第112話
声色から怒っているのは容易に想像がつくことから父親の問いかけに即答する。
そして謝罪の言葉として「申し訳ありません」と、ベッドに座ったまま頭を下げた。
「何が申し訳ないんだ?」
「もっと慎重に事を運んでいればということです。馬小屋を爆発したあとにアルセス辺境伯へ魔王討伐のための話を詰めるつもりでした。そして勢いに任せて提案する内容を快諾して頂く予定でした。それが……、僕が気絶したばかりに…・・・」
粉塵爆発の実験は、初めて行うことではあった。
でも、予期できないことではなかった。
もっと上手くやれていれば、話を円滑にアルセス辺境伯へ提案できたはずだった。
全ては俺のミスだ。
「アルス! お前は……、お前は自分の命を何だと思っているんだ!」
「……え?」
俺は首を傾げる。
父親が何を言っているのか理解できない。
何度でも死ねるんだから、俺の命なんて大したモノではないはずなのに、どうして怒っているのか分からない。
「えっと…・・・、自分の命と言われても……、何度でも同じ時間をやり直しが出来るので――」
そう、俺は何度でも死に戻りが出来るのだ。
つまりいくらでも試行錯誤が行えるわけであって、完璧なルートを見つけるまで何度でも……、何度でも?
俺は、そこでふと、フィーナの顔が横切った。
彼女は、俺を信じていると言ってくれた。
その彼女と過ごした時間の俺は……。
「アルス、良く聞きなさい。たしかにお前は、何度でも同じ時間を巻き戻っているのかも知れない。でもな? 私とライラにとってのアルスは、お前だけなんだ。お前が死んだらライラが悲しむし俺も悲しい。だから自分の身を危険に晒す真似だけはやめてくれ」
「……わかりました」
俺は父親の言葉に頷く。
素直に頷いた俺に父親は、「そうか」とだけ頷くと俺の頭を撫でてきた。
「そういえば、僕の怪我は相当ひどかったんですか?」
「ああ、アリサ殿が居なければ、いまごろ死んでいた」
「そうですか……」
どうやら思っていたよりも重傷だったようだな。
それにしても魔法というのはすごいものだ。
死に瀕している体も治療することが出来るのだから。
それに痛覚麻痺の魔法まで使えるとは、さすが魔法師団長と言ったところなのだろう。
「アルセス辺境伯様が、明日、アルスの意見を聞きたいとのことだ。馬小屋が爆発した説明も出来るな?」
「はい。問題ありません」
さあ、明日は最後の一押しだ。
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