第二章 ドワーフの国 -テイキビ- Ⅳ

「母さん。これはどうする?」


「そうね。裏の倉庫に入れておいて。」


「分かった。」


ガチャ


「はぁ…」


「フェルは本当にいい子に育ってくれたな。」


「……えぇ。」


「辛い境遇にいながら真っ直ぐ素直に育ってくれた。」


「……私が……私がもっと普通に産んであげられたなら…」


「泣くなよ。」


「でも!あなた!」


ガチャ


「……ど、どちら様でしょうか?」


「………ふむ。この村に首周りの髪が白く変色している者がいると聞いてきた。知らぬか?」


「……知りませんが…」


「嘘を言えば酷い目に合うことになるぞ?」


「知りません。」


「……そうか。」


ガチャ


「一体今のは…」


「街にある教会の連中だ。」


「教会?なんで教会の人達が…?」


「……忌み子を殺す為だ。」


「そんな?!なんで?!」


「悪魔に魅入られた者。それが忌み子だと考えられているからだ。」


「そんな事!!」


「分かってる。そんな事は関係無いことは俺達が一番。」


ガチャ


「母さん?父さん?どうしたの?」


「フェル。よく聞くんだ。」


「え?うん…?」


「今この村に教会の奴らが来てる。」


「チラッと見えたけど…それがどうしたの?」


「お前を探すために来ているんだ。」


「私を?なんで?」


「………殺す為だ。」


「え…?」


「詳しく説明している時間はない。家の裏手から抜け出して逃げるんだ。」


「そ、そんな…私…」


「フェル!お願い!逃げて!私達の願いはあなたに生きて欲しい!それだけなの!」


「母さん…」


「ごめんなさい……」


「逃げるんだ。絶対に誰にも見つからないように。」


「父さん達は?!」


「フェルが上手く逃げられれば俺達が殺される事は無いさ。だから逃げるんだ。」


「わ、分かった…」


ガチャ


「行ったな…」


「えぇ…」


「……フェルの花嫁衣装。見たかったな…」


「…そうね……ごめんなさい……私のせいで…」


「お前のせいじゃ無いさ。フェルはたとえどんな姿であろうと俺達の可愛い一人娘だ。お前には感謝してるんだぞ。」


「うぅ……」


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



「はぁ…はぁ…父さん…母さん……

……?!煙?!村の方から?!」


(逃げるんだ。)

(お願い!逃げて!)


「私…どうしたら……」


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



「まずいな…」


黒煙が立ち上っているのは間違いなくキリビヌ村。

炎が少し離れたここでも見える。


「あれは…教会の奴らですね。」


「教会の奴らがなんでこんな所に?」


「恐らくフェルが狙いかと…」


「フェル?なんでだ?」


「デリフニーカは悪魔に魅入られた者、悪魔の使者と信じているのです。」


「悪魔の使者?」


「教会からしてみれば敵という事か…」


「だからと言ってこんな横暴な事するのか?」


「いえ。一部の過激な者たちだけです。」


「つまり教会の総意ではないってことか?」


「……なんとも言えない所です。教会はこの様な行いを肯定も否定もしていないので…」


「黙認しているのなら肯定も同じだろ。」


「…はい。」


「あの灰色のヒラヒラした服を着てる奴らが教会の奴らだよな。指揮してるのはどいつだ?」


「恐らく一人だけ白い服を来ている者がいるはずですが…」


「あいつか。」


白い髭と髪。太った男のドワーフ。糸目で金色の錫杖を持っている。


「村を燃やしてるって事はフェルは逃げたのか?」


「少なくとも捕まってはいないみたいですね。」


「さて…どうするかな…」


「バーッと行ってドーン!じゃダメなのか?」


「今単純に出ていっても一箇所に集められてた村人を人質として使われるだけだ。」


「殺されてもいいのか!動くな!的な事か。」


「40人はいますからね。一人二人制圧できたとしても他の奴に村人を一人でも人質にされたらそこで終わりですから。」


「真琴様。」


「プリネラ。どうだった?」


「周辺に伏兵はいない様ですね。」


「そうか。それならあの村にいる連中をどうにかすれば…」


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



「さぁて。皆さん。悪魔の使者はどこにいますか?」


「……」


「ふむ…隠すおつもりですか。」


「な、なんだ?!やめろ!」


「この村にいる事は既に分かっているのです。隠すと言うのであれば、悪魔に味方する者たちとして粛清するだけです。」


「や、やめ…うがぁぁああ!!」


「ひっ!!」


「さて、差し出す気が無いと言うのであれば、一人ずつ粛清していきますよ。

次はあなたですか?」


「ひぃ!!」


「それとも、あなたかな?」


「や、やめてくれ!俺達は関係ない!」


「ほぅ。ならどなたが関係あるのですか?」


「……」


「なるほどなるほど。あなた方ですか。」


フェルの両親の元へ向かっていく白服のドワーフ。


「悪魔の使者はどこへ?」


「悪魔の使者など知らん!」


「ほう。ここまで来てまだシラを切りますか。」


「あなた!!」


「くっ!」


「さて、奥さん。悪魔の使者はどこにいますか?」


剣を旦那に突き付けられてその質問はあまりに非道だ。


「父さんから手を離して!!」


「なっ?!フェル?!」


「おぉ。ついに現れましたか。悪魔の使者。」


「私はフェルよ!悪魔の使者なんかじゃない!!父さんから手を離して!」


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



「まずいな…出てきちゃったか…」


「私でも真琴様が同じ立場なら出ていきますよ。」


「あぁ…仕方ない。出ていく準備しとけよ。」


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー


「それは出来ませんね。」


「狙いは私でしょ?!父さんは関係無いじゃない!」


「あなたを作り出したのはこの男とそこの女。どちらもこの世に存在してはならない存在なのですよ。」


「私は悪魔の使者なんかじゃない!」


「流石は悪魔の使者。そこまで上手く化けるとは。やりなさい。粛清です!」


「やめろーー!!」


「ぐぁっ!」


「と、父……さん……?」


斬りつけられそうになったフェルを庇うために、拘束を振り解きフェルの元まで走ったお父さんは、その背中に剣を受けた。


「よ、良かった…怪我は…無いか…?」


「父さん……父さん!!そんな!嫌よ!嫌!!」


「逃げるんだ…俺と母さんの事は気にするな…早く……行…………」


力無く垂れ下がる腕。


「嫌……嫌よ…父さん?!ねぇ父さん!!いや……い゛や゛ーーーーーー!!!!!」


フェルの糸が切れてしまった。


一気に暴走する魔力。

フェルの周辺の地面が何かに穿たれた様に跳ねる。


「本性を表しましたね!!」


フェルの暴走により周りにいた奴らが一歩、二歩と後ずさる。


「行くぞ!」


俺達はフェルの元に走る。


「な、何者だ?!」


「ただの冒険者さ。悪いが俺達の相手を先にしてもらうぞ。」


「どけ!さもなくば貴様らも仲間と見なして粛清するぞ!」


「黙れ。」


「な、なに?!」


「虫酸が走る。お前達の様な自分勝手な考えで人を貶める奴を見てるとな。」


体の奥深く、押し込めていた黒い感情が湧き上がってくる。


「凛。フェルはどうだ?」


「ダメです!完全に暴走してます!」


「ちっ……

お父さんの方は?」


「辛うじて息があります。」


「直ぐに回復薬を飲ませて村人達と一緒に守ってやれ。リーシャとプリネラも頼む。」


「「「分かりました!」」」


「フェルはどうするか…」


「師匠!!」


「ジャッド?一体どこから…」


「事情は分かりませんが、この子の事は任せてください!」


「……頼んだ。」


「はい!」


「この冒険者風情が!!好き勝手しおって!」


「好き勝手してんのはどっちだよ。」


「こいつらを悪魔の使者と断定する!粛清せよ!!」


数人が同時に剣を構えて突撃してくる。

しかし、その突撃は突然進行を止め膝を地面につくとうつ伏せに全員が倒れ込む。

俺の前には健が立っている。外套の力を解放し火の玉が周りを漂っている。


「俺の主様に喧嘩売って生きて帰れるなんて思うなよ。」


「な、何が起こったのだ?!」


「魔法か?!」


「えぇい!なんでも良い!早くそやつらを殺せ!」


「ファイヤーボール!!」


「ウォーターショット!」


いくつもの魔法が同時に飛んでくる。

しかしその魔法はどこかに被弾する事は無かった。


「な、何が起きたんだ…?」


空中で消えた魔法。


俺の闇魔法によって作り出されたブラックホールによって魔法は全て消え去った。


「悪いけど、今は機嫌が悪いんだ。手加減を期待するなよ。」


杖を横に振る。


「ぐぁぁああ!!」


いくつもの断末魔が耳に届く。


敵のハスラー達を襲ったのは、無数のクリスタルで出来た槍。

辺りを埋め尽くす数の槍が地面から突き出し、串刺しにしたのだ。


第六位土魔法、ハンドレッドクリスタルランス。

フィルリア考案の範囲攻撃魔法だ。

串刺しになった奴らから血が滴り、地面が血に染っていく。


「く、クリスタルだと?!」


「そんな事より、自分の心配をしたらどうだ?」


あれだけいた教会の連中は今や十人程度まで減っていた。


「ま、待て!話をしようじゃないか!」


「話?」


「そうだ。今回は我々が引こう。望むならここへは二度と来ない!それに望む額を渡そう!」


「金か。」


「そうだ!悪い話では無いだろ?!」


「健。」


「おぅ。」


ドサッ


白服の周りにいた奴らが全員地面に倒れる。

首は無くなっていた。


「ひぃ!!」


「白髪なら光魔法使えるんだろ?抵抗したらどうだ?」


「こ、このクズ共がぁ!」


錫杖を振りかぶる白服ドワーフ。


カランッ


しかし錫杖は地面に転がる。


「え?」


錫杖にはドワーフの手首から先が残っている。


「ぐぁぁあああ!!私の!私の手がぁ!!

