第145話
それにしても、フィーナの妹であるレイリアと会うのは、異世界に転生してきてから2回目だ。
初めて出会った時には、彼女を救うことは出来なかった。
フィーナの嬉しそうな表情を見る限り、寝たきりの妹が助かるのは本当らしい。
アルセス辺境伯が手配した医者が、わざわざ嘘をつく理由もないからな……。
彼女に手を引っ張られながら、少しずつ俺は山の方へと歩いていく。
「フィーナ」
俺は、試しに彼女の名前を呼んだが、フィーナは無言で俺の手を引っ張ったまま、彼女の家とは違う方向へと歩いていく。
彼女の様子に俺は困惑する。
妹に会わせると言っていたのに、自分の家とは違う方向へ歩いていく理由が俺には分からない。
正直、何と声を掛けていいのか分からないが――。
俺は、フィーナの真意を確かめるために山に入る前に立ち止まる。
すると彼女は、前を向いていた表情を俺に向けてきた。
その瞳の色には、不安そうな揺らめきが見える。
「どうしたの? どうして立ち止まるの?」
彼女の言葉に俺は心の中で考える。
どうして彼女は山の方へ進もうとしているのか――。
――しかも、アルセス辺境伯軍が陣地を敷いている方角とは別方向。
商業国メイビスの方角。
カタート山脈へと続く森に行こうとしているのか……、俺には理解が出来ない。
「フィーナ、お前の家とは反対方向だと思うんだが?」
「……ねえ――、アルス君は、この森を覚えている?」
「――何を言って……」
俺はカタート山脈へと続く森を一目見たあと、すぐにフィーナへと視線を戻す。
すると、彼女は泣きそうな顔を浮かべながら「あなたは、一体誰なの?」と問いかけてきた。
「俺か? 俺はアルスだが――」
俺の言葉にフィーナが首を左右に振りながら「アルス君は、そんな言葉遣いはしない」と、瞳から涙を零しながら言葉を紡いでくる。
「何を言っているんだ? 俺はアルスで――」
「私は――、……アルス君には妹が居るってことは教えてない――」
彼女の言葉に、無表情を貫いていた俺は思わず「――え?」と、驚く。
――おかしい。
最初に出会った時には、俺はフィーナに妹が居ると知っていて……、知っていて?
アルスの記憶には、フィーナのデータは無かった。
それはつまり、フィーナの関係者である妹の記憶や知識も俺は持ち合わせていないということになる。
なのに……、俺はフィーナに妹が居たと彼女に問いかけてきた。
それに対して、フィーナは何て……答えた?
……彼女は俺の言葉を肯定した。
ただ、それは――。
いや、良く思い出せ……。
アレクサンダーから、俺は村の情報を得ていたはずだ。
その中にはフィーナの情報も直前までは無かった……。
「いや、アレクサンダーから聞いたんだ……」
俺の言葉に彼女は首を振る。
「アルス君、村に一度も来ていないよね? アレクから何時、話を聞いたの?」
「何時って――、それは……」
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