第9話
ちょっと子供らしく、大きなリアクションをとってみる。
あまりにも成熟しているように見せると逆に不審がられるからな。
「それでは、お母さんも魔法が使えるのですか?」
俺の言葉に、母親は首を左右に振って「私には魔法の才能がなかったから」と、少し沈んだ声で答えてきた。
「お母さん、ごめんなさい……」
「――ッ! アルス!?」
母親であるライラの沈んだ表情を見て、無意識のうちに謝罪の言葉が出ていた。
これは、きっとアルスの気持ちからなのだろう。
俺は、母親が沈んだ声色で話をしてきたときに、フォローするかどうか迷ったのだ。
ただ、5歳の子供が機微を察し他者をフォローするのは、些か問題があるのではないかと思いフォローするのをやめたのだが、母親の表情を見た瞬間、そんな計算していた考えはどこかへ吹き飛んでいた。
「ああっ、もう……、アルスは、この一週間でずいぶんと大人になったのね? 【男子三日会わざれば刮目して見よ】と言うけど、本当に……、一週間でずいぶんと大人らしくなったのね」
「……」
無意識のうちに、口から出た言葉であったが、かなり好評なようであったが……。
それよりも、俺を驚かせることがあった。
それは……、【男子三日会わざれば刮目して見よ】という母親が言った言葉だ。
たしか【男子三日会わざれば刮目して見よ】という言葉は、中国の三国志時代の呉に仕えていた武将である呂蒙が言った言葉のはずだ。
それが、この世界で出てくるなんておかしい。
一体、この世界はどうなっているのだろうか?
「どうかしたのかしら?」
母親が俺を抱きしめながら語りかけてくる。
アルスの記憶も統合されていることもあって、母親であるライラのことも他人ではなく母親であると認識できるし変な気持ちになることもない。
ただ、いい匂いがして安心できる。
甘えていたい感情が自然と湧き上がってくるけど……。
いまは魔法の方に興味があったりするのだ。
「お母さん」
「どうかしたの?」
「魔法は、お父さんが教えてくれるのですか?」
「俺も魔法は使えない」
「……」
まさかの父親も魔法が使えないカミングアウト。
それじゃ誰に魔法を教われと?
――というか、魔法を本当に使えるのか? という思いが思わず心の中に浮かんでくる。
「アルス、魔法が使えるようになるには資質が必要なのだ」
「資質ですか?」
俺の言葉に父親は頷くと、家の中に入っていった。
もちろん、俺も付いて行こうと思ったのだが母親が抱きついてきて「アルスは、お母さん思いのいい子ね! 食べちゃいたいくらい!」と、狂気染みた事を言ってきているので、母親の気持ちが落ち着くまで好きなようにさせておくことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます