第78話

 俺は、胸の内に秘めていた言葉を口にする。


「それにな! この村は魔王が封印されているんだよ! もしお前が俺達についてきて医者を連れてきたとしても、レイリアは死んでいた可能性の方が高いんだよ! 分かるか? 俺は自分の事しか考えていないゴミ屑だ!」


 息を切らせながら、ずっと心の中でフィーナに隠していたことを告げる。

 どうせ、失敗したんだから、もうどうでもいい。

 隠しておく必要もない。

 それに、下手にいい人に見られるよりも真実の俺を見てもらって嫌ってもらったほうが遥かにマシだ。

 いい人なんて……偽善者なんて反吐が出る。

 ましてや勘違いされたまま、そう思われるなんて気が狂いそうな程、受け入れることが出来ない。


「わかったか? 俺がどれだけ最低な人間だってことを! 幻滅しただろ? 俺は最低の人間なんだよ! 好きなだけ罵ればいい!」

「……私は、それでもアルスくんを信じるよ?」

「どうしてだよ! どうして俺なんかをそこまで!」

「だって、私達の仲間内では一番、弱虫で力も弱かったアルスくんが、一生懸命になって泣きながら私を助けてくれたから――だから、私はアルスくんが好きだから信じるよ!」

「……理解ができない。そんなの狂ってる……」

「うん。私も、そう思う。でもね……あの時の思いは、たぶん私だけにしか分からない。アルスくんが身を挺して守ってくれたから、私は、今、ここに居られるし妹も助けられるかもしれない。それは結果かもしれない。それでも、アルスくんが私を助けてくれたから、今があるんだよ? だから、私はアルスくんを信じる」

「何でだよ! 何で、そんなに誰かのために、肯定的にいい方向に、その人間を評価できるんだよ! 人間なんて、どいつもこいつも自分たちの事しか考えられないクソみたいなもんだろ! どうして、誰かのために――、たった一人のために自分たちの生活が苦しくなるかも知れないのに、どうして助けようとするんだよ!」

「それじゃ、どうしてアルスくんは私を助けてくれたの?」

「それは……」

 

 その時の記憶が、俺にはない。

 フィーナを助けようとしたときの記憶が俺にはない。


 それなのに……。

 答えられるわけがない。


「アルスくんは……誰かを助けようと思ったことはないの?」

「俺は――」


 誰かを助けようと――。

 誰かを助けようとしたことはある。


「アルスくんは、誰かを助けようとしたときに、理由が必要だったの?」

「理由――」


 俺は――。

 苛められている人を助けようとしたのは、正義感からじゃなくて――。

 その人が困っていたから衝動的に助けただけで……。

 落ち着け……。

 俺は裏切られたんだぞ?

 それを無かったことにはできない。


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