きさ!貴様ら!こんな事をしてタダで済むと思っているのか?!教会に対する冒涜だぞ!!」


「うるせぇ。冒涜だろうがなんだろうがお前は許さねぇ。」


「ひ、ひいぃ!!」


「苦痛の中で死ね。」


杖を白服ドワーフに突き出す。


「な、なんだ?何も起きてないぞ?

はは、驚かせおって!所詮は下賎な冒険者か!私が粛清してや……る…?」


「俺の魔法は失敗なんかしてないぞ。

第六位の土魔法、クリスタルシードと言ってな。お前の体内にクリスタルの種を生成したんだ。」


「た……ね……?」


「そいつはお前の魔力を糧に成長する種でな。魔法を使おうとすればその魔力を吸い取り急激に成長する。

見た限りその白服は相当強力な魔法耐性を付与してあるみたいだが、体内には効果が無いみたいだな。」


「き…さ………ま……」


「体内から壊される痛みはどうだ?苦しいか?

そいつは良かった。」


「ぐはぁぁ!!」


皮膚や目を突き破りクリスタルの枝が飛び出してくる。

魔法が切れると同時に地面に横たわる死体。


「真琴様!」


「皆は無事か?」


「はい!」


「良かった。フェルは…」


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー


師匠に任せてくださいと言ったものの、この子の魔力は完全に暴走している。

普通の魔力とは違い私と同じ召喚士の魔力。

このままでは体が耐えられなくなって死んでしまう。

自我は完全に無くなっている。


「確か名前は……フェル!聞こえるか!」


ダメだ。声が届かない。


「ぐっ!」


近くにいるだけで暴走した魔力が荒れ狂い切り裂く様に体に当たってくる。

暴走した魔力を抑えるのはこの子にしか出来ない。

なんとか自我を取り戻すしか方法は無い。

召喚士は召喚した精霊と繋がるために意識を接続する必要がある。

普段は召喚魔法を使うと勝手にそのパスが繋がるのだが、中には反抗的な子もいてそのパスを自分で繋げなければならない事もある。

その為召喚士としての魔力を操作して意識を繋げる事は可能だ。

もちろん相手もその魔力を使えなければ性質の違う魔力を体内に取り入れる事になるため最悪死に至る可能性すらあるが、このフェルという子の放っている魔力は召喚士としての魔力。つまり意識を繋げても問題は無い。はず。

今まで他のデリフニーカの人と会った事など無いし見た事さえ無い。

本当に意識を繋げるなんて事をして互いに大丈夫なのかは分からない。

もしかしたら反発しあって取り返しがつかなくなる可能性もある。


最悪二人とも死ぬ事もあるだろう。

それでも私はフェルを助けたい。


同じデリフニーカ。


自分と同じ存在。

どれ程辛く苦しい思いをしてきたのかは誰よりも理解出来る。


人の表裏。嫌悪。

そんなものに晒され続け育ってきたはずだ。

死にたいと、死のうと思った事は数えきれない。

それでも、私は師匠達に出会えた。

なんの表裏もなく私自身を、私として見てくれた人達。

どれだけ救われたか分からない。

今まで生きてこられたのは師匠達のおかげだと自信を持って言える。

この世界に生きていて良かったと心から思えたのだ。

それを知ったのなら、救われたのなら、私には同じデリフニーカの人を救う義務があると勝手に思っている。

私を救ってくれた人達の優しさを分ける義務があると。

私はフェルの意識へと自分の意識を繋げる。


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



「ここは……」


暗い、ただただ暗い場所。


何も無く、誰もいない。


私はこの場所をよく知っていた。

親にさえ気味悪がられどこにも居場所など無く、ただ死んでいないだけだと思って生きていたあの時。

エルフの国を出る時、出てから何年もの間私がいた場所。

何も、誰も信用出来ず、ずっとここにいた。

愛する父を目の前で斬られ、フェルは壊れてしまった。

私が同じ立場でもきっとここへ来ていただろう。

暗く冷たいだけのこの場所に。


私をここから救い出してくれたのは師匠達だ。

ならば次は私がこの子をここから救い出さなくては。

辺りを見渡すと身を縮める様に膝を抱えて漂うフェルの姿が見えた。


「フェル!」


私の声に目だけこちらへ向けたフェル。


「あなたは…?」


「私はジャッド。君をここから連れ出しに来たんだ。」


「……そう。」


「行こう。」


「嫌よ……」


「……」


「外に出ても嫌な事ばかり。私はここにいるわ。」


「そんな事無い。いい事だってあっただろ?」


「……それでも父さんは……」


「まだ死んでいない。」


「嘘よ…」


「本当だ。」


「私は見たの。私の手の中で力無く腕を落とす父さんを…」


「…師匠達が……マコトさんやケンさんが助けてくれているんだ。」


「ケン……さん?」


「フェルの事を助けようと今まさに戦ってくれているんだ。」


「なんで…?」


「フェルのことが好きだからだよ。」


「そんな事…」


「あるんだ。あの方達はそういう人達なんだよ。」


「なんで?!もう嫌よ!あんな所!助けてなんて頼んでないわ!」


「……本当にもういいのかい?」


「……」


「君のお父さんも、お母さんも、君を助けようと必死になっていたんだよ?」


「……」


「君が諦めてしまったら…悲しむよ?」


「父さん…母さん……

でも……」


「私が、私が君を助けるよ。」


「あなたが…?」


「あぁ。約束する。」


「なんで…?」


「なんでかな?少しでも師匠に近づきたい、のかもね。」


「……」


「私もずっとこんな所にいたんだ。昔ね。

でも、師匠が助けてくれたんだ。本人にそのつもりは無いだろうけど。

短い間だったけど、私の居場所に、こんな場所に光を差し込んでくれたんだ。

一度差し込んだ光は二度と消えたりしなかった。私もそんな風になりたいと、非才の身ながら思ってしまったのかもしれないね。」


「あなたもデリフニーカ…なの?」


「そうだよ。私も君と…フェルと同じだ。」


「私も…私も強くなれるの…?」


「フェルがそう望むならね。」


「本当に…?」


「あぁ。約束する。」


「…私は……強くなりたい!ケン様に見合う様な強さが欲しいの!」


「なら一緒に行こう。ここにいては強くはなれないよ。」


「…分かったわ!」


「よし!ロックバード!」


暗闇の中に小さく光る鳥が現れる。


私の召喚に答えてくれたロックバードがここまで迎えに来てくれたのだ。


「さぁ。戻ろう。」


フェルの手を引いてロックバードの後を追う。


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



「ここ…は…?」


「おはよう。」


「け、ケン様?!」


「おっと。まだ寝てろよ。大分魔力を使って体はボロボロなんだからな。」


「ま、魔力…ですか?」


「まぁ詳しいことはジャッドに聞いてくれ。それよりお母さん達を呼んでくるよ。」


「は、はい。」


「フェル!!」


「か、母さん?!どうしたの?!」


「あなたずっと目を覚まさないから!心配してたのよ!?」


「目を覚まさなかった…?」


「フェル…」


「父さん?!無事だったの?!」


「あぁ。マコトさん達がまた助けてくれてな。」


「良かった…本当に…良かったよぉ…」


「無事戻ってきたな。」


「はい。良かったです。」


「ジャッドのお手柄だな。」


「私は師匠の真似事をしただけですから。」


「謙遜すんなって。俺には出来ねぇよあんなこと。」


「それこそ謙遜だと思いますが…今はとにかく無事だった事を喜びましょう。」


「それもそうだな。」


村を襲った教会の奴らを全滅させた日から3日が過ぎていた。

その間フェルはずっと気を失ったまま眠り続けていた。


原因は単純に魔力切れ。


完全に暴走した事により魔力が流れ出し後一歩遅かったら廃人になっていただろう。

村は多少燃えただけで大きな被害は無く、無事平穏を取り戻していた。


「皆さん。ありがとうございました。」


「フェルさんが無事で良かったです。」


「はい!」


「…それで…起きたばかりで申し訳ないのですが、フェルさんを交えてお話したい事があります。

フェルさん自身の事とこれからの事について。」


「…分かりました。よろしくお願いします。」


本当に起きたばかりだが、急いで伝えなければ既にあれから3日も経っている。

教会の連中は全て殺したが、帰ってこないと分かれば必ず次の奴らがここへ来る。

今まさに来ていたとしても不思議ではない。

それだけの時間が過ぎているのに誰も来ていないのは奇跡としか言えない。


「まず、フェルさん自身の事についてお話します。」


「はい。」


「お父さんには少しお話しましたが、フェルさんは特殊な魔力を持っています。正確にはフェルさん個人と言うよりはデリフニーカの方はこの特殊な魔力を持っています。」


「はい。それは知っています。その原因は分かっていないと聞いています。」


「はい。確かに解明されていません。」


「……」


「ですが、俺個人で調べた結果、この魔力は召喚魔法に用いられる魔力だと判明しました。」


「召喚魔法…ですか?」


「普通の魔力とは違い、精霊や聖獣等のこの世界とは少しだけ異なる世界に住む生き物が好む魔力がこの特殊な魔力なんです。」


「精霊様…ですか。」


「信じられない気持ちはよく分かります。何せ召喚魔法を使える者にしかこの精霊は見えませんので。」


「それで…?」


「この召喚魔法を使うと、自身の魔力を与える代わりに精霊から与えられる魔力を使う事が出来ます。この魔力は非常に強力な魔力で第六位程度の魔法を使う事が出来てしまいます。」


