第111話

 どのくらい気絶していたのだろうか?

 ハッ! と目を覚ましたとき俺は壁に寄りかかっていた。

 周囲を見渡すと、アルセス辺境伯をはじめ父親以外が全員、馬小屋だった建物のほうへと視線を向けていた。

 それにしても……視界がぼやけていてよく見えない。

 まぁ、粉塵爆発の実験は成功したから良しとしておこう。


「――っしょっと……」


 壁に預けていた体に力を入れて立ち上がる。

 すると何故か分からないが……分厚い布団の上を歩いているように、足元が定まらない。

 視界が上下左右に揺れたかと思うと、そのまま俺は地面の上に倒れた。


「アルス! アリサ殿、回復の魔法を早く!」

「――え!? アルスくん!?」


 父親は、俺が倒れたことに気がついて、アリサに回復魔法をかけてもらうように掛け合っている。

 アルセス辺境伯もすぐにアリサに「回復魔法を!」と命令を下していたのが最後に聞こえた。




 夜の帳が落ちた頃に俺は自然と目を覚ました。

 あたりを見渡すと、建築様式からアルセス辺境伯邸内だと言うのが何となく察することが出来た。

 どうやら、俺は死ぬことはなかったようだ。

 それにしても……俺は、一体……。


「――これは……」


 俺の上半身は裸だった。 

 頭と体には白い布が巻かれているのが確認できる。

 

「血がついている」


 俺は頭に巻かれていた布に触って湿っていたのが血だったことを確認したあと、寝台に体を横たえる。

 自然と体には痛みは感じない。

 おそらくアリサの回復魔法の影響だと思うが、痛みを感じないというのは生物学的にかなり危険だと思う。

 痛みは、自身の体の状況を教えてくれるからだ。


 さて、これからどうするべきか……。

 一応、外の景色を見ることは出来るが、電気などで明かりが点される現代日本と違って、この世界の夜は本当の暗闇だ。

 今の時間が何時か分からないが、少なくとも日が沈んだばかりということはないだろう。


「はぁ……」


 ため息しか出ない。

 本当なら、粉塵爆発の話を切っ掛けに魔王討伐の方針を説明する予定だったのに、まさか気絶して倒れてしまうとは――。

 肩を落としていると、部屋の扉が何度かノックされた。


 そして部屋に入ってきたのは、服装からして俺の父親であるアドリアンであった。

 ただ、部屋の中は薄暗い。

 ランプだって数個、壁に掛けられているだけ。

 100畳近い部屋を完全に照らすことは出来ておらず、父親の表情までは窺い知ることは出来ない。


「起きたのか? アルス。俺が、今どういう気持ちなのか分かるか?」

「わかります」


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