第二章 ドワーフの国 -テイキビ-

マージ村を出て歩いてテイキビに向かう。

馬車も考えたが、プリネラが徒歩で行くと聞かなかった。数年前のことを思い出すとそれも良いかと結局徒歩で行く事にした。

プリネラはリーシャと一緒に周りのモンスターの討伐を担当すると言ってリーシャを引きずり回していた。


「なんでプリネラはあんなにリーシャを引きずり回してんだ?」


「あー。ありゃリーシャを鍛えてんだよ。」


「リーシャを?」


「あぁ。プリネラから見てリーシャの実力は低くはないが真琴様に見合わないって感じたんだろうな。」


「見合う見合わないなんてあるのか?別に俺は気にしないぞ?」


「真琴様がそんなんだから逆に近くにいる俺達は気にするんだっての。まぁリーシャも自分でそれが分かってるからプリネラの言ってることをちゃんと聞いて頑張ってんだろ。」


「そんなもんか?」


「まぁ俺達の自己満足みたいなもんだと思っててくれれば良いさ。それより珍しく凛が真琴様の近くにいないけど何やってるんだ?」


「さっき魔法について教えてくれって言われて教えたら練習するって離れてったけど?なんか用事でもあったのか?」


「いや、そろそろ今夜の野営地を決めようと思ってたんだが。」


「そんな時間か。」


「どうする?この辺りにしとくか?」


「いや、草の背が高くて周りがよく見えないからな。もう少し進んでおきたいかな。」


「分かった。リーシャ達の討伐が終わったら先に進むか。」


プリネラとリーシャが付近のモンスターを討伐し終えて帰ってくる時に合わせるように凛も戻ってきた。


「終わりましたー!」


「ありがとな。プリネラ。それにリーシャ。あと少し進んだ先で今日の野営地を探そうと思ってるんだが大丈夫か?」


「はい!私達はまだまだ大丈夫です!」


「頼もしい限りだな。それならもう少し先に行こう。」


俺達は全員揃った所で移動を開始。その後暫くテイキビまでの距離を消化した。

野営地として十分な場所を見つけてせっせと野営地を設置していると、珍しく人が話し掛けてきた。


みすぼらしい格好で、臭い。生ゴミの様な鼻を曲げる臭いだ。ボサボサになった赤い髪をこれまた汚いフードで包み、髭をボサボサに生やした男だ。

こういった人気のない道には賊やこの手の奴が必ずいると聞いてはいたが、実際に目の前にすると眉間に皺を寄せるのを止められない。


男はボソボソと聞き取れるか取れないかくらいの小さな声で話し掛けてきた。


「お恵みを…」


所謂物乞いみたいな物だ。

こんな所で?と思うかもしれないが、想像以上に多い。

傭兵として働いていた奴が盗賊となり、盗賊としても失敗した事で外界でモンスターからも人からも逃げて物乞いをしているという流れだ。健の様に国の中で物乞いをしている奴の方が多いが、ほとんどが子供。

皆大人になる前に死ぬか、何かしらの能力があれば自力で稼いで自立する。もちろん盗賊や物乞いをはいどうぞと街の中に入れるような場所は存在しないためこんな人気のない所で誰か通るのを待っているわけだ。

恐らく軽い武器や防具は汚いボロ布の下に隠してはいると思うが、盗賊としても失敗した彼らは下手に出てなんとか食いつなぐしか無いのだ。

普通こんな奴の相手はしない。多くの人は蹴りを入れて追い返す。中には厄介事を避けるという意味で、何かしら渡してさっさと帰れ。と言う人もいる。

健やプリネラの事もあるし、俺と凛がサバイバル生活をしていた時の事を考えると蹴りを入れて追い返すなんて事は流石に出来なかった。

健に頷いてやると簡単な食料を手に持ってその男の目の前に置いてやる。

男は終始頭を下げ続け、食料を手に取りどこかへ去っていった。

この世界ではあまり珍しい光景では無い。という事に最初は驚いた。

プリネラは警戒していたが、その後特に何かあったわけでもなく数日が過ぎた。順調に旅路は進んでいたが、凛は少し暗い顔をしていた。と言うのもあの物乞いがどうにも引っかかるとの話。


