第79話
「私は、アルスくんが、どうしてそんなに苦しい表情をしているのか分からない。でも、私はアルスくんを信じているから! たとえアルスくんが私を殺そうとしても最後まで――、みんながアルスくんを裏切っても最後まで私はアルスくんの味方でいるから! だって……私はアルスくんのことが好きだから――」
「…………好きか――」
こんな小さな子供にまで、諭されるとは思っても見なかった。
それに、皆が俺を裏切っても最後まで味方でいるか……。
なんだよ、それ――。
それがどれだけ大変なことか理解しているのか?
いや、理解しているかどうかは問題じゃない。
自分の意思を彼女は俺に伝えてきた。
それも10歳にも満たない少女が……だ。
岩場から俺は川へ飛び込む。
冬に向かっているということだけあって川の水は冷たい。
ただ、火照っていた頭を冷やすには丁度いい。
「そうだな……誰かを助けるのに理由はいらないよな……」
たった一回だ。
たった一回の失敗だ。
何も考えずに行動した結果、自分自身が殺された。
それは自分の迂闊な行動の結果であって、ハルス村の住人には関係の無い話だ。
それに、誰かのために行動できる人間を放っておいたら、それこそ、過去の自分が犯してトラウマになった事件を肯定するようなものだ。
「フィーナ、すまなかった。ようやく俺は理解したよ」
俺は、岩場の上を見る。
そこに立っているであろうフィーナを。
「――え?」
そこには、黒い蝙蝠の翼を背中から生やした赤い長髪の男が立っていた。
その男の左手には、フィーナの首だけが乗って――。
体は、ゆっくりと岩場を転げ落ちてきた。
俺は、その様子を呆然と見ていた。
一体、何が……それより、どうして、フィーナが……どうして……。
「貴様が我を封じるタリスマンを外してくれたおかげで我は復活することができた。礼を言うぞ?」
俺は慌てて山の中腹へ視線を向ける。
「そ、そんな……」
山の中腹には、アリサ先生が魔法を放った白い城が存在していた。
男が言うことが真実なら、俺が魔法を封じるタリスマンを外したから……。
俺のせいで、フィーナが殺され……。
俺の……おれのせいで!!
「きさ――」
叫びながら男のほうを振り返ろうとしたところで、自分の体が真下に見えた。
そのとき、理解した。
おれは、魔王に殺されたということを。
「今回の勇者は、ほんとうに愚かであったな」
意識が閉じる瞬間に、魔王の言葉が聞こえた。
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