3 デマ発生のメカニズム
当時、そうしたデマに関するニュース番組を見ていた際、「災害神話」という言葉を聞いた。
私が無学な故と思うが初めて耳にする言葉であったので、ネットで検索してみたのだが該当すると思しき意味合いの同語は一件も見つからなかった。
社会学などで使われている用語だろうか? ここで言う「神話」とはいわゆる神代の話ということではなく、都市伝説における「伝説」と同じような使い方で、つまりは災害時に発生する〝オーラルヒストリー〟――「真実ではない、口頭の伝承の中での歴史」というような意味なのだろう。
要するに災害時のデマということなのだが、それは一見、誰かが悪意を持ってその噂を作り、愉快犯的に流しているようにも見えて、実はそうではないらしい。
無論、熊本の震災の折に流れた「動物園からライオンが逃げ出した」などという写真付きのSNS投稿や、新型コロナウィルスに関して、とある芸術家がまったく関係ないパフォーマンスとして行った「人間が積み重なった写真」を「武漢でのウィルス死傷者の山」と偽って広めようとしたような例もあるが、それにしたってその嘘情報を広めるのは、悪意ではなく
地震直後、電気が来ていなかった被災地の夜は真暗闇で、警察等の治安機構も機能がほぼ停止状態にあった。
そこで「こういうことが心配だ」とか「こういうことには気を付けなくてはいけないね」といった不安やそれに対する注意について話していた取りとめのない会話が、人口を介する内にいつしか実際に起きたこととして語られるようになり、それを聞いた人々はさらに注意を喚起するために善意でその話を他の者達に広めていく…というのがその発生のメカニズムであるらしい。
それ故に、善良な人々がよかれと思って無自覚に拡散してしまうため、悪意をもって意図的に広めようとするよりもむしろ
また、災害時には誰しもが不安や緊張に苛まれ、冷静な判断ができなくなることも、このデマの信憑性獲得と拡散に一役買っていることであろう。
関東大震災の折にも、「朝鮮人が混乱に乗じて暴動、凶悪犯罪を起こす」などという根も葉もないデマが広まり、官憲や自警団によって朝鮮人や朝鮮系日本人、さらには間違われた中国人や日本人までが殺傷されるという痛ましい事件が起きた。
北海道胆振東部地震においても、すでに「石狩川浄水場の自家発電が故障し、市内の7割が断水する」などというデマが発生しているという(9月6日当時)、今回の新型コロナウィルス流行に関しても「発熱症状のある武漢からの旅行者が検疫をせずに逃亡」、「ニンニクがウィルスに効く」などの虚偽の情報が飛び交った。
歴史を見るにも、災害時におけるデマの発生はつきものだ。これまで考察してきたように、それがより正しい行いをしようとすることによる不可抗力だからである。
そして、それはただのニセ情報に留まらず、人災的な二次的被害を生むことにも繋がりかねない。
デマの発生が必須であるならば、大事なのは根拠の不確かな情報を鵜呑みにして踊らされることなく、報道や公式発表などを主に複数の情報を総合して真実を見極める目を持つことであろう。
〈割註〉
註1 日経電子版 日本経済新聞大阪夕刊オムニス関西2011年3月23日
註2 asahi.com(朝日新聞)2011年3月26日
註3 YOMIURI ONLINE読売新聞2011年3月16日
災害時デマの発生メカニズム―3.11の事例を参考にして― 平中なごん @HiranakaNagon
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