第5話
「今日の料理はおいしいでしょう? 今日は、村の猟師が捕ってきてくれたアルセス鳥で出汁をとったスープなのよ?」
「――え?」
俺は思わず顔を上げる。
突然、俺に顔を見られた母親であるライラは、少し得意げな表情を見せてきた。
所謂、ドヤ顔という奴である。
ここの世界に、そんな言葉があるかどうかは知らないが……。
「これは、その……鳥から出汁を?」
俺の言葉に母親は「すごいでしょう! おいしいでしょう!」と語ってきたけど、俺としては、こんな味が薄いというか味が無いスープを作ったら鳥に対して失礼だよ! と突っ込みを入れそうになった。
「そういえば、今日はお父さんが戻ってくるのですよね?」
「ええ……、そうよ? アルスも会うのは楽しみよね?」
「はい!」
俺は元気よく答えておく。
そして、桜木優斗とアルスの統合された知識の中から父親の情報を引き出す。
父親の名前は、アドリアン。
シューバッハ騎士爵家の当主であり、俺の父親。
フルネームは、アドリアン・フォン・シューバッハであり、俺の場合は、アルス・フォン・シューバッハとなる。
シューバッハ騎士爵家の寄り親は、アルセス辺境伯家となる。
寄り親というのは貴族世界でいうところの、派閥の長みたいなものだ。
辺境伯家の規模になると、その力は伯爵家と公爵家の中間に位置するので、かなりの力を持っている。
ちなみにシューバッハ騎士爵家は200人程度の、超小規模の農村管理を任されている貴族家なので、その力は、とても弱く吹けば飛ぶくらいだ。
寄り親が黒! と言ったら黒ですね! と答えるくらいの力関係だ。
何が言いたいのかと言うと、上司には逆らえない。
しかも、前世では会社を辞めて別に就職したり出来たが、この世界では貴族の再就職先など存在しない。
唯一できるのは、貴族家の爵位を妹か弟が生まれた場合に引き継がせて、家から出て新たに商売を起こすくらいだろう。
ただ、そこまでするほどのやる気が俺にあるかと言えば、無いと答えてしまう。
何だかんだ言って、爵位をつげば安定した俸給がもらえるのだ。
それは、前世の正社員よりも、ずっと安定している。
そう考えると、死んだ理由は分からないが、いい物件というか案件に転生してきたのではないだろうか?
「それにしても、アルスが大変な水汲みを手伝ってくれていると聞いたら、アドリアンも驚くはずよ? アルスは、いつも遊んでばかりだったもの」
「……」
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