第28話

「ううっ……、私の息子が……」

「申し訳ありません。ずっと……誰かに優しくされたことが無かったので……つい、舞い上がってしまって……」


 ようやくアリサ先生の声が聞こえてきた。

 それよりも問題が――。


「気になさらず。昨日も伝えましたが、アリサ殿と息子が結婚すれば、私達は家族なのです。早いうちに、アリサ殿と息子の新居を作らせましょう」

「そ、それは!?」


 父親の言葉にアリサ先生の驚いた声が聞こえてきた。

 ――ただ、俺の方が、もっと驚いている。


 俺は、ふらつく体で寝室に戻って布団の中に入る。

 ふとんの中は、いい感じで暖かい。


「まず……」


 ただ、寝られるような状態ではなかった。

 今、俺が置かれている状況――。

 それが、まったく理解できない。まさしく「俺、何かしちゃいましたか?」状態だ。


「どうして……結婚って話になっているんだ?」


 俺は頭を抱える。

 ただ、一つだけ分かることがあった。

 俺とアリサ先生の婚約というか結婚が本当なら……、アリサ先生が成人になってから! と語っていた言葉にも納得が出来る。

 つまり……。


「――そういうことか……」


 全ての謎が解けたような気がする。

 きっと……。

 いや、間違いない。

 俺の不用意に発言した言葉が地球でいうところの、プロポーズという意味合いを含んでいたに違いない……。

 

「俺は、どこで不用意な発言をした?」


 昨日、自分がアリサ先生に言った言葉を思い出せ!

 俺は昨日、どんな不用意な言葉を使った?

 彼女は、どんな言葉で心を動かした?

 考えろ、アルス!

 

「思い……出した!」


 ようやく理解できた。そして自分の語った言葉を思い出す。「アリサ先生は、とても魅力的な! 可愛らしい女性です! そう! とっても可愛らしいです! 僕が成人していたら即、お嫁にもらいたいくらい可愛いです!」と言う言葉。

 どう考えてもプロポーズだろう……。

 

 俺は頭を抱える。

 まだ、その言葉だけだったら何とかセーフだったかもしれない。

 だが、その後の言葉が良くない。「……ほ、本当に……? 私、平民だし……ハーフエルフだよ? 亜人の血を半分引いているのよ? それでも本当に?」という会話の後、「本当に、私なんかでいいの?」という確認。そして、そのあとに俺が彼女に「もちろんです! アリサ先生でないとダメです! 僕には、アリサ先生しかいない!」と言った言葉。

 

「マジかよ……、どう考えてもプロポーズだ。どうりで浮気はダメだとか、父親がシューバッハ騎士爵家の問題とか、アルセス辺境伯に報告しないといけないと言っていたわけだ……」


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