「気にしすぎじゃないのか?」


「ですかね?何か嫌なものを感じた気がするんですけど…」


「プリネラがそう言うなら気にはしておくけど、それにばかり気を取られているわけにもいかないだろ?」


「…それもそうですね。」


「戻ることは出来ないんだし選択肢は限られてるだろ。それに、皆がいるなら大体の事は何とかなるさ。」


「私も頑張るよ!」


「そう…ですね。一度気持ちを切り替えます。」


「おーい。プリネラ。」


「兄様?どこに行ってたの?」


「ちょっと先を見に行ってたんだ。この辺りは昔それなりに強いモンスターが多かった地域だからな。」


「そう言えば私が前に通った時もここには強めのモンスターがいたっけ…」


「この先にイービルボアがいた。」


「イービルボアって確かデカいイノシシだったよな?」


「そ。この辺りに生息しているモンスターじゃないんだが…放置できない位置に居座っているし獰猛な性格だから戦闘は避けられないだろうな。」


「なら私達でまた討伐しに行ってくるよ!」


「いや、今回はプリネラは手を出すな。」


「リーシャだけにやらせるって事ですか?」


「わ、私ですか?!」


「プリネラと戦闘を重ねてきたしイービルボアくらいならなんとかできると思ってたんだが?」


「わ、分かりました…頑張ります!!」


鼻息を荒くしてイービルボア討伐に向かうリーシャ。


「大丈夫ですか?」


「イービルボアは体毛が鉄の様に硬くて物理攻撃はほとんど効かないぞ?」


「だからだろ?」


「ほんと、真琴様ってスパルタだよな。」


「攻撃が通らない相手にどうするか。そこが大事だろ?」


「言いたいことは分かるけどな…」


「物理攻撃は勿論ですが、リーシャの今の魔法ではイービルボアに大きなダメージを負わせることは出来ませんね。」


「確かに弓は凄いし魔法を纏わせたらそれなりに効くかもしれないが…相性が悪過ぎるだろ。早過ぎないか?」


「そんなに心配なら見に行けば良いだろ?」


「真琴様を置いて行けるかよ。」


「プリネラいるし大丈夫だって。それに、俺としてはリーシャならなんとか出来ると思ったからの事なんだからな?」


「分かってるけど…まぁリーシャの頑張り次第って所か。」


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



「イービルボアかぁ…」


私は真琴様に頂いた弓を見つめて呟いていた。

イービルボア自体は何度か見た事がある。

その体毛は金属の様に硬く弓は勿論剣だってなかなか通らない。いくら弓が凄い物でもそれを使っている私の腕が良くなければイービルボアの体毛を貫く事は出来ない。


「リーシャ?」


「あ、ごめんなさい!」


私の顔を覗き込むように頭を下げたプリネラさんに謝る。


「謝る必要は無いけど…どうしたの?不安?」


「それは…不安ですよ…私に出来るのかなって…」


「……リーシャってやっぱり変わってるね。」


「え?」


「私の知ってるエルフって、身分とかに関係なく皆プライドが高いからさ。」


「プライド……確かにそうかもしれませんね…」


「リーシャはプライドが高いなんてことは無いし、不安だってはっきり言えるなんて変な感じ。」


「不快でしたか?」


「ううん。そんな事ないよ。むしろ私としてはそっちの方が嬉しいかな。」


「良かった…」


「エルフは皆プライド高いと思ってたけどそうじゃない人もいるのかー。」


「プライドが高いエルフが多いのは確かだと思いますよ。私も多分マコト様に会っていなければ今でも下らないプライドを捨てられずにどこかの誰かの奴隷として生きていたと思います。」


「マコト様に会わなかったら?」


「エルフは他の種族の人達よりも魔法に対する相性が良い種族なので、他人の魔力総量が分かるんです。」


「え?!そうなの?!」


「はい。あまり知られていないですけどね。

人によって分かる度合いが違うんですけど、私の場合は何となく分かる、肌で感じる程度ですね。

中には魔力が実際に視認できる人もいますよ。」


「それって凄いよね?!」


「ですからあまりエルフはこの事を喋らないんです。悪用される可能性が高いですから。」


「そうだよねー。」


「マコト様に出会った時、魔力はほとんど戻っていなかった様ですけど、魔力の器の大きさを感じ取れたんです。

私を含めエルフのそれとは比較になりませんでした。」


「マコト様だからねー。」


「はい。それを感じてプライドなんてどこかに飛んでいってしまいました。」


「なるほどね。確かにマコト様の魔力総量が分かったら絶望しちゃうよね。」


「絶望しちゃう…と言うよりは憧れの方が強かったかもしれませんね。あまりに凄すぎて比較する事すら失礼に思えてしまって。」


「何となく分かるかも。それにマコト様って誰と話してても態度変えないから凄く好き。」


「奴隷の私にさえ変わらないですからね。」


「おっと。そろそろみたいだよ。」


「はい!」


プリネラさんのお陰で緊張が程よく解け、肩の力が抜けた。

私は透明感のある赤い弓を強く握る。

マコト様がこの弓に付けてくださった名前はガーネット。

私は見た事が無いけれど、同じように赤く透明感のある宝石の一つとの話。

前を向き、木の影から顔を出すとそこには大きな影が見える。


イービルボア。


その巨体を覆う体毛は見るからに硬そうな艶を備え、大きな牙が下顎から2本生えている。気性は荒く、他の生き物が自身の縄張りに入ると突進を繰り返し攻撃してくる。全身の体毛が硬いため、突進を直接受けてしまうと全身を針で貫かれるのと同じ状態になってしまう。

本来魔法への耐性が高くない事からハスラーが攻撃を担当して近接系統の前衛者は注意を引き付ける。弓も気を散らす事を徹底するだけ。そこを弓一人で討伐すると言うのだから、火の矢とはいえ直接矢を撃ち込んでも効果は薄い。

鎧や剣を撃ち抜く貫通力があったとしてもイービルボアの体毛を撃ち抜くには力不足。


もちろん策を考えてはいるけど…

正直あまり自信は無い。


いつもはプリネラさんが手伝ってくれていたし、色々と説明を聞いてそれに沿うように動いていた。

だから私自身の考えで動くことがあまり無かった。

作戦…と言うにはあまりにも拙いものかもしれないけど…

イービルボアと戦闘になって魔法を使える者がいない時の対処法がある。


対処法としては3つ。


一つ目は逃げる。もちろんこれは論外。


二つ目は罠に掛けて動けなくしてから叩く。

一見使える作戦に見えるかもしれないけど、そもそもこの作戦はイービルボアを罠まで上手く誘導できる腕があるかどうかに掛かっている。近接戦闘が得意な者であれば上手く誘導が可能かもしれないが、弓では限界がある。

それに一人で罠を作るとなると、イービルボアを動けなくする様な大掛かりな物は作れない。よって却下。


最後の三つ目。

イービルボアは体中を硬く鋭い体毛が覆っているが、唯一腹の部分のみ体毛が硬くない。

色々な説が唱えられているけれど、何故かは未だ分かっていない。

イービルボアの弱点は腹。それは皆知っているしイービルボア自身もそれは理解している。つまりそんなに簡単に腹を狙える様な事にはなり得ない。

私の魔法は支援や妨害に特化しているから魔法を使って倒せないのであれば、何とかして腹に矢を撃ち込むしか方法は無い。

何とかして…どうすれば良いのか分からないけど…

木々の間でのそのそと動く巨体を見ると少し体が震えてくる。

攻撃方法は直線的な突進だけで、避ける事が難しいという訳では無いが当たった場合はまず間違いなく一撃で戦闘不能になる破壊力を持っている。その破壊力を知っているが故に威圧感は凄まじい。もちろん突進のスピードもかなり速い。

