておきたいの。かなり深い位置でアルス君と同期をしないといけないから……」

「同期をしないと、まともに活動できないんですよね?」

「ええ」

「それなら、断る理由はないです」


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