第3話
母親が慌ててシーツを折りたたむと振り返りながら俺に語りかけてきた。
「お母さん、台所の水を僕が汲んできてもいい?」
「――えっ!?」
普段、家事を一切、手伝ってこなかった俺が母親に家事を手伝うと言ったのだ。
その言葉は、予想外だったのだろう。
一瞬、母親はどうしようか迷ったところで、小さく溜息をつくと「わかったわ、川はどこにあるか分かるかしら?」と、語りかけてきた。
母親が何度も「川は危険だから! 危ないと思ったら、すぐに帰ってくるのよ!」と、心配して小言を言っていたが、俺は何度も頷くと淀んだ水が入った瓶をひっくり返して水を零したあと、両手で瓶をしっかりと持ったあと、もちあげようとする。
「持ち上がらない……」
思ったより瓶が重い。
まだ、5歳の身体ということもあり、あまり重い物は持てないとは思っていたけど、予想以上に非力だった。
まぁ、年相応と言われてしまえば、それまでなのだが――。
「はぁ、聞いたことの無い地名と大陸だったから異世界だと思っていたんだが……、もしかしたら過去の世界かも知れないな」
俺は一人愚痴を言いながら台所に置かれていた青銅製の鍋を持つと、台所から外に出られるので母親が使っているサンダルを履いて、外に出る。
「さむっ!」
家の戸を明けて外に出た途端、身を切るような寒さを感じた。
よく見ると足元の草などに白い霜のようなものがある。
屈んで触ってみると、冷たい。
「まさか……、山奥だから寒いのか? まだ朝早いからな……」
俺は周りの様子を見ながら何一つ、自分の家以外に小屋が見当たらない丘を見て溜息をつく。
「これは……、領地運営収入も少なそうだな……」
一目で分かる。
丘の下に、30ほど家々があるが、どれもが木造で、そんなに裕福そうには見えないし畑もあるが、そんなに作物が実っているようには思えない。
「やれやれ……さて、川はと――」
今は、村のことよりも川に行き水を汲むのが俺の仕事だ。
母親が教えてくれた方角を見ると、家がある丘から下ったところに川が見える。
「結構、距離があるな……」
それでも水が無いと話にならない。
俺は青銅製の鍋を両手で持ちながら丘を下りていき、川にたどり着く。
川はとても澄んでいて、家にあったような淀んだ水とはまったくの別物であった。
俺は、川水で鍋を洗う。
「やばっ! 冷たい!」
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