第二章

第45話

「アルスか? もう、大丈夫なのか?」


 もう大丈夫なのか? と、言うのはどういうことだろうか?

 昨日、魔法の練習をしたあと、魔法の才能が無いことに対して悲嘆に暮れていたところ、――だめだ、その後が……記憶が曖昧でよく思い出せない。


 身体には、どこも怪我は無いし問題ない。

 

「アドリアン様、その件に関しましては……」

「そう……だった……な――」


 何故か分からない。

 ただ、何か腑に落ちない……そんな感じが――。


「その子がアドリアン騎士爵の息子なのか?」


 考え事をしていると、50歳ほどに見える細身の年配の男に声をかけられた。

 口調と、上質な衣服を着ていることから貴族なのは間違いないように見える。


「はい。今年で5歳になった私の息子のアルスです」


 父親の態度を見て、直感する。

 間違いなくお偉方だ!

 

「初めまして、アルス・フォン・シューバッハと申します。よろしくお願い致します」

「ほほう……。5歳とは思えんな。アドリアン卿、本当に、この子は5歳なのか?」

「はい、そうですが何かありましたでしょうか?」

「そうか……たしか、この子はアドリアン卿の初めての子であったな?」

「はい」

「なるほど……。ところで、招集を掛けたときに魔法師団長が長期休暇を取っていると聞いたが、どうして、ここにいるのだ?」


 初老の男は、目を細めながらアリサへ視線を向けていた。


「えーと、それは……」


 アリサが言いづらそうに視線を初老の男から離している。

 

「はぁ……、話はだいたい聞いておる。あとで、そのへんの話はあとでするとしよう」

「わかりました」


 アリサが、頭を下げている。

 もしかして……かなり偉い人物なのか?


「ところでアルスよ」

「は、はい……」

「簡単な問いかけだが、私が誰かを言い当てたら何か褒美をやろう」

「……褒美ですか?」

「そうだ」


 突然、俺を試すように語り掛けてきた男の言動に内心、首を傾げる。

 どのような意図があって、俺を試すような物言いをしてきたのかと――。


 相手の身分が分からな以上、情報の取捨選択が難しい。

 下手に情報を与えるわけにはいかないし、俺のことを怪しんでいる節がある。 

 何せ、5歳とは思えないとまで看過してきたのだ。

 どうしたらいいのか……。

 それより、こいつ何者だ?

 他領になる騎士爵家の領内に軍を連れてきたという点。

 そして、昨日までは、そんなことは父親からまったく知らされていなかったことといい。

 間違いなくフレベルト王国の国王に仕えている同じ国の貴族だというのは分かるが――。

 いや、まてよ?

 他領の貴族でも、軍を派兵して問題ごとにならない時点でおかしくないか?

 しかも父親が怒っている様子もない。

 となると……。

 父親と親しい貴族で上位の貴族……しかも、かなりの上の――。

 そしてアリサを知っていて彼女を問い詰められる人間としたら……。


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