動きを見誤ればその時点で勝負が決してしまう。

それでもこの人達の仲間として戦っていくのであれば、これくらいはやらなければ…


焦る気持ちを鎮めてイービルボアを見る。


距離は50m前後。


この弓ならば外すわけが無い距離。

腰に吊るした矢筒から矢を取り出し、キリキリと弦を鳴らして構える。

直立しているイービルボアの腹に当てることは難しい。なんとか体勢を崩させる必要がある。そこで狙うは足。

矢が当たった衝撃によって足をもつれさせたならば一気にチャンス。

限界まで引き絞り十分に狙いを定めた所で弦を離すと、一気に開放された力が矢を瞬時にイービルボアの足へと導く。

矢尻から赤い尾を引いて飛んだ矢は寸分の狂いもなくイービルボアの前足に命中した。


ガキンッ


50m離れたここでも聞き取れる高い音。

イービルボアの体勢を崩すどころか矢の方が折れてしまった。傷1つ付けることは出来ていない。

イービルボアは私に気付いて鋭い眼光を放ちながらこちらに顔を向ける。

普段は皆がいるからあまり感じてこなかったが、一人で戦うという事はこれ程までに心細く、怖いのだ。


「リーシャ!しっかりして!」


プリネラさんの叫び声で我に返る。


突進で目の前まで迫ってきていたイービルボアの牙を紙一重でなんとか躱した。恐怖心が勝ってしまってイービルボアを目の前に放心していたらしい。

ただの奴隷だった私はマコト様の元に来て初めて強敵との戦闘を体験した。

それまでは自分よりも圧倒的に弱いモンスターとしか戦った事が無かった。

もちろんマコト様の元に来て、マコト様達の監修の元1人でモンスターと戦った事は何度もあるが、あの方々の存在というものがどれ程自分にとって大きく心強いものなのか今はっきりと自覚した気がする。

今更気付くとは我ながら遅いとは思うけれど……遅過ぎたという訳では無いはず。


「すいません!大丈夫です!!」


私の言葉と顔付きを見たのか…プリネラさんは手を貸そうとして動き出そうとした体を止めた。

まだ大丈夫だと判断してくれたみたいだ。


「はぁ!!」


イービルボア自身にダメージは無い。

これでDランクに分類されているなんて実に不思議な程。


理由は魔法耐性が高くないから。

普通パーティを組む時に少なからず攻撃魔法を使える者がいる。

それが当たり前だしそれが無ければランクなんて上がってはいかない。

つまりこのイービルボアを物理攻撃のみで討伐する場合はDランクの範疇には無い。ということ。

撃った弓は傷つける所か折れてしまう。

攻撃の手を緩めれば一方的に嬲り殺しになる。

傷つける事は出来なくても鬱陶しいくらいに思ってくれるだけで効果は有る。

私は矢をつがえて何度もイービルボアに向かって撃ち続ける。


しかし、それでは討伐など夢のまた夢。

このままでは矢が無くなってそこで終わりになってしまう。

何か大きな策が必要……


「なぁなぁリーシャ。」


「はい?」


「その矢っていつも火を放って飛んでくけど魔力込めたりしてないよな?」


「そうですね。」


「そいつに魔力を込めたらなんか出来るのか?」


「そうですね。何度か試してみたんですけど、魔力を込めると割れてしまうんです。」


「割れる?」


「はい。見てて下さい。」


パキンッ


「ほんとだ。」


「残念ですけど、魔力を込めて放つのは難しいかと…」


「そっかー……なんか方法見つかると強いだろうになー…」


ふとマコト様との会話を思い出した。

魔法武器というのは基本的に魔力を込めると元々込められていた術式が起動して定められた魔法が発動されるためより強力な武器になるとマコト様から聞いた事がある。でもこの矢にはそれが通用しない。

なぜ割れるのかまでは分からなかったけど、今になって考えてみればマコト様があの話を私にすること自体に違和感がある。

何せこの矢を作ったのはマコト様であるからだ。

私よりもずっとこの矢については熟知しているはず。魔力を込めたら割れてしまう事くらい容易に分かっているはず。それなのに敢えて私に聞いてきた。という事は何かしらの方法でこの矢を強化出来るのでは無いだろうか……


防戦一方で手も足も出ないこの状況を打破出来るような何か。


私に使えるのは阻害や援護の魔法。

………待って。魔力を込めてしまったら割れてしまったけど、この矢に魔法を掛けたら?

