第108話
「魔王を倒す術ですが、まずはAプランとします。シューバッハ騎士爵領に2週間後に現れる中腹の魔王城に魔法師団長のアリサ殿に、ブラストボールの魔法を撃ち込んでもらいます。次に、僕が発動させる魔法で魔王を討伐する形を取ります」
「ふむ……なるほどな……」
アルセス辺境伯は、白い顎鬚を弄りながら一度だけ頷いてくると、「――して、Aプランということは、他にもプランがあるということか?」と、聞いてきた。
「はい。Aプランはあくまでも上手く事が運んで魔王を倒せた場合の作戦になります」
「つまり、倒せない可能性もあるということか?」
アルセス辺境伯の言葉に俺は首肯する。
「そのとおりです。僕の魔法は、どうやら特殊らしく魔法力を魔法指南書で確認いたしましたが、魔力が無いと表示されました」
「つまり……、Aプランの前提条件が覆されたということになるわけが?」
「はい。……ですからBプランを用意しました」
「なるほどなるほど」
俺の言葉を聞いたアルセス辺境伯は、獲物を狩るような目で俺を見てきた。
「アルベルト、お前の息子はずいぶんと策士のようだぞ? この私を子供の振りをしてまで見定めておった!」
アルセス辺境伯は、声を出して楽しそうに笑う。
アリサもリンデールも、父親もアルセス辺境伯の様子に少なからず驚いているようにも見える。
「アルスとやら、お前は家督を継いで無いとは言えシューバッハ騎士爵領の跡取りだという自覚はあるか?」
「ありますが何か?」
「騎士爵が辺境伯を謀るとは……、同じ王国に属している貴族だとしても、貴族としての位の差は絶対だということくらいは理解しておろう?」
「それが何か?」
俺の言葉に、アルセス辺境伯は俺を睨み付けてくる。
別に俺にとって、そんなのは怖くも何ともない。
どうせ、死ねば時間は巻き戻されるのだ。
だったら殺された所で、俺には痛くも痒くもない。
「勘違いしているようですが言っておきます。僕――いや、俺としては辺境伯ごとき、どうでもいいと考えている。そもそも魔王を討伐するのは俺の私怨であって、あんたらを守る為でも何でもない。ただ、魔王を倒せなければシューバッハ騎士爵領だけではなく、あんたの大事な領民が住む辺境伯領も滅びることになる。別に辺境伯領が滅びてもいいなら、俺の話を聞く必要は無いし、手伝って貰わなくていい。俺には同じ時を何度もやり直せるってチートがあるからな!」
「……くくくっ、ハハハハハハッ。愉快だ! これは愉快だ! アルベルト! お前の息子は、とんでもない人間だぞ?」
「申し訳ありません」
父親は、俺をチラッと見たあとアルセス辺境伯に謝意を示していたが……、それはアルセス辺境伯の「謝意など必要ない」と言う言葉で遮られた。
「アルベルトよ、お前の息子は自分の命と運命を天秤に掛けた上で、この私に意見をしてきたのだぞ? 謝意どころか、その気概、褒めるところであろう? アルスとやら、お前のプランBを教えてもらおうか?」
「畏まりました」
俺は、アルセス辺境伯の目を見ながら言葉を返した。
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