第46話
――あっ!?
俺は顔を上げて初老の男を見あげる。
すると目が合った。
相手は間違いなくアルセス辺境伯爵だ。
おそらく、ずっと俺の様子を見ていたのだろう。
さっきの俺の年齢を疑ったことといい、間違いない。
父親と母親は俺の様子がおかしいとは思ってはいなかったみたいだが……、さっきの会話で理解した。
おそらく第一子だから……。
比較対象がいないから……。
俺の様子が、そこまで変だとは両親は理解していなかったのだろう。
そのことを、アルセス辺境伯は両親に問い詰めていた。
まずそう思って間違いない。
ということは……。
ここは素直に答えるのはマズイ。
「……わかりません」
「ほほう、なるほど、なるほど」
アルセス辺境伯は、俺の頭を撫でてくると「残念賞の撫で撫でだ」と、言ってから父親とアリサを見てから離れていく。
数十歩離れたところで、男が振り返ってくる。
「アルス!」
アルセス辺境伯が話す前に、母親が走って近づいてくると俺に抱き着いてくると「まだ怪我が治ったばかりなのだから、無理をしたらダメ! 家でゆっくりしましょう!」と語りかけてきた。
「周りが見えなくなるのは相変わらずだな? ライラ・フォン・シューバッハ」
「――あ、え? ええ!? どうして、ここに……」
俺に抱き着いていた母親が、男の言葉に驚いたあと、すぐに俺から離れるとスカートの裾を掴んで「お久しぶりです。ピエール・フォン。アルセス辺境伯爵様」と言葉を紡いでいた。
やはり――。
俺の見立ては間違っていなかったようだ。
ただ、辺境伯のような上級貴族が、こんな辺境の騎士爵領地に来た理由が分からない。
「うむ、ずいぶんと教育熱心のようだな?」
「お褒めいただき――」
アルセス辺境伯が母親から俺の話を聞きながら、時折、俺へと視線を送ってくる。
正直、俺の何がアルセス辺境伯の知的好奇心に火をつけたのか分からない。
しばらくすると「アドリアン卿、アリサ。話がある」と言って二人を連れて俺と母親から離れていく。
気になった俺は、こっそり後をついていこうとしたら、「アルスは行ったらダメよ? 昨日のこともあるのだから、今日は休まないよね」と抱き上げられた。
「――ッ!?」
俺は、咄嗟に母親のほうを振り返る。
正確には母親の背後のずっと遠くの空のほうを――。
何か分からないが――。
何かに見られているような気配を感じた。
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