「だ、第六位…ですか……」


「わ、私魔法なんて使えませんよ?!黒髪なのも父さんと母さんの血を継いでいてライラーとしての能力しか無いからですよ?!」


「いや。俺が見た限りではフェルは間違いなく闇属性に秀でたハスラーだよ。」


「そ、そんな…私全然闇魔法なんて…」


「闇魔法は扱いが難しい。ハスラーとしての訓練を受けていても使えない奴がいるくらいだからな。」


「じゃあ本当に…私は…」


「間違いないよ。」


「そ、それで、この子は本当にその…召喚魔法を?」


「それを確かめる方法は、あります。

ジャッド。」


「はい。師匠。」


ジャッドが首飾りを外す。


「あ、あなたは…」


「はい。私もデリフニーカです。」


「じゃああなたも…?」


「はい。召喚魔法を使えます。今からお見せします。」


ジャッドは手を前に突き出してまた祝詞を唱える。

家の中だと言うのにどこかからかロックバードが現れる。


「わ!可愛い!」


「え?フェル。何が?」


「え?母さん達は見えないの?」


「何かいるの?」


「うん。ジャッドさんの腕の上に石の鳥がいるわ。」


「私達には見えない…?」


「このロックバードは下級ですが、精霊です。召喚魔法を使えない人達には見えないんですよ。

ロックバード。お願い。」


「わっ?!い、いきなり現れた?!」


「この子はとても優しい子で他の人にも見えるようにとお願いするとこうして姿を見せてくれるんです。」


「こ、これが精霊様…」


「ありがとう。ロックバード。」


「あ…行っちゃった…」


「これが証明になるかは分かりませんが…」


「凄いです!精霊様とお友達になれるんですね!?」


「友達かは…分からないけど…」


キラキラした目でジャッドを見ているフェル。


「あの…精霊様を呼び出せる事は分かりましたが…」


「はい。簡単に強力な魔法を扱えるという事は、それだけ誰かに狙われるという事です。」


「そ、そんな…」


「そこでこれから先の話になります。」


「先の話…ですか?」


「この召喚魔法に使う魔力は非常に扱いが難しいので上手く扱う為には練習が必要になります。普通に魔法を使おうとすれば暴発したりするのでこの変換作業も練習が必要です。」


「普通に魔法を使えないのですか…?」


「はい。ジャッドもそうでしたが、この特殊な魔力を普通の魔力に変換し使うという工程が必要になるので普通にハスラーとして訓練を積んでも成長はしていきません。」


「……」


「俺が最初からこの話をしなかったのは、話をしてあとは知らんぷりと言うのはあまりにも酷い話だからです。それならば知らずにいた方がマシですから。」


「では何故この様な話を…?」


「…はっきり言いましょう。教会と一度事を構えた事によってフェルさんは今後教会から狙われる立場になりました。」


「そ、そんな!!」


「私達は何もしていませんよ?!」


「分かっています。ですが、教会からしてみればそんなことはどうでもいいんですよ。大事な事は一つ。ただの村人と冒険者にやられたままではいられない。という事です。」


「やっぱりか…」


「あなた?!」


「俺だって昔は冒険者をやってたんだ。教会が厄介な事くらい知っている。あれから時が経つから少しは軟化している事を期待していたんだが…」


「私は身分としては奴隷ですので教会の事はよく知っていますが、昔よりむしろ悪くなっています。お金やコネばかりで汚い場所に成り果てています。」


「くそっ!!どうしたら…」


「こうなってしまった以上全てをお話して現状を把握した方が良いと判断したので、フェルさんについてお話させて頂きました。そして、話をした以上これから先の話も考えています。」


「先の話…?」


「フェルさんをジャッドに預けてみる気はありませんか?」


「フェルを…?」


「ジャッドは俺から見ても召喚魔法やそれを隠す術を長年に渡って磨いてきた、言わばスペシャリストです。

一人では難しい練習ですが、ジャッドの元で特訓を重ねれば必ずフェルさんの力になると思います。ただ、今までよりも召喚士としての魔力を強く放出する事になるので、お父さんはもちろん、恐らくお母さんの体にも影響が出てしまいます。

なので、共に暮らす事は出来ません。」


「私がフェルさんの意識に入った時に必ず助けると約束しましたので、承諾して下さるのであれば必ずフェルさんを守り育てる事を誓います。」


「あなた…?」


「…………フェル。」


「はい。」


「フェルはどうしたい?」


「私は…………

私は強くなりたい。」


「……そうか。」


お父さんは椅子から立ち上がりジャッドに向けて勢い良く頭を下げる。


「この子を……フェルをよろしくお願いします!!」


「よろしくお願いします!」


お母さんも同じ様に頭を下げる。


「承りました。」


「父さん…母さん…」


「フェル。ジャッドさんの言うことをよく聞いて頑張りなさい。」


「あなたは素直でいい子よ。きっと大丈夫よ。」


「……はい!必ず強くなって戻ってきます!」


「あぁ。待ってるぞ。」


「はい!!」


しばしの別れを前にフェルを大事そうに強く抱き締める両親。


「マコト様!!」


「どうした?」


「また教会の奴らが!」


プリネラの言葉を聞いて家を飛び出す。


街の方から数十人が押し寄せてくるところだった。


「そんな…」


「……この村はもう終わりなのか…」


村人達の顔は暗く沈んでいる。


「いや、待てよ。もしかしたら丁度良かったのかもしれないな。」


「どう言うことですか?」


「普通に追い返しても結局また来るだろ?あいつら。」


「それは…やはり面子がありますからね。」


「だったら教会の連中が納得する相手に追い返されたならもう来なくなるだろ?」


「確かにその通りだと思いますが…どうするおつもりですか?」


「上手く行くかわからんけど…やってみる価値はあるかもな。」


俺はジャッドの魔力を思い出しながら杖を振る。

俺の周りに複雑な魔法陣がいくつも出現する。


「師匠?!まさか召喚魔法を?!」


俺の目の前に緑色の髪、薄緑色のレースを頭から被る美女が現れる。

美しい葉で作られた露出度の高い服はなんとも魅惑的でついつい大きな二匹のスライムさんに目がいってしまう。


「ま、こ、と、さ、ま?」


「あれ?見えてるのか?」


「流石にこれだけ強い魔力を持つ精霊、今の私なら見えますよ。どこ見てるんですか。」


「おっほん。」


確かに記憶は戻っては来て、ドライアドを召喚したことは思い出したがその内容までは覚えていなかった。

これほど立派とは……いや、うん。俺も男の子だし。


「あぁ…また呼んでくれたのだな…グラン様。」


「今俺真琴って名前だから……っていうか様?」


「覚えておられないのですか?……酷い……」


頬を赤く染めて物憂げに顔を背けるドライアドさん。


「え?!過去の俺何したん?!」


「妾の記憶を…」


箱を開けた時とは違い瞬間的にその時の記憶が蘇る。


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



数年前初めて召喚魔法を使った時の事だ。

あの時も同じ様にドライアドが目の前に現れた。


「へぇ。精霊ってこんな感じなんだ。」


「妾を呼び出したのはお主か?」


「え?うん。俺だけど。」


「この様なガキが妾を呼び出すなど…世も末よ。」


「はぁ?!なんだそれ?!」


「なんでも良いわ。なんじゃ?魔力が欲しいのか?それなら渡してやるからさっさと帰してくれ。」


「プッチーン……プリネラの時気をつけようと思ったが…ちょっと本気出しちゃお。」


「ん?なんだ?違うのか?…………って…なんじゃその膨大な魔力は?!お主それで何をする気じゃ?!や、やめよ!そんな膨大な魔力を注がれたら…や、やめ…やめてーーー!!!」


「あ?なんだ?あれだけ言っておいてこの程度なのか?」


「わ、妾が悪かったのだ!だから…」


「知らん。」


「あはぁーーーーー!!そんなにされたらぁーーー!!」


「まだまだ足りねぇだろ?あ?」


「す、済まなかった!いや、すみませんでした!グラン様ぁーーーーーーー!!!」


「俺はガキなんだろ?そんなガキの魔力なんだから大した事ないよなぁ?」


「な、なんでも言うこと聞きます!だから許してぇーーーー!!!」


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



「うん。そんな事があったんだな。すまん。」


「良いのじゃ。妾は間違っておった。マコト様に失礼な態度を取った妾が悪いのじゃ。」


「やべぇ。なんか性格完全に変わってるよ……」


「何したんですか?」


「いやー…ちょっと失礼な態度を取られたからさ…」


「はぁ…」


「ま、まぁ良好な関係を築けたのだから良しとしよう!」


「良好…ですか。」


「それより早くしないと奴らが来ちゃうからさ!な?!」


「分かりました。」


「せ、セーフ……

ドライアド?」


「はい!!」


「ち、ちょっと手伝ってくれないか?」


「なんなりと!」


「グイグイ来るー…

そのー、今あっちから来てる奴らに脅しを掛けて二度とこの村に来られない様に威嚇して貰えないか?殺しちゃダメだぞ。」


「容易い事です!!

