第69話
「そうか……。今まで大変だったな。これからは、俺に頼るといい」
「うん! 私……私ね――!」
フィーナが感極まって何かを言おうとしていたが、俺は手を翳して彼女の言動を封じる。
あまり深入りしても面倒にしかならないと思ったからだ。
「それよりもだ。じつはな、商業国メイビスにいくためにはカタート山脈を越える必要があるんだが……」
俺の言葉にフィーナが戸惑いの表情を見せる。
ただ、先ほどまでの感極まった瞳の色は残しているように見えることから、交渉的にはベストなタイミングだろう。
「で、でも……あそこは魔物がいるって!?」
「俺の魔法があれば、何とでもなる」
そう、俺の大事な資産を持つフィーナを守るためなら魔法を使うことができるはずだ。
「そこでカタート山脈を越えるためには多くの食料や水が必要になる。それを俺が用意するから、俺が用意した物資をフィーナのアイテムボックスに入れて欲しいんだ」
「え? う、うん……」
「それと、これは他の大人には絶対言ったらダメだぞ?」
「どうして?」
「決まっているだろ? 魔物が出る山脈に行くと言ったら間違いなくフィーナの両親に止められるだろ? そしたら妹はどうなる?」
「――! わ、わかった。絶対に誰も言わない」
「約束だぞ?」
「うん!」
俺の言葉に、フィーナは神妙な顔で頷いてきた。
彼女の表情を見て、取引が上手くいったことに俺は内心、溜息をつく。
こんなに上手く話が纏まるとは思ってもいなかった。
最悪、俺を化け物呼ばわりした弱みを突いて交渉することも視野に入れていたが、それは、フィーナが言うことを聞かないときの切り札に残しておきたかっただけに助かった。
フィーナとの交渉が終わったあと、彼女の病が助かるかも知れないという希望から、別れ際に、とても嬉しそうな表情で「アルスくん、ありがとう」と涙声で俺にお礼を言ってきた。
俺は彼女の言葉に頷き返した。
家に帰る道をフィーナは歩きながら、何度も俺に手を振ってくる。
そんな彼女の後ろ姿を見ながら、俺は、何故か無性に苛立ちを感じていた。
どうして……、そんなに簡単に人を信じられるのかと――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます