第132話

 フィーナが呟いた言葉。

 

 ――アイテムボックス。


 その言葉を聞いたと同時に、アルセス辺境伯の顔つきが変わったことに俺は気がつく。

 すぐにフィーナとアルセス辺境伯の間に割って入ると同時に「ほ、本当にアイテムボックスを使えるのか?」と、言うアルセス辺境伯の声がフィーナに向けて問い掛けられた。


 心なしか、その声は震えているようにすら感じられる。

 

「はい! 私はアイテムボックスが使えます!」

「フィーナ!」


 俺は思わず、声を荒げてしまう。

 何故か分からないが、嫌な予感してならないのだ。

 

「――え? あ、アルスくん? どうしたの?」

「貴族相手に嘘は良くない」


 俺は努めて冷静に彼女を嗜める。

 

「……で、でも――」

「いいから!」


 俺がフィーナに、これ以上は安易に話すなと言動と視線から伝えると同時に、「アルス、その者に聞きたいことがある」と、辺境伯が俺に対して強めの口調に語りかけてきた。

 彼の――アルセス辺境伯の言葉に俺は額から汗を垂らす。

 やはり、アイテムボックスと言うのは特別なモノだと言うのが何となくだが察することができる。


 そもそも父親と一緒に、シューバッハ騎士爵領からアルセス辺境伯へ向かう道中でも、アルセス辺境伯領内で最も大きな都市でも、アルセス辺境伯軍の移動の時でもアイテムボックスを持っている人間は見たことが無かった。

 2000人以上もの人間が従軍している軍の中で見たことが無いのは余程のことだ。

 そして、もしアイテムボックスの希少性が俺の考えている通りだったとしたら、そのシナリオは最悪なモノになる。


「アルセス辺境伯様、この者は妹を助けたいと願うあまりに希少性のあるアイテムボックスについて使えると虚偽をしてしまったのでしょう。何分、まだ子供のためお許しを――」

「ふむ……、なるほど。名は何と言ったか?」

「この者はフィーナと――」

「そうか……、分かった。お主の従軍を認めようではないか」

「辺境伯様!」


 俺は、アルセス辺境伯を睨みつける。


「アルスよ、お前は勘違いをしているようだから言っておくが、アイテムボックスを使える者は処分されるようなことはないから安心するがよい。それに、お主がそこまでして守りたい者に手を出したら何をされるか分かったものではないからな……」

「――なら、どうするおつもりですか?」

「アイテムボックスが使える人間は、保存できるアイテムの大小に関わらず王国に登録申請をしなければならない。どうしてだか分かるか?」

「それは、禁制の物資などを無闇に町の中へ持ち込み出来ないようにするためですか?」

「――そうだ。本来であるなら渡り歩いた村・町の過去の来歴をすべて調べて王国に登録申請して許可が下りるまでは拘束しておくところであったが……。運が良かったな? 外部との交流が無い場所だからこそ、アイテムボックスを使ってでの悪事を安易に行えないからこそ、大した問題にはならなかった」

「それでは……、従軍については――」

「山の中で物資の移動が風の魔法だけでは不便でだろう? なら、そこの娘に手伝ってもらう方が合理的であるし、我が辺境伯軍に従軍するなら、軍の関係者ということで医者を手配も可能だ」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ、約束は守ろう。それに――」


 アルセス辺境伯が、言葉途中に俺の方を見てきた。

 明らかに、その目には何らかの意図が見え隠れしているように思える。


「アルスよ、これは貸し一つで良いな?」

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