えっと…その代わり……」


「魔力か?魔力なら渡すが…」


「いえ!その……上手く出来たら…頭を撫でて貰えぬか……?」


「頭を?」


「う、うむ…」


「それくらいなら全然良いけど…」


「ふ……ふふふ…ははははは!今の妾に敵などおらぬわーー!」


「凄い勢いで向かっていきましたね。」


「プリネラと同じ様な匂いを感じるぞ…」


「私とは似て非なるものです。」


「違いが分からねぇ…」


「というかマジ大丈夫なのかあれ。」


「人がポンポン飛んでますけど…」


「こ、殺しはしない。はず…」


「まぁ二度と来ないわな…」


「精霊様が相手となれば相手も納得するだろ…

ちょっとやり過ぎ感はあるけどな…

この村が精霊の庇護の元にあると知れたら教会も手出しはしないだろ。」


「まさか誰かが召喚した精霊だとは思わないだろうからな。」


「じ、上級精霊様を使役するとは……流石師匠です。」


「使役と言うのだろうか…あれは…」


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



「はぁー……」


何故か俺の手の下でホクホク顔のドライアド。



まぁこの村を救ってくれたのだからこれくらいは安いものだが…何か違う気がするのは俺だけだろうか…?


「真琴様!そろそろ行きますよ!」


「むー。妾は頑張ったのじゃ!リンとやらはうるさいのぉ!」


「なんですか?」


「怒っても怖くないわ!べー!」


「だ、黙って大人しくしていれば……」


「ま、まぁまぁ!今回は活躍してくれたんだし!

それとドライアド!凛を怒らせるな!俺より怖い目に遭うぞ?!」


「な、なんと…マコト様より怖いのか…?それは勘弁して欲しいのぉ…」


「分かったらそろそろドライアドも戻れ。」


「むぅ…マコト様の言いつけなら仕方ないの。またすぐにでも呼んでくれて良いぞ!マコト様!」


「分かった分かった。」


「ではの!!」


ドライアドはすぅっと消えていった。


「嵐の様な精霊様だったな…」


「まさかあんな奴だとは俺も想像してなかったな。もっとこう神様的なイメージしてたんだが…」


「ドライアドの話はもう良いですから!」


「お、おぅ。」


凛さんご立腹過ぎて怖いです。


「さてと。これでこの村は大丈夫なはずだ。」


「ありがとうございました。私達の村を救ってくださって。父さん達もこれで安心して暮らせます。」


「やったのは俺じゃないがな…

それより、フェルとジャッドの事だ。」


「はい。」


「召喚魔法を練習するとなるとその辺では出来ないだろ?人目に付くとまずいしな。どこか行く宛てはあるのか?」


「人目につかない場所となると…この村から北東へ数日程向かった所に人目につかないいい場所があります。そこで生活しようかと思っています。」


「ここから北東?ってなると…大樹の森か?」


「はい。場所を選べばモンスターもそれ程強くは無いですし、食料や水には困りませんので。」


「大樹の森?」


「ここから北東、ジゼトルスから南東のちょうど中間地点に広がる大森林ですね。」


「あまり人が来ないのか?」


「二国のちょうど中間地点で区切りが曖昧な所もあってか少し近寄り難い場所なんですよ。ドワーフと人種はまだ良好な関係ではありますが、国境となると危険は危険ですからね。」


「そんなんだと人の手が入らなくてモンスターが大量に発生したりしないのか?」


「そこは食物連鎖で上手く均衡を保っていますね。私の知る限りではモンスターの大量発生があったという話は聞きませんね。」


「モンスター自体はいるのでもちろん警戒は必要ですが私は一応Sランクの冒険者ですので、ランクの低いモンスターだけならば問題なく暮らせると思います。」


「森ですか…少し緊張しますね…。」


「フェルさんは元々素直な性格なので魔法も練習の仕方次第ですぐに使える様になると思います。

そうなれば弱いモンスターはそれ程驚異では無くなりますし直ぐに慣れると思いますよ。」


「が、頑張ります!」


「真琴様。私達は…?」


「そういや話してなかったな。次に会いたいのは、肩まで緑色のパーマ髪を伸ばした女性エルフで、緑色の瞳と切れ長の目、細身のメガネが特徴的だったな。クールビューティなお姉さんって感じの人だ。」


「あー。シャーリーさんだな。」


「シャーリーさん?」


「シャーリー-トイナジフさん。フィルリアさんと知り合いの冒険者だった人だな。その後フィルリアさんと同じで教師になったんだ。」


「教師って言うと魔法学校の?」


「あぁ。それもエルフの国のな。」


「エルフの国?!昔行ったのか?!人種は嫌われてるんじゃ無かったのか?!」


「まぁ確かに嫌われてはいたんだが、フィルリアさんに…無理矢理連れて行かれたんだよ。」


「え?って事は俺魔法学校通ってたのか?!」


「あ、違う違う。フィルリアさんは教師として頼ったんじゃなくて冒険者仲間として頼ったんだよ。テイキビにいる事はバレてたから危険だとフィルリアさんが判断してな。」


「なるほど…でも、そんなに簡単に入れる物なのか?」


「エルフという種族は、他種族の入国を嫌ってはいますが禁止にしているわけではありません。貿易も普通に行っていますし入国自体は他の国とあまり変わりませんよ。」


「でも人種とエルフって仲悪いんだろ?」


「確かに人種は嫌われていますが…全てのエルフにというわけではありませんよ。交易もありますし上手く関係を築いている人種の方々もいますので。」


「そうなんだ。てっきりもっと険悪なムードなのかと思ってたな…」


「険悪は険悪なんだが…まぁそれとは関係なく仲良くできる奴らもいるって話なだけだな。」


「となれば、次に目指すのはエルフの国シャーハンドか?」


「そうなるな。今も教師としてやってるならシャーハンドだな。ただ、フィルリアさんの例もあるからな…」


「まぁ会えなかった時は会えなかった時でまた考えよう。とにかく今はどんどん進んでいかないと…」


「それじゃあ大樹の森まで一緒に行くか。」


「え?!良いんですか?!」


「まぁ行く道は同じだからな。」


「はい!」


「フェルは分かりやすいなー。」


「え?!何がですか?!」


「いや、なんでもない。

それより当分は会えなくなるんだし最後に両親に会ってこいよ。それくらいの時間はあるからさ。」


「はい!ありがとうございます!」


フェルは少し焦げた自分の家に走っていく。


「ジャッド。実際どうだ?フェルは?」


「そうですね…センスは素晴らしい物を秘めていると思います。きっと良い召喚士にもハスラーにもなれるとは思いますが…優しすぎますね。」


「そうか…」


この世界は言葉を選ばなければ弱肉強食の世界。強い者が弱い者を飲み込んでしまう世界だ。

そんな世界で優しく生きられる事は寧ろ稀有で素晴らしい事だとは思う。ただ、フェルの立場を考えるとそれは良いことだとは限らない。

優しさは、この世界においていつも正しいとは限らないからだ。

優しさが時に命の危険を招く事もある。


「どうするつもりなんだ?」


「師匠と同じですよ。」


「俺と?」


「はい。実戦あるのみです。」


「俺そんなんだったか?」


「忘れたとは言わせませんよ。毎日の様にギリギリ勝てるくらいのモンスターの前に放り出されたこと。」


「あー…ははは…」


「今では凄く感謝していますが、流石にフェルにそれをやると可哀想なのでゆっくりやっていきます。」


「そ、それがいいと思います。」


「それにやはり優しさを強さに変えるには実戦しかありませんから。」


実際命を奪うという行為は優しさだけでは難しい。

その相手が知恵を持つ者であれば尚のこと難しい。

だが殺さねば殺される。その事はフェルも今回の件でよく分かったはずだ。だからこそ彼女は、強くなりたい。そう強く願ったのだろうから。


「お待たせしましたー!」


「じゃあ行きますか。」


「はい!」


涙の後が見えたが…それもまたフェルに強さをもたらしてくれる物だろう。


「うー…」


「ほらほら。歩く歩く!!」


「は、はいー…」


村を出てギャンボに挨拶に行った後、大樹の森へ向けて移動を開始した。

大樹の森まではかなりの距離があるし、流石にフェルの事を考えて馬車を一台用意した。

森で暮らすとは言え移動手段があった方が何かと便利だろうと俺からジャッドに提案した。

ジャッドも元々そのつもりだったと直ぐに馬車を購入し今は馬車を使って移動中だ。フェルの両親が使っていた馬車を持っていけと散々言われたが、小さな村に住む彼らにとって馬車はそれこそ最大級に大切な物。そんな物を持って行って明日からどう生活するのかと思うと受け取る事は出来なかった。


自分達の馬車を用意していないのは、シャーハンドまで辿り着くためには山を二つ越えなければならないからだ。

険しい山道を馬車で走破するのは無理。つまり馬車を買っても使えないので大樹の森まで乗り合わせてそこからは歩きでシャーハンドに向かうつもりだ。

大樹の森までとは言えやはり歩きより楽で早い。存分に助かっていた。

フェルが億劫な態度で歩いているのは、これから森での生活が待っているフェルが、少しでも体力を付けておくために一日数時間は馬車を使わずに歩く事をジャッドが提案したからだ。

森の中では足場が良い場所の方が寧ろ少ない。体力を付けておいて損は無いし必要な事だから俺達も付き合って歩いているという事だ。

まぁ今まで馬車を使っていなかった俺達にとっては当たり前の事だし全く苦にはならなかったが、フェルには辛い時間らしい。

日本と違い、靴と言ってもなめした革を紐で縛っただけ。そんな物で舗装もされていない地面の上を歩けば小石も踏むし足も疲れる。


「フェル。大丈夫か?」


「だ、大丈夫です!まだまだ行けますよ!」


「そうか。頑張れよ。」


「はい!!」


健が声を掛ければこんな感じで元気を取り戻すから問題は無さそうだが。


「よーし。今日はこの辺で野営するか。」


「はーい!」


「リーシャは馬の世話を頼む。他の皆で野営の準備!」


「はい!」


最初は野営なんてした事の無かったフェルだが凛達に教えて貰いつつなんとか自分の役割をこなしている。

夕食を終えた頃には辺りは暗くなり、焚き火の音だけがパチパチと聞こえていた。


「テイキビに行く時よりも涼しくなりましたね。」


「寒くなる前に山を越えたいな。」


「雪山は怖いですからね…それより何を作っているのですか?」


「これか?ふふふ。よくぞ聞いてくれました!

これはリーシャの矢を作っているのです!」


「わ、私の矢ですか?」


「そ。レッドスネークの鱗はまだあるから矢は作れるんだけど、もっとバリエーション増やせないかなーってさ。」


「バリエーションですか…?」


「アジャルの所にいたメタルワームの素材あったろ?」


「バニルカ鉱ですか?」


「そうそう。アジャルにこっそり加工の仕方聞いてさ。一通り加工の方法を覚えてきたんだ。」


「いつの間にそんな事してたんだ?」


「ふふふ。どうだ!」


「ちゃっかりしてるよなー。真琴様って。」


「ま、そんな事でバニルカ鉱の加工方法は分かったから何かに使えないかと思ってたんだが、このバニルカ鉱って面白くてな。加工の段階によって二種類の安定した状態になるんだよ。」


「どう言うことですか?」


「一つは魔法耐性が高くて爆発もしない状態。防具とかに使われてるバニルカ鉱の代表的な使い道だ。」


「はい。それは知っています。」


「もう一つは衝撃を与えると爆発を起こす準安定状態なんだ。」


「準安定状態…ですか。

テイキビを出てからずっとやっていたのはその実験ですか?」


「まぁな!アジャルも知らないと思うぞ!」


「そう言うことほんと好きだよなー。」


「面白いだろ?」


「俺に同意を求めても無理があるだろ。」


「そうか?面白いのに…

まぁ、そう言うことでこの準安定状態ならほかの使い方ができるだろ?」


「そうですね。矢の先端に付けられらば爆発矢を作れますね。」


「ですが…それを矢筒に入れておくのは少し怖いですね…」


「まぁ準安定状態だし少しの衝撃で爆発するからな。」


「矢筒の中で爆発したら大惨事じゃねぇかよ。」


「そこで!俺は考えたのさ。上手く爆発をコントロールして撃った時だけ爆発する様に出来ないかなーってさ。」


「そんな事出来るのか?」


「それを実験中なんだよ。ドルコト山で取ってきた鉱石覚えてるか?」


「ぺ……ぺ……」


「ペングタイトです。それくらいも覚えられないのですか…やはり脳まで筋肉なんですね…可哀想に…」


「哀れまないで?!罵倒より来るものがあるよ?!」


「マコト様ー。そのペングタイトって何ですかー?」


「プリネラは知らなかったな。武器や防具の表面に塗布すると強度が上がったり、杖だと魔力変換効率が上がったりする物なんだよ。」


「それをバニルカ鉱に塗布するって事ですか?」


「お、プリネラなかなか冴えてるな!」


「ぬぉおお!プリネラに負けたーー!!」


「まぁ勝ち負けは置いといて、矢を放つと火属性の魔法が発動するだろ?それをペングタイトが吸収して中のバニルカ鉱に伝える。爆発したいがペングタイトが殻になってて爆発が起きない。だが、矢がどこかにぶつかるとペングタイトの殻が割れて爆発。って具合に出来ないかとな。」


「爆発する矢なんて魔法以外では聞いた事無いですよ…」


「魔法だと魔力を使うしコントロールも必要だから割と難しいだろ?

特にリーシャの使い方だと矢の起動を変えるためにムーブオーラを掛けてるし二つの魔法を使う事になる。

それは難易度が高過ぎるから戦闘に使うには相当な修練が必要になってくる。それじゃ使い物にならないからな。」


「確かに矢自体が爆発するのであれば魔法を使う必要が無くなりますね…」


「羽根の色を変えてやれば矢筒に入った状態でもどの矢が爆発矢なのか直ぐに分かるし、戦闘方法の幅や今まで矢の通らなかった相手にも有効な攻撃が可能になるだろ。」


「凄いです!」


「まぁまだ完成してないけどな。なかなかペングタイトの厚さがシビアで難しいんだよ。薄すぎると直ぐに割れちゃうから危ないし、厚すぎると衝撃で割れないから爆発しないし。一度出来ちゃえば後は量産すればいいだけだから簡単なんだけどな。」


「どの様にして実験しているのですが?」


「バニルカ鉱を凄く小さな球体にして、そこに色々な厚さでペングタイトを塗布するんだよ。出来た物がこれな。

これを投げつけて爆発するかどうか調べてるって事。」


「こんなに小さな球体で調べるのですか?」


「爆発しても辺りに被害が出ないように小さくしてるんだよ。いきなり大きめのやつを作って下手に爆発したら危ないだろ?

投げる前に手元で爆発なんてしたら俺の腕無くなっちゃうよ。」


「そ、それは凄く嫌です。」


「俺もだよ。だから爆発しても軽い怪我で収まる程度の大きさで実験して少しずつ大きくしていくんだ。

球体だと小さい方が強度が上がるから大きくした分はペングタイトを厚くしてやらなきゃならないから目安にしかならないけどな。ま、目安が有ると無いとでは違うからな。大きくなってきたら危ないから遠くから石でも投げつけるつもりだ。」


「最終的には鏃の形にするのですか?」


「いや、爆発矢は刺さる必要は無いから半球体にしようと思ってる。半球体なら真っ直ぐ飛ぶし球体部分ならどこにぶつかっても圧力は一定になるからな。」


「先は長いですね…」


「シャーハンドに着く前までに仕上げようかと思ってるから時間はあるしゆっくりやってくさ。

あ、それと、これはフェルに。」


「え?!私ですか?!」


「いくらジャッドが着いてるとは言え万が一を考えてな。テイキビの街で適当に買った安物のブレスレットだけど土属性の防御魔法が発動するように仕込んである。魔力を流し込めば発動するから、危ないと思った時に迷わず使ってくれ。」


「よ、宜しいのですか?!」


「フェルに渡すために作ったんだから貰ってくれないと悲しいのだが…」


「あ、ありがとうございます!!」


「いえいえ。」


「ジャッドさん!今日もお願いします!」


「分かりました。」


テイキビを出てからフェルはジャッドから魔力操作を教えて貰っている。人目もあるため魔法発動はしていないが、魔力操作だけなら見られていても関係ない。少しでも早く身に付けるためにフェルからジャッドにお願いしたらしい。


