第89話

 父親は、アルセス辺境伯と話しながら俺を馬から下ろした。


「ふむ……、黒髪の黒眼とは――、先代のアルベルタと同じであるな」

「アルベルタ?」


 俺は首を傾げる。

 そんな人物の名前を俺は2回ほど巻き戻りをしているが聞いたことが無い。

 すると父親は、俺の頭の上に手を置いてくると「アルスには、話していなかったな。アルベルタと言うのは、お前の母親ライラの母親だ。祖母にあたるな」と、語ってきた。


「たしか、祖母も祖父も短命だと――」

「そうだな……」


 父親は俺の言葉に頷いてきた。


「ふむ――、込み入った話もあるようであるな」


 俺と父親は、アルセス辺境伯の勧めで部屋に案内された。

 建物の中は、やはりと言うか壁から床まで磨き上げられた大理石で作られている。

 やはり文明度が隔絶しているとしか言えない。

 案内された部屋に入る。

 部屋の中央には石を磨いて作ったテーブルに、木から削り出して作られた椅子のような物が置かれていた。

 ただ、それは青銅器文明度に準じた作りがされている。

 魔王城で見たような細かい細工などが施されてはいないし、椅子と言っても胡坐を組んで座るタイプだ。


「いま、何か飲み物を用意させよう。ここまで一週間近く掛かったのだろう? それに、話したいこともあるようだからな」


 アルセス辺境伯は、父を見たあと、俺の頭を撫でながら語りかけてきた。




 俺と父親が部屋に通されてから、次から次へと料理が運ばれてくる。

 鶏の丸焼きのような物。

 1メートル近いトカゲの丸焼きに、よく分からない野菜が入ったスープ。

 そしてクルミのような物が練りこまれた黒色の食パンのようなもの。

 飲み物も、ワインに近いものだと思うが、正直、変な粉のような物が浮いているから飲めたとしても、飲みたくはないな。

 ――というか、このトカゲの丸焼き食えるのか……。


「すいません、水をお願いしたいのですが……」

「水か?」

「はい――」


 アルセス辺境伯は、左手で顎鬚を触りながら右手で空中に魔法陣を描いていく。

 

「【水生成】」

 

 アルセス辺境伯が魔法を唱えたようで空中から水を生み出すと、何も入っていない空の木の器に注いできた。


「これでいいか?」

「ありがとうございます」

「よい――、いくつになる?」

「5歳です」

「5歳か――、アドリアンよ、結婚してから、ずいぶんとあれだったのだな――」

「……はい」


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