第113話

「それで……、どうして……お父さんが一緒に寝るのですか?」


 俺は、大きめのベッドとは言え父親と一緒に寝ることには問題は無かったが、これだけ広い邸宅内であるにも関わらず一緒に寝ないといけない意味が分からなかった。


「アリサ殿が、怪我が完全に治った訳ではないからと言っていたからな」

「そうなのですか?」


 特に痛みなどは感じられないし問題もない。

 アリサの考え過ぎではないかと、一瞬考えてしまったが治療を施した本人が言うのだ。

 きっと、気がつかないだけで異常がどこかあるかもしれない。

 

「それに、いつも家ではライラと共に寝ていただろう?」

「……僕がお母さんと?」

「……? どうかしたのか?」

 

 父親は一瞬、心配なそうな表情を向けてくる。

 俺は、「……いえ、なんでも……」と、答えながら父親が寝られるスペースを作るために、ベッドの端へと移動して横になった。

 さっき、父親が言っていた母親と一緒に寝ていたという言葉。

 母親と寝ていた記憶がすぐには思い出せなかった。

 ただ、落ち着いて考えれば思い出せる。

 おそらく事故で頭を打った影響で一時的に記憶が混乱しているだけだ。

 日本に居たときの記憶は完全に残っているから問題ない。

 疲れていたのか俺は、横になって目を閉じるとすぐに眠りに落ちた。




 翌朝、父親に起こされた俺は、すぐに着替えて軍議室へと向かう。

 昨日と同じように、今度は父親が扉をノックすると部屋の中からアルセス辺境伯の声が聞こえてきた。

 部屋に入ると昨日と同じようにリンデールやアリサが席についていたが、その誰もが眉間に皺を寄せて俺を見てきている。


「アルス」

「はい」

「もう体は大丈夫なのか?」


 アルセス辺境伯は、俺の瞳を見て語りかけてくる。

 彼の視線を真っ直ぐに受け止めながら、俺は微笑む。


「やれやれ……、本当に5歳児とは思えぬ態度よ。アドリアンよ、良すぎる後継者を持ったものだな」


 アルセス辺境伯の言葉に、父親は頷いていた。

 だが、俺には分かる。

 彼の――アルセス辺境伯の瞳は笑っていない。

 だからこそ、アルセス辺境伯の良過ぎる後継者という言葉がどれだけの意味を含んでいるのか理解できる。


 何度も人生をやり直せる為政者が味方であった時はいい。

 それは成功した際の利益というお零れが自分たちに回ってくるのだから。

 だが、敵対した場合はどうなるだろうか?

 相手は、何度も対策を練れる上に最善策を打ち続けられるのだ。

 よくよく考えれば、魔王などと比べても俺は遥かに危険な人物ではないだろうか?

 そう思われても仕方ない。

 

「さて、アルスよ。昨日、起きた馬小屋のことについて説明してもらいたいのだが?」

「はい」


 さて、何から説明したものか……。

 

 問題は、粉塵爆発の原理をそのまま説明してもいいのか? と、言う点だ。

 

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