第147話

 自分を、どんなに正当化しようとしても結局は、俺がアルスではないことに変わりはない。

 俺は別の世界で生まれて育った日本人であり桜木悠斗と言う名前がある。

 フィーナの言っていた事は十分に的を射ているし、間違ってもいない。


「――ったく――、誰だよ……。俺に異世界転生させた奴は……」


 どうして俺を異世界転生させたのか? そして死んだ時に、時を巻き戻して生き返る力を与えたのか? 理由がまったく分からない。

 ――いや、理由ならあるか……。

 

「魔王がいるからな……」


 それにしても、アルスの記憶が殆ど無いとか無茶苦茶にも程がある。

 おかげで苦労のしっ放しだ。

 考え事をしているところで、川を渡っている音が聞こえてくる。

 ふと大岩から、下を見下ろすと丁度、兵士の一人とフィーナが川を渡っているところであった。

 フィーナが一瞬、俺の方へと視線を向けてくる。

 彼女を見ていた俺と視線が一瞬だけ交差するが、すぐに視線を逸らされた。

 

「どうやら、完全に嫌われてしまったようだな……」


 一瞬、自殺をして時間を巻き戻せば――、と思ってしまう自分が居たが頭を振って否定する。

 今回の討伐が終われば問題ない。

 

「――あと3日だ。それで全てが終わる」


 魔王を倒した後は、魔法王を倒し――、それで目標は達成だ。

 その後は、俺は――。

 俺は……、何をすればいい?


 フィーナに嫌われたまま――、俺は領地を富ませることができるのか?

 そもそも、アルスと偽って両親を騙している俺に領地を受け継ぐ資格なんてあるのか?


 考えれば考えるほど悪い方向へと考えが向かってしまう。

 良くないというのは分かっている。

 それでも――。


「アルス君」

「――ッ!?」


 思考の泥沼に嵌っていた俺は、驚いて後ろを振り向く。

 そこには、アルセス辺境伯軍の魔法師団長アリサが座って俺を見てきていた。


「どうかしたの? そんなに慌てて――」


 俺の様子がおかしいことに彼女は――、アリサは気がついたのだろう。

 心配そうな表情をして俺に尋ねてきた。


「――いえ、なんでもないです。それよりも、魔王城の方は何か分かったんですか?」

「それがね、帝政国で使われている文字に似ているのは分かったのだけど期限内に読み解くのは無理そうなのよね」

「帝政国?」

「――ええ、私達の住まうアガルタの世界に存在する大陸ローレンシア。その東北に位置する大国なのよね。たぶんだけど、帝政国で古代に使われていた文字だと思うのよね」

「……名前だけはお父さんとお母さんは読んでいましたけど?」

「そりゃ封印に携わった2人の名前は有名だもの」

「そんなに有名なのですか?」


 引き継いだアルスの記憶が不完全な影響で、この世界の常識が殆ど分からない。

 おかげで有名だと言われても分からないのだ。


「まず、シャルロット・ド・クレベルトだけどね。リメイラール教会の聖書には初代リメイラール教会の聖女にして歴代最強の魔法師と書かれているの」

「聖女ですか……」


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