第27話

「アリサ先生、どうして……」

「どうしたの?」

「……いえ。なんでもないです……」


 どうして、裸で寝ているのですか? という突っ込みは出来なかった。

 もしかしたらハーフエルフは、裸で寝る習慣があるかも知れないから。

 ハーフエルフの風習であったのなら、そのことを俺が指摘するのは、とても失礼な行為に当たるだろう。


 俺が何も言わなかったことに、思うところがあったのか俺の瞳をジッと見てくると額に接吻をした後、俺を強く抱きしめてきた。

 女性特有の柔らかさと、においがアリサ先生に抱かれているということを否応なしにも実感させてくる。


 これ以上は、やばい……。

 俺の人生経験47年が言っている。

 異世界、師弟関係マジすごいと。


 ――ただ……俺には堪えられない。


「少しお手洗いに!」

「ダメ!」


 すぐに布団から出ようとするが、アリサ先生に抱き枕扱いされていて身動きが取れない。

 もうだめだ。

 心臓の鼓動が煩いくらいに、ドクンドクンと律動を刻んでいる。


「アルス? アルス? アル――」


 アリサ先生の声が遠のいていく。

 ああ、そうか俺は……死ぬのか……。

 ふっ――。

 異世界に転生してきて何もせずに……いや、男としては誰もが羨むシュチェーションで死ねるのだ。

 

 ――我が人生に一片の悔いもなし!




「知っている天井だ……」


 一体、何がどうなったのだろうか?

 気がつけば……と、言うか意識を取り戻したら、居間ではなく寝室の布団上で、俺は寝ていた。

 全て、夢だったのか?

 もしかして……俺は時間をループしているのでは?

 ……そんなわけがないか。


 布団から出て居間に向かう。

 そして扉に手を掛けようとしたところで声が聞こえてきた。

 俺は、気になり耳を扉につけて盗み聞きを決行する。


「アリサ先生! いくら、息子と婚約が決まったからと言って裸で誘惑するなんてやりすぎです! 私だって、してないのに!」


 母親の怒鳴り声が聞こえてきた。

 こんにゃく? 一体、何を言っているのだろうか?


「ライラ、落ち着きなさい」

「――で、でも! 私のアルスが異性に免疫が無くて意識を失ったのですよ? ここは段階を踏んで、まずは私が手取り足取り――痛っ!」


 どうやら、父親が母親を窘めたようだ。

 問題は、異性に免疫がなくて意識を失ったという点だが……。

 アリサ先生くらいの胸の大きい超絶美少女金髪ハーフエルフに裸で抱きつかれたら、誰だって、俺と同じ状態になるのは当たり前だ。


「ライラ、何度も言うがアルスが、アリサ殿と結婚したい! とアレほど強い意志を示したからこそ、私は許可を出したのだ。母親であるお前が息子を祝福してやらなくてどうする? 今回の、アリサ殿の対応は、些か問題はあったが……将来的には、夫婦になるのだから、我々がとやかく言うことではない」

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