第26話

 俺は、身構える。

 いつでも母親を――ハンターに対応できるようにだ!


「お前たちは、何をバカな掛け合いをしている?」


 不本意ながら、一触即発な状態に突入した俺と母親に語りかけてきたのは父親であるアドリアンであった。


「貴方! 息子が私のことを愛しているって!」

「いい加減正気にもどれ!」


 父親が母親の頭の上に拳骨を落とすと母親は「痛い……」と、呟くと、そのまま倒れてしまった。


「お母さん?」

「アルス、大丈夫だ。ライラは、お前のことが心配でお酒が苦手なのに飲んでいたようだ」


 父親は空になった1リットルほどの青銅で作られた瓶の形をしたものを見せてくる。


「それとな……、母親を大事にしすぎると嫌われるぞ? 気をつけろよ?」


 アドリアンは、俺に語り掛けながら酔って寝てしまった母親を抱き上げる。

 そして寝室の扉を開け中に入り扉を閉めてしまった。


「……はぁー……」


 溜息しか出ない。

 母親の異常な言動も全て、いきなり意識を失うまで飲んだ酒の力と言えば納得できる。

 しかし……。

 子供が魔法を習うくらいで大げさな……。


「とりあえず。今日は、居間で寝よう」

 

 もう疲れたよ。

 俺は居間に入り真っ暗部屋の中で布団を見つける。

 今日は色々とあった。

 急速に眠気が襲ってくる。


 俺は、眠気に負けて布団の中に入る。

 布団の中は暖かくて、花のような良い匂いがした。




 フレベルト王国アルセス辺境伯のさらに辺境に位置するハルス村。

 そこは、周囲を山に囲まれている。

 現在は夏を終え、冬に向かおうとしている時期であり、山から下りてくる寒冷の風もあり、朝方は冷える。


 つまり、何が言いたいのかと言うと朝になっても中々、お布団から出たくないのだ。

 いつも、母親と寝ているときは何度も起こされてようやく目を覚ますのが慣例となっている。

 

「アルス。起きて、アルス」


 鈴の音を彷彿とさせる澄んだ声が、耳元から聞こえてくる。

 その声は、母親とは違う。

 寝ぼけた思考のまま、薄っすらと目を開ける。

 すると目の前には、横になっているアリサ先生の姿があった。


 ――と、言うか近いから……


 俺とアリサ先生との距離が10センチもない。

 むしろ、顔以外は密着していると言っていい。


「あ、あの……」


 生まれて47年。

 異性とのゼロ距離密着は母親を除くとない。


 アリサ先生は、美少女金髪ハーフエルフで胸も大きい。

 密着していることで彼女の体の肉感が伝わってくるよ……う……だ?


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