第21話

 まぁ、予想はつく。

 きっと親心と言うやつなのだろう。

 過剰に子供を心配してしまうというのは、どんな世界でも親であったら共通する点だ。


 まぁ、俺は親になったことは無いから知らないが、インターネットで得た膨大な俺様知識が、答えを提示している。

 

「分かりました!」


 俺は、父親の言葉に力づよく頷く。

 父親と母親が俺を心配しているなら、きちんとした振る舞いをして安心させないといけない。

 それが、子供の務めというものだろう。


 


 ――そして、連れてこられたのは、父親の仕事部屋でもあり執務室でもある場所。 


 部屋の扉を開けた父親は俺を見ながら「入りなさい」と語りかけてくる。

 その声は張り詰めているように思える。

 

 なるほど……。


 父親の表情と態度と声色から瞬時に悟る。

 俺の長年の社会人経験が、これからの話し合いは、俺の人生において、とても大事な話だということを告げている。

 そして、その話し合いは失敗したらいけないという事も分かった。


 つまり、俺はこれから父親に問われ試されるのだろう。

 俺も意識を張り詰める。

 気分は、面接室に呼ばれる5分前のごとくだ!


 部屋の中に入ると、一人の先客が椅子に座っていた。

 質素で簡素な椅子であったが、ハーフエルフであり見目美しいアリサ先生が座っていると、まったく違った印象を与えてくる。

 本当に、この女性を彼女に出来る人は、幸せだろうな……。


 まぁ、俺には縁の無い話だな。

 

「アルス、話は全てアリサ殿から聞いた。正直、俺としても……、答えを決め兼ねているところだ。その上で、アルス、お前に聞いておきたい」


 ――ほら、来た。

 俺の覚悟を試すつもりだろうな。

 

「お前は、本当にアリサ殿でいいのか? 彼女は平民だぞ?」


 アリサ殿でいいのか? と聞かれても連れてきたのは父親であるアドリアンだろうに……。

 そんなことを態々聞いてくるとは、なんと言うか少し意地が悪いと思うが……。

 今は、それは置いておこうとしよう。


「お父さん! それは本気で言っていますか?」

「本気とは?」

「彼女の……アリサ先生のことです!」

「無論だ! これは、シューバッハ領地の問題でもあり、アルセス辺境伯にも伝えないといけない案件だ。中途半端な気持ちでは――」


 どうやら、父親はアリサ先生が平民だと言うのを問題にしているらしい。

 

 なるほど……。

 

 貴族というのは体裁を重んじるものだ。

 それはつまり……、一番下位に属する騎士爵であっても変わらないのだろう。


 だからこそ、平民に本気で魔法を習うつもりなのか? と聞いてきたのだろうな。

 自分で連れてきておいて、その質問は、アリサ先生に対して、失礼だと思わないのだろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る