第140話
「まぁ……そうですね――」
「アルス君、駄目よ? 貴方を産んで育ててくれたのはご両親だけどね? それだけじゃないのよ? 貴方が普段食べている食事や衣服は領民の税金だからね? きちんと領民に還元しないとね!」
「――あ、はい……」
アリサ先生が俺の頭を撫でながら、とてもマトモなことを言ってきた。
そういえば、両親はあまりそういうことを俺に話をしたことが――。
「――あれ?」
俺は思わず額を右手で押さえる。
何か、俺は大事なことを忘れているような気が……。
思わず塞ぎこんだ俺を心配したのかアリサ先生が慌てた様子で「アルス君! 大丈夫!?」と語りかけてきた。
彼女の言葉に、俺は条件反射的に「――あ、はい。……だ、大丈夫です」と、答えていた。
「何度も同じ時を巡っているって聞いたけど、それでもアルス君は私達から見たら子供なのだから、無理したら駄目よ?」
「……はい。気をつけます」
先ほどまで考えていた何かを忘れているようなことを思い出そうとしなければ、考えなければ頭が痛くなることはない。
だけど、それは本当に思い出さなくても良いことなのか? と、自分に問いかけそうになる。
思考をしていると、アリサ先生が俺の頭を撫でてきた。
「何か?」
「うんと……、何となく? アルス君が悩んでいたみたいだから――。それに私の実家にも妹や弟がいるからね」
「そうですか……」
「うん。もちろん! アルス君と同じ年齢の妹もいるのよ?」
「何人家族ですか?」
「私の家は10人家族ね!」
「そ、それは……」
とても多い人数なのではないだろうか?
ただ、たくさん生んでたくさん育てると言うのは医学が発達していない時代では普通だったと聞いたことがある。
「大家族ですね?」
「そうね、でも一応、私が出稼ぎしているし!」
「なるほど……」
つまり、家族を――。
妹や弟が暮らせるようにするためには、魔法師団を抜けられないということか。
まぁ、たしかに理想と現実は違うからな。
「もし、僕がそれだけの給料を支払うと約束したら――」
俺の言葉に、アリサ先生が、「うーん」と、顎に人差し指を当てながら俺の方をジッと見てくる。
「そんなに求められるのは嬉しいのだけど、どうして私に、そんな提案をしてきたの?」
「それは――」
彼女の問いかけに俺は思わず言葉が詰まる。
別に、勉強を教えてもらえる相手なら誰でも良かったはずだ。
それなのに彼女に決めた理由は――。
「僕は、子供に勉強を教えるといった時のアリサ先生の言葉に惚れ――」
途中まで、言葉を紡ぎ言いかけたところで無意識の内に両手で口を押さえていた。
何故か知らないが、俺はアリサ先生には惚れたという言葉を使ったらいけない気がしたのだ。
ただ――、どうして思い止まったのか……。
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