第131話

「アリサから話は聞いておるぞ? さっさと来るがよい」

「はい!」


 俺は頭を下げる。

 すると俺の後ろに隠れていたフィーナに気がついたのか「アルスよ、その娘は?」と問い掛けてきた。


「はい、彼女はシューバッハ騎士爵領に住まう者です。じつは折り入ってお願いがありまして参りました」

「……ふむ。なにやら複雑な事情があるようだな?」


 アルセス辺境伯は俺とフィーナの表情を見ると看過してきた。

 

「はい」

「それなら、天幕まで移動するとしようか」

 

 俺はアルセス辺境伯の言葉に頷く。

 別に、ここで話をしても問題はないのだがアルセス辺境伯が移動を示唆したのなら何か意味があるのだろう。

 天幕に入る――。

 すると、天幕内には、アリサが居た。

 彼女は椅子に座っており、俺の姿を見たあと後ろに立っていたフィーナを見ると額に皺を寄せると「アルセス辺境伯様、宜しいのですか?」と、アルセス辺境伯に話しかけていた。


「よい、私が許可を出したのだからな。それに――」


 アルセス辺境伯は、俺の方を見てくる。


「――何か手土産は用意しているのだろう?」


 俺は肩を竦めながら「……食えないお方だ」と言葉を紡ぐが誰も咎める者はいない。

 まぁ、散々――、死に戻りを繰り返してきたと言ってきたのだ。

 今更、俺を咎めても意味ないと理解している。

 何せ、俺は死ねば同じ時間をやり直すことが出来るからだ。

 それはつまり。辺境伯ですら倒す方法を見つけることが出来る可能性があるということ。

 事実、石炭や小麦を使った粉塵爆発や炭塵爆発を使えば辺境伯の館を吹き飛ばすことができるから。


「お願いは一つです。そして等価交換として差し出すものも一つです」

「ほう? それは何だ?」

「彼女の妹――レイリアの病の完治を依頼したい。その代わり、こちらが提示する等価交換の物は、こちらになります」


 俺はテント内のテーブルの上に羊皮紙を置く。


「これは何だ?」


 アルセス辺境伯は、羊皮紙に書かれている内容を何度も見ているが、どうやら理解できないようだ。


「これは、投石器の設計図になります。今砕いている石炭を城の上空まで飛ばす機械になります」

「ほう? だが……これは――、本当に良いのか? これだけの技術を提示して――」

「構いません。どちらにせよ、魔王城では投石器がどれだけ用意できるかによりますから」

「ふむ……、だが、いずれ使うことになることが確定している技術に価値があると思うのか?」


 そう来たか。

 つまりアルセス辺境伯にとって投石器は、魔王討伐のために必需品であり、別に技術としてもらっても意味がないと――。

 困ったな。

 さすがに、これは想定外だ。


「――あ、あの! 私、アイテムボックスが使えます! 妹が助かるなら私も従軍させてください!」


 突然のフィーナの言葉に俺は驚くことしか出来なかった。



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