魔法武器を知っている人ならそんな事するバカはいないというだろう。

魔法武器に元々施された術式に上から術式を被せることになるためそれぞれが反発して最悪バラバラになる。

でもこの矢は魔法武器とは違って逆に魔力を受け付けない。

それはこの矢自体に魔力が多く含まれているから絶えられない…とか?

分からない。でも今はなんでも試してみないと!


私はイービルボアから大きく距離を取ると矢を1本手に取り魔法を掛けてみる。


「グリーンオーラ!」


第二位、木属性魔法グリーンオーラ。

対象の防御力と攻撃力を僅かに上げる効果がある。

魔法を掛けると矢に緑色のオーラが現れる。

すぐさまそれをイービルボアに向かって撃つ。


ガキッ


今の今まで傷すら付けられなかった矢はイービルボアの前足に当たると表面の体毛を僅かに削り取った。


「いける!!」


でもこの魔法じゃ弱過ぎる。

私の魔法はそんなに強力な物では無いし、無理やりイービルボアの防御をこじ開けられる気はしない。

でも、魔法が掛けられるならやり方は他にもある。

私は木属性の魔法を使っているが、僅かであれば土属性の魔法も使える。

こっちはほとんど生活魔法としか言えない程度の物だから髪の色にまで出ては来なかったけど、それでも今の状況なら使えるものがある。


ムーブオーラ。


第一位土属性魔法、小さなものであれば動かす事が出来るという魔法。

戦闘中であれば小石を飛ばしたりして注意を引くくらいしか出来ない魔法。

これを矢に掛けたら軌道を変えられるかも!

普通は矢に対してこのムーブオーラを掛けることは無い。

攻撃魔法の様に撃ったら終わり。という物では無いから。

魔法というのは基本的には自分より離れた場所に効果を発現させるとその分魔力操作や消費する魔力が大きくなるから。つまり矢を放って遠く離れた所で軌道を変えようとしても、その離れた分の魔力を消費し、更に操作が難しくなる。


