第68話
「私、アルスくんに酷いこと言ったのに……、それでも助けて……くれる……の?」
涙声でフィーナが俺に訴えかけてくる。
どうやら、俺の作戦は上手くいったようだな。
正直、母親が一緒に来るかどうかについては、許可は取っていないが俺のことを溺愛しているのだ。
お願いすれば、母親なら付いてきてくれるはずだ。
問題は、商業国メイビスに着いたら医者を呼ぶかどうかだが、そのへんは約束をきちんと守る。
医者は手配するし診療分のお金は払う。
まぁ、俺が持つ財宝から比べたら微々たるものだろう。
それに、彼女がハルスの村まで安全に到着できるように警護の兵もつける予定だ。
彼女がきちんと仕事をするのなら、俺も約束はきちんと守る。
ただ、一つ言えるのは、その頃には魔王は復活しているだろう。
魔王が復活すれば村がどうなっているかは分からない。
万が一の可能性だが、もしかしたら魔王は復活しても、小さな村だと言う事で攻撃されず生き残る可能性だってある。
そして逆に全滅している可能性だってありえる。
ただ、その辺については俺の管轄外だ。
元々、俺は異世界人であり日本人だ。
ハルス村が、どんなことになろうと俺には関係ない。
そもそも何の愛着もない村のために、どうして俺が力を貸さないといけない?
魔王? 勇者? そんなのことも俺の知ったことではない。
そもそも好きで騎士爵の息子になったわけではないのだ。
それに俺の言い分も聞かずに一方的に、俺を殺そうとしてきた奴らを、どうして俺が気に掛けないといけない?
もっと言えば、婚約までしたアリサにまで裏切られるわ、とんでもない世界だからな。
約束すら平気で違える世界に、こちらが手を差し伸べる謂れはない。
「もちろんだ! フィーナは大事な人だからな」
「――え?」
俺の言葉に彼女の頬が赤く染まっていく。
アリサで気がついた。
この世界の女性は、漫画やアニメなどで恋愛を学んでいないからなのか、純真な性根を持つ女性が多い。
だから、誤解を生むような話し方をすれば簡単に、こちらが望んだように誤解する。
俺の見ている前で彼女の空のように澄んだ青い瞳には涙が溜まっていく。
するとフィーナは体を震わせながら涙声で言葉を紡いでくる。
「私……。妹が苦しんでいて寝たきりだったのに……何もできなくて……。苦しんでいるのに何も出来なくて……お父さんもお母さんも、お金を貯めていたけど、たぶん妹が助からないって内心思っていて……でも、それでも妹が苦しんでいるのをどうにかしたくて……」
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