第106話
「リンデール・フォン・ベルナンド様は、魔法師以外を指揮される方ですか?」
「リンデールでいい。なるほど……、俺は自分のことを名前以外は口にしていないが……」
「どうだ? リンデール」
アルセス辺境伯に訊ねられたリンデールという男は、「辺境伯様が言われたとおりでした」と、頭を下げていた。
――と、言うか俺を馬鹿にした言い方をしてきたんだから俺に頭を下げてくるのが先だろうに……。
まぁ、余計なことを言って事を荒立てても仕方ない。
「さて、リンデールも納得したようだからな。アルスよ――」
「アルセス辺境伯様、お待ちください」
話が進みかけたところで、アリサがアルセス辺境伯の言を妨げてきた。
「アリサ、どうかしたのか?」
「はい、彼に何点か質問したいことがありまして――」
アリサの言葉を聞いたアルセス辺境伯は興味深そうに俺とアリサを交互に見てから頷いていた。
できれば、アリサとは話をするつもりはなかったのだが、こうなっては仕方ないな。
「アルス君で良かったかしら?」
「……はい」
俺は努めて冷静に対処することにする。
感情を極限まで押さえ込むように何度も深呼吸を繰り返す。
自らに何度も、社会人のときにプレゼンを繰り返してきた時のように何度も言い聞かせる。
今は、感情に流されるべきではないと。
俺のやることは決まっている。
自らが思った指針。
俺が考えたプランに、この場にいる誰もが気がつかないように誘導することだ。
「アルス君、あなたは私から魔法を教わったと聞いたけど本当かしら? 私は、これでもアルセス辺境伯の魔法師団長を勤めているのよ? 一人の子どもに魔法を教えるためにアルセイドを離れるとは考えにくいわ」
彼女の言うとおりだ。
アリサさんも言っていたが魔法師団長が、安易に辺境に赴くはずがない。
何かの意図があると見て間違いないのだが、その意図が俺には理解できないのだ。
おそらく、第一周目に何かがあったのだろう。
その何かで彼女は来ることになった。
ただ、それを知る術はない。
「何か証拠があれば、私は、あなたが時間を繰り返していると信じることができるのだけども……」
「証拠ですか……」
俺は思わず笑みを浮かべてしまいそうになる。
たしかに、普通の魔法師が魔法を俺に教えにきたら、アリサさんのような魔法師なら証拠を提示することは出来なかっただろう。
だが、俺に証拠提示を求めてきたアリサは別だ。
彼女は、独特の魔法の教え方を俺にしてきた。
「そうですね……」
俺は、魔王城にアリサが魔法を放った光景を思い出す。
そして彼女が魔法を放つために紡いだ詠唱の言葉を思い出すために記憶の糸を手繰り寄せる。
そして詠唱を! 言語を! 言葉として自らの口で紡ぐ。
「たしか……、炎の精霊よ! 全てを焼き尽くす紅蓮の業火を! 生み出せ! 炎熱弾(ブラスト・ボール)! ――で、良かったんでしたっけ?」
「――!? それは私の……」
「はい、証拠にはなりませんか?」
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