第133話

「……分かりました」


 俺が断っても、フィーナの妹であるレイリアを診るための医者の手配はしてくれると思う。

 ただ、アルセス辺境伯は俺に確認の意味を込めて話をしてきたのはそういう問題じゃない。

 おそらくだが、アイテムボックス持ちには色々と規制とかルールとかそう言うのがある。

 そう言った事に関して、俺に借りを作ることで見逃してやると辺境伯は埒外で言ってきているのだ。

 だから、俺が言える言葉は一つしかない。

 それは肯定である言葉のみだ。


 俺の返事が、どうやら望みどおりの内容だったらしく機嫌を良くすると、後方に控えていた兵士にエルト村へ医者を派遣するようにと命令をしていた。

 

「フィーナとやら、医者を手配した。すぐに案内は出来るな?」

「はい! ありがとうございます!」


 事態がどうなっているのか恐らくフィーナでは理解出来ていない。

 彼女は自分が言った言葉の意味や重みを分かっていないというか10歳にも満たない少女に分かれという方が問題だろう。

 俺と、アルセス辺境伯が視線を交わしていると「辺境伯様、急いで診てほしい患者がいると聞きましたが?」と、一人の男が現れた。

 男は、年齢は40歳後半ほど。

 清潔そうな白い服を身に纏っており体の線は細い。

 顔つきは柔和であると思うが、どことなく頼りなくも感じる。


「その娘が患者の元へ案内することになっている。すぐに向かって診察をしてくれ。それと薬代については辺境伯軍が持つことになっている」

「分かりました」


 男は頭を下げるとフィーナに、案内を頼んでいた。

 どうやら、フィーナと医者の話はすぐに纏まったようで「アルスくん、ありがとう」とだけ言って医者を共だって村へと戻っていったが――。


「なるほどな……、アルス、お前が守りたいのは――、あの娘か?」

「そうですが何か?」

「アルス、お前に頼みがあるのだが? 聞いてもらえぬか?」


 アルセス辺境伯の言葉に、俺はため息をついた。


「何でしょうか?」


 あまりにも性急な頼みという言葉に俺は呆れてしまう。

 もう少し時間を取ってから、願いを提案してきてもいいのにと考えてしまうが――。


「じつはな、私には孫娘がいるのだが――」

「……孫娘ということは――、アルセス辺境伯の領地を継がれる方ということですか?」

「爵位は男しか継ぐことが出来ない。これは、この国が出来てからの慣わしだ」

「そうでしたか……」


 てっきり女帝か女王に即位した王女などがいると思っていたが、そうではないようだな。

 つまり男系のみが王位や爵位を継ぐという形を取っていることになるのか。


「それで、僕にどのような?」

「うむ、じつは庶腹の娘になるのだが、どうであろうか?」

「――それは……」


 アルセス辺境伯の言葉に俺は口を噤む。

 流れからして、アルセス辺境伯は庶腹の娘である子を俺の婚約者にしたいと言ってきているのが分かる。

 それよりも、どうしてこのタイミングで俺に提案してきたかだが――。

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