第二章 ドワーフの国 -テイキビ- Ⅲ

「これは…悪魔の手…ですよね?」


「みたいだな。」


「まだもう一つあったってことですよね?」


「どうやらそうみたいだな。」


「どうしますか?」


「悠長な事は言ってられない。解呪石もあるし直ぐに中に入ろう。」


「…分かりました。」


黒いモヤに包まれた王城を前に一度立ち止まった。


「おーい!」


「健。無事だったか。」


「まぁな。結構手強い奴がいたがなんとかな。」


「マコト様ー!!うげぅ!!」


「直ぐに飛びつこうとしないように。」


「姉様…良い…」


「気色の悪い子ですね。」


「あ…」


「やめとけ。それ以上この変態にご褒美をあげるな。」


「それよりマコト。これはどう言うことだ?俺達はギビドを破壊したぜ?」


「俺達もだ。だが、その三つのギビドを囮にしてこの王城への魔法を隠したんだ。」


「つまりこれが狙いだったってことか?」


「あぁ。王を操る事が出来れば後はどうとでもなるからな。」


「くそっ!」


「一応アイテムは渡してあるんだろ?」


「あぁ。だけど王とその御家族だけにしか渡していない。

兵士達を操られたら王が正気だとしてもどうにもならないぞ…」


「それなら急いで行かないとな。解呪石はあるんだ。直ぐに入ろう。」


「よっしゃ!行くぜー!」


全員で黒いモヤの中へと向かっていく。

特に何かに触れたような感覚も無く、中に入る事が出来た。

黒いモヤは城全体を覆っているらしい。が、中から誰かが出てくる様子は無い。

悪魔の手はまだ発動していないみたいだから今出てこられれば問題無いはず…


凛達も違和感を感じているらしいが、理由はすぐに分かった。

城は堀に囲まれていて跳ね橋を上げ下げする事で出入り出来る仕組みになっているのだが、普段は下りている跳ね橋が上がっている。


「橋が上がっていますね。」


「……なんでだ?」


「筋肉バカはこれだからダメなんです。」


「なにぃ?!じゃあ凛は分かるのか?!」


「当然でしょう。少し考えたら分かることです。敵が中にいて既に制圧されているのでしょう。」


「……それヤバくね?」


「だな。橋を下ろして中に入りたいところだが、こっち側からじゃ手の付けようが無いからな…」


「どうするよ?そこは考えてないのか?」


「か…考え中です!」


「ぐへぇぁ!何故…殴った…」


「マコト様ーー!!」


「……え?プリネラ?」


「あいつなんであっち側にいるんだ?」


「ぶっはっは!やるなぁ!!」


「どう行ったか分からないけど…流石くノ一…だな。」


「来たのは良いんですけどー!魔法で固められてて橋を下ろせませーん!」


「あー。なるほどな…。そりゃ簡単に下ろせないようにしてるわな。」


「どぉーしますかー?」


「プリネラー!その橋を上げてる鎖切れるかー?」


「鎖ですか?!いやー……厳しい気がします…。」


「まぁだよな。あんな人の胴以上もある太い鎖は切れないよな。」


「ちょっと無理していいなら切れると思うぞ。」


「……は?」


「いや、あの鎖だろ?」


「あ、あぁ。あの鎖だが…」


「多分斬れるぞ。」


「いやー…マジで?」


「俺をあそこまで運んでくれたらなんとか。」


こちら側からは鎖が橋に隠れて僅かにしか見えておらず魔法も上手く使えない。

直接接近して誰かが切らなければならないが…まさか健が斬れると言うとは…


「あ、兄様でも流石に厳しい気がしますけど…」


「まぁ昔の俺ならな。俺だってこの数年間遊んでたんじゃ無いんだぞ?」


「いや、鍛錬しててもあれは普通斬れないけどな。」


「いけると思うんだけどなー。気合いで。」


「気合いでなんとかなるわけがないでしょう。」


「割と大事なんだぜ?気合い。」


「……」


何故か自信満々な健。

試す分にはタダだし良いか。


「分かった。じゃあ俺が健をあの鎖の少し上まで飛ばすから斬ってくれないか?」


「任せとけ!………ん?飛ばす?」


「よーし。行くぞー。3、」


「いや、待て待て!今なんて?!」


「2!」


「嘘でしょ?!」


「1!」


「本気なの?!」


「発射ーーー!!!!!」


「ぎゃぁーーーー!!!」


風魔法を使って健をさながらロケットの様に打ち出す。

叫び声と共に上空へと飛んでいく健。


「おぉー。ピッタリ。」


「飛んでますね。」


「イカロスだなあれは。」


「イカロス……?ですか?」


「あ、こっちの話。」


「うっひょー!あれ楽しそうだな!ぶっはっはっは!!」


「楽しくねぇーー!!!」


「あ、聞こえてた。」


「それよりそろそろ落ちますよー。」


「くそっ!こうなったら仕方ねぇ!やったらぁ!!」


勢いが止まり太陽…は出てないがイカロスが落ちてくる。


刀を抜いて肩に当てるように構えた健は雰囲気が変わったように見えた。


「……一ノ型……波紋!!」


健が刀を一閃。

振ったは良いが鎖が遠すぎて刃が届いていない。


「届いていませんよね。」


「ぶっはっはっは!!失敗かー!!」


「いや、成功だ。」


「え?」


凛がもう一度橋の方に目をやった時、橋がこちらに向かって動き出す。


「え?!」


バダーンという轟音と土煙が上がり橋が掛かる。

健はプリネラがなんとか捕まえたらしく門の上にいる。


「コラーー!!真琴様ーー!!」


「すげぇなぁ!?なんださっきの?!」


「え?あぁ…えーっと。まぁ。」


「照れてると気持ち悪いですね。頭から落ちれば良かったです。」


「酷くない?!俺功労者だよね?!間違いないよね?!」


「間違いなく功労者だぞ!それよりさっきのなんだよ?!」


「あ、あぁ。ありゃ気だ。」


「気?ってあのハンドパワー的な?」


「それかはわからんけど多分な。」


「あんな事出来るもんなのか…?」


「いや、俺以外にはいなかったけどな。俺は素質があったのかなんか出来てな。練習してここまでになった。」


「魔法と変わらないよな?!むしろ魔法より凄くね?!」


「似てるけど違うものだぞ。俺のは。」


「やべぇ。理解不能だぜ…」


「気合いみたいなもんだから俺も自分で理解してねぇんだけどな!あはは!」


「理解していないものを使えるなんて…なんて気色の悪い…」


「酷いよね?!分かっててやってるよね?!」


「ぶっはっはっは!!やっぱり健はすげぇなぁ!」


「おうよ!」


「プリネラもありがとな。助かったよ。」


「はい!やったぁ!マコト様に褒められたーー!」


ある種の無法地帯に変わりつつあったのでさっさと切り上げて橋を渡ることにする。


「これはこれはお揃いでー。」


「また人形か。」


「人形とは失礼なー。それにしても入って来たんだねー。」


「まぁな。さっさと諦めて大人しく投降してくれれば死刑って形で苦はなく死ねるぞ?」


「へぇー。拒否したらー?」


「ここにいるおっさんの顔が見えないのか?」


ギャンボは既に沸点ギリギリだ。


「いやー。怖いねー。怖くて投降なんて無理だなー。」


「そうかよ。ま、俺も聞きたいことあるし…とりあえず直接行かせてもらうよ。」


「来られればねー。」


女の言葉を無視して橋を渡る。

驚いた事に外には誰もいない。

いきなり数十人に囲まれるかと思っていたのだが。

と思っていると城の中から強烈な光が漏れてくる。


「まずいぞ!」


ギャンボが一目散に中に走り込んでいく。

後を追うように走って行くと光は王座の間から来ているらしく扉の隙間から光が見える。

ギャンボが乱暴にその扉を開くと中から視界を埋め尽くす光が見えた。

そして一瞬にしてその強烈な光は消え去る。

目がくらんで前が見えないが、少しずつ視界が戻ってくる。


鋭い目付き、黒髪黒髭の王。テイキビ王や傍らの王妃、その他の兵士達を捕らえるように、操られているであろう奴らが剣を突き付けている。


「王よ!!」


「あれー?なんで君達は平気なのかなー?」


王座の間の中心に先程見たよりも一回り大きいギビドが見えるが、透明感を失い白く濁っている。

そしてギビドにヒビが入り粉々になる。


「あー。解呪石かー。確かにそれなら一度だけ耐えられるからねー。でもー。王はダメみたいだねー。」


王を見るとどうやら操られている様に見える。


「何故だ?!」


「そんな事想定してないわけないでしょー?」


女がこちらに投げてきたのは解呪石。俺達の持っている物と同じ物でこちらも白く濁って粉々に砕け散る。


「私が奪っておいたんだよー。」


「おのれ……貴様ーー!!」


「はーい。それ以上近付くと王は死ぬよー。」


「ぐっ………」


首に突き付けられている剣が王の首に近付く。


「なぁ。あんた名前は?」


「えー?私の名前なんて聞いてどーするのー?」


「死に行く時は相手の名前くらい知っておきたいだろ?」


「へー。良いよー。教えてあげるー。私はゼオって言うんだー。君はマコトだねー。」


「知ってるのか。なんでだ?」


「上から可能なら君を殺せって言われてるからねー。」


「上?」


「死に行く人には関係の無い話かなー。」


「……もう一つ聞いていいか?廃人になってる奴らには何したんだ?」


「あー。あれかー。そんな事聞いてどーするのー?」


「ただの知識欲だよ。」


「じゃあ教えてあげるよー。あれは魔力口を開いたんだー。沢山失敗しちゃったけどー。ふふ。」


「魔力口とは体中にある魔力を体から出す時に通る要の様な場所です。ツボみたいな物ですね。」


「よく知ってるねー。偉い偉いー。」


「それを開くって事は魔力が止めたくても出っ放し状態になるって事か。」


「そー。」


人によって僅かにズレはあるがほとんど同じ場所に魔力口は存在する。

その魔力口を物理的にこじ開けて魔力を限界まで奪い取った結果らしい。

なんとなく繋がった。

最初に拉致した奴らに魔力口をこじ開ける処置をあの血濡れの屋敷で行った。


拷問部屋だ。


そして上手く魔力を吸い取ってギビドを作る。

それを使って他の奴か、魔力の無くなった廃人に悪魔の手を掛ける。

失敗した結果があの屋敷の死体。

術式がある程度使えようになった所で俺達がテイキビに向かってきている事を知り、実験も兼ねて操作した奴らを仕向けてきたんだ。

体力の無い物乞いじゃ役に立たないことが分かったから今度は体力のある、つまり今王達を押さえ付けている奴らを捕らえて操っているわけだ。

アジャルの所を狙ったのは解呪石の作成を極力抑えるため。

解呪石を作るとしたらギャンボと繋がりの強いアジャルだと睨んだらしい。

目論見は成功して今この状況という事か。


「なるほどな。なんとなく理解出来た。」


「そっちの質問に答えたんだから私の質問にも答えてよー。」


「なんだ?」


「テオを殺したのは誰ー?」


「俺だが?」


「君かー。魔力が無い子だったよねー。」


「それが?」


「いやー。別にー。テオはいい子だったからねー。仕返しに君を捕らえたら操って君の手で仲間を殺して絶望の中死んでもらおうかなーってさー。」


「下衆が。」


「ふふふ。あと、なんでマコトはそんなにも余裕そうなの?」


「なんでって…悪魔の手みたいな術式も完成出来ないアホなハスラーに負けるとは思ってないからな。」


「………今なんて言ったのー?こっちには王がいること忘れないでよねー。」


「悪いけど俺は王なんてどうでもいいんだよな。」


「……」


「正直知らないおっさんだし。第九位の魔法くらいで乗っ取られる様な国ならいつかダメになるしな。」


悪魔の手は禁術ではあるがそれは世界的に禁止されているだけで元は一つの魔法に過ぎない。


第九位の闇魔法。

もちろん第九位の魔法なんて個人で使える奴は世界を見ても数人程度。

Sランクの冒険者の一部や世界的に見ても天才と呼ばれる類のハスラーだけだ。

挑発の為に敢えて大袈裟に話している。


「第九位の魔法を使える人なんてそんなにいないと思うけどー?」


「そうか?この世界に知り合いは少ないけど既に一人は使える人を知ってるぞ?」


フィルリア。生粋のハスラーで俺の師。あの人はその一握りに入る人だ。

禁術なんて使う人では無いが悪魔の手ならば術式さえ分かれば一人で使えるだろう。


「まぁ…魔力はギビドで得れば良いし魔力自慢なんて無駄な時間だよー。」


「勘違いするなよ。俺が言っているのは悪魔の手なんて簡単な術式も組めないのは雑魚だって言ってんだ。」


「……聞き捨てならないねー。私が…雑魚?」


ゼオの口調がガラリと変わった。

掛かった。


「雑魚も雑魚。下の下だな。」


「……なんのつもりだ。」


「なんのつもりも何も事実を伝えてるだけだが?」


「まるで自分なら簡単だと言っているように聞こえる。」


「そう言ってんだよ雑魚が。」


「まさか…いや。ありえない。こんな雑魚に私が…でたらめだ。」


「見てみたいか?完成された術式を。」


「……」


「嫌なら良いんだよ。お前の研究はそこ止まりだ。」


「うるさい!黙れ!黙れ黙れ!!!」


ちょっと煽りすぎたか?

この手の奴は知識欲が高過ぎて当初の目的を無視して知識欲を満たそうとするはず。


「良いだろう。乗ってやる。お前なんかには無理だと証明させてやる。」


落ちました。


「だが。私は慎重でね。おい。」


ゼオが投げた袋を操られていた奴が受け取る。


「その中に入ってる解呪石を王と王妃、それとお前達が持て。」


袋の中身は解呪石。

俺の魔法が成功しても解呪石があれば乗っ取られる事は無くなるわけだ。


「さぁ。やってみせろ。」


「……いくぞ。」


俺は杖を振る。

俺の周りにいくつかの魔法陣が出現する。


「なっ?!そ、その術式は?!」


「言ったろ。完成された術式だと。」


一目見て完成された悪魔の手の術式と気が付いたらしい。

やはり優秀なハスラーだ。

解呪石。その名の通り呪術等の魔法を解く。

つまり本来は悪魔の手を跳ね除けるのでは無く、掛かった奴の魔法を解く石。

今回の場合術式が完成されていなかったから効力が小さく跳ね除けることが可能だっただけで、完成された悪魔の手の前にはその意味を持たない。

つまりいくら解呪石があっても俺の悪魔の手は防げない。


「今すぐ王を殺せ!!!」


「させません!!」


凛が最高のタイミングでウッドバインドを発動し、王を切り付けようとしている奴を止める。

だが王も操られている。

王は自ら剣へと向かっていく。


「どっせぇーーーいいい!!!」


ギャンボが投げた大槌がウッドバインドを受けた兵士へと飛んでいき兵士と剣を吹き飛ばす。


「残念だったな。ゼオ。」


「くそっ!くそっ!くそぉーーーー!!!!!」


ぶわりと俺を中心に広がる黒い光。

その光に包まれた奴らは全て俺の意のままに操る事が可能となる。


カランッ………


剣が落ちる音を最後に、王座の間に静寂が訪れる。

悪魔の手は対象の相手を任意では選べない。

つまり今ここで自我を保っていられるのは俺だけ。

凛達を含めて誰も口を開くことは無い。

俺は誰も何も言わずただ一点を見つめて立っているだけの王座の間を進む。


自分の足音だけが王座の間に響く。

ゼオが持ってきていた解呪石を全て取り上げる。

抵抗等あるはずもなく手に入れた解呪石を凛の手に持たせる。


「……はっ?!真琴様?!」


「俺は大丈夫。凛は大丈夫か?」


「私は……平気です。」


「良かった……本当に。」


「こ、これは…?」


「悪魔の手を使ったんだ。」


「これが……」


「こんな魔法…寂しいだけだ。」


「真琴様…」


「健達も起こそう。」


「はい!」


解呪石を使って皆を起こす。


「……んぉ?…真琴様!!大丈夫か?!」


「平気平気。」


「ビックリさせんなよ…」


「悪い。他に思い付かなくてな。」


「俺達は良いけどよ。真琴様一人にして何かあったら死んでも死にきれねぇぞ?」


「悪かったよ。二度としない。」


「分かってんなら良い。」


「あぁ。」


「次はプリネラだな。」


「あ、真琴様!少しお待ちを!」


「え?」


「…………マコト様ーー!!!」


「うぉ?!」


「はあーー!!マコト様ーー!!」


「ちょっ!プリネラ!放せって!」


「スー!ハー!スー!ハー!」


「嗅ぐな!!」


「うげぅ!!」


「離れなさい!!」


「ぶふぅ!!」


「やりすぎだ!」


「げふぉ!!さ、三連撃……ありがとうございます…ぐふっ……………」


「逝ったか。」


「よし。」


「次はリーシャだな。」


「………はっ?!マコト様?!ご無事ですか?!」


「あぁ。大丈夫。大丈夫だから。距離近すぎな。」


「あ!!申し訳ございません!」


「いや、そんなに離れなくても……」


「え?!えっと!あ、あれ?」


「あはは。冗談だよ。」


「マコト様ー?!」


「ついな。」


「気持ちは分かります。」


「凛様?!」


「リーシャってなんか虐めたくなるよな。」


「健様まで?!酷いですよー!」


「さて。ギャンボは大丈夫かな?」


「………ぬぉ?!なんじゃー?!おらぁーー……ってマコトか。」


「元気そうだな。」


「おぅよ!って……どうなっちまったんだ?」


「まぁ取り敢えずなんとかなった。って感じだな。」


「ぶっはっはっは!!よっしゃ!んじゃ早速王を」

「ちょっと待ってくれないか?」


「お?」


「その前にこいつに聞きたいことあるだが。」


「………分かった。」


「良いのか?」


「こうなってたら誰も分からないだろ?俺は見なかった事にする。マコトもこっから先大変だろ。情報は大切だ。」


「…ありがとな。」


ゼオの前まで行き光を失った瞳を見る。


「ゼオ。さっき話してた上ってのは誰の事だ。」


「は…い………それは……」


突然目の前が赤く染った。


「「「「真琴様!!」」」」


気がついたら目の前に凛達が立っていて、ゼオの頭が無かった。


「大丈夫か?!」


「あ……あぁ。ビックリしただけだ。」


「心臓が飛び出るかと思いましたよ。」


「俺もだよ。」


「これは……呪術というよりもっと悪質な物ですね。」


「禁術か。」


「恐らく…」


ある程度禁術の知識が戻ったとは言えまだまだ完全では無い。


知らない禁術だろう。

話してはいけない話をすると頭が飛び散る魔法なんて知らない。


「情報を引き出したかったんだがな…」


「こうなっちまったら喋るのは無理だろ。今回は諦めろ。」


「あぁ。」


「それよりそろそろ皆を解放しないか?」


「したいのは山々なんだが…」


「ん?」


「解呪石が無くなってな。」


「あー………」


「範囲はこの王城内に留めたから誰か外にいる仲間が向かってきてくれれば解呪石を集めて解放できるんだが…」


「おーーーい!!マコトー!ギャンボの旦那ー!」


「ん?この声は…」


「はぁ!はぁ!」


「アジャルか?!」


「ギャンボの旦那!これを!」


「こいつは…解呪石か?!」


「はい!必要かと思って出来るだけ集めて持ってきました!」


「ぶっはっはっは!!やるなぁ!アジャル!」


「痛い痛い!痛いですって旦那!」


「ぶっはっはっは!!」


「それより早く王を!」


「お?そうだったな!よっと!」


ギャンボが王の元に行って解呪石で元に戻す。


「………これは…」


「テイキビ王よ。」


「ギャンボ?何故ここに……説明を頼めるか?」


「はい。ですが、先に皆を…」


「……….なるほどな。分かった。頼めるか。」


「はっ。」


ちゃきちゃきとした動きでギャンボとアジャルが皆を元に戻す。

我に帰ったは良いが皆混乱している様だ。


「おい!マコト!」


「え?なに?」


「なんで帰ろうとしてんだ?!」


「え?いや、もういいかなーって。」


「説明する時マコトがいねぇと訳わかんねぇだろ?!」


「そこはなんかこう上手いことさ!」


「出来るか!」


「えー。」


「どうした?ギャンボ。」


「い、いえ。マコト!王の前だぞ?!膝をつけよ!」


「え?別に俺はこの王に忠誠心とかねぇぞ?」


「……は?」


「え?なんかおかしな事いった?俺。」


「いえ。真琴様はいつも正しいです。」


「俺らも真琴様以外に跪くつもりはねぇぞ。」


「ですね。」


「黙って見ていればこの無礼者共が!!斬るぞ!!」


王の傍に跪いていたドワーフの兵士が剣に手をかける。


緑髪を角刈りにして銀色の鎧に赤いマント。大剣使いの兵士らしい。

立ち位置的に近衛兵の隊長さんとかそんな感じかな?


「やめぃ。ビュルド。」


「はっ。しかし…」


「やめぃと言っておる。」


「はっ!出過ぎた真似を。お許し下さい。」


「そやつらはそのままで良い。それよりギャンボ。改めて説明を頼めるか。」


「はっ。」


ギャンボがここまでの流れを王に説明する。


「という事でございます。」


「なるほど。つまりそこのマコトとかいう人種にここの全員、ひいてはこの街の全員が命を救われたと言うことか。」


「はっ。」


「くくく。まさかこの私が人種に助けられる日が来ようとはな。」


「お、王よ…」


「いや、すまんな。戦争では剛腕のテイキビと恐れられた私が老いたものだとな。」


「そのような事は。」


「老いは誰にでも来るものだ。」


「……」


「それよりマコトと言ったな。」


「俺か?そうだけど。」


「助かった。礼を言う。」


「王?!頭を下げるなど!」


「何を言うビュルド。今の話を聞いておらんかったのか。このマコトは全く関係の無い私達を救うために命を掛けてくれたのだぞ。」


「しかし!」


「跪かぬという事はこやつは私の配下では無い。つまりは一個人同士の話し合いだ。その個人が見も知らない相手の為に命を掛けたのだぞ。そんなに容易い事とは思えぬが?」


「ぐっ……」


「今は王では無く一個人として礼を尽くしている。邪魔するな。」


「はっ。」


かなり豪胆な王だと言うことはなんとなく分かった。


「マコトよ。何かあれば褒美を出すが…何か欲しいものはあるか?」


「褒美?いらねっ。」


「き、貴様…」


「ビュルド。何度も言わせるな。」


「も、申し訳ございません…」


「褒美ってのは上の者に与えられる物だ。さっきも言ったが俺は別に忠誠心なんかねぇ。

友達のギャンボが困ってたから助けただけだ。気にするな。」


「……くくく。あははははは!!」


「お、王…?」


「愉快!!実に愉快な男だ!!あははははは!!」


全員大爆笑の王にポカーンとしている。


「のぉ!ギャンボ!こやつ王を相手になんもいらんとぬかしおる!」


「その様な奴ですので。」


「そんな笑える事か?」


「私は一国の主だぞ?!地位も名声も富も求めれば与えてやれる立場だぞ?!それを何もいらぬとわ!あははははは!!」


「そんなもん自分で築いて得るもんだろ?誰かに貰っても嬉しさなんてねぇだろ。」


「………ぶ、ぶぁははははは!!」


あまりに笑うので凛に耳打ちする。


「笑い上戸か?テイキビの王は?」


「ツボに入ったのでしょうか?」


「あー。そうゆう時あるもんな。」


「愉快愉快!!実に愉快だ!くくくっ。あー。笑った。」


「そいつは良かったけど。それよりもう帰っていいか?俺達疲れてんだけど。」


「少し待ってくれ。流石にここまでの事をしてもらっておきながら何もしなかったでは王として立つ瀬が無いのだ。」


「良いって俺が言ってるのにか?面倒な立場だな。」


「私もその様に思うぞ。」


「王?!」


「許せ。たまの愚痴だ。ここには信頼出来る者しかおらん。」


「……は。」


「王よ。発言をお許し下さい。」


「ギャンボか。何か良い案があるのか?」


「はい。このマコトという男。どこの誰かは分かっておりませんが、その類まれなる才能から命を狙われております。」


「なに?!それは聞き捨てならんな。」


「お、おい。ギャンボ!ここを巻き込むつもりは無いぞ?」


「ギャンボ。続きを話せ。」


「はっ。この話は既に六年以上前から続いている話です。」


「六年…長いな。」


「そこで、せめてこの街にいる時だけでも休めるよう取り計らう。というのはどうでしょうか。」


「厳重な警備を与えるということか?」


「うげっ?!やめてくれよ?!」


「いえ。正直戦闘力で言えばこの街の誰より上だと思います。」


「ギャンボ。そなたよりもか。」


「手も足も出ないかと。」


「ほぅ。私と共に戦場で肩を並べたギャンボにそこまで言わせる男か。」


「はっ。」


「ふむ。となると護衛はむしろ邪魔になるな。」


「ですので、メイサリングを授けては如何でしょうか。」


「メイサリングだと?!」


「他国の者だぞ?!」


「それは流石にやりすぎでは?!」


一気に王座の間がザワつく。


「なんだそのメイサリングってのは?」


「私も聞いたことがありませんね。」


「メイサ草と何か関係あるのか?」


こちらの預かり知らぬ所で話が進んでいく。


「静まれ。」


王の一言で王座の間が静かになる。

鶴の一声的な感じでなんか面白い。


「ギャンボよ。自分の言っていることが分かっているのか?」


「はっ。」


「他国の者にメイサリングを与えた例は一度も無い。長い歴史の中ただの一度もな。」


「承知しております。」


「私に例外を作れと言っておるのか。」


「一つの案として提言している次第です。」


「ふむ。」


「な、なぁ。アジャル。メイサリングってなんだ?なんかめっちゃヤバそうな感じだけど?」


「メイサリングってのはこの街にいる時にそれを着けた人ならどんな所にも入れてどこでお金を使っても全て国が立て替えるっていう代物だ!」


「は?!それヤバくね?!」


「メイサリングには特殊な魔法が施されているから本人しか使えねぇが、下手な人に渡せば国が崩壊しかねねぇ!だから皆騒いでるんだよ!」


超VIP待遇。なんてもんじゃない。


一国が全責任を負う一個人という事だ。


なにそのチートアイテム。


「い、いらねぇぞそんなもん?!」


「メイサリングは王が与えると言ったら授与される物で拒否なんかしたら逆に国が敵にまわるぞ?!」


「うっそーーん……俺の意見とか関係ないのかよ……

頼む!頼むからそんなヤバいもん断れ!」


王。マジ頼む。


「ギャンボよ。何故そこに至った?」


「恐れながら…先程王ご自身で仰ったように、もし今回このマコトが手を貸してくれなければ王含めこの南東地区全ての者がそこに転がっていたネフリテスの連中に利用され、挙句国が乗っ取られていたでしょう。」


