第107話

「いいわ……それを貴方が知っているということは、私は本当にシューバッハ騎士爵領に行ったことがあるのね。それも、貴方に魔法を教えたことがある……」

「はい――、ご理解頂けて幸いです」

「本当に5歳ではないのね……」


 アリサの言葉に俺は肩を竦めながら「いいえ。外見は5歳ですよ?」と反論する。

 そんな俺を見ていた父親であるアドリアンは小さくため息をつくと、「アルス、魔法師団長殿に対して、何か思うところがあるのか?」と、俺に語りかけてきた。


 さすがは俺の父親というか、少し露骨にアリサに対して八つ当たりのような口調で話をしてしまったから勘のいい人間なら察してしまっているのかも知れないな。

 

「アリサ殿、これは失礼を――」


 俺は、自分の気持ちを押さえ込みながら、彼女の名前を呼称付けで言葉にする。

 

「いえ、こちらこそ――、疑ってしまってごめんなさいね」

「魔王は強大です。ですから味方であっても不確定要素は少しでも消しておきたいと思う気持ちは理解できますから問題はありません」

「……そう……、それで貴方は何度、時を繰り返しているのかしら? その口調振りと態度から10回や20回では効かないわよね?」

「どうでしょうか? 僕もそれほど覚えているわけでは無いのです」

「――と、言うと?」

「僕も時を繰り返していると自覚してから何度も魔王と対峙はしていますが、それが何回目までは覚えていないのです」

「……つまり、時を繰り返すときに記憶の劣化があるということかしら?」

「僕には何とも言えませんが、最近の数回までなら思い出すことは出来ます」

「でも、その話し方は?」

「わかりません、自然と言葉に出てくるのです」


 俺の言葉にアリサが、「そう……大変だったのね」と、悲しそうな視線を俺に向けてきた。

 まぁ実際のところの、俺がアリサからの質問に答えた内容には、多くの嘘が混じっている。


 それは、何度か時を繰り返していると記憶に欠落がでるという部分。

 これは、完全に記憶が持ち越しされているというのを知られると厄介になる。

 未来に起きる事象を完全に把握していると知られたら危険視される可能性だってありえる。

 ただ、そう考えるとアルセス辺境伯に魔王の話をしたことは早計だったとも言えるが……、今更、それを言った所でどうにもならない。

 どうせ失敗したところで時を繰り返すだけなのだ。

 特に問題はないだろう。


「そろそろ話を進めたいのだがよいか?」

「はい、アルセス様申し訳ありません」

「――よい、それではアルスよ。お前は何か作戦を考えているのだろう? お前に魔法を教えた者から聞いておるぞ?」


 アルセス辺境伯は、俺をまっすぐに見ながら言葉を紡いでくる。

 さて――。


 まず魔王を倒すためにはアリサの力は必要不可欠だ。

 彼女の魔法の後に、俺が発動させたと思われる流星の魔法。

 その再現が必要になる。

 魔法の発動方法は分かる。

 問題は、魔力の確保だ。


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