第7話
母親が洗濯している姿を遠くから眺めていると頭の上に手を置かれた。
「お前、こんなところで何をしているんだ?」
「お父さん!?」
「――んっ? お前、少し雰囲気が変わったか?」
俺は頭を振る。
別人ではあるが、知識と精神が融合したことで一概に別人とも言えない状況。
それが今の俺、桜木優斗でありアルスだ。
「お父さんは、いま帰ったところなの?」
「ああ、そうだ。何頭かの熊や鹿を狩ってきたからな。今日の夕食は期待するといい。それよりお前は、ここで何をしているんだ?」
「お母さんの手伝いで水を汲みに行っていた」
「――何?」
俺の言葉が意外だったのだろう。
一瞬、父親であるアドリアンが驚いた声を上げると、母親の元まで聞こえたのだろう。母親が洗濯中に振り返り父親を見た途端、小走りで近寄ってくると「あなた、おかえりなさい!」と抱きついてからキスをしていた。
正直、子供の前では、そういうのは止めてほしい。
47年間、彼女が居なかった俺に刺激的すぎるものだ。
「あなた、アルスがね。最近は、何時間もかけて水を川から運んできてくれるのよ?」
「それは、本当なのか?」
「ええ、この子にも貴族としての自覚が出てきたのかしら?」
「なるほど……」
貴族としての自覚って――。
正直、俺は色々と異物が浮かんでいるような水を飲料として、そして料理に使って欲しくなかったから水を汲んできているだけに過ぎない。
所謂、自分のためだ!
「わかった。俺から見てもアルスは雰囲気が変わった気がするからな。魔法を教えるのも良いかもしれないな」
父親の言葉に俺は驚いた。
いま、魔法と言った? 言ったよな? 俺の耳が悪くなければ、間違いなく魔法と父親は言ったはずだ。
つまり……、ここは異世界ってことか!
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