第134話
「それで、フィーナの身柄を――、安全を確保してやるという交換条件ですか?」
「それもあるが……。アルスよ、お前は自分の命を軽んじているのが分かっておったからな。そのような者に大事な孫娘であるアリーナを嫁がせる訳にはいかないからな」
「……なるほど」
つまり、俺がフィーナに固執していることを知って、それなら安易に命を捨てるようなことはしないと確信した上で提案してきたと言ったところか?
それにしても、そんな大事なことを即断できるのは……。
――いや、そうじゃないな……。
「アルセス辺境伯様、その話はアルセス辺境伯領の首都アルセイドを出てからお父さんに話をしていましたね?」
「どうして、そう思う?」
「お母さんは、僕をかなり溺愛しているので……。その僕が婚約者を持つということは、きっと、お母さんは快く思わない。そう考えるのは、とても自然なことです。それをお父さんは理解していたからこそ、困っていたのではないのかと――」
「よく見ておるな」
俺の説明に満足そうにアルセス辺境伯は頷く。
「それで、どうだろうか?」
「どうだろうか? と言われましても――。確定ですよね?」
「そうであるな。一応、アドリアンの許可も取っている」
「そうですか……」
俺はアルセス辺境伯の言葉に頷きながらも内心溜息をついた。
父親もアルセス辺境伯も、俺の母親を一つだけ誤解している節がある。
それは、俺の母親は俺を溺愛していると同時に領民のことに関して真剣に考えているということを彼らは知らない。
つまり、領地のためになるなら余程酷い女性が来ない限り婚約に関しては、間違いなく許可を出すということだ。
「分かりました。ですが――」
「わかっておる。孫娘アリーナは正妻と言うことにしてくれれば、側室に関しては私からは何も言わない」
別に、フィーナとはそういう関係ではない。
そもそも、俺の知っているフィーナと、いまのフィーナが同一人物なのかすら俺には判断が出来ない。
それに――。
本当に同じ時間軸に俺は死に戻りしているかすら分からない。
それでも、現状ではフィーナの立場が悪くなるのは避けなくてはならないし、貴族同士の結婚というのは基本、親が決めるというのは多くの小説やドラマを見て知っている。
「分かりました。一度、アリーナ様とお会いしたいと思うのですが年齢はいくつくらいなので?」
「アリーナは、今年で6歳になる。アルス、お主が12歳になった時にアルセイドへ招待するから、そのときに顔合わせをするとしよう」
アルセス辺境伯の提案に俺は頷くことしか出来なかった。
弱冠5歳にして婚約者が決まるとは……、また面倒なことになったものだ。
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