第33話

 俺は、アリサの豊満な胸を後頭部で楽しみながら言葉を掛け続ける。

 まさか、転生してこんな特典がついてくるなんて思わなかった。

 ああっ、転生してよかった。

 もう、思い残すことはないよ……いや、死にたくないけど。


「アリサ先生は、とてもいい匂いがします」


 俺は、振り返るとアリサの胸に顔を埋める。

 ああ、すばらしい。

 これが20年以上、社畜人生を送ってきた俺への贈り物なのだろう。

 



 気がつけば、日は沈みかけていた。

 瞼を開けた先には、アリサが心配そうな表情で俺を見下ろしていた。

 

「大丈夫? アルスったら、いきなり意識を失ったから……」

「そ、そうなのですか……」


 どうして、自分が意識を失ったのか分からない。

 もしかしたら、俺が思い残すことはない! とか思ったからかも知れない。

 自分が転生してきた理由が、いまだに判明していないのだ。

 下手な真似はしないほうがいいかもしれない。

 

「でも……どうして、僕は意識を失って――」

「それは分からないわ。アルスがね? 私の胸に顔を埋めてきて、何度も呼吸したと思ったらね、いきなり体中の力が抜けて倒れたからびっくりしたのよ?」

「……」


 なるほど……。

 つまり、俺は色々な意味で自重できずアリサの胸の中で窒息したか過呼吸で意識を失ったと……。


「アリサ先生!」

「きゃっ! ど、どうしたの?」


 突然、立ち上がった俺にアリサは驚く。

 さすがに胸に後頭部を埋めて、顔を埋めて一日を無為に浪費したなんて知られたら両親に合わせる顔がない。

 これでは、ただのダメ人間じゃないか!

 

「アリサ先生、とりあえず魔法の触りだけでも教えてもらえますか?」

「ええ!? べ、別にいいけど……本当に? もう、日が沈みかけているわよ?」

「はい! 僕は強くなってアリサ先生や領民を守れるくらい強い男になるんです!」

「アルス……」


 俺の言葉に感激したのかアリサ先生が、意を決した表情で、木で作られた杖を手に持つ。そして杖を山の方へと向けていた。


「森の中だと危険だから。ほら、あそこの山の中腹に古いお城が見えるわよね? あそこなら周りに木が無いから、たぶん大丈夫――」


 アリサの言葉に俺は首を傾げながら思う。

 あんなところに城なんてあったか? と……。

 まぁ、アルスの記憶や知識なんて、当てにならないからな。

 きっと気のせいだろう。


「いまから、炎の魔法を見せてあげるわ」


 アリサは、それだけいうと杖を両手で構える。

 そして――。


「炎の精霊よ! 全てを焼き尽くす紅蓮の業火を! 生み出せ! 炎熱弾(ブラスト・ボール)!」


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