「ふむ……」


「今回このマコトが救ったのは王ではありません。この街。王都テイキビです。」


「……」


「そして先程、今回の件で廃人となってしまった人々の治療の仕方も聞きました。」


「ほんとか?!マコト?!」


「あ、あぁ。ギャンボには伝えてあるからアジャルの所の奴らも治るぞ。」


「……うぉーー!!」


「すごい泣き方だな…」


「うちの若い者が…申し訳ありません。」


「良い。助からぬと思った友が助かったのだ。存分に喜ばせてやれ。」


「はっ。」


「その者に治療法をも授かったか。」


「はっ。

王都を守り、治療法をも…となれば他国の者であろうとそれくらいは妥当かと。それにこの性格ですので下手な使い方は間違ってもしないかと思いましたので。」


「なるほど。分かった。………マコトにメイサリングを授ける。」


「王!少しお待ちを!それは流石に!」


「他国の者ですぞ?!」


またしてもザワザワ。ま、そうなるよね。俺だってそう思うもの。


結果から言おう。

最終的に王がメイサリングの授与を宣言した。


俺に。


反対ももちろんあったが王が一喝したらシーンとなってしまった。

そして俺の意見は聞いてはもらえなかった。


「いや、ほんと目立ちたくないのに…」


「それは分かっておる。だからメイサリングの授与は今この場にいる者たちでのみ行う。授与の話だけは噂として街に触れ込むが名前と顔は伏せておく。」


「いや、待てよ。それなら俺が使わなければ…」


「メイサリングが使われたかどうかはこっちで分かるようになっておる。使ってなければ私が直接マコトの元に向かってやろう。」


「もっと目立つーー!?」


「くくく。まぁそう嫌がるな。大金を貰ったとでも思って気軽に使ってくれ。」


「気が重いわ!」


「私の前で不遜な態度を取った仕返しだ。」


「ぬぉ?!このジジイ!」


「貴様王に向かってジジイとは!聞き捨てならん!そこに直れ!!」


「あははははは!!」


「うるせぇ!」


結局王の決定はそのまま決行される事となり晴れて俺はテイキビ一番の注目の的となる事に。


「勘弁してくれよ……」


「まぁそう仰らずに。」


授与式当日。俺の支度を手伝ってくれているのはこの王城で働いているピーマさんだ。

黒髪の天然パーマが特徴的な女性のドワーフ。


「でも嫌なもんは嫌なんだってばー。」


「今やあなた方は私達ドワーフにとっては英雄様なのですよ?」


「それが嫌なんだよー。」


「ふふふ。変なお方ですね。普通は英雄なんて呼ばれたら嬉しいと思うはずですのに。」


「目立つのはこんな境遇じゃなくてもあまり好きじゃないんだよ。」


「なぜですか?」


「目立つとその分期待されてその分色々と行動が制限されるだろ?それが嫌。」


「でも期待されているということはそれだけ信頼されているという事ですよ。それは喜ばしい事ではありませんか?」


「考え方一つって言いたいんだろ?そりゃ分かるけどさー。」


「さ。終わりましたよ。今更何を言っても覆らないのですから楽しみましょう!」


「ごもっともです…行ってきます。」


「はい。行ってらっしゃいませ。」


「はぁ…」


ため息混じりに部屋を出ると既に健とギャンボが待っていた。


健は元々体格も良くて顔立ちは整っているのでこういう正装はかなり似合う。


「へぇ。かっこいいな。」


「ぶっはっはっは!!」


「そうか?俺はこういうキツい感じの服は苦手なんだが…真琴様の方が似合ってると思うぞ。」


「無い無い。俺はこんな服似合う様な奴じゃないって。ギャンボはピッチピチだな。」


「サイズ間違えたのかと思って最初は焦ったぜ!ぶっはっはっは!!」


「あ、真琴様。」


「おぉ。女性陣はやっぱりドレスか。元が皆良いから良く似合うなー。」


「ありがとうございます。真琴様も…その…よくお似合いですよ。」


「お世辞はいいよー。」


「お世辞などではありません!!」


「え?!そんなに力強く来なくても…」


「お世辞ではありません!!」


「あ、はい…ありがとうございます…」


「そんじゃ行きますかー。」


俺達は全員揃って王座の間へと向かう。

以前来た時とは違い兵士含め全員が式典用の装いで物々しい雰囲気になっていた。


「なんか入学式とか卒業式とか思い出すなー。」


「いや、比較できるのか?それ。」


「結局真琴様も健様もあまり緊張しないのですね…私はもう手が震えてしまって…」


「だってよく頑張りました的な表彰と変わらないんだろ?だったらそんな緊張する必要なくないか?」


「うー……」


「それでは!メイサリング授与式を始める!」


重々しく始まった授与式。

なんやかんやと色んな人が出てきては何かを喋って帰っていく。


途中…というか最初からほとんど聞いていなくて内容は全くと言っていいほど覚えていない。

そして最後の最後で王が話を始める。


「このメイサリングは我が王都、ひいては我がドワーフの国において多大な功績を挙げた者に贈られる特別な物だ。

今回、史上初、他国の者に贈るメイサリングとなる。この者達の代表者一人にこのリングを授ける。このメイサリングに恥じぬ行いを期待する。」


「全員!敬礼!」


ドワーフ達が自分の胸の前で拳を握り胸にぶつける。


「はぁ。ありがとうございます。」


「締まらないやつだな。ほれ。シャキっとせんか。」


「はいはい。」


王に喝を入れられてシャキっとして一礼する。


拍手喝采!って程にはならなかったが、まぁ皆ある程度納得している様子だった。

近衛兵の隊長さんは納得いかないって顔してたけど。


「終わったー!」


「お疲れ様でした。」


「ピーマさん!お疲れ様ー!」


「どうでしたか?」


「二度とやりたくない。」


「ふふっ。左様ですか。」


「これで着替えたら後は好きにしていいのか?」


「その様に聞いておりますが…」


「なんだ?歯切れが悪いな?」


「それが…そのー…」


「なに?!怖いんだけど?!」


「折角なのでお近付きになりたいという方々が…」


「方々??」


ピーマさんの目線の先は扉の外。

ゆっくり、少しだけ扉を開くと…


「どんな方かしら?」


「英雄様なんですからきっと逞しい方よ!」


「早く会いたいわね!」


やべぇ。マジやべぇ。これ帰れないやつだ。


「あ、あれって…」


「皆様マコト様やケン様にお会いしたいと集まって来て下さった方々です。」


「あれは帰れないやつだよな?」


「帰れるとは思いますが…暫く動けないでしょうね。」


「無理無理。いらないよ?!」


「こればかりは止めるわけにもいきませんからね。」


「し、死ぬ…」


コンコン

「うぇ?!」


扉をノックされた………と思ったら窓がノックされている。


確かここは上階層でベランダも何も無かったような…


窓を見るとプリネラがどうやってるのか窓に張り付いている。


「うそーん…」


「マコト様ー!開けてくださーい!落ちちゃいますよー!」


「げっ。そうだった。」


直ぐに窓を開けてやると転がるように中に入ってくる。


「何やってんだ?趣味か?」


「そうですね。マコト様を覗くのも悪くは無い趣味だと思いますが…」


「おい。」


「廊下から人が沢山いる気配がして見てみたら大変な事になってましたので。」


「うむ。絶賛お困り中です。」


「マコト様ならそう言うと思いまして。姉様と相談して窓から脱出しようと考えているんですが…」


「大賛成。すぐやろう。今やろう。」


「はい。」


凛の部屋に一度行ったらしくその時影人形を置いてきたので作戦決行の合図を出すと窓の外に木がニョロニョロと寄ってくる。


「これを伝っていくのか。」


「はい!これなら誰にもバレずに外に出られます!」


「俺はいい子達に囲まれてるなー!」


「マコト様?」


「はっはっはっ!ピーマさん。後はお願いします!」


「あっ!私に押し付ける気ですか?!」


「女性の事は女性に任せるよー!じゃっ!」


「困りますー!」


窓から叫ばれているがさっさと下へ降りていく。


他の皆は既に下で待機中。ギャンボはいない、


「ギャンボは?」


「ギャンボのオヤジさんは嫁さんいるから誰も寄ってこないんだとよ。」


「羨ましい限りだなー…ってか嫁いたの?!」


「だよな。俺もびっくりしたぜ。」


「嫁いるのにこんな事やってて大丈夫なのかよ…」


「どうだろ。案外家に帰ると怒られるんじゃねぇか?」


「あのギャンボがか?」


「想像すると笑えるよな。」


「確かに。」


「あー!見つけた!下にいるわよ!」


「え?!なんで?!早く降りないと!」


「げっ?!やべっ!見つかった!」


さっきまでいた部屋の窓から下を覗き込んでいる女性が数人叫んでいる。


「逃げるぞー!全力で!」


「はい!」


多分どんなモンスターに追われるより全力で逃げた。

誰かに追われているんじゃないかとビクビクしながらなんとか宿まで辿り着く。

メイサリングは紐に通して首から下げている。

着けてたらまた酷いことになるだろうし。


「いやー…なんか一番疲れたわー…」


「だなー。俺まで巻き込まれるとは思わなかったぜ…」


「メイサリングを貰った途端にあんなに押し寄せてくるなんて現金な人達ですね。」


「思い出しただけでも恐ろしい…」


「顔は見られて無いだろうし簡単にバレたりはしないだろうけど、リングを使う場所とタイミングは考えないとな。」


「出来るなら使いたくないけどな…」


「王が来るって行ってたろ?」


「あの王ならやりかねないから怖いな…慎重に使う事にしよう。」


「それより、ギャンボのオヤジさんとも会えたしこれからどうすんだ?」


「あ、そうだったな。次に会いにいく人の話をまだしてなかったな。」


「どんな人なんだ?」


「長めの茶髪で、鋭い目付きのエルフだ。黒いローブを着てたからハスラーだと思う。」


「その特徴となるとジャッドだな。」


「ですね。」


「ジャッド?」


「あぁ。国を出たエルフだ。」


「国を出たエルフ?」


「エルフというのは商売等を除いて基本的には国を出たりしません。国を出るということはエルフを裏切ったとされて二度と戻れなくなるからです。」


「つまりリーシャもそうなるのか?」


「はい。例えどんな理由であろうと、許されません。国を出たエルフは国抜けと呼ばれ、国のエルフの証である青い石の腕輪を剥奪されます。」


「そんな物があるのか。」


「国の外で見掛けるエルフはほとんどが国抜けですので皆着けていないかと思います。」


「だなー。そんな風に呼ばれるって事は嫌われるのか?」


「国の外では関係ありませんが、国抜けはエルフの国では忌み嫌われていますね。」


「そんな軽いもんじゃないんだろ?」


「……はい。生き物としてさえ見てもらえない…ですね。」


「それでリーシャは俺達に着いてくる時帰ることをそれ程重要視してなかったのか。」


「はい…」


「それで?そのジャッドってのも国抜けって事だろ?」


「だな。昔会った時からそうだったから今も間違いなく外にいるとは思うぞ。」


「どこにいるかまでは分からんよなー。」


「ジャッドは冒険者だぞ。」


「へぇ。そんならどっかの国の冒険者ギルドで会えるか?」


「可能性は無くはないけど目星くらいつけて行かないと世界中を探すことになるぞ。」


「だよなー…フルネームが分かっても一冒険者の事なんてそんな簡単に分からないよな。どうしよ。」


「私も奴隷でしたので冒険者の方については分かりません…申し訳ございません…」


「いや、リーシャ。謝る必要無いからな?」


「はい…」


「プリネラは何か心当たりとかないのか?」


「私も冒険者としては動いてなかったので…」


「ですよねー…そもそも出会った時はどこにいたんだ?」


「出会ったのはこのテイキビですね。」


「え?じゃあここにいるんじゃないのか?」


「元々色んな国を渡り歩いてたタイプの冒険者だからな。」


「偶然出会ったのか?」


「まぁ偶然だな。」


「どんな奴なんだ?」


「気のいい奴なんだが…実力が伴ってないというか…」


「真琴様の事をずっと師匠と呼んでましたね。」


「真琴様の事を裏切る事は絶対無いと言いきれるが面倒なタイプではあるな。結局パーティメンバーの奴らとこの街を離れるまでは毎日来てたからな。」


「なんか全員からの評価が微妙な奴だな…なんでそんな奴に箱を渡したんだ?」


「それは俺達にも分からん!真琴様の考えだからな!」


「自信満々かよ。」


「まぁな!はっはっは!」


「思い出したー!」


「いきなりビックリするんけど?!プリネラ?!」


「ジャッド-ビーザン!名前です!」


「ジャッド-ビーザン?」


「はい!ずっと出てきそうで出てこなくて気持ち悪かったんですよ!はー。スッキリしたー。」


「フルネーム分かったからってどうにかなるのか?」


「少なくともギルドで今この街にいるのかくらいは分かるんじゃないか?」


「いや。個人情報だよ?そんな簡単に分かるわけ……あ。」


「メイサリングがあればそれくらいは簡単に教えてくれるだろうな。何せ国がこいつは悪い事はしないって絶対的な保証をしているからな。」


「いや、職権乱用というか…横暴な気がしないか?」


「ただの人探しだろ?悪用するならまだしも会って挨拶する程度なら別に誰も怒らないっての。」


「良いのかなー…?」


「使えるもんは使っていかないといつまで経っても見つからないぞ?」


「だよなー…よし。明日聞いてみるか!」


「決まりだな。」


取り敢えずの方針は決まった。


そして俺達はその日はダラダラと過ごした。

流石に動く気にはなれなかった。外怖いし。


翌日。


「おはよう!」


「おはようございます。ジュミンさん。」


「今日も依頼?」


「あぁ…いや。ちょっと聞きたいことがあってな。」


「聞きたいこと?」


「実は人を探しててな。」


「人探し…?」


「その人は冒険者でさ。その人が今このギルドにいるかどうか知りたいんだよ。」


「えーっと……それを私に聞かれても…」


「困るよな。個人情報だし…」


「困るね。個人情報の開示はギルドとしては行えないからね。」


「だよな…」


「真琴様。」


「分かってるって。本当は使いたくないんだけど……ちょっとジュミンさんに見てもらいたいものが…」


「なに?」


他の人からは見えない様にして首に下げたリングを取り出す。


「……リング?それがどうかし………たぁぁああ?!」


「声が大きいよ!」


「いやいや!だってこれってメイサんぐっ!」

「しーー!!」


「んぐっ!んぐっ!?」


「目立ちたくないんだよ…頼むから声を抑えてくれないか…?」


口を押さえて声を防いでいたが首を縦に振ってくれたので手を離す。


「こ、これってメイサリング…だよね…?って事は噂の授与者って…」


「ま、まぁ。その…そう言うことだ。」


「はぁ……Bランクにいる様な人達じゃないとは思ってたけど…まさかここまでとは……」


「いやー…ははは。」


「はぁ…分かりました。それを持っている方の話を蔑ろになんてしたらうちが危うくなるからね。一応ギルマスに話は通すけど誰を探しているのかだけ先に教えて?」


「そうだったな。名前はジャッド。ジャッド-ビーザンだ。」


「ジャッド-ビーザン……てあのビーザンさん?!」


「知ってるのか?」


「知ってるのかって…知らない方がおかしいよ?!」


「へ?」


「その人はうちで唯一のSランクの冒険者なんだから!」


「え?」


「も、盲点だったな。」


「あのジャッドがまさかSランクの冒険者になってるとはなぁ。」


「リング使うまでもなく分かるような情報だったとは…」


「見せびらかしただけになっちまったな。」


「大失敗だったな…」


「過ぎたことを悔やんでも仕方ありません。分かったのですから良かったとしましょう。」


「それもそうか。」


「ジュミンさんの話では当分は帰ってこないけど依頼で出てるからそのうち帰ってくるって事だったよな?どうする?」


「ネフリテスの一件の事で狙われている相手が一つじゃ無いって分かったし、完全に計画を潰した俺達を狙いに来るのは目に見えてる。次は副次目標なんかじゃなくて主目標としてな。」


「悠長にはしていられないってことだよな。」


「あぁ。となるとジャッドの行った先に向かう方が良いだろうな。」


「たしか…東の農村区域を偵察しているらしいが…」


「農村に偵察って…何を偵察してんだ?」


「バカはやはりバカですね。」


「えー…なんで今俺バカにされたのー…?」


「本当にSランクの冒険者が農村を偵察に行くわけ無いでしょう。カモフラージュです。」


「カモフラージュ?」


「他の目的があってそれを隠す為に農村の偵察と題して動いているのだと思いますよ。」


「なんでリーシャには優しいんだ?!」


「何故って…分からないのですか?」


「いや、良い。皆まで言わないで…」


「まぁ凛の言ってる事が正解だろうな。って言っても農村区域なんかで何やってんだ?」


「私が集めた情報では最近になって新しくダンジョンが見つかったらしいですよ。噂…ですけど…」


「ダンジョンってこんな所に新しく見つかる事があるのか?」


「稀にありますね。ダンジョンは突然出現するので新しいダンジョンが何も無かった所に突然現れるという話は今までにも何度かありました。」


「へぇ…」


「ダンジョン…ですか…」


「どうした?リーシャ?」


「あ、いえ。なんでもありませんよ。」


「ん?」


「それよりダンジョンが新しく出来たって言うならどんなダンジョンかとか、ダンジョンに現れるモンスターの強さ、取れる素材とか色々調べる必要が出てくるわな。」


「新しく出来たダンジョンとなると危険度が分からないですしSランクの冒険者に偵察を頼む事も妥当かと思いますよ。」


「となるとダンジョンが本当に現れたなら間違いなくそこにいるだろうな。」


「他に特別強いモンスターが現れたという様な話も聞きませんし恐らくは…」


「どこに現れたのかは分かるのか?」


「大まかな位置までは…」


「さっすがプリネラだな!凄いな!」


「えへへー。頭撫でてもらえたー。」


「あ!ずるいです!」


「ず、ずるいって…ってか無言で頭を差し出すな。」


「あ、あのー……」


「お前もか!?リーシャ?!」


「だ、ダメでしょうか…?」


「くっ…可愛いじゃねぇか…」


「おーい。ダンジョン行くんだろー?」


「そうだったな。」


「あの筋肉バカめ!後世まで呪ってやります!」


「うぇ?!なんで?!ちょっ!危ないって!」


「うるさいです!大人しく首を差し出しなさい!」


「ちょっと?!凛さん!?やめてぇーーーー……」


「あの…」


「ん?」


「兄様が使ってた技について何か知ってますか?」


「健が?…あぁ。あの橋を切った時のな?」


「はい!」


「俺も詳しくは分からないけど、向こうの剣術…って言うのか、考え方でな。魔法とは全く別の物に気という存在があるって考え方だな。」


「気ですか?」


「どんなものか聞かれても困るんだが…体の中にある不思議な力。って感じかな。」


「……」


「本人に聞いてみたら分かるんじゃないのか?」


「聞いたんですけど、兄様もよく分からないって言ってたので…」


「あぁ…そんな事言ってたな。」


「戦闘で使える程熟達していないから練習中。とも言ってました。」


「そもそもあいつのやる事って基本的に常識から外れてるからなー。あの身体能力を魔法無しで実現とか普通出来ないだろ?」


「少なくとも私には難しいですね…」


「ほんとあいつといると飽きないよな。」


「真琴様ーー!!助けてくれー!」


「待ちなさい!筋肉バカ!」


「ひぇーー!!」


「ふふふ。確かに暇はしませんね。」


ダンジョンがあった場合を想定して回復薬等の補充をして東門へと向かう。

農村が最も多いというだけあって、街への食物搬入が最も多く、農夫の出入りが最も激しい。

特に朝から昼までの時間帯は大混雑になる。


「うわー。すげぇ人だな…」


「馬車が沢山ですね…」


荷馬車が次から次へと通り過ぎていく。


門前にはずらりと荷馬車が止まり出入口の兵士はてんやわんやな様子。


「いつもこんな感じなのか?」


「農作物の搬入が行えない冬は静かですよ。今は冬に備える為の最後の追い込み…といった所でしょうか。」


「少しでも多く稼いでおきたいって感じか。」


「お?!マコト達じゃねぇか?!」


「ギャンボ?!」


「ぶっはっは!!無事だった様だな!」


「それより結婚してることなんで言わねぇんだよ?!」


「あれ?言ってなかったか?」


「言ってねぇよ!」


「ぶっはっは!!まぁそんなこたぁ良いだろ!それより今日はどうしたんだ?」


「ちょっと農村区域に用事があってな。」


「へぇ。なんか手伝うか?」


「いや。大丈夫だ。ただの人探しだからな。」


「そうか。困った事があったらいつでも来いよ!また皆仕事を始めたからな!」


「おぅ!ありがとな!」


「ぶっはっは!!」


豪快に笑いながら去っていくギャンボ。


「相変わらず声でけぇぜ。」


「だな。」


「あ!返して!」


「うるせぇ!!」


「きゃっ!」


「なんの騒ぎだ?」


「ひったくりみたいですね。」


「ドワーフの街でか?」


「ひったくり自身もドワーフなら関係ないんじゃないか?」


「あぁ。確かに。」


「誰か!お願いします!」


農村の出なのかあまりいい格好とは言えない女性ドワーフが涙ながらに訴えている。


「捕まるかよ!」


スイスイと人並みを縫うように走り抜けていくひったくり。


「健。」


「はいよ!」


そのひったくりの二倍以上のスピードで人並みを縫うように走り抜けていく健。


「な、なんだあいつは?!」


「大人しく捕まっとけ!」


「ぐっ!」


見事にひったくりを取り押さえる健。

盗んだのは手から下げていたバッグみたいだが…農民のバッグなんてそれ程旨味があるとは思えないが。


「くそっ!離せ!」


「離したら逃げるだろ?」


直ぐに門前にいた兵士達が来る。


「御協力ありがとうございます!」


「あぁ。」


「ほら!行くぞ!」


「くそー!」


サクッと連れていかれるひったくり。


「あ、あの!ありがとうございます!」


「はい。もう簡単に盗られないように気をつけるんだぞ?」


「はい!!ありがとうございます!」


「じゃあな。」


「あ!あの!」


「ん?」


「その…」


健を前に顔を真っ赤にして俯いているドワーフ女性。

長い黒髪を三つ編みにしてパッチリした目。

綺麗というよりは可愛らしいタイプの女性だ。

格好を見れば農民という事は分かるが、みすぼらしいイメージはまったく受けない。


「お名前を伺ってもよろしいですか?!」


「え?俺のか?」


「はい!」


「俺は健。新谷 健だ。あ、新谷が名字で健が名前な。」


「ケン…様…

私はフェルって言います!宜しかったらお礼に何か!」


「大丈夫大丈夫。気にしないでくれ。」


「どうしたんだ?」


「あ、真琴様。

こちらはフェル。この人は俺の主、真琴様だ。」


「主様?!」


「あー。そんな構えなくていいよ。ただの契約みたいなもので実際健とは友達みたいなもんだから。」


「え?」


「真琴様は変わった人だからな。」


「失礼な!」


「いや、変わってはいるだろ。」


「そう…なのか…?!」


「気付いてなかったの…か?!」


「誰が変。ですか?」


「え?!あー…いやー…はははー…」


「筋肉バカ!」


「ひぇーー!!」


「ま、こんな感じだ。追いかけてるのは凛。こっちはリーシャ。そんで今はいないけどプリネラ。その五人でパーティ組んでる冒険者だ。

あ、因みに、あいつら仲良く見えるけど姉弟みたいなもんだから安心して。」


「え?!」


「あれ?健が気になってるんだろ?」


「そそそそそそそんな事は?!」


一気に赤くなった顔を必死に横に振る。


「ま、参考までにね。

それより…」


「あ!はい!助けて頂いたので何かお返しをと…」


「お返し?気にしなくて大丈夫…と言いたいが…」


健を見てフェルを見る。

少しくらいは良いか。


「分かった。荷物がバッグだけって所を見ると帰りだよな?村まで馬車に乗せてくれないか?」


「馬車にですか?」


「俺達今から農村区域に行こうと思っててさ。歩いて行こうと思ってたんだがもし馬車に乗せてくれるなら助かるなってさ。」


「はい!」


「ありがと。おーい!その辺にして行くぞー!」


「真琴様ー!助けてくれー!」


「真琴様。そいつは一度徹底的に搾り上げるべきと考えますが。」


「ひぇーー!?」


「まぁまぁ。抑えて抑えて。」


「次はありませんよ。」


首が飛んでいくんじゃないかと思う程に必死に縦に振る健。


「それよりこちらのフェルさんがお礼に村まで馬車の荷台に乗せてくれるらしい。お言葉に甘える事にしたからよろしくな。」


「フェルです!よろしくお願いします!」


「私達がよろしくお願いする方ですが…よろしくお願いしますね。フェルさん。」


「はい!」


「私はリーシャです。よろしくお願いします。」


「あ…えと…はい!よろしくお願いします!」


「あー…そうか。リーシャって一応奴隷だもんな。気にするな…ってのも無理な話かもしれないけど、リーシャは訳あって枷を外せないだけで、奴隷じゃなくて仲間だから。」


「そうなんですか?」


「私は別に奴隷で構わないのですが…」


「ふ、不思議な関係なんですね?」


「ドワーフの方から見ると確かにそうかもしれませんね…」


「ドワーフとエルフって仲悪いんだっけ?」


「はい。昔からの因縁みたいな物ですけど…」


「私は農民なので偏見は無いですよ!嫌っているのは貴族の人達だけですから!」


「ありがとうございます。」


「そそそそんな!頭を上げてください!」


「ふふ。フェルさんも奴隷に気を使うなんて不思議な方ですね?」


「え?!そうなんですか?!」


「仲良くなれそうだな?」


「はい!とっても素敵な方です!」


「す、すてっ?!」


「可愛らしい方ですね。」


「か、かわっ?!」


「健はどう思うんだ?」


「俺?んー…まぁ普通に可愛いと思うけど。」


「…………ボンッ!

きゅー……」


「フェルさん!?」


刺激が強過ぎたのか目を回してしまった。


ちょっとやり過ぎたかも……まぁ良いか!


「ご、ごめんなさい!」


すぐに気がついたフェルさんは謝り倒してきた。


「大丈夫ですよ。悪いのは真琴様ですから。」


「うむ。否定はせん!」


「開き直ってどうするんですか。」


「いや、すまんかった。良かれと思って…」


「いえ!その…ありがとうございます…」


顔を真っ赤にしてはいるが取り敢えず大丈夫そうだ。


「さてと。そろそろ行きますか!フェルさんお願いします!」


「任せて下さい!」


フェルさんの馬車に乗り込むとゆっくりと馬車が進み始める。


「ここのところ忙しかったのでたまにはいい物ですね。」


「だなぁ。」


ガラガラと木の車輪が鳴り、風が草木を揺らす。


「~~~♪」


馬車の前からフェルさんの歌声が聴こえてくる。

口ずさむ程度の声が風の切れ間に微かに聴こえる。


「美しい歌ですね。」


「え?!あっ!」


後ろから見ていても分かるくらい顔が赤くなっていく。無意識に口ずさんでいたらしい。


「村の歌ですか?」


「…はい。収穫祭等の宴の席で必ず歌われる歌です。下手な歌で気分を悪くしてしまっていたらごめんなさい。」


「そんな事ないですよ?!凄く心地よくて聞き入ってしまいました。」


「お恥ずかしい…」


「実りを喜ぶ歌…ですか?聞いた事の無い言葉だった気がしましたが。」


「私達の村に昔から伝わる古い言語です。昔の人はこの言葉で話をしていたそうなんですが、今では誰も喋る事が出来ません。ただ、この歌の意味だけは受け継がれているんですよ。」


「どんな事を言ってるんだ?」


「簡単に言ってしまえば、今年も実りを下さった実りの精霊様に感謝を送っているのです。」


「へぇ。実りの精霊ね?」


「私達の村では精霊様が実りの時期に来て下さって、実りの風を吹いて下さる事で食物が育つのだと教わります。」


「私達の村、って事は他では違うのか?」


「多少違いはありますが、基本的には精霊様のお力という点では一緒ですね。」


「へぇー………」


「あ、真琴様また何か考えてますね。」


「え?!」


「真琴様のその嬉しそうな顔を見ればすぐ分かります。」


「俺そんなに嬉しそうな顔してたか?!」


「いやー…俺には分からんかったな。」


「私にも分かりませんでしたが…」


「え?!そうですか?!凄く分かりやすいと思うのですが…」


「昔から凛だけには嘘ついてもすぐバレるんだよなー…」


「まぁ凛は真琴様マニアだからな。」


「はい。」


「真面目な顔で肯定するの止めようね?!」


「??」


「え?なんで?って顔やめなさい。」


「ですが、本当の事ですし。」


「ふふふ、皆さん本当に仲がよろしいのですね?」


「あ、これは失礼。内輪な話をしてしまって…」


「いえ!聞いていて凄く楽しくて嬉しい気持ちになりますよ!」


「それは良かった…?!」


「どうかされました?」


「モンスターみたいだ。」


「え?!どこですか?!」


「いや、まだ距離があるから大丈夫だが…少し急ごうか。」


「はい!」


今までゆっくりと歩いていた馬が走り始める。


「あまりこの道にはモンスターが出てこないはずなんですけど…」


「そんなに強くはないモンスターだと思うから十分対処は出来るとは思うが…女性一人じゃ少し危ないな。フェルさんに着いてきて良かったよ。」


「?!」


「寄ってきたな。フェルさん!馬車を止めて荷台に隠れて!」


「は、はい!」


ガサガサと草を揺らして出てきたのはグリーンウルフ。

前にも戦った事があるDランクのモンスターだ。

Bランクの冒険者なら簡単に倒せるモンスターだが、農民にとっては十分驚異。


「全部で八匹ですか?」


「あぁ。目の前の五匹と草むらの中に三匹だな。」


「今回はフェルさんもいるからさっさと片付けるそぞ。」


「「「はい!」」」


正直リーシャ一人で対処出来る程度のモンスターだが、もしもの事があっては困るため全員で直ぐに対処した。


「み、皆さんお強いですね…」


「これでも一応冒険者だからな。それよりグリーンウルフは割とこの辺りにいるモンスターなのか?」


「そうですね。よくあること…とまでは言いませんが、何度か被害にあったという話は聞いた事があります。」


「ならなんで護衛も付けずに街まで?」


「私の村は小さな村でして…」


「小さな村とはいえフェルを護ってくれる様な奴くらいいるだろ?」


「………その…私は……忌み子なんです。」


「忌み子?」


「……はい。」


フェルが三つ編みをといて波打つ髪を下ろしてみせる。

黒髪だと思っていたフェルの髪は、首元の内側の髪の色だけ白くなっている。

上手く白い部分を隠して三つ編みにする事で隠していたらしい。


「………」


「へぇ。面白いな。」


「え?!それだけですか?!」


「え?なんかおかしかった?」


「あー。真琴様はまだ知らんか。」


「この様に髪の内側のみが白くなる方を、デリフニーカと呼びます。」


「デリフニーカ?」


「はい。デリフニーカの方は魔力の質が違うらしく魔法を行使した際に魔法が暴走しやすいのです。」


「魔力の質が違う?」


「と言われています。実際の所はよく分かっておりません。そしてよく分かっていないというのは…」


「恐怖と嫌悪の対象になる。という事か…それで忌み子。」


「……」


「そりゃ大変な人生だったなー。」


「ですね。私達に負けず劣らず。かもしれませんね。」


「俺達も相当酷いもんだけどな!」


「あ、あの……気持ち悪く…無い……ですか?」


「え?なんで?」


「その…忌み子ですから…」


「あー…言っちゃえば俺も似たようなもんだからなー。全然気にならないが。健は気になるか?」


「ならんだろ。そもそも俺魔力ねぇからよく分からんし。」


「魔力が…?!」


「ん?あぁ。言ってなかったか。俺は魔力が無くてな。」


「そんな…」


「あー。大丈夫。真琴様に助けられてから全く気にしなくなったから。」


「……皆さんお強いですね…私なんか…泣いて逃げてばかりで…」


拳を強く握り下を向いてしまうフェル。


「え?!いやー、強くは無いぞ。強くありたいとは思うけどな。」


「そうですね。この男はゴミですから。」


「そこまで言いますか?!酷くはありませんか?!俺も一人の人間ですよ?!」


「ありませんね。」


「なぜだぁー!」


「おいおい。話が逸れてるぞ。」


「あ、そうだったな。つまり、別に強い弱いじゃなくて、自分が信じる何かを見つければ何を言われても気にならない。って事。」


「信じる…何か…」


「俺の場合は真琴様だ。他の人にどう思われても関係ない。」


「……」


「フェルにそんな人や物とか無いのか?」


「私にとって大切な……

父と母。です。」


「いるなら後は簡単だ。その二人を失望させない生き方をすりゃ良い。他の奴らの言葉なんてどうでもいいだろ?」


「………ふふっ。

何か…何かスッキリしました!」


「おぅ!」


「話は戻っちゃうが、その忌み子って事で誰も着いてきてくれなかったって事か?」


「はい…」


「ご両親は?」


「父が体調を崩してしまっていて…本当は体調が治ってから三人で行こうと言っていたのですが、農作物は収穫してから日が経つ程悪くなりますので。」


「自分一人で行くと言ったわけか。」


「はい。街ではまだこの髪の事は知られていませんので。

それに、モンスターに襲われるというのも本当に稀な事ですので。」


「なるほどね。その稀な事が今回起きちゃったって事か。」


「そ、そうだった!助けて頂いてありがとうございます!」


「え?あぁ。その事なら別に気にしなくて良いよ。これもある意味仕事のうちだしな。」


「モンスター討伐だからな。」


「でも…」


「気にしなくて良いよ。」


「……ありがとうございます!」


「よし。先を急ごうか。」


「はい!」


再度馬車に乗ってゆっくりと進む。

村にはあと少しで着くらしい。


「真琴様…」


「ん?」


「先程のデリフニーカの話なのですが…」


「凛は何か知ってるのか?」


「私…というよりは真琴様が…ですが。」


「俺?って事は昔の俺か。」


「あの髪を持つ人は特殊な力を持っていると仰っていました。」


「特殊な力?」


「はい。一般には知られていませんが、精霊を召喚しその力を借りて魔法を行使する事のできる召喚士。と。」


「……精霊…本当にいるんだな。」


「それが広く知られてしまうと、特殊な力故に利用する為にまた違う意味での犠牲者が増えるので喋ってはいけないと。」


「健やプリネラも知ってるってことか?」


「はい。」


「そっか。分かった。詳しく聞かせてくれないか?」


「私もそこまで詳しく聞いてはいませんが…

真琴様の話をそのままお伝えすると、この世界とは少しだけズレた世界に住んでいる種族が精霊であり、魔力の塊の様な存在らしいです。

そして、その精霊を呼び出すためには特殊な魔力が必要であり、その魔力は首の後ろから放出されるとの事です。」


「その影響で白くなるのか?」


「真琴様はそう考えておられました。

そしてその魔力を使って精霊を呼び出します。

この時に使う魔力は精霊が好む魔力でそれを精霊に与えた代わりに精霊の魔力を受け取り、その魔力によって強力な魔法を行使する事が出来る。という話でした。」


「強力って言うとどれくらいなんだ?」


「第六位程度の魔法は使えるだろうと。」


「となるとかなり強力だよな?」


「はい。上級のハスラーと呼ばれるに値するものですね。」


「……」


「恐らくフェルさんも召喚士の素質があると思います。」


「話すかはかなり迷う所だな。」


「国としての戦力と考えてしまえば…」


「あのテイキビ王がそんな簡単にフェルを利用しようとは考えないとは思うが…」


「少なくとも他の国に渡らないように軟禁くらいはするでしょう。」


「他の国に渡れば国を脅かす可能性も大きいからな…話さずにこのままの方が幸せなのかもしれないな…」


「判断はお任せします。」


「分かった。ありかとな。」


「いえ。」


フェルは楽しそうに馬車を走らせている。

話せば自分が何故こんな事になっているのかが分かる。

しかし分かってしまえばその知らなければ背負わずに済んだ重荷を背負う事になる。


「見えてきましたよ!」


「あれがフェルの村か。」


「はい!ようこそ!キリビヌ村へ!」


キリビヌ村は本当に小さな村だった。


恐らく住んでいるのは多くても30人程度。想像よりしっかりした建物の多い村だ。

村の面積のほとんどは畑になっていて収穫の終わった畑は少し寂しく見える。

フェルの話からかなり嫌な対応を村の人達から受けているのかと思っていたが、村の人達の対応は見た目には普通に見えた。

しかし同じ様に忌み嫌われていた俺達にはその目の奥に潜む暗く重い嫌悪という感情が見て取れた。

これに気付いてしまうと、直接面と向かって言われるよりよっぽどキツい。

口では良い事を言っているようでその実心の中では嫌悪している事が分かるからだ。

人を信用する事が出来なくなると後はずっと暗いところへと落ちていくしかない。それなのにフェルは照れ屋で明るい性格。両親に助けられたのだろう。俺も……いや、考えるのはやめておこう。


「母さん!父さん!ただいまー!」


「おかえりフェル。あら?お客様?」


「えぇ!街でバッグを盗まれちゃって、取り返してくれたの。それに来る途中でグリーンウルフに襲われて…」

「大丈夫だったの?!」


「皆さんが倒してくれたから怪我一つ無かったわ!」


「本当にありがとうございます!うちの娘がお世話になってしまって!」


「いえいえ。代わりにここまで馬車に乗せていただいたので。」


「それだけではお返しにはなりません。今日はもう日が暮れますので良かったらうちに泊まっていってください。」


「え?いや、でも…」


「ほら!フェル!何やってるの!早く荷物をお持ちして!」


「あ!はい!」


「あー…じゃあお言葉に甘えさせて頂きます。」


「えぇ!」


フェルのお母さんはフェルによく似ていて、長くウェーブのかかった黒髪。エプロン姿だがドワーフで背丈が小さいので何故か可愛く見えてしまう。


「父さんは大丈夫?」


「今日は少し調子が良くてご飯を食べられたわ。」


「そっか…父さんにただいま言ってくるね!」


フェルが奥の部屋に入っていく。


「ごめんなさいね。あの人調子が良くなくて…本当は挨拶の一つくらいするべきなのに…」


「病気だと聞きましたが…」


「えぇ。ここのところ調子があまり良くなかったのだけれど、畑仕事は出来るくらいだったの。それがつい最近になって悪化したらしくてね…」


「寝たきりなんですか?」


「えぇ…」


「失礼ですが…どのような御病気で?」


「それが分からないのよ…フェルにはただの風邪だと言ってあるのですが…」


「………専門的な知識はありませんが…少しだけ見せてもらってもよろしいですか?」


「え?!」


「あ、期待はしないで下さい。私達は冒険者なのでもしかしたら何か心当たりがあるかもと。」


「是非宜しくお願いします!医者はまったく検討がつかないと…」


「分かりました。凛。少し手伝ってくれるか?」


「もちろんです。」


俺は凛を連れてフェルの入っていった部屋をノックする。


コンコン


「母さん?」


「真琴だ。開けても良いか?」


「あ、はい。どうぞ。」


ガチャ


「どうされました?」


「少しお父さんの様子を見せてもらいにね。」


「ただの風邪ですよ?」


「分かってる。風邪に効く薬があるんだけど状態を見ないと使えるか分からなくてさ。少し見せてもらうよ。」


「そうなんですね!ありがとうございます!」


「こんにちは。真琴と言います。」


ベッドに横たわる男性ドワーフはやつれた顔で力無く笑う。


「フェルから聞きました。あの子を助けて頂いてありがとうございます。」


「いえ。」


「横になっていては申し訳ないですが…」


「気にしないで下さい。お身体の調子が良くないことは聞いています。」


「……フェル。お父さんは大丈夫だからお母さんを手伝ってきなさい。」


「え?うん。分かった!」


ガチャ


「ただの風邪じゃない事…あいつに聞いたんですよね。」


「はい。」


「違っていたら失礼ですが…見たところ医者には見えませんが…」


「私達は冒険者をやっています。色々なモンスターとの戦闘で得た知識の中に同じ様な症状が無いか見てみようかと。」


「なるほど…

それで、どうでしょうか。」


「………」


「ハッキリ言ってください。」


「恐らくお父さんの体調は良くなります。」


「本当ですか?!」


「はい。ただ…」


「ただ、なんですか?」


「その為には暫くフェルと離れて暮らす必要があるかと思います。」


「ど、どう言うことでしょうか…?」


「……お父さんの体調の悪さの原因はフェルの持つ魔力の影響だと思います。」


「フェルの…魔力…?」


「お父さんの症状は魔力酔いに近い状態だと思います。」


「あの子の魔力が多すぎるという事ですか?それならば医者が気付かないはずが…」


「少し違います。ただ説明するにはその様な考え方が一番分かりやすいかと。」


「それなら私はフェルと住むことが出来ないのでしょうか…?」


「……暫くの間は。」


「暫くというのはどれくらいでしょうか?!」


「分かりません。お父さんの体内からその魔力が抜けきるまでです。」


「そんな…」


「お父さんの体はその魔力に対する感応性が非常に高いんです。今から俺とこの凛でその魔力をお父さんの体から引き抜きますが、半分くらいしか抜き取れません。それ以上はお父さんの魔力と絡み合ってしまっているので。」


「抜き取れたら元気になるんじゃ…?」


「確かに楽にはなりますが、フェルと共に居ればまたその魔力が溜まっていきます。」


「そんな…」


「直ぐに溜まるということでは無いので、暫く考えてみて下さい。」


「わ、分かりました…」


「凛。」


「はい。」


俺と凛は杖を振りお父さんの中にある、召喚士としての魔力を取り除く。


人の体から魔力を抜き取る事は基本的に不可能。だが、フェルから注がれたこの特殊な魔力は後から入った物だから抜き取る事が出来る。

しかしお父さんの魔力と絡み合ってしまった分までは抜き取る事が出来ない。今日は体調が良かった…というのはフェルがいなかったからだ。


「終わりました。」


「本当に…体が軽くなりました。」


「はい。数日は以前と同じ様に過ごせるはずです。」


「ありがとうございます。」


「いえ。」


暗い顔は仕方ない。フェルと暮らせないと言う話は残っているのだから。


解決策は他にも無くはないのだが、それにはフェルを含めて召喚士の事を話さなくてはならなくなる。

話をしたところで俺達がしてやれる事は多くはない。責任も取れないのに話をしてしまえばこの家族を壊してしまいかねない。


ガチャ…


「フェル。」


「父さん?!起きてきて大丈夫なの?!」


「あなた!?」


「この人達が治してくれてな。少し元気になったから。」


「良かった!本当に!

ありがとうございます!ありがとうございます!!」


「か、母さん?泣いてるの?」


「そ、そんな事ないわ。大丈夫よ。」


「??」


「それよりフェル。確か裏の倉庫にあれがあったろ。」


「あれ…?あぁ!あれね!」


「探して持ってきてくれないか?」


「うん!分かった!」


フェルが出ていくとお父さんが椅子に座りお母さんを横に座らせる。


「ど、どうしたのよ?」


「聞いてくれ。」


お父さんは先程の話をお母さんに伝えた。


「そ、そんな…なんとか…なんとかならないんですか?!あんまりです!!」


「やめろ。」


「でもあなた!」


「俺を今元気にして下さっただけでも有難いことなんだぞ。この方達に無理を言ってはいけない。」


「そんな………」


「すみません。」


「いえ。少し席を外しますね。」


暫く二人にしてあげよう。

外に出ると家の裏からガサゴソと音が聞こえてくる。


「真琴様。話さないのか?」


「………」


「どう言うことですか?」


「そっか。リーシャは知らなかったか…フェルは召喚士としての素質を持ってるんだ。」


「召喚士…?」


「あぁ。」


健がリーシャに説明する。


「え?!それなら話をしてあげた方が良いのでは?!」


「言ったろ。国にとっての武器になるんだ。もしバレたらどうやって利用されるか分かったもんじゃない。話した事で危険に晒す事になるかもしれないんだよ。」


「……」


「それに、話すならそれなりの責任が出てくる。それが出来ないなら無責任に話をするべきじゃないだろ。」


「はい…」


「リーシャの考え方が間違ってるわけじゃないけどな。俺達も俺達で危ない橋を渡ってるってことを考えたら無責任な事は出来ないだろ?」


「仰る通りです。考えが甘かったです…」


「まぁ諦めずに解決策を探してはみるけどな。」


「…はい!」


「あれ?どうしたんですか?外なんかで?」


「フェル。ちょっと村の様子を見てみたくてな。」


「畑以外何も無い所ですよ?見てても面白い物は何もありませんよ?」


「そんな事もないけど…それより手に持ってるのはなんだ?」


「これですか?これは自家製の果実酒です!」


「果実酒?」


「はい!美味しいですよー!」


「それは楽しみだな。」


日本では未成年の飲酒は固く禁止されています。飲んじゃダメだよ!

フェルと一緒に家に戻ると既に二人は落ち着いた様子だった。


「父さん!持ってきたよ!」


「おう!ありがとな!」


「それより、体調少し良くなったからってこんなの飲んで大丈夫なの?」


「何言ってんだ!それが最高の薬なんだよ!」


「えー?母さん!父さんあんなこと言ってるよ?」


「まったく…仕方の無い人ね。」


「母さんはいつもそうやって言うだけだもんなー。」


「止める時は止めるわよ?」


「ふーん。」


「はははっ。仲がよろしいですね。」


「あっ。これはお恥ずかしいところを…」


「そんなことありませんよ。素敵です。」


「ありがとうございます…

フェル。手伝って?」


「はーい!」


フェル達家族は本当に仲が良く、料理をしているだけでもそれがよく分かる。

お父さんはたまに遠い目をしている。出来ることならばこの家族を壊したくは無いものだが…


「ふぉー!美味かったー!」


「この果実酒も美味しかったですね。」


「お口に合って良かったです。」


「そういえば皆さんはなんでこんな所に?」


「あー。ちょっと人を探しててな。」


「人探しですか?」


「Sランク冒険者のジャッドというエルフなんですけど。」


「名前までは分かりませんが、冒険者の一団がつい先日この村の奥に広がるキリビヌ大平原の方へ向かっていくのを見かけましたよ。

確かその中にエルフの方もいらしたような…」


「本当ですか?!」


「はい。こんな所に冒険者の方々が来るのは珍しいのでよく覚えています。」


「これは思わぬ所で情報が手に入ったな。」


「キリビヌ大平原へ向かわれるのですか?」


「その人に会う必要がありましてね。」


「そうですか…お気をつけ下さいね。キリビヌ大平原はモンスターが数多く生息していますので。」


「母さん。大丈夫だよ。皆さんすっごく強いんだから!」


「ありがとうございます。気を付けます。」


それからフェルの御要望によって冒険話を聞かせることになった。


冒険話と言ってもそんなに色々な場所を巡っていないし大した話は出来ないのだが、どんな話でも目をキラキラさせて聞き入ってくれるフェルを見ると色々な話をしたくなってしまう。


「こーら。フェル。そろそろ寝なさい。」


「えー!もう少しだけー!」


「皆さんもお疲れなんだから。ほら。」


「ちぇー。」


「すいませんね。あの子冒険話が昔から大好きでして。」


「そうなんですか?」


「旦那が昔冒険者でして、小さな頃から色々な話を聞かせていたら…あんな風になってしまいました。」


「憧れですか。」


「冒険者になりたいとは思っていないみたいですけど…」


「お母さんとしては気が気じゃないですね。」


「大事な一人娘なので…」


「…」


「本当に今日はありがとうございました。」


「頭を上げてください!俺達の方こそ色々とお世話になってしまって。ありがとうございます。」


「先程あの人とも話をして、少し考えてみるつもりです。」


「そうですか…」


「そんなに暗い顔をしないで下さい。娘と旦那を救って頂いて、本当に感謝しています。」


「いえ……」


「明日は大平原へ向かわれるのですよね?それなら……あった。これをお持ちになって下さい。」


「これは?」


「昔からこの村に伝わるお守りみたいな物です。」


お母さんが渡してくれたのは白い糸で編み込んだ親指くらいの人形だ。


「ありがとうございます。」


「その人形は旅に出る人に渡すと何かがあった時に身代わりになってくれると言われています。」


「それは心強いですね。大切にします。」


「さぁ。疲れたでしょう。部屋を用意してありますので使って下さい。」


「ありがとうございます。」


部屋に入ると直ぐにプリネラが姿を現す。


「すまないな。」


「私の役目ですから気にしないで下さい。それに、時折料理や果実酒をくれたじゃないですか。」


「本当は皆で座って飲み食いしたいじゃないか。」


「それで真琴様が襲われてしまったら私は自分を自分で許せないですよ。」


「……ありがとな。」


「えへへー。」


「また頭撫でて…ずるいです!」


「さ、寝るかー。」


「真琴様!!」


「頭を押し付けてくるなよー。」


「ずるいずるいずるいずるいずるい!」


「分かった分かった!」


そんな事をやっているといつの間にか眠気が襲ってきて眠ってしまう。

思っていたより果実酒が効いたらしい。

明日は大平原へ向かってジャッドに会わなければならない。この家族の事を助けてあげたいのは山々だけど…難しい……


「ん………」


意識が浮上してくる。


朝になったらしい。それは良いのだが……何故か体中が重たい。

飲み過ぎたかな…?


「…………な、なんだこれは…」


左手に凛。右手にリーシャ。そして胸の上にプリネラが乗っている。


「………」


「すー……すー……」


一定のリズムで寝息をたて、何故かしがみつかれている。


「よし。全員無呼吸症候群じゃないな。

って違うわー!!」


「んん……おはようございます。真琴様。」


「うん。おはよう。皆さん。」


「よく眠れましたか?」


「いや、まず皆さんどきましょうか。」


「お着替えの邪魔ですね。分かりました。」


「違うんだ…大きな間違いがその前にあるんだよ…

それより、なんでこいつはこの騒ぎの中未だ寝てるんだ?」


「プリネラさんはさっき寝たところですので。」


「あぁ。一晩中警戒しててくれたのか…

ん?待てよ。それを知ってるって事は…お前達起きてたなー?!」


「さぁ。着替えましょう。」


「えぇ。そうですね。」


「ったく。」


「んー………」


「いつも損な役回りをさせてるからな。こんな時くらい寝かせてやるか。」


ドゴッ

「ふべっ!!」


聞いた事の無い音が聞こえてきた。


凛が健を起こしたらしい。


「いつまで寝ているつもりですか?死にますか?」


「お、おはようござい…ます……」


「死にましたね。」


「死んでないわ!ってか寝てる奴の腹を踏むな!」


「邪魔でしたので。」


「それが当たり前でしょ?みたいな顔しても当たり前じゃないからな?!」


プリネラは寝かせておいて俺達は準備を始める。


「おはようございます。」


「おはようございます。」


「今日はすぐに?」


「はい。」


「朝食をお作りしましたので食べていってください。」


「昨日に続いてありがとうございます。フェルの姿が見えませんが…?」


「あ、おはようございます!」


「フェル。おはよう。」


「あ、あの………」


「ん?」


「これ!」


「俺にか?」


「はい!」


「これは…昨日お母さんから頂いた人形?」


「ちょっと色が違うな。赤と白だな。」


「器用だなー。」


「貰ってあげて下さい。この子、昨日から頑張って作っていたので。」


「母さんは黙ってて!」


「はいはい。」


「せっかく作ってくれたんだからもちろん頂いていくよ。ありがとな。」


「はい!あの…気を付けて下さいね。ケンさん。」


「このお守りがあれば大丈夫なんだろ?余裕だぜ!」


「…はい!」


「なぁ凛。あれって他の意味も含まれた人形っぽいよな?」


「糸の色によって意味があるのでしょうね。」


「健の奴も隅に置けないなー。」


「あのバカでは気付けないと思いますよ。それに、何故あんな奴に…?」


「そうか?向こうでは結構モテてたぞ?色んな子に告白されてたしな。」


「そうだったんですか?!」


「知らなかったのか?」


「はい…。正直驚きました。

あの…」


「ん?」


「真琴様は…?」


「俺か?無い無い。俺に告白するような変わり者なんているわけないだろ?」


「そうですか…。」


「なんで嬉しそうなんだよ。」


「いえ。なんでもありません。」


朝食を終えると直ぐに村を出る。


「お気を付けてー!」


「ありがとうございましたー!」


フェル達の見送りを貰って目的のキリビヌ大平原へと向かう。

少し距離があるが遠いという程でもない。昼前には大平原へと入る事が出来た。


「大平原って言うだけあって延々と草原が続いてんのな。」


「この中から探せって言われても…難しいよな。」


「それはジャッド達も同じだろ?なんか目印的な物があるんじゃないのか?」


「………まったく見当たらないが?」


「………見当たらないな。」


「マコト様ーー!!うぶう!」


「直ぐに抱きつこうとしないで下さい。」


「あ、姉様……流石です……」


「それより、どうした?」


「あ、はい!この先に野営の跡がありました!」


「どっちだ?」


「あっちの方です!」


「助かるよ。」


プリネラから聞いた通り少し先に行くと野営の跡が残っていた。


「4人いたみたいだな。」


「ジャッド達だろうな。どっちに向かったんだ?」


「東だな。草原をずっと行ってる。」


「後を追うか。」


草をかき分けた跡を辿って進んでいくと、平原のど真ん中に大きな穴があいている。


「これか?」


「みたいだな。この下に降りて行ってるな。」


地面の下へと続いている穴には装飾と呼べる物は一切無く、螺旋状に足場となる部分があるだけ。

数メートルも降ればその先は暗闇になっている。


「ダンジョンって言うよりでっけぇ縦穴だな。」


「ここで間違いないのか?」


「4人の足跡が下に続いている。間違いないだろうな。どうする?ここで待つか?」


「……」


「マコト様…」


「どうした?リーシャ。」


「ハッキリとは感じ取れませんが、奥から魔力の反応があります。」


「戦闘してるのか?」


「恐らく。」


「……プリネラ。」


「はい。」


姿を隠していたプリネラが瞬時に傍に現れる。


「ここから先は一緒に行くぞ。」


「分かりました。」


「健は先頭を頼む。凛は明かりを頼む。」


「はい。」


「戦闘しているとなると助けが必要な状況にあるかもしれない。下に降りる。何が出るか分からないからな…気を付けて進むぞ。」


一列になって縦穴を下へと降っていく。

直ぐに地上の光は届かなくなる。


下へと降っていくが、モンスターは全く現れず遂には底まで辿り着く。

上を見上げるとかなりの距離を降りてきた事が分かる。


「道は一つしかありませんね。」


「横穴か…

どうやらここからが本番らしいな。」


ヒタヒタと足音が聞こえてくる。


凛の明かりによって見えたのはストーンリザード。

Cランクのモンスターで2m程のトカゲだ。

魔力で強化された岩を体表に纏い、防御力が高い四足のモンスター。舌をチロチロと出し入れし、黄色い瞳でこちらを見ている。

硬い体表に加えて機動力のある速い動きが特徴的なモンスターだ。


ヒタヒタ


「ストーンリザードが四体か。厄介だな。」


「矢が通りません…」


「リーシャは下がって牽制してくれ。プリネラは健と合わせてくれないか。」


「分かりました!」


「凛。」


「はい。」


「地下で火魔法なんか使ったら酸欠で大変な事になる。他の魔法でいくぞ。」


「はい!」


「プリネラ!刃は通るか?!」


「魔法を纏わせればなんとか通ります!」


「よし!俺と凛で動きを止める!その間に健と一緒に仕留めてくれ!」


「分かりました!」


「ウッドバインド!」


凛の発動したウッドバインドで一匹のストーンリザードが足を止める。

二匹を狙った様だが一匹は逃がしたらしい。


「一匹逃がしました!」


「任せろ!」


ウッドバインドで足を止めた一匹をプリネラが確実に仕留める。

俺は杖を振りストーンリザード達を水球に閉じ込める。


「よし!閉じ込めたぞ!」


「おぅ!」


健とプリネラが閉じ込めた内の一匹ずつを仕留める。


「………離れてください!!」


後ろから聞こえたリーシャの叫ぶ様な声で健とプリネラが一気に残りの一匹から距離をとる。


バシュッ


激しい水しぶきと共に飛来する石礫。


「ストーンシールド!」


凛の作り出したストーンシールドで礫は落とされたが、逆にこちらのウォーターバルーンも解除された。


「リーシャ!助かった!」


「はい!あれはストーンリザードの亜種です!」


ストーンリザード亜種。


姿形はほぼ同じだが、先程のように背中にある岩を飛ばしてくる。

亜種もランクとしてはCランクのモンスターだが、礫が当たれば骨折程度で済まない事もある。

背中にあった岩は直ぐに再生される。


「俺が倒すか?」


「そう毎回真琴様にいい所ばかり持ってかれちゃ俺達の立つ瀬が無いっての!凛!」


「ストーンシェル!」


ストーンリザードの周りに生成された岩がストーンリザードを取り囲む。


バキバキッ!


ストーンシェルにヒビが入る。

中で礫を飛ばしたらしい。


「崩れます!」


「一回防げりゃ十分だ!」


ボロボロとヒビが入った場所から崩れ始める。


「させっかよ!

