第8話

「あなた!?」


 父親であるアドリアンの言葉に、母親であるライラが驚いた表情で俺の父親に語り掛けていた。

 先ほどまでの和やかな雰囲気だったのが一変している。

 まるで魔法という言葉が、禁句であるかのようだ。


「まだ、この子は5歳なのよ? もし魔法の才能があったら……もし魔法が使えたら、もし自分の感情を制御できなかったら怪我をするどころじゃ済まないのよ? もし誰かを傷つけたら、この子は心に傷を負うわ!」

「分かっている。だが、いまのアルスは、ずいぶんと落ち着いているように見える。おそらくは大丈夫だろう」

「でも……、それでも……」


 どうやら、母親は魔法が使えるようになった際に、誰かを傷付けてしまったとき、俺の心が傷つくのを恐れているようだ。

 アルスの知識や記憶を共有しているが、母親がアルスのことを叱っている姿は……、結構あるな。


 まぁ、母親が俺のためを思って叱ってくれているのも、自分の子供である俺のこと――アルスの事を思ってのことだから悪い気持ちはしない。

 客観的に母親の愛情が、分かってしまうのだから正直、いまの俺は年不相応な精神年齢なんだろうな。

 何せ、前世は47歳だからな。

 父親と母親を見ても、20歳前後だろう。

 そして5歳の子供が居るということは10代で結婚した可能性だってある。

 さすがは、魔法のある世界だ。

 いや、自分で何を言っているのか突っ込みどころ満載だが――。

 

 文明レベルとしては、水準はかなり低いと思う。

 何せ、家の中には鉄を使った物を見たことがないから。

 つまり、文明のレベルは青銅石器時代に準じた物を考えるのが良いかも知れない。


 まぁ、今は、それよりも魔法だ! 魔法!

 ライトノベルを含めた全ての男達の夢の産物。

 それが魔法だ。

 決して魔法少女ではないということだけ、心の中でこっそりと付け加えておこう。

 

「――アルス、どうかしたの?」


 一人、妄想に耽っていると母親が心配そうな顔をして俺に語りかけてきた。

 

「いえ、何でもありません。それより魔法というものは何でしょうか?」

「そうね……、アルスには魔法を教えたことが無かったものね……」

「はい」


 たしかに統合され融合されたアルスの記憶の中には、一切、魔法という言葉が存在していない。

 おそらく父親と母親は、精神が未熟な子供に他者を傷つける可能性がある魔法を教える気はなかったのだろうが……。


 俺が自発的に、自分のために始めた水汲みの仕事。

 それを評価して教えてくれることになったのだろうと予測できる。


「魔法はね、火を出したり水を出したりすることが出来るのよ?」

「そうなのですか!」

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