第20話

 俺の言葉に、頬を薄っすらと赤くして瞳を潤ませたまま、頬ずりをしてくるアリサ先生は「そうね。とても大切なことだからね」と俺の頭を撫でながら語りかけてきた。



 アリサ先生は、先に戻って俺の両親と話し合いをすると言って、立ち上がると名残惜しそうな表情で俺を強く抱きしめると「大丈夫、絶対に説得してみせるから」と、独り言のように呟いて俺の家に向かっていった。

 その後ろ姿からは、どこか戦場に向かうような決意が窺えたって俺は何を言っているのだろうか?

 

 まぁ、人間たまには詩人になりたくなるときもあるものだ。

 それにしても、アリサ先生は、あそこまで子供好きだとは思わなかったな。

 最初の冷たい印象が嘘のようだ。

 人間というのは変われば変わるものだな。


「たしか……、アリサ先生は、日が暮れるギリギリで戻ってくるようにって言っていたな……」


 俺は一人呟きながら川の流れを見ては、川原に転がっている石を投げ込んで時間を潰す。

 そうしていると、ゆっくりと日は傾いていき、川原だったこともあり少しずつ寒くなってくる。


「そろそろいいかな?」


 俺は立ち上がり家に向かう。

 そんなに遠い距離ではない。

 すぐに家にたどり着く。

 家の戸を開けると、母親であるライラが抱きついてきた。


「アルス! アルス!」


 母親が俺のことを強く抱きしめてくる。

 そして、俺の名前を連呼しながら「私のアルスは絶対に渡さないから!」と感情を荒げている。

 一体、どうしたのだろうか?

 そんなに俺が魔法を教えてもらえるようになったのが問題だったのだろうか?

 そういえば、母親は父親が俺に魔法を教えると言ったときに反対したからな。

 アリサ先生に、俺が魔法を教わることが決まって、色々と思うところがあるのだろう。

 そうなると、きちんとフォローはしておいたほうがいい。


「お母さん……、よく聞いて――」

「アルス……」


 何故か知らないが、すでに母親は涙を流しながらイヤイヤと頭を左右に振っている。

 そこまで俺が魔法を習うのが嫌なのか――。

 少し過保護にも程があるな。


「僕は、アリサ先生と一緒に――」

「ダメよ! それだけは絶対にダメ! だって、まだ……貴方は5歳なのよ?」

「ライラ、落ち着きなさい。アルス、大事な話がある。付いて来なさい」


 父親であるアドリアンは、とても緊張した面持ちで俺に話しかけてきた。

 どうやら、父親も魔法に関しては思うところがあるのだろう。

 ここからは正念場だ。

 

 ――というか……。


 どうして魔法に関して、ここまで父親も母親も心配しているのか俺には理解できない。

 自分たちから魔法を習うことを薦めてきたというのに……。

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