波紋!!」


凛の生成した岩の上からストーンリザードに一撃を叩き込む。

横一文字に走った剣戟によって綺麗に岩ごと真っ二つになるストーンリザード。


「ってか刀って岩切れるのか…?」


「あれは兄様だから出来ることですよ。」


「だよな。俺の常識が間違ってたのかと思ったわ。」


「それにしても最初に出会ったモンスターがCランクってなると結構レベルの高いダンジョンなんじゃないか?」


「深さがどれ程なのか分かりませんが、Aランク以上のモンスターが現れてもおかしくありませんね。」


「結構ヤバいダンジョンだよな。それ。」


「一応ジャッドはSランクの冒険者なんだろ?それなら大丈夫だとは思うけどな。」


「リーシャ。戦闘は続いているのか?」


「はい。動いていませんね。」


「動いていないとなると……急ぐぞ。」


「はい!」


「戦闘の気配は奥からなのか?下からなのか?」


「奥ですね。」


「となるとここは横に移動するとモンスターが強くなっていくタイプのダンジョンだな。」


「そんなダンジョンもあるのか?」


「色んなダンジョンがあるからな。」


「おっと。ここはちょっと広くなってんな。」


まるでくり抜かれたように円柱状に大きな空洞になっている。

天井部分には氷柱の様な岩が垂れ下がっている。


「ここはなんもいないのか?」


「………兄様後ろ!」


咄嗟に転がりながら回避した健の背後から襲ってきたのは黒い人形のモンスター。

黒いモヤモヤした体。頭部には真っ赤な目の様な物が一つある。両腕は大きな鎌の様な形になっていてそれを使って攻撃するらしい。


「どこから湧いてきたんだこいつ?!」


「ランクBのシャドウランナーです!兄様!こいつは不可視化の能力があります!」


「不可視化だって?!」


言ったそばからシャドウランナーの姿は煙のように掻き消えていく。


「マジかよ…」


「姉様!霧を作れますか?!足元だけで良いので!」


「凛は魔力温存しとけ!俺がやる!」


俺は杖を振る。


俺を中心にして霧が広がっていく。

凛は魔力量は多くない。こういう単純に広範囲に対する魔法は消費量が多くて消耗が激しすぎる。

あっという間に足元を埋め尽くした霧。


「プリネラ。次はどうすんだ?」


「待っていて下さい。」


「待つって言ってもよ…?!」


霧の一部分がフワリと動く。


「そう言うことか!」


「不可視化されても実体は消えません!」


「さっきはよくもやってくれたな!おりゃぁあ!」


「兄様をよくもー!」


見えなくとも、二人に位置を知られた時点でシャドウランナーに為す術は無かった。


「Bランクにしちゃ弱かった気がするが…?」


「真琴様の魔法が凄すぎたんですよ。」


「へ?俺?」


「普通あんなに濃い霧を瞬時にこの広範囲に発生させることなんてできませんよ。」


「え?そうなのか?凛が作る霧とそれ程変わらない気がするけど?」


「姉様と比べたらダメですよ。姉様の魔法も十分普通から逸脱してますから。」


「私が変な女みたいに言わないでください。」


「おいおい。それより先行こうぜ。」


「そうだったな。」


更に先へと進む。

横穴を進んでいくと微かに誰かの声が聞こえてくる。


「………だ!」


「……しろよ!」


「怒鳴り声みたいですね。」


「行くぞ!」


「はい!」


声の方へと走っていくと4人の冒険者達がモンスター相手に戦っている最中だった。


「あれは……ミノタウロス…」


「ミノタウロスって確かAランクのモンスターだったよな?」


闘牛が二本足で立ったモンスターと言えば分かりやすいだろうか。

2m程の体長、太く尖った角に青い目。筋肉隆々で見るからに攻撃力の高そうなモンスターだ。

攻撃力はもちろんだが防御力も非常に高い。魔法耐性も高くとにかく一言で言えば強い。

特殊な能力があるわけでもなく単純に強いというのは割と厄介なものだ。手にはさっき天井に見えた氷柱の様な岩の塊を持っている。棍棒の代わりだろう。


しかもそれが三体もいる。


「三体かよ…」


「ジャッド!早くしろや!」


「お前がノロノロしてるからこっちは動けねぇんだよ!」


「早く強化魔法寄越せ!!このクズが!」


記憶にあった長めの茶髪エルフが、人種3人から強く言われている。

と言うより言われたい放題だ。


「パーティ……だよな?」


「だと思ってたんだが…」


「ジャッドってテイキビ唯一のSランク冒険者だよな?」


「そう聞いたが…」


つまり残りのジャッドを罵倒している3人は少なくともAランク以下。


「どうなってんだ?」


「……さぁ?」


様子を見ているが、ジャッドはしっかりと魔法を掛けている。

外から見る限りかなりしっかりした援護をしている様に見える。

むしろ他の3人の方がそれぞれの動きを出来ておらず戦闘が難しくなっているように見える。

ジャッドは何か言われる度に申し訳なさそうな苦笑いを返すだけ。

それにしても…何故かジャッドの動きに違和感の様な物を感じる。


「相変わらずなんか足りてない様な奴だなー。」


健の口振りからすると昔からこんな感じなのだろう。ただ、足りていないと言うよりは……意図的にそんな戦い方にしている様に見える。

一度余分な工程を挟んでから魔法を発動しているような…そんなズレを感じる。


「ブォーー!!」


ドゴッ!!


ミノタウロスの攻撃をまともに受けてしまう前衛一人。


「ぐぁっ!」


着ていた鎧の左腕部分が完全に変形している。


「くそっ!」


もう一人がカバーに入るが、それは良くない動きだ。


ミノタウロスの攻撃を正面から受けてもなんとかなる装備ならまだしも、ただの長剣。健の様な受け流す技術も無いのにミノタウロスの前に立ってしまえば…


ガキィィンという金属の音がすると長剣は真っ二つに折れてその一人は宙を飛び、壁に激突する。

ドチャッという鈍い音がして地面に落ちた男の体から血が滲んでくる。


恐らく即死だろう。


「う、うわぁぁ!!」


戦線が完全に崩壊した。

左腕が使い物にならない短剣使いと残った大剣使いも時間の問題だろう。

助けようとした時、ジャッドの顔を見て気が変わった。

ジャッドの顔は笑顔だった。

まるで子供が親からプレゼントを貰った時のような屈託のない笑顔。

一幕を見ても酷い扱いを受けていた事は分かっていた。俺達の知らない所ではもっと酷い事をされていたのだろう。

でなければあれ程の嬉しそうな顔はなかなか出来ない。


「ジャッドの奴狙ってたのか?」


「いや、多分違うな。」


「3人では倒せない相手に今回初めて当たったのか。」


「……私達エルフは魔法が得意ではありますが、そもそも戦闘ではハスラーは基本的に後衛。前衛がいて初めて機能する存在です。

それ故に国抜けとなり外に出たエルフは…狙われやすいのです。」


「狙われやすい?」


「確かに魔法は強いかもしれませんが、近付かれてしまえば近接戦闘の得意な者には勝てませんので…

容姿が良い者が多い種族で奴隷としての価値が高く、一人でいる国抜けは狙われやすいのです…。

奴隷を免れてもあの様に他の種族から酷い扱いを受ける事がほとんど。ですが、パーティを組まねば戦う事も出来ません。」


「なるほど。だから酷い扱いを受けようと我慢してパーティに入るしかないのか。」


「…はい…」


暗い顔をしているリーシャの頭を撫でてやる。

俺がどうこうできる問題では無いが…少しは気が紛れてくれるとありがたい。

くすぐったそうにしているリーシャの頭から手を放す。


「ダメだなありゃ。」


結局人種3人は直ぐにミノタウロスの餌食となって死んでしまった。


残るはジャッドだけ。


「師匠……」


ジャッドの寂しそうな声が聞こえてくる。死を覚悟でもしているのだろうか?1人でもなんとか出来そうな気もするが…まぁ助けに入るとしますか。

三匹のミノタウロスがジリジリとジャッドに近付いていく。


「よぅジャッド。久しぶりだな。」


「…………え?

ジャイルさん!?」


「今は健だ。こっちは凛。そんで…」


「師匠!!!!」


「あー…今は真琴って名乗ってる。」


「師匠!!!!」


「デジャブ?!」


「おーい。ジャッド。感動してるとこ悪いが先にこのデカブツ倒すぞ。」


「はい!!分かりました!!」


さっきとはまるで声のトーンが違う。余程あのパーティにいる事が嫌だったのだろうか。

話は後にして今は目の前のミノタウロスを何とかしなければ。


「ブォーー!!」


三体のミノタウロスの強力な攻撃が次々と繰り出される。

地面が割れるのでは…と思う程の轟音と衝撃が後衛の俺達まで伝わってくる。

救いはミノタウロスの動きはそれ程速くはないという事だ。

健とプリネラならば気を付けてさえいれば攻撃を貰うことは無いだろう。


「プリネラ!攻撃貰うなよ!」


「はい!」


「バインド系の魔法は破られます!」


「リーシャ!援護してくれ!」


「分かりました!」


「………凄い…やっぱり師匠達は凄い!!!」


「おいジャッド!なにボケっとしてやがる!お前も働け!魔力まだ残ってんだろ!」


「はい!」


「ジャッド!凛と一緒にミノタウロス一体を足止めしろ!ダメージは考えなくていい!」


「分かりました!師匠!」


「健!一体は凛とジャッドに任せてとりあえず一体を片付けるぞ!」


「おぅ!」


「アイスショットを連続して撃ち込むからその間に斬れ!いくぞ!」


俺は杖を振って第二位氷魔法アイスショットを一匹に集中して撃ち込む。

何発か撃ち落とされるが、数で押し切る。


「ブォーー!!」


「真琴様のアイスショットが刺さるだけで貫通しねぇとは…なかなか硬いじゃねぇか。んじゃ俺が斬ってやるよ!」


大上段からの一撃。


「ブォーー!!」


肩口から斜めに入った刀は反対の腰の辺りから抜ける。

斜めに入った傷から血飛沫が上がる。

膝をつくミノタウロスの首に健の刀が刺さる。


「ブォ………」


仰向けに倒れたミノタウロスが完全に息絶える。


「凛!ジャッド!健が相手をしてくれるからプリネラを援護しろ!」


「「はい!」」


「リーシャ!健の方を頼む!」


「分かりました!」


「凛!バインド系で足止めしてくれ!」


「直ぐに破壊されてしまいます!」


「一瞬でいい!アイスバインドで拘束する時間を作ってくれ!」


「分かりました!ウッドバインド!」


「よし!プリネラ!」


「任せて下さい!はぁ!!」


第三位氷魔法アイスバインドは他のバインド系魔法よりも強力だが、拘束までの時間が掛かる。それをウッドバインドで補って貰ったわけだ。


足を完全に凍らせた事によって移動が不可能になったミノタウロス。それでも上半身だけでプリネラに攻撃を仕掛ける。それをジャンプして上に避けたプリネラはそのままミノタウロスの頭上へと飛んでいき脳天に短刀を突き刺す。


「牙突!!」


プリネラの闇魔法が脳天から体内へと流れ込み、口から大量の血を吐き出してぐったりと上半身が力なく垂れる。


手に持っていた岩の塊も地面に落とし絶命する。


「さて。残りは一匹だな。」


「ブォ……」


「覚悟しろよ?」


「ブォ……ブォーー!!!!」


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



「師匠ー!」


「お、おい!」


「こら。ジャッド。そんないきなり来られても記憶が戻ってねぇんだから。真琴様も困るだろ?」


「あ、そうでしたね…」


目付きは鋭いが、性格としてはあまり鋭くなさそうだ。


「詳しい話とかは出てからにするぞ。」


「分かりました。

あ、あの……」


「私は好んでマコト様の奴隷をしているので気にしないでください。」


「好んで…?」


「理解出来ないかもしれませんが私はこれで良いのです。」


「な、なんとなく分かりますよ。

嫌々じゃないのでしたら良かった…」


「真琴様がんな事するわけないだろ。」


「はい!」


「それより、Aランクのモンスターまで出てくるダンジョンだったか。この先に進んだら更に強いモンスターが出てくるのか?」


「いえ。この先にあるのはダンジョンコアだけですね。」


「分かるのか?」


「見てきたんですよ。」


「つまり帰り道だったのか?」


「はい。行きは何も出てこなかったのですが、帰りに突然ミノタウロスが出現しました。」


「逃げれば良かったんじゃ?」


「私はそう言ったのですが…」


「なるほど。そこの三人が無理矢理戦闘を始めたって事か。」


「はい……」


「そんな奴らなら遅かれ早かれどっかで躓いていただろうな。ま、気にすんな。調査は終わったんならモンスターが再出現する前にさっさと出ようぜ。」


健の提案で全員揃って外へと出る。


「うわ。暗くなってるよ…」


「このまま進むのは流石に危険だな。ここで野営して明日移動しよう。」


「分かりました。」


野営の準備にも大分慣れてきた。数分で準備が整い焚き火を囲む様にして座る。

食事を終えて一息ついた所で、やっとジャッドと落ち着いて話を始められた。


「さてと。ジャッドの依頼は片付いたし、次は俺達の目的を果たしますかね。」


「お預かりしていた箱ですよね。」


「じゃあ早速で悪いんだが。」


「はい。」


ジャッドの胸から箱が出てくる。昔の自分が言っていた様に白と黒の箱が現れ、光に包まれる。


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



「あの赤羽の奴らまた来たのか?」


「毎度毎度手を替え品を替え飽きない奴らだなぁ。」


赤い飾り羽の兵士は最初に氷漬けにされてから、何度も何度も俺達の元へと来ていた。

色々と戦略を練って今度こそはと思って来ているのだろうが、正直あまり変わっていない。


「あいつらまた来たのか?!懲りねぇ奴らだなぁ…」


「ギャンボのオヤジさん。またよろしく頼むよ。」


「よっしゃ!任せとけ!」


ギャンボを連れて北門から少し行った所で迎え撃つ。


「今度こそは我らに着いてきてもらうぞ!」


「ほんとおめぇらも懲りねぇなぁ。」


「黙れ!行くぞ!」


「はいよー。」


ギャンボと健がいつもの様に前線で戦い、プリネラを含めた俺達は後ろから援護。

そしていつも通り最後は氷漬けにして終わりにしようと思っていた時だった。


「私もお手伝いします!」


突然どこかからか長めの茶髪に鋭い目付きのエルフが登場した。


「誰だ?」


「俺は見た事ないぞ。」


「俺達も知らない顔だが…」


「うぉぉー!!ぶぁっ!!」


「お、おい…大丈夫なのか?」


「ボコボコにされていますね。」


「冷静に観察してる場合なのか?」


「そう言う真琴様も冷静に観察していますよね。」


「と言うより呆気にとられてる。」


「おいおい!大丈夫か?!引っ込んでろ!」


ギャンボに首根っこを掴まれて放り出される。


「ぐへっ!」


俺の真横に腹で着地したエルフは情けない声を出している。


「…………」


「真琴様?どうかされました?」


「いや。何でもない。」


ほんの僅かな戦闘を見ただけだが、何故かその戦闘に違和感があった。わざと必要の無い工程を挟んでいるような気持ち悪さだ。


「真琴様ー。いつものお願いしまーす。」


「ほいよー。」


いつも通り氷漬けにした事で戦闘は終了する。


「く、くそっ!覚えてろよー!!」


「その状態で凄まれてもなぁ…」


「それよりこのエルフどうすんだ?完全にのびてるぞ。」


「まぁ助けてくれようとしたみたいだしとりあえず連れて行くか。」


「相変わらずお人好しだな真琴様は……よっと。」


「ギャンボも助かったよ。毎回ありがとな。」


「気にすんな!また何かあったら呼んでくれ!」


ギャンボと別れてエルフを街中に連れて行く。というか健が担いでいく。


「ん……」


「お、やっと目を覚ましたか。」


「こ、ここは…?」


「俺達が借りてる宿だ。お前完全にのびてたからな。一先ずここに連れてきたんだよ。」


「も、申し訳ありません!」


「助けようとしてくれたんだろ?ありがとな。」


「お恥ずかしい…」


「名前は?」


「ジャッド。ジャッド-ビーザンと申します。」


「俺はジャイル。こっちはティーシャ。んでプリネラ。俺達三人が仕えているのがこのグラン様だ。」


「仕えて…貴族の方でしたか?!」


「今は違うよ。それに仕えているって言っても皆友達みたいなもんだ。そう強ばらないでくれ。」


「は、はぁ…」


「それより、ジャッドはなんでいきなり飛び込んできたんだ?」


「数人相手にあんなに大勢が寄って集って…見ていたら体が勝手に…」


「根はいい奴なんだろうが…」


「も、申し訳ありません…」


「いや、謝る必要は無いよ。ありがとな。他に怪我は無さそうだし良かったよ。」


「あ、あの!師匠!」


「………師匠?」


「はい!師匠!師匠はどの様にしてその大きな魔力を扱っているのですか?!」


「うん。そもそも師匠ってなんだ?」


「師匠は師匠です!」


「いや、どう見てもガキな俺を師匠は変じゃないか?」


「いえ!年は関係ありません!」


「いやー…関係あるだろ…というかいきなり凄い熱量だな…

それに、大きな魔力って?」


「あまり知られていませんが、実はエルフという種族は他人の魔力量をある程度感覚的に知ることが出来るんです。」


「なんかそんなことフィルリアが言ってた気がするな。」


「私の場合は視覚的に見えるので、師匠の魔力量がどれ程凄いかがよく分かるんです!」


「まぁそれは分かったけど、どう使ってるかって?」


「はい!私もハスラーとして活動しているのですが、どうしても上手く魔力を扱えなくて…たまに暴発してしまう時があるんです…」


「いや、それ割と死活問題だよな。」


「ですから!師匠に教えて頂きたく!」


「それでグラン様を師匠と呼んでるわけか。既に弟子入りして教えてもらう気満々だなおい。」


「はい!」


「なかなか図々しい奴だな。」


「まぁ図々しいのは別に良いんだけど…何故俺?

