第6話

 母親であるライラの言葉に、俺は心の中でたしかに! と頷いてしまう。

 統合され融合された子供のアルスの記憶を見てみたが、いつも家でダラダラと過ごしていた。

 まさしくニートだ!

 まぁ、子供だからニートというのは、どうかと思うが……。


 どうりで外に出るときに子供靴がなかったと思った。

 男の子、つまり子供の時期なら外で遊んで多くの知識を、体験という形で身体全体を使って身につけるという行為をアルスは、行わなかったのだ。

 おかげで、この世界の知識がまったくという程、アルスの知見の中には存在しなかった。


「いいのよ! アドリアンも男の子は、ある日、母親の仕事を手伝ってくれるようになるって言っていたもの。だから、そんなに暗い顔をしなくていいのよ?」


 母親は、俺に微笑みながら語りかけてきた。

 ちなみに、俺の母親はとても美人だ。

 鼻筋が整っているし、大きな青い瞳は、とても魅力的に見えるし桜色の唇は口紅とか何も塗っていないのに、艶があって綺麗。

 さらに、腰まで伸ばしている絹のような金糸を思わせる髪の毛は、手入れが良くされているのか艶もよく日の光を浴びると多種多様な光のグラデーションを生み出して神秘的ですらある。

 

「大丈夫です。少しだけお父さんのことを思い出してしまって――」

「まぁ、そうなの?」


 俺が適当に言い訳として使った言葉に、母親は、少しだけ沈んだ表情をする。

 すると自身のスープの皿の中に入っている、じゃがいもをスプーンでとると、俺のスープ皿の中に入れてきた。


「これを上げるから、アルスも元気を出しなさい。きっと、アルスは怒られるようなことにはならないから!」

「あ、はい……」


 別に、じゃがいもが欲しくて父親のことを言ったつもりはなかったんだが……。

 まぁたしかに、アルスの記憶を見る限り父親には、あまり良い感情は、持っていなかったようだな。

 何せ、親の言うことを殆ど聞かない子供だったようだし。

 そりゃ怒られるのも仕方ないと言える。




 朝食を食べ終わったあと、俺は水汲みを行う。

 もちろん、意識的に子供の体力を全て使い切らないように配分しながら川と家を往復したので、台所の水瓶をいっぱいに満たした時には、お昼を越えていた。


「とりあえず……、これで俺の仕事は終わりっと……」


 ちなみに一週間前から水を川まで取りにいくという重労働を俺が始めたこともあり、母親は、畑の仕事と炊事家事に割り振れる時間が増えていた。

 

「それにしても……、家電製品がないと家事は大変なんだな……」


 俺は、薪の材料となる木材の上に座りながら一人呟く。

 力を制御して行動していることもあり、子供特有の電池が切れたら寝る状況に陥っていないから、ここ一週間の肉体制御の成果は出てきていると言っていいだろう。


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