第10話
しばらくすると父親が、広辞苑ほどある分厚い本を持って家から出てきた。
「アルス、これが魔法指南本になる」
「魔法指南本ですか?」
母親の膝の上に乗せられている俺は父親から魔法指南本なる物を見せられる。
本の表紙は、どうやら青銅で作られているようで、3センチほど厚みがあり小さな透明な水晶球のような物が表紙に埋め込まれていた。
「まずは、この魔力石に手を触れてみなさい」
「はい」
俺は父親の言葉に頷きながら手を伸ばす。
後ろから、母親が両手で俺の身体をシッカリと掴んでいて手を伸ばすことくらいしか出来ないのだ。
伸ばした手が魔法指南本の水晶球に手を触れる。
感触としては、地球の水晶と同じようなものだと思う。
水晶に手を触れていると魔法指南本に埋め込まれていた小さな水晶球が、震えだす。
そして、青銅色をしていた魔法指南本の表紙が白く光る。
それは、とても眩しく目を開けていられなかった。
「アルス!」
直接、光を見てしまったこともあり一瞬、何も見えなくなってしまった。
しばらくすると、「アルス! アルス!」と、涙声で必死に話かけてくる女性の声が聞こえてきた。
何故か知らない。
でも、目を覚まさないといけないという不思議な使命感があり、俺は声に耳を傾けた。
「アルス! 起きて!」
俺はゆっくりと瞼を開けていく。
父親も母親も俺を見下ろしながら涙を流しながら語りかけてきている。
どうやら、俺は気絶していたようだ。
「お母さん……」
「ああっ、アルス!」
母親が俺のことを強く抱きしめてきた。
何度も俺の頭を撫でながら頬ずりしてくる。
その様子から、様子から察するに俺はかなり心配をかけたみたいだ。
「心配を掛けてごめんなさい」
また、自然と謝罪の言葉が出た。
これはアルスの思考から来たものだろう。
日本に47年間も暮らしていた俺は、人間と言う存在を良く分かっている。
だからこそ、すぐに裏を勘ぐってしまって気持ちを素直に語ることができない。
本当に子供というのは強い気持ちを持っている。
自分の感情、思いを素直に言葉に出来るというのは、それだけで、とても強い力を持っているのだ。
「いいのよ、よかったわ。アルス、あなたに本当に何もなくてよかったわ」
涙声で語りかけてくる母親に申し訳なさがいっぱいだ。
これからは、もっと気をつけて生活をしないと、大人としては失格だな。
そんなことを考えていると「アルス」と、父親から話かけられた。
顔を上げると父親が少し緊張した表情をしている。
何か問題でもあったのだろうか?
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