第146話
俺は言い淀む。
彼女を納得させられるピースはある。
あるが、それを口にしていいのか……、俺には分からないのだ。
俺が何も答えないことで、気まずい刻が流れる。
するとフィーナが、「狼に私達が襲われる前に聞いたの?」と、言葉を紡いできた。
俺が、転生後に得た情報。
その中で、もっとも確実性が高く彼女を納得させられる物。
それこそが――、彼女が今、俺に向けて呟いてきた言葉であった。
「ああ、そうだが――」
俺は、助け舟とばかりに首肯する。
「…………嘘つき――。ここは……、アルス君が私を助けてくれた場所だから! ここは、アルス君が家から出なくなった場所だよ? どうして、そんな平気な顔をしていられるの? ねえ? 貴方は誰なの? 本物のアルス君は、どこにいるの?」
彼女は、悲痛な声で俺に問いかけてきたが、その問いかけに答える答えを俺は持ち合わせていなかった。
何故なら、俺にはアルスの記憶は統合されてはいたが、それは不完全な物だったから。
俺が何を言っても、真実を知らない以上、俺が言う言葉は全て予測からくる妄想や嘘になってしまうからだ。
それに――、俺を肯定してくれた彼女から、このような言葉を突きつけられるなんて思いも寄らなかった。
「すまない」
だから、俺は謝罪の言葉を告げてその場を後にすることしか出来なかった。
フィーナと別れた後、いつものように川原にある大岩の上に座って拾ってきた小石を川へと投げ入れて時間を無為に費やしていた。
本当は、粉砕した石炭を投石する投石器の設置箇所も確認しないといけないのに、まるで心の中に穴がポッカリと空いてしまったようで、やる気がまったく起きない。
大岩の上で横になりながら空を見上げる。
すると、ふいに離れ間際のフィーナの表情が思い出された。
彼女の悲しそうな表情。
別に俺は、フィーナが喜ぶ姿が見たかっただけだった。
彼女が気に病んでいる妹が助かればいいと思いアルセス辺境伯へ願い出ただけで、彼女を傷つけるつもりなんてどこにも無かった。
「――くそっ!」
俺は岩を殴る。
俺の軽率な行動が、彼女に違和感を与えるなど想像していなかった。
もっと、考えてから行動するべきだった。
もっと、コミュニケーションをとっておけば、回避できたはずだった。
もっと、上手くやれたはずだったのに――。
――彼女に「貴方は、アルス君じゃない!」と否定されるとは思わなかった。
「まさか、こんな結果になるなんてな……」
俺は自分に向けて一人呟く。
ただ、分かっていた。
俺は彼女を死なせてしまった。
俺の軽率な行いのせいでフィーナは魔王に殺された。
そのことを思えば、彼女に嫌われるのは……、問題ない。
元々――、全部俺が悪いのだ。
――そう。最初の目標を忘れたらいけない。
俺は魔王を倒す。
それが、俺の目標だ。
そのために、行動してきたのだから――、そうすれば全てが上手くいくはずで……。
「詭弁だな――」
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