「俺達も負けてられねぇな。」


フェルの真っ直ぐで熱心な姿は俺達にもいい影響を与えてくれているらしい。


数日後、大樹の森へと辿り着いた。

広大な森林地帯である大樹の森。その中心地にはその名に恥じぬ程大きな木が一本だけそびえ立っている。


「皆さん。ありがとうございました。」


「あぁ。」


「師匠。お元気で。」


「ジャッド達もな。」


「それでは、また。」


ジャッドとフェルに別れを告げて大樹の森を迂回し北へと向かう。


目指すはシャーハンド。


ここからは歩きになるが、特別急ぎの要件がある訳でも無いので自分達のペースで北へと向かっていく。


数日後、ジゼトルスの東側まで来た時の事だ。



ジゼトルスの軍らしい者達の訓練場に行き当たった。


「げ、ここ軍の訓練場じゃねぇか…」


「面倒くさい事になる前に避けて北に向かおう。」


「だな。」


ブリトーとの事もあるし、ジゼトルスには既に俺達が戻ってきた事は伝わっているはず。見付かると非常に厄介な事になりかねないので静かに迂回しようとした時だった。


「おい!そこのお前達!止まれ!」


「げ。見付かった…」


背後から聞こえてきた制止の声に心底嫌な気分になる。

どうやって切り抜けようかと考えていると足音が近付いてくる。


「ここはジゼトルス軍の訓練場だ。こんな所で何をしている。」


「あー……えーっと……」


「………」


振り返り声を掛けてきた兵士と顔を合わせた時、言葉に詰まってしまった。


銀色の鎧、ミスリル性の槍。そして、顔を全て覆い尽くす兜には赤い飾り羽根が着いている。


記憶の中で見たあの兵士だ。


「あ、あー…ここが訓練場とは知らなくて…北に向かっていた所なんですよ。」


「む、そうか。知らなかったのならば仕方がないな。危ないから迂回して通ってくれ。」


「わかりましたー。」


早く逃げたい…


「ちょっと待て。」


「は、はい…」


「どこかで見た顔だな?」


「………」


「隊長!」


「なんだ?」


「全員終了しました!」


「そうか。では次に移る。

呼び止めて済まないな。気を付けて行くのだぞ。」


「は、はーい。ではー…」


訓練場を迂回してさっさと通り抜ける。


「あ、危ねー……」


「気付かれなくて良かったですね…」


「冷や汗止まらなかったぜ…」


「さ、さっさと行こうぜ。」


「だな。」


逃げるように北へと向かう。

歩きで北へと進み続け、やっとの思いで国境の目の前へと辿り着いた。


「やっと国境の目の前まで来ましたね。」


「リーシャ。大丈夫か?」


「はい。マコト様の行く所であれば何処へでもお供します。」


「…ありがとう。」


国境を越えシャーハンドへと入ると言う事は、国抜けとして認定されてしまっているリーシャにはとても辛い事だろう。


生き物としてさえ見て貰えないとリーシャに言わせる程の扱いを受けるのだから。

それでも着いてきてくれると言うのだ。ここでは謝るのではなく、感謝を伝えるべきだろう。


「待てーー!!!」


突然制止を求める後ろからの声に振り返る。


「げっ?!」


「貴様ら騙したなー!!!」


猛スピードで馬を走らせて駆けてくる赤い飾り羽根の兵士。


「国境まで走れ!」


「待てぇーーー!!!」


国境もすぐそこだが兵士もすぐ後ろだ。


「ぐっ!くそっ!」


兵士が急に馬を止める。


「ふぅー。あぶねぇ。」


「貴様ら!騙したな!!」


「いやいや、別に騙してないだろ。」


「積年の恨み…忘れたとは言わせんぞ!!」


「いや、別に忘れちゃいないけどさ…」


「なんど苦渋を舐めさせられたか…一度は上手く姿を眩ませた様だが、上層部から貴様らが戻ったと聞いて使命だと確信した!今日こそ捕まえてやる!」


国境を越えて入ってこようとする。


「良いのか?俺達と違ってお前は軍に所属する兵士だぞ?下手に国境なんて越えたら侵略。になるんじゃないのか?」


「ぐっ……」


「エルフとはあまり仲が良く無いんだろ?隊長のお前がそんな事して大丈夫なのか?」


「そんな事貴様らに言われんでも十分理解しておるわ!!」


「はぁ……この際だから聞いておくけどさ。なんでそんなに俺達を追ってくるんだ?

毎度氷漬けにしたのは俺だけどさ…そもそもなんで俺達を追ってくるんだ?」


「自分達のした事が分かっておらんとはクズもここまで行くと手の施しようがないな!」


「だから俺達が何したってんだよ?」


「お前達は我が国ジゼトルスの宝物庫から禁忌に触れる国宝を持ち出し使用した!そんな輩に…私は…」


「??

あのさ。俺達はそんな事してないし宝物庫どころか王城にさえ行ったことが無いっての。」


「自分達がした事を無かったことにするのか!!卑怯者めが!」


「あのさぁ…いや、こんな事を言っても何も変わらないな。話が出来るかと思って期待した俺がバカだったよ。」


「なぜ貴様がそんな顔をする!卑怯だぞ!」


「そう思うなら自分で少しは考えてみろよ。当時俺が追われていた時の歳はいくつだったと思う?

