第88話
辺境伯の首都アルセイドに到着してから父親が引く馬の上に乗って移動すること20分ほどで、木造平屋建ての家や店舗しか見当たらなかった町並みが急に開けて石作りの壁が見えてきた。
「お父さん、反対側に到着したんですか?」
「目の前に見える城壁は、アルセス辺境伯の城を守る防壁だ」
「城……防壁……ですか?」
俺は首を傾げながら不揃いの石だけを積み重ねて作られた町の城壁と同じ作りの防壁を見て溜息をついた。
たしか、古代ローマ帝国時代には古代コンクリートというものが繋ぎ目で使われていたはずだが……、それすら使われて居ないという事は、かなり文明は遅れているみたいだな。
「何か問題でもあるのか?」
「いいえ、とくには……」
文明レベルについては、今更だが……もしかしたら、辺境伯に協力を要請する際に、かなり有利に働くかもしれない。
「アルス、いくぞ」
「はい」
父親は、俺に話しかけてきたあと、馬の手綱を引いて城の防壁の中に入っていく。
防壁入り口には10人も兵士がいたが、町に入る際に父親が兵士から受け取った身分証を見せると、すぐに扉を開けて防壁の中に通してくれた。
「どうだ? アルス。あれがアルセス辺境伯の城だ」
「……すごいです……」
なんと言うか……アラビア風な建物?
全部石作りで――。
ちょっと文化が入り乱れていませんか? と思わず心の中で突っ込みを入れてしまった。
「だろう? 数百年前に存在していた王朝が残した建物を改修して、そのまま使っているらしいぞ?」
「そうなのですか……」
数百年前に、存在していた王朝か――。
建物の様式というか建築技術を見る限り、いまの文明よりは進んでいるように見える。
そうなると魔王城の頃も考察に入れると文明衰退の可能性が高くなってきたな。
ただ、気になるのは文明が衰退するのは、近代文明とかなら分かるんだが……。
石を精巧に積み上げるまでの段階の文明レベルで極端に、文明レベルが落ちることはないはずだが……。
いまいち、この世界のことが分からないな。
「アドリアン騎士爵、ひさしいな」
「お久しぶりです。アルセス辺境伯様」
考えごとをしていると、俺に攻撃をするように命令を下してきた細身の男が、父親であるアドリアンと会話をしていた。
命を狙われたときは、容姿までは詳しく見ていなかったが年齢は50歳から60歳くらいだろう。
ブラウン色の髪質も大半が白髪に変わっている。
「ふむ……、門兵から話は聞いていたが――、その子が先代シューバッハ騎士爵の忘れ形見ライラの息子か?」
「はい、アルスと言います」
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