実質不可能。


でもその解決策が私にはあった。

私は阻害魔法や補助魔法が得意。

そして阻害魔法にはトラップ等の魔法もある。

中には一定時間後に発動する様な魔法だってある。つまり、矢が数秒後に曲がる様にムーブオーラを先に掛けておけば良いのだ。

先に矢に魔法を掛けてしまうので後に操作する必要は無くなる。

早速私はムーブオーラを矢に掛ける。5秒後に上に曲がる様に。


1、2…


「ここ!!」


私の放った矢は走ってくるイービルボアの足の間を通り抜け、走り去った後に上に向かって飛んでいく。


魔法は成功。


でもこれは難しい。

相手はスピードのあるイービルボア。

動いていない的であれば簡単かもしれないが、もちろん動き回っている。救いはイービルボアが直線的に突進しかしてこない事。読みやすいからまだ希望はある。


「はっ!」


惜しい所までは来ている気がする。

相手の動きを読んでその動きに合わせてムーブオーラを矢にかけ、放つ。

簡単に思えるかもしれないけど、動く相手に当てるのはかなり難しい。

イービルボアの後方で跳ね上がったり、前方で跳ね上がったり、そもそもイービルボアの体の下を通らなかったり。

自分の至らなさがより一層浮き彫りになっている。

プリネラさんはそんな私を見ているだけで手を出す気は無いみたいだ。


残りの矢は三本。


ほかの矢は全て折れてしまった。

鼻息を荒くして前足で地面を引っ掻くように動かすイービルボア。

その巨体がまたしても私に向かって走り出す。


「このっ!」


放った矢はイービルボアの牙に弾かれて折れてしまう。


「うっ!」


避けきれずイービルボアの突進を受けてしまう。

直撃では無かったけど、軽く数メートルは吹き飛んだ。

全身に浮遊感とそれすら感じさせない程の痛みが走る。


大木に打ち付けられて呼吸が出来ない。


全身から血の気が引くように感じる。


「……ゴホッ!……ゴホッ!」


やっと息が出来たと思ったら今度は全身が軋むように痛い。口の中に血の味が広がるけど、骨や内臓はなんとか守れた。


文字通り死にかけたけれど…


畳み掛けるように突進してくるイービルボアを転がるように躱す。

イービルボアが引き返してくる前になんとか体を起こす。

突進のせいで矢が一本折れてしまった。


つまり残りは一本。


この絶望的な状況で、最悪のコンディションで当てなければならないらしい。


「はぁ……はぁ……」


痛みで回らない頭を無理矢理働かせる。


最後の一本。当てなければならないし、次の突進を避けられる体力は多分もう無い。イービルボアはまだまだ元気のようだけど…


突進が来る。


最後の一本…


「1……2……ここ!!」


軌道は大丈夫。


矢はイービルボアの腹の下へと向かっていく。

両足の間に入った矢は角度を変えて上昇する。


正直当たったのか見えなかった。


イービルボアの突進が止まらない所を見ると外れてしまったようだ。


体力も底をついてしまった。


「ごめん…なさい…」


私の視界は暗転。その場に倒れてしまった。


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



プリネラとリーシャがイービルボアの討伐に向かって暫く経つ。

プリネラがついているから最悪の事態にはならないとは思うが、心配は心配だ。勧めた本人が言うのもなんだが、リーシャの腕ではギリギリ勝てるかどうか。

そのままでは絶対に勝てないが、何かに気付いて策を講じたら勝てるはず。


「そんなにソワソワするなら見に行ったらいいじゃないかよ。」


「いやー。やれと言った身だから格好悪いじゃないか。」


「まったく…ん?帰ってきたみたいだぞ。」


リーシャはプリネラに支えられる様にして歩いてきた。


「や、やりました。」


「…そうか。よくやったな。」


「ありがとうございます。」


「真琴様はリーシャが行ってからソワソワしっぱなしだったからなー。良かったな。」


「本当ですか?」


「おい?!健?!」


「んだよ。事実だろ?」


「それを言うなよ?!」


「言わなくても皆分かってたと思いますけど…リーシャ。手当てしますのでこちらに。」


「凛まで?!」


何故か虐められた気分だ…


「マコト様。」


「ん?」


「リーシャの事を見ていた時なんだけど…」


「何かあったのか?」


「ううん。何かあったわけじゃ無いんだけど…」


「どうした?」


「誰かに見られていた気がする。」


「……」


「見られていた…となるとジゼトルス…か?」


「ブリトーの口ぶりからしてジゼトルスから追われていることは確かだとは思うが、ジゼトルスだけとは限らない。

全てジゼトルスと結び付けるのは止めよう。」


「他の国からも?」


「可能性は十分ある。」


「……」


「それにあれだけ出てくる時にこっぴどくやったしブリトーの奴が個人的に何かしてきているのかもしれないしな。」


「ブリトーか…」


「プリネラ。悪いが少し探ってみてくれないか?」


「わかりましたー!」


プリネラは姿を隠す事で偵察として動いてくれる。

それでも何も無ければ気のせい…という事になるが、そんな楽観的に物事を眺められる様な神経はしていない。

どこからの手かは分からないにしても間違いなく手は伸びてきているはずだ。

俺達の旅も急いだ方が良いかもしれない。


「手当て終わりました。特別大きな怪我は無さそうですね。」


「そうか。良かったよ。」


「…何かありました?」


「周りに気を付けた方が良さそうだ。」


「……分かりました。リーシャにも伝えておきます。」


「あー。ほんと暇な奴らだな。」


「だな。」


「テイキビまでに何かあると思うか?」


「中に入ったら手を出しにくくなるだろうし間違いなく何かはあるだろうな。」


「嫌になるな。」


「ほんとに。」


未だ見えないテイキビの方角を見る。

何が来ようととりあえずは今日の事だ。

野営の準備を済ませ、沈んでいく太陽を眺めているとリーシャが隣に座る。


「マコト様。」


「ん?」


「あの…ありがとうございました…」


「何がだ?」


「マコト様がヒントをくださっていなければイービルボアの討伐は成りませんでした。」


「なんの事だか分からないけど…どこかに転がっていたヒントを活かしたのはリーシャ自身だ。