田舎貴族の息子の俺が王城に押し入ったと本当に思うのか?」


「どう言うことだ?!」


「隊長ーー!!」


後ろから遅れて兵士達が馬を走らせて来る。


「お前は姑息な手を使った事は一度も無かったからな。少しは話の通じる奴だと思ってたんだが…本当に残念だよ。」


「待て!」


「悪いが俺達にはやる事があるからな。

もし……もしお前が少しでも疑問に思うなら調べてみるといい。じゃあな。」


「くそっ!私が絶対に貴様らを捕まえてやるからな!」


「隊長ー!!無事でしたか!」


「………戻るぞ。」


「え?隊長?待ってくださいよー!」


ジゼトルス。俺達を追ってきているのは自国だと思いたくは無かった。父と母が愛した国だ。だが、どこまでも腐った国。

他の国の手も伸びてきてはいるだろうが、少なくともジゼトルスが俺達の敵だと言う事は分かった。

飾り羽根の騎士の説明を聞いてよく分かった。あの国は最早故郷では無い。

俺は怒りと悲しみを抑え込んでシャーハンドへの道を進んだ。


「ジゼトルスの山とは全く違うのなー。」


「木々が非常に多いですね。」


「しかもでけぇ!なんだこの大木!」


「真琴様ー!上から申し訳無いですけどー!前方にモンスターがいますー!」


「流石プリネラだな。リーシャ。行けるか?」


「もちろんです!お任せ下さい!」


俺達はシャーハンドへの道を進んでいた。

山を二つも越えなければならないが、エルフの国の山々は深く力強い。

巨木と言える程の木々が鬱蒼と生い茂り、根が波のようにうねり、まるで侵入者を阻んでいるかのようだ。

プリネラの索敵能力が非常に役に立っており、今のところモンスターに奇襲を仕掛けられる様な事は無い。

リーシャもどこか生き生きとしていて木々の枝を伝ってプリネラが見たと言うモンスターの方へと向かっていく。


モンスターはゴブリン、グレーウルフ、高いランクのモンスターでもゴブリンアーチャーしか見ていない。

それ程強いモンスターはこの辺りには生息していないらしい。

リーシャが討伐を完了して持ってきた素材もグリーンウルフの物だった。


「それにしてもジゼトルスとシャーハンドって仲が悪いんだろ?国境に兵士置いたりしないのか?俺達も簡単に中に入れちゃったけど。」


「確かに仲は悪いですし、何かあれば戦争に発展する事もあるかもしれませんが、山が天然の防波堤になっているのですよ。」


「確かにこの山は歩きにくいが、進めない訳じゃないだろ?」


「エルフは皆魔力の高い種族ですが、体はあまり強くはありません。なので正面から相手にぶつかってしまうと大抵の種族には負けてしまうのです。」


「まぁ弓が得意な種族だし後衛職が多いもんな。」


「なのでエルフの兵士と言ってもガシャガシャと鎧を着て突撃する様なものではなくて、どちらかと言えばプリネラさんに近い様な者達ですね。」


「身軽でスピード重視みたいな感じか?」


「はい。隠密性の高い魔法や遠距離攻撃に特化した者達が集まって、木々の上から山を見張り何かあれば駆けつけてきて対処する。と言った感じですかね。」


「つまり白兵戦は苦手分野だから国境には兵を置かず、入ってきた奴らをこの山で仕留めるわけか。」


「はい。なのでこの自然こそがシャーハンドにとっての防波堤という事です。」


「真琴様ー!誰か来ますよー!」


プリネラの見ている方向から枝から枝へと軽々と飛んでこちらへ近付いてくる人影が見える。

口元と頭部を布で隠していて目元しか見えず、緑色の服を着ている。女性で、長い耳が見えるのでエルフと分かるが……


「おい!お前達!」


「なんだ?」


「こんな所で何をしている?」


頭上の枝に飛び移ってきたエルフは緑色の瞳を俺に向ける。


「人探しの為にシャーハンドに向かってる所だ。

冒険者をやっている。身分証ならあるから見せるか?」


「…ふん。山に悪さをするなよ。私達が見ているからな。」


それだけ言って行ってしまった。

最後に蔑む様な目でリーシャを見たのを俺は見逃さなかった。


「なんだありゃ?」


「シャーハンドの外を回って警備している者達ですね。フルズと呼ばれています。」


「フルズねぇ。偉そうな態度が気に食わないがまぁ人種が嫌いなんじゃ仕方ねぇか。」


「フルズは特に人種との戦闘やいざこざに巻き込まれやすいので…」


「警備隊やってりゃそうなるのも当然って事か。」


リーシャはあまり気にしていない様子だったが…なるべく早くこの国を出た方が良いかもしれない。

その後はフルズからの接触も特に無く、やっとの思いで一つ目の山を越えた。


「やっと一つ目クリアか。」


「今日はここまでですね。」


「この辺りは木も少なくて見晴らしが良いからここで野営して明日一気に二つ目を越えようか。」


「賛成です。」


「じゃあ野営の準備をして…っとその前に。プリネラ。姿を隠したままで良いから少し話を聞いてくれないか?」


「はい?なんですか?」


「フルズの話なんだが、その後どうだ?」


「三人程が付かず離れずで後をおってきてますね。」


「そうか。プリネラは姿を見られないように気をつけてくれ。テイキビとは違ってここは俺達の事を良く思ってない奴らが多いからな…面倒事に巻き込まれる可能性も高い。

何かあった時に裏方で動いてもらう事になると思うから。」


「分かりました。」


「毎度毎度済まないな。」


「私の役目ですから気にしないで下さい。少しでもお役に立てる事の方が私は嬉しいですから。」


「ありがとう……さて。野営の準備を……って終わってるのな。」


「今夕食を作っていますのでゆっくりしていてください。」


「はーい。

あ、リーシャ。これ。」


「爆発矢ですね!完成したのですか?!」


「あぁ。使い方は普通の矢と同じだが、あまり近い場所に撃ち込むと爆発に巻き込まれて自分も危ないから気をつけてくれ。」


「分かりました!」


「細かい調整は実際に使ってみてからやっていこう。流石に今使うとフルズの奴らが飛んで来ちゃうからまた今度な。」


「はい!」


「まだ色々な矢を作る予定だけど、それもまた完成したら渡すよ。」


「本当ですか?!ありがとうございます!!」


嬉しそうに頭を下げるリーシャ。

明日は二つ目の山を越えねばならない為皆早めに就寝した。


翌日、早めに目的地へと出発した俺達は昼頃には山の頂上へと辿り着いた。


「す、凄いですね?!」


頂上からはシャーハンドが一望でき、その景色は素晴らしいものだった。


山々に囲まれた大きな森。

木々の葉は紅葉によって赤、黄、青、紫と様々に色付き、まるで地上を埋め尽くす虹のように見える。

木々の合間に見える木製の家々は自然と共に生きると言われるエルフを象徴し、自然とエルフが調和しているかの如き景色。

木々から光の粒の様な物がふわふわと空に向かって飛んでいる。


「幻想的…としか言えないな。」


「流石の俺もこの景色は絶対忘れないなぁ。」


「あの光の粒はなんですか?」


「シャーハンドの木々は普通の木よりも多くの魔力を持っていて、葉が落ちる時にその一部が外へと流れ出すんです。

その魔力があぁして空へと飛んでいくんですよ。」


「じゃあこの季節にしか見られない景色って事か?」


「はい。葉が落ちるこの季節にしか見られません。

そしてこの季節は魔力が森中に充満しキノコや木の実がとても美味しいんですよ。」


「そういやエルフってベジタリアンなのか?」


「そんな事は無いですよ。昔はその様な時期もあったそうですが、今では皆肉も食べます。」


「へぇ。なんかイメージと違ったな。」


「まぁ向こうじゃエルフってベジタリアンってイメージ強いもんな。」


「あのー…気になっていたんですけど…」


「なんだ?」


「いつも向こう、と仰っているのは…何処なんですか?」


「あれ?!リーシャには話してなかったっけ?!」


「あ、はい。聞いてはいけないのかなぁ…と。」


「仲間なんだからそんな事は無いよ。他の人に話してしまうと色々と向こう側にも迷惑を掛けたりする可能性があるからしてないだけでね。

だから話すのは全然良いけど誰かに話したりするのはやめてな?」


「例え死ぬとしても守り抜きます。」


「いや、そこまでしなくてもいいけどさ…じゃあ大まかに話すね。」


俺達に昔は起きた事、色々な人に魔力と記憶を預けて日本に身を隠した事など、リーシャに会う前までの事を話した。


「そ、そうだったんですね…ぐすっ…」


「なんでリーシャが泣くん?!」


「私など比較にならない程お辛い経験をされていて…凄く悲しくなってしまいました…」


「まぁ辛さの比較は出来ないとは思うけど、今じゃ皆が居てくれるから大丈夫だよ。」


「勿体無いお言葉です…私、頑張ります!」


「な、何を?」


「全部です!」


「お、おぉ。」


何故かリーシャがやる気満々になった。


「あ、それで見た事も無いような武器を作れるんですね?」


「向こうに行く前から作ってはいたけど、実際に向こうで見聞きした情報が役立ってはいるな。」


「俺も向こうの剣術を学んでたしな。」


「私は料理を学びましたね。」


「ではニホンに行ったことは無駄では無かったのですね。」


「勿論さ。色々な知識も手に入ったし、凄くタメになったよ。」


実際に科学の概念が俺や凛の魔法に与えている影響はかなり大きい。

他のハスラーとは根本的な考え方が違うため威力は高いのに消費する魔力はすこぶる少ない。

科学と魔法は全く違う物でありながら切り離せない関係にある。

この世界で科学の話をしてもほとんどの人には通じないだろうが…いや、ギャンボ辺りは理解して取り入れるだろうか…

下手に教えると技術が進歩し過ぎて戦争になったりするから言えないが。


「それより日が暮れて寒くなる前に降りるぞ。」


「はい!」


「うぁぁーー!!」


「なんだ?」


「叫び声ですね。」


「少し先からしたな。見に行ってみよう。」


「はい!」


山を滑るように様に下る。

声のした方へと向かっていくと、数人のエルフとモンスターが二匹いた。


「あれは!ワイバーン?!何故こんなところに?!」


リーシャが見て驚いていたのは飛龍とも呼ばれる龍種のモンスター。ワイバーン。Bランクのモンスターで、名前の通り空を華麗に飛ぶ龍だ。

龍種の中では低ランクの龍だが、それでも毎年その被害者は莫大な数になる。

小さな村やなんかに現れた場合、対処出来る人間がおらずほとんどの住人が殺されるという事件もままある。

話には聞いていたが、実際に相対したのは初めてだ。

全長は3メートル程。細身の体は焦げ茶色のの鱗に覆われ、腹の部分はクリーム色の鱗。ワイバーンのの鱗は非常に硬く魔法を通しにくい。素材としては一級品で多くの者が買い求める素材である。

鋭い爪と牙を持ち、黄色い瞳と鋭い両翼は龍種としての威厳を感じる。


「助けてくれーーぁ……」


今まさに飲み込まれたエルフの男の声が耳に残る。

ワイバーンを前に三人…いや、四人のエルフが弓や短剣を構えている。

全員同じ緑色の服と目元のみを出した服装。


フルズ達だ。


俺達を監視していた奴らだろうか?


「狼狽えるな!」


俺達に質問を投げかけたフルズの女性エルフだ。


「近接戦闘は避けろ!効きにくいとしても距離をとって魔法と弓でゆっくりダメージを与えるんだ!」


「しかしトジャリ隊長!」


「名前を呼ぶな!馬鹿たれが!」


「す、すいません…

しかし、二匹となると…」


「ちっ…」


ワイバーンが何故その強さであるのにBランクかと言うと複数体で共に現れることはまず無いと言われているからだ。単体であれば包囲して殲滅する事はそれ程難しくはない。

ドラゴンは縄張り意識が強く、他の縄張りに入るという事はどちらかが死ぬという事であり、それ故に同時にどこかを襲ったという例はほとんど無い。

ほとんどというのは例外があるからだ。


それは番であった場合だ。

オスとメスが番となり、子を育てるまでの期間は二匹が同時に同じ場所に存在するという事がある。


実際人の寄り付かない深い森に足を踏み入れ、番の縄張りを荒らした人が襲われたという事件もある。

しかし、基本的に狩りがオスの仕事でメスは子から離れない。つまり二匹同時に現れたとなると相当巣が近い場所にあるという事しか考えられない。

加えてワイバーンを含めて多くの動物やモンスターの産卵時期というのは春。

冬になり獲物も取れず冬眠に入る動物が多いこの時期にワイバーンが子を産んでいるとは考えにくい。

春に産んでいて、未だ子育て中というのは有り得ない。

ワイバーンの成長はとても早く、夏が終わる頃には成龍として巣立ちするからだ。守らなければならない様な大きさではない。

ワイバーンの情報を聞いた事があるならば今の状況がどれ程異常なのかわかるはずだ。

加えてここは山の、しかも木々の内側。

ワイバーンというのは飛龍とも呼ばれ空を自由に素早く動く事で相手を翻弄して捕食する。つまりろくに翼を広げられないような木々の内側に敢えて入ってくるなど余程の事が無い限り有り得ない。


「一体何が…」


「くそっ!来るな!来るなーーあぁ……」


悲鳴が途切れると共にエルフは三人になってしまった。


「ワイバーンに近付かれるな!

木々を渡って身を隠しながら後退しろ!」


トジャリ隊長と呼ばれた女性エルフが必死に仲間達に声を掛けているが、徐々に距離を詰められている。

二匹はまるで互いの動きを分かっているかのように獲物を追い詰めている。


「隊長!このままでは!」


「諦めるな!とにかく逃げるんだ!」


バキッ


「ギャァァア!」


「な、なんだ?」


「氷魔法?一体誰が…」


「おい!大丈夫か!?」


「お前達は…」


「援護する!逃げるなら早く逃げろ!

健!凛!一匹は頼んだぞ!」


「任せとけ!おらぁ!」


「ギャァァア!」


「くっそ!浅いか!」


「な、なんだあいつら…ワイバーンを…斬った?」


「くっ…おい!援護するぞ!距離をとって魔法攻撃!左のワイバーンを集中して狙え!」


「分かりました隊長!」


「リーシャ!爆発矢を使え!狙いは顔面だ!一瞬で良いから視力を奪え!」


「分かりました!

行きます!」


リーシャの爆発矢が飛ぶ。

勿論簡単には当たってくれないが、リーシャの矢は曲がる。

バーンという破裂音と共に右手のワイバーンの顔面が爆発する。


「な、なんだあの矢は爆発した?!というか曲がったぞ?!」


「今は目の前のワイバーンに集中しろ馬鹿者!」


「は、はい!!」


ワイバーンの顔面で爆発した事によって一時的にワイバーンの視力が無くなる。


その隙に作り出した第三位土魔法クリスタルランスをワイバーンに向かって放つ。


風魔法も使って貫通力増し増しランス!


