第31話

 俺の言葉に、父親だけでなくアリサも母親も呆けた表情で俺を見てきた。

 さて、ここからは俺のターンだ!


「ですから、誤解のまま生じた嘘で、そのまま婚約をしている状況は嫌だ! 本当は、俺が倒れた時に、お父さんとお母さん、そしてアリサが婚約の話をしていたのを、そのまま受けいれて入れば楽だったと思うし、アリサを泣かせることは無かったと思う。それでも、婚約は結婚であり、結婚は契約だと俺は思っています! だから、中途半端な気持ちのままで、そのまま婚約話を進めたくない。俺はアリサが好きですから!」

「そうか……」


 父親は両腕を組んで、まっすぐに俺の瞳を見てくる。

 俺の父親の瞳を真っ直ぐに見返す。


「なるほどな……、嘘はついていないようだな。むしろ、昨日、アリサ殿との関係性を問いただした時よりもいい目をしている。ふっ……本当に成長したのだな。これだけ急激に成長されると親としては、些か寂しいものがあるな……」


 父親は独り事を呟くとアリサの方へ向き直った。

 すると、父親も土下座をしていた。


「バカ息子の非礼、本当に申し訳ない。今回は、こちらが全て悪い。気に入らないようでしたら、このような辺境の村からお帰り頂いて構いません」


 アリサは父親の言葉を聞いたあと、俺の瞳をまっすぐに見てきた。

 泣きはらした彼女の瞳から、彼女がどれだけ傷ついたのか手に取るように分かる。

 俺は本当に最低の人間だ。

 自分の事だけしか考えていない。

 人の気持ちなんて、お構いなしに行動した、

 その結果がこれだ――。


 俺には、彼女の瞳から目を逸らす資格なんてない。

 アリサの瞳を真っ直ぐに見続けること。

 それこそが俺の決意の表れであり、贖罪。


 アリサと俺は、しばらくお互いの瞳を見つめあう。

 そして、気がつけばアリサは、小さく微笑むと父親に「素直な子ですよね? そして誠実な方ですよね? アルスさんが良ければ私を娶って頂けませんか?」と、話かけている。


「本当によろしいのですか? このバカ息子を、それでも支えて頂けるのですか?」

「はい、だって――。彼は、私のことを好きだと。自分の気持ちをハッキリと伝えたいと責任を取りたいと言ってくれましたから……」

「そうですか……」


 父親は、アリサの言葉に小さく溜息をつくと、俺の方を睨んできた。


「アルス、今回はアリサ殿が許してくれたからこそ、話し合いで済んだのだ。だが、お前も将来はシューバッハ騎士爵家を継ぐ身なのだ。お前には200人の領民の命が懸かっているのだ。今後、軽はずみな行動や言動は控えるように!」

「わかりました」


 俺は父親の言葉に答える。

 そして、立ち上がりアリサの近くまで寄って彼女の右手を掴むと、彼女は俺を上目遣いで見ながら「アルス?」と語りかけてきた。

 すごい破壊力だ。

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