他にも魔力の使い方が上手い奴なんて沢山いるだろ?」


「私達エルフは扱いがあまり良くないので…

私を見ても、なんの裏表も無くこうして話して頂ける人は初めて出会いました。なので師匠にお願いしたいのです!」


「真琴様は種族とか身分による差別とかは一切無いもんな。気持ちはよく分かるな。」


「……まぁ話は分かった。ただその前に少し二人で話してみても良いか?」


健達は気を利かせて外へ出てくれた。


「まず、なんで弱い振りをしてるんだ?」


「え?!」


「さっきジャッドが戦闘に参加した時違和感があってな。弱い振りしてるだろ?」


「………別に弱い振りをしているわけでは無いんです。私の魔力は普通の人と違うんです。」


「違う?」


「凄く制御が難しいというか…先程も言ったように時として暴発さえしてしまいます。なので、魔法自体の使用を躊躇ってしまうんです。」


「それで俺に魔力の使い方を聞いたのか。」


「はい。」


「でももし本当に魔力が特殊なのだとしたら俺に聞いても仕方が無い気がするが?」


「……」


「……まぁとりあえず見てみるか。」


「見る…ですか?」


「ジャッドが言ってるその特殊な魔力を見せてくれ。」


「どの様にすれば…」


「首に近い部分の髪。その首に掛けてる魔道具で色変えてるだろ。」


「!!」


「テイキビに来て魔道具にも多少詳しくなってな。」


「凄いですね…」


ジャッドが首から魔道具を外す。

すると茶髪だった首周りの髪が白く変わる。


「デリフニーカ。」


「はい。私は忌み子です。」


「それで国を抜けてきたのか。」


「はい…この事を知っている人達の中で生きていくのは…辛いですから。」


「話には聞いていたが…見たのは初めてだな。」


「気持ち悪くは無いのですか?」


「気持ち悪い?何故だ?」


「………いえ。」


「少し見せてもらうぞ。」


「はい。」


「………」


「どうでしょうか?」


「そうだな…見た限り確かに普通の魔力とは違うな。」


「魔力が見えるのですか?」


「魔力感知系の魔法を使ったんだよ。」


「いつ魔法を?!」


「それより、この魔力……」


「何か心当たりがあるのですか?!」


「まだ確かな事は言えない。少し調べてみるから二日後にまたここに来てくれないか?」


「わ、分かりました!よろしくお願いします!」


「あまり期待するなよ。」


「はい!!」


嬉しそうにジャッドは部屋から出ていった。


「なんか嬉しそうな顔して出てったけど…話受けたのか?」


「あー…いや。それとは別の話だよ。それよりちょっと魔法の実験するから外まで行ってくるわ。」


「当然着いていきますからね?」


「あ、ですよね。」


「どの様な実験をするのですか?」


「魔力の性質を変化させる実験。」


「魔力の…性質ですか?属性という事ではないのですか?」


「属性とは全く別物だな。」


「……??」


「凛はデリフニーカって知ってるよな?」


「忌み子と呼ばれる人達ですよね?確か首周りの髪の色が白く変わるとか…」


「フィルリアと一緒に考察してた時に思い付いた事があったんだけどさ。その髪の変色ってのには何か理由があるんじゃないかって。」


「理由ですか?」


「そ。それを確かめに行きたいんだよ。」


「もし変質させることが出来たとして…それが何かに使えるのですか?」


「全く分からない。」


「分からないんですか…?」


「自分で使える様にならないと何に使えるかなんて全く分からん。だから知りたいんだよ。」


「……分かりました。」


「よし!じゃあ行くぞー!」


凛達にジャッドの事を話しても良かったのだが、ジャッド自身は隠したいと思っているだろう。話をするとしてもそれは俺からでは無くジャッド本人からするべきだと考えて隠しておくことにした。


そして約束の日、ジャッドが宿屋に来た。

二人で話し合う事があるという事にして凛達は部屋から出てもらった。


「あ、あの…分かりましたか?!」


「あぁ。分かったぞ。」


「本当ですか?!」


「答えから言ってしまうと、ジャッドの普通とは違う魔力ってのは俺達が普通に使っている魔法と同じ魔法を行使する為に使う物じゃなく、召喚魔法に必要な魔力なんだ。」


「召喚…魔法…ですか?」


「そりゃ聞いた事ないよな。

召喚魔法ってのは精霊とか聖獣と呼ばれる類の生き物を呼び出し、魔力を貰い魔法を行使する為のものだ。」


「精霊ですか?!」


「あぁ。」


「精霊って本当にいるんですね?!」


「いるぞ。この目で見たからな。」


「え?!じゃあ師匠は?!」


「ジャッドに見せてもらった魔力を真似てみたら上手くいったんだ。

ま、ティーシャ達は見てないけどな。どうやら召喚魔法が使える奴にしか見えないらしい。」


「そ、そうだったんですね…」


「つまり、ジャッドは召喚士としての素質がある代わりに普通の魔法が上手く使えないって事だな。」


「それって…」


「まぁかなり危険だな。」


「そんな…」


「精霊や聖獣から魔力を借りて行使する魔法はかなり威力が高い。だから色んな奴らがその事を知れば間違いなく利用しようと近付いてくるはずだ。

俺個人としては今までみたいに知らないという体で突き通す方が安全だと思う。」


「……」


「ただ、どちらにしてもその魔力の使い方を覚えた方が良いし練習する必要はある。使い方を知らずに暴走なんかしたらそれこそ危険だからな。」


「わ、私は…どうしたら…」


「……暫くの間俺が使い方を教えようかと思っているんだが…どうかな?」


「え?!良いのですか?!」


「師匠と勝手に呼んどいて今更だろ。

後は、隠し方とかも教えられると思うしな。」


「あ、あ、ありがとうございます!!よろしくお願いします!!」


「あぁ。じゃあ明日から早速始めるから、毎日朝一番で来てくれ。」


「はい!!」


そしてジャッドとの特訓はテイキビにいる間はずっと行った。

ジャッドは特殊な魔力を上手く扱える様になり、召喚魔法も使える様になった。

しかし普通の魔法を上手く扱う術は身につかず、その後は自分で特訓を重ねる事を誓い別れることとなった。

土魔法は全属性の中でも最も扱いやすい属性だ。

ハッキリとした物質である上にどこにでもある物である為、土属性が使えるのに上手く制御出来ないという人は少ない。


白い光が再度目の前を覆い尽くし、暗転する。


黒い箱の中身は禁術系統の知識が詰まっている。今回は召喚魔法についての知識がどっと流れ込んでくる。


そして怒り等の暗い感情。


前回でよく分かったが、これを一気に自分の中に取り込むのはかなりキツい。


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



「ぐっ……」


「真琴様?!」


「だ、大丈夫…」


「本当ですか?!」


「あぁ。」


「なら…良いのですが……」


「ふぅ……それより思い出したぞ。」


「師匠ー!!」


「やめぃ!男と抱き合う趣味は無いっての。

それより、あれから随分練習したんだな。」


「はい!今では暴発なんてしませんよ!」


「それは何よりだ。

俺の方は土魔法が使える様になったみたいだな。」


「試してみますか?」


「いや、少し疲れたから明日にするよ。」


「……分かりました。」


「心配するな。本当に大丈夫だから。」


心配そうな顔をする凛の頭を撫でてやり横になる。

皆はまだ起きていてくれるらしく、眠りに入るまで耳に話し声が届いていた。


翌朝。


「師匠。」


「どうした?」


「その…召喚魔法を見て頂きたいのですが…」


「いきなりだな?」


「この魔力を扱える人は私の知り合いにはいなくてですね…自分の魔法が良いのか悪いのか判断が出来ないんです。」


「それを俺に判断しろって?」


「はい…それと、再度会って思いました。この事を皆さんに隠しているのは…」


「辛いか。」


「はい。私をなんの偏見も無く共にいて下さったのは私の人生の中でも皆さんだけです。あれから数年間色々な人に会いましたが、それでも一人もいませんでした。

皆さんという存在がどれ程大切な存在か分かりましたよ。そんな方々にこれ以上隠し事は出来ません。」


「そうか。分かった。じゃあ皆を呼んで一緒に見てみるよ。」


「ありがとうございます。」


まだ起き抜けの皆を連れて野営地から少し離れる。


「真琴様。一体どうされたのですか?」


「俺じゃなくてジャッドから話があるんだってさ。」


「ジャッドから?」


「皆さん。その……申し訳ありません!」


「いきなり謝られても…何を謝ってんだ?」


「実は…」


ジャッドは首から魔道具を外す。


「ジャッドってデリフニーカだったのか。」


「はい……黙っていて申し訳ありません!」


「……いや、なんで謝ってんだ?」


「私にも理解出来ませんね…」


「え…?いや、ずっと隠してたんですよ?!」


「根深い問題だしジャッドの気持ちが固まるまで話さないのは普通じゃないか?」


「そうですね。何をそんなに強ばっているのか分かりませんね。」


「は……はは。」


「それよりデリフニーカなら召喚魔法使えるのか?真琴様からその話は聞いてんだろ?」


「はい。使えます。」


「へぇ!見てみたいな!っても俺達には見えないんだっけ?」


「それがですね。精霊の中には姿を見せてくれる子もいまして、頼めば皆さんにも見える様にしてくれるんですよ!」


「そうなのか?!それは是非見てみたいな!」


「は、はい!!」


ジャッドは片手を胸の高さに上げて目を瞑り、なにやらブツブツと言っている。

祝詞みたいな感じかな?我に応えたまえ的な事を言っている。

戻ってきた記憶ではあんな事言ってなかったのだが…まぁ使いやすい方法は人それぞれだしな。

祝詞が終わったらしく、目をゆっくりと開いた。

ジャッドを中心にして、地面に直径1メートル程度の魔法陣が現れる。

魔法陣はゆっくりと光を失っていくが、どこからかツバメの様な鳥が飛んできてジャッドの持ち上げている腕に乗る。

よくよく見るとその鳥は石でできている。


「ま、マジか…石でできた鳥かよ…」


「可愛いー!」


「この子は石の下級精霊、私はロックバードと呼んでいます。優しい性格の子で要望に応えてくれました。」


「確かにすげぇな!初めて見たわ!」


「良かったです。ロックバード。ありがとうございます。」


ジャッドの声に応えるように腕から飛んでいくロックバード。


その姿は直ぐに消えていく。


「どう…でしょうか…?」


「すげぇ!初めて見たぜ!」


「あんなに可愛い子が沢山いるのですか?」


「他にはいないのですか?!」


「おいおい。一気に質問したらジャッドが困るだろ?」


「あ、はい…申し訳ありません。」


「いえ!お気になさらず!」


「ジャッドは皆が理解出来ない事象に出会ったら気持ち悪がられるかもって心配してたんだ。」


「真琴様に仕えてる奴にそれだけは有り得ねぇことくらい分かりそうなもんだがな。」


「分かっても心配するくらい今までの人生が辛いもんだったんだろ。」


「……それより、止めてやらねぇとあの二人一生質問攻めにするつもりだぞ。」


「だな。

はいはーい。二人共。そこまで。」


「ですが真琴様。可愛いですよ。」


「分かったから。落ち着きなさい。」


「は、はい。」


「良かったなジャッド。」


「はい!!」


「さっき召喚したのは下級精霊って聞いたけどもっと上位の精霊は呼び出せないのか?」


「試した事は何度がありますが、今の私では難しいですね。」


「そうなのか…」


「師匠みたいにはいきませんよ。」


「え!?真琴様召喚魔法使えるのですか?!」


「え?あー…言ってなかったか?」


「聞いてません!」


「まぁ一応な。」


「一応な。ではありませんよ。一発目の召喚魔法で上級精霊を呼び出してしまったんですからね。」


「え?!あれって上級精霊だったの?!」


「はい。下級精霊は基本的に小動物や昆虫等の小さな生き物の形をとっています。

中級精霊になると会話が出来るようになり、上級精霊になると神話のレベルですね。」


「確かにやたら神々しい感じだった気がするが…」


俺が初めて召喚魔法を使った時は女性の人型で緑色の長い髪に薄緑色のレースの様なものを頭から掛けた人が出てきた。


信じられないくらい綺麗な顔立ちだったが…


「色々と下級精霊の子達と話してみるとあの精霊はドライアドと言われる木の精霊の様ですね。」


「下級精霊は会話が出来ないのでは?」


「召喚した本人とは意識がある程度繋がっていて、会話…と言うよりは少しだけ意識を通じ合わせる事が出来るのですよ。」


「へぇー。

下級精霊ってのに力を借りると実際どれくらいの魔法が使えるんだ?」


「第六位程度の魔法ですかね。下級とは言え精霊は精霊ですからね。上級ハスラーと同等の魔法を行使出来ますよ。」


「精霊恐るべし…」


「とはいえ精霊も詰まる所は生き物です。呼び掛けに応じてくれない時もままありますので….」


「精霊の気分で変わってくるってことか?」


「平たく言えばそうですね。もちろんロックバードの様に常に応えてくれる様な優しい子もいますが、全てではないという事ですね。」


「その辺は俺達と変わらないってことだな。」


「その通りですね。」


「マコト様!!」


「プリネラ。どうした?慌てて。」


「あちらを!!」


プリネラの指差す方向を見ると黒煙が見える。


「黒煙?……あの方角はキリビヌ村か?!」


「急ぎましょう!!」


「すまないジャッド!先に戻っていてくれ!」


「あ、師匠?!」


明らかに異様な黒煙が上がっている。


一体何が…

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