「これでも止められるなら止めてみやがれ!」


ギリギリで視力が戻ったワイバーンは羽を閉じてランスを受け止める体勢に入る。


「あれはクリスタル魔法?!使える奴がいるのか?!」


「だが止められるぞ?!」


ザシュッ


俺の放ったクリスタルランスはワイバーンの羽、胴体、そして後ろにあった木を完全に貫通して空へと飛んでいく。


「ま、マジかよ……貫通しやがった…」


「さっすが真琴様だぜ!俺も負けてられねぇな!」


「ギャァァア!!」


「バカ!突っ込みすぎです!」


健がワイバーンに近付いた時、ワイバーンの口が赤く光る。


「ブレス攻撃だ!離れろ!!」


「げっ?!」


空中で身動きの取れない健。


「ウォーターシールド!」


健とワイバーンの間に凛の作り出した水の盾。


「ガァァアア!!」


ワイバーンの口から放たれた炎が健を包み込む。


「健!?」


ボウッ


ブレス攻撃の中から外套で全身を包み込んで飛び出してくる健。


「あっぶねぇ…外套無かったら火傷してたぜ…

よくもやってくれたなぁ?!」


ワイバーンの腕を蹴り頭上まで飛んだ健は頭の上に刀を構える。


「ニノ型。四刀連斬。」


瞬間的に健の腕が動いたと思ったら既に刀を鞘にしまっていた。


着地し、完全に刀を鞘に収める。

チンッという高い音が聞こえたと思ったらワイバーンの首、両腕、腹の四箇所が斬れてバラバラと地面に落ちる。


「なんじゃそりゃー?!クソかっけーじゃねぇか!!」


「むっふっふ!まぁなぁ!」


「前の一ノ型とは違ぇのか?!」


「ありゃ気を飛ばす技だ。今回のは飛ばせないけどその分スピードと威力が上がるんだよ。瞬間的に四回も斬れちゃう優れものだぜ?」


「ぐはぁー!優れてるわー!」


「毎度毎度真琴様のあの嬉しそうな顔は何故なんでしょうか?」


「マコト様が仰っていたのは刀は男のロマン…というやつらしいですよ。ロマンが何か分かりませんが…」


「私達には分からない感覚ですね。」


「お、おい…たすか」

「あんたらすげぇなぁ!!」


「冒険者なのか?!」


「お…ま…え…らぁー!!!!」


「ひぃ?!」


「私が喋ろうとしているのに横から入ってくるとは…死にたいのか?」


「も、申し訳ございません!トジャリ隊長!」


「だから名前を呼ぶなと何度言えば分かる?!」


「ひぃ!!」


「ったく。

それより…ありがとう。助かったよ。」


「いや、もう少し早ければ二人も…」


「いや。君達がいなければ私達も死んでいただろう。二人も…フルズに入ったからにはいつでも死ぬ覚悟は出来ていたはずだ……すまないが、残された者には立派に戦ったと…伝えてやりたいんだ…」


「立派だったろ。勇気の無い奴なら皆を置いてさっさと逃げようとしていたさ。」


「……ありがとう。」


「た、隊長?!」


リーシャに聞いたが、エルフは他種族には決して頭を下げない。プライドだと言っていたが、このトジャリ隊長は深々と頭を下げた。


「そこまでしてもらう必要は無いよ。俺達も援護してくれて助かったんだ。互いに生き残った事を喜ぶとしよう。」


「……あぁ。」


「ワイバーンの素材は半分貰っても良いか?」


「半分?何を言うんだ。倒したのは君達だ。全て持って行ってくれ。」


「今言ったろ?皆で倒したんだ。一体分はそっちが持っていく物だ。」


「しかし…」


「それ以上言うなら無理矢理体に縛り付けるぞ?」


「うっ…それは困るな…。

君はお人好しなのだな。」


「優しいと言ってくれ。それと、俺は真琴だ。よろしくな。」


「私はトジャリ。トジャリ-カーサだ。こちらこそよろしく頼む。」


トジャリは布をとって顔を見せてくれた。青髪ショートヘアに薄い唇、緑色の瞳。カッコイイと同性からモテそうなタイプの美人さんだ。胸は……


「なぁなぁ。あんたのその剣すげぇ切れ味だな?」


「これか?これは真琴様が作ってくれた刀ってもんだ。」


「はぁー…あんな魔法が使えるのに剣まで作っちまうのか?すげぇ奴もいたもんだなぁ…」


「バ…リ…ヌ?」


「ふぁい!!」


「私はお前の何かな?」


「たたたた隊長です!」


「私がマコトと話しているのに君は一体何をしているのかな?」


「ガナブー!助けてくれー!」


「バリヌが悪いんだよ。僕に頼られても助ける事は出来ない。」


「この真面目野郎!」


「済まなかったな。勝手な事をさせてしまって。」


「構わないさ。俺は健。こっちは凛。そんでリーシャだ。」


「よろしく頼む。

こっちのバカはバリヌ-リリドジ。でこっちは私の右腕のガナブ-アキシドだ。私達はシャーハンド南部の山を警備しているフルズの一員だ。」


バリヌは短めの茶髪に茶色の瞳。よく笑う活発系男子といったイメージなのに対して、ガナブは長めの黒髪に黒い瞳。真面目になんでも取り組むタイプの男子というイメージを受ける。


「バカって紹介はあんまりじゃないですかねぇ?」


「お前はバカで十分だ。」


「酷いっすよー…」


「な、何故か親近感が……」


「うちにもバカが一匹いますからね。」


「ぐっ…」


「それより、このワイバーン…」


「あぁ。明らかにおかしいな。」


「今までもこんな事が?」


「いや。初めてだ。というかこの辺りでワイバーンを見た事さえ初めてだな。」


「……」


「これは私達の仕事だ。上に報告して私達で対処するよ。」


「そうか…もし何か手伝える事があったらいつでも言ってくれ。」


「本当にお人好しだな君は。」


「だから優しいと言ってくれ。」


「ははは!すまない!」


「トジャリって笑うと八重歯が見えて可愛いな?」


「はっ?!えっ?!きゅきゅ急に何を言い出すんだ?!」


「え?いや、思った事を言っただけだが?」


「ううううるさい!黙れ!」


「可愛いのに。」


「まだ言うか!」


「隊長は可愛いっすよー?」


「ふんっ!!」


「ぐほうぁ?!な、何故俺だけ……がくっ…」


「まったく!人をからかうからそぉなるんだ!」


「隊長は可愛いですよ。」


「ガナブまで言うか?!やめてくれぇ!」


耳まで真っ赤になるトジャリを見て微笑ましくなった後、ワイバーンの素材を取り出し、中にいた遺体を埋葬する。


「こんな山の中に埋葬して良かったのか?」


「私達エルフは死んだ後は森に帰る。だからこのシャーハンドの地ならばどこであろうと構わない。ただ遺品だけは遺族に渡すが……

それより街を目指しているのだろ?私達も街に戻るから案内しよう。」


「良いのか?」


「正直に言うと次に同じ様な事が起きた場合私達三人では対処が出来ない…」


「あ、いや。すまない。そう言うことではなくて…」


「…リーシャさんの事か?」


「あぁ。リーシャから色々と聞かされててな。」


「私達フルズは任務の特性上外の者達とよく関わる。奴隷にされた同胞は勿論、中には耳を切られた者も見た。主人の慰みものとして酷く扱われている者はそれこそ数知れない。

だから…それが国抜けでも、奴隷でも、怒りを覚えるし同胞に変わりは無いと考えている者が多いんだ。つまり、私達にリーシャさんを軽蔑する気は無いよ。」


「そうなのか?」


「確かに最初会った時は…リーシャさんが君達に好きでついて行っている事が見て取れたからな。最後のプライドまで無くしたのだと軽蔑したが…今となってはその理由が私にも分かるからな。

膨大な魔力を有しているにも関わらず、お人好しで差別などしない。私が同じ力を手に入れた時に同じ様に振る舞えるかと問われたら難しい…そう思うとリーシャさんは心底マコトに忠誠を誓ったのだと分かるからな。」


「そうか。それは良かった…良かったな。リーシャ。」


「はい……はい……ぐすっ…」


「な、泣くな!私が悪い事をしたみたいではないか!」


「隊長泣かしたー。ぐぼぉー!!お、俺が泣きたい……」


「ごめんなさい…こんな事をここに来て言われるとは思っていなくて…」


「わ、私は女性の涙に弱いんだ。どうしてやったらいいのか分からなくなる。」


「ははは!隊長男みてぇげばらっ!!あ、顎はダメ……」


「それにしても…マコトの性格なら…リーシャさんの枷を外そうとはしなかったのか?」


「これは私がマコト様のものであるという証です!簡単には外させません!」


「…という事なんだよ。」


「はははっ!マコトに心酔しているんだな!」


「はい!」


「隊長。そろそろ。」


「ん?あぁ。そうだったな。日が沈む前に街に向かうとしよう!」


トジャリ達と共に王都シャーハンドへと向かう。


因みに周りの山々の中にはいくつも小さな村があるが、大きな街と言えるのはこの王都のみという事だ。

エルフは繁殖力が弱くあまり数が多くない種族の一つであるため国もそれ程大きくはないらしい。中にはダークエルフ等の、エルフの中でも特殊な種族も近隣の山に村を作っているらしいが、更に閉鎖的な者達らしくあまり交流は無いとのことだ。

トジャリ達の案内でシャーハンドへと辿り着いたのは日が暮れるギリギリだった。

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