第32話

「俺は……じゃなくて私、アルス・フォン・シューバッハは、アリサを一生幸せにすると誓う。だから俺と婚約――結婚を前提としたお付き合いをして頂けますでしょうか?」


 自分で言っていて恥ずかしいを通りこして、俺は何をしているのだろう? という気持ちが浮かんでくる。

 だが――これは俺の契約と誓約だ。

 そして覚悟だ!


 もちろん、それを彼女に押し付けるつもりはない。

 一方的な自分への契約。

 

「はい、わたし……アルスが成人するまで待っています。よろしくお願いします」


 アリサが、花の咲くような笑顔で俺に語り掛けてきた。

 

 ちなみに、母親はいつのまにか真っ白に燃え尽きていた。

 



「さて、魔法の練習を始めましょうか?」

「アリサ先生……、これだと身動きが取れないです」


 昨日の一件――。

 本当の意味で俺の婚約者となったアリサ。

 彼女は、昨日からずっと笑顔で、俺に抱きついてきたり布団の中では抱き枕にしてきたりと暴虐の限りを尽くしている。

 まぁ、俺も……そういうのは大好物だからいい!

 

 ただ、一つ気になることがある。

 人というのは、幸せの量が相対的に決まっていると前世で読んだ本に書かれていたのを見たことがある。

 つまり、今の俺の状態というのはモテ期が来た物語の主人公な気がしてならないのだ。

 

 もしかしたら、そのうち領内を魔王とか魔族が侵略してきたり、魔物の大行進が始まったりして……、俺、一人! 命がけで戦うようなことには……。


 ……なるわけがないよな!

 そんなフラグが発生するとか、俺も自惚れすぎだろ!

 何が物語の主人公だよ。

 どう考えても、俺とか、ここはチバという村です! と、言うNPCの役目くらいの配役だ。

 そんな一般人相手に色々とイベントが起きるわけがない。

 アリサとの一件は、おそらく俺の最初で最後の大型イベントみたいなものだ。

 

「ふう……」


 少し、バカな事を考えすぎてしまったようだ。


「アルス、何か考え事なの?」


 アリサが、後ろから俺を抱きしめてくる。

 身長差で、俺の後頭部がアリサの豊かな胸の中に埋もれていく。

 これは……、男の夢の一つ! おっぱい枕!

 

「いえ、アリサ先生は素晴らしいと思いまして……」


 そのまま言うと、軽蔑な眼で見られそうな気もする。

 見られたら見られたでゾクゾクしそうだから、それはそれでありだ!

 だが、今は無駄に問題を起こす必要もない。

 そういうこともあり、オブラートに包んでアリサ先生を褒めることにした。


「そ、そう?」

「はい。これは、とてもいいものです!」

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