第139話


「そう、疲れていないなら良かったわ。でも、何か迷っているようなら私に言ってね」

「ありがとうございます。そうですね……」


 俺は、彼女と受け答えしながら考える。

 正直なところ、最初に出会ったアリサよりも、彼女の方が常識的に見える。

 それに、将来的に領主として村を発展させていくためには人に物事を上手に教える人間というのは必ず必要になる。

 そうすると、アリサ先生に移住を打診したほうがいいんだが――。

 まだ、領主の身でもない。

 政務を一度も手伝ったこともない子供が、引き抜き紛いのことをしてもいいのかと言うと、正直言って不味い。

 ただ、提案するだけなら……。


「――アリサ先生」

「どうしたの?」

「以前にアリサ先生は、子供たちに勉強を教えることが目標だったと言っていましたよね?」

「そうね。でも、ある程度は給金も貰わないと仕送りもしているから……」

「なるほど……」


 俺は彼女の言葉に頷く。

 至極、真っ当な意見だ。

 むしろ無償でも教えたいと言わないだけ好感が持てる。


「もし、僕が領主の仕事を引き継いだときには、アリサ先生に村の子供達の勉強を見て頂きたいのですが――、もちろん、給金も用意できるようにします。今は、まだ無理でも考えておいて頂けますか?」

「――え? 魔法師団の給料って結構高いのよ? 大丈夫?」

「ちなみに、おいくらなのでしょうか……」

「一ヶ月で金貨10枚ね」

「金貨10枚……」


 そういえば、俺は貨幣単価を知らない。


「あの……、一ヶ月4人家族が暮らせるお金っていくらくらいなんでしょうか?」

「――だいたい、金貨2枚から3枚くらいね」

「そうですか……」


 つまり、アリサ先生の給料は4人家族が暮らせる額の3倍から5倍は稼いでいるということになる。

 たしか日本の一般家庭――4人家族が暮らすためには20万円から30万円と言われている。

 ということは――。

 アリサ先生の給料は、月60万円から150万円?

 おいおい、すごく高給取りなんだが――。

 父親のアドリアンとか騎士爵なのに俸給とか年間100万円くらいだぞ?

 

「ちなみに魔法師団長のアリサさんは、いくらくらいなんでしょうか?」


 思わず敬語になってしまった。

 俺の問いかけに彼女は首を傾げる。


「そうね――、詳しくは知らないけど……月に金貨100枚くらい貰っていると思うけど?」

「領主継ぐのを辞めて……、魔法師になろうかな……」

「アルス君、アドリアン騎士爵様が聞いたら冗談でも傷つくわよ?」

「……そうですね。思わず1%くらい冗談でした」

「待って! 99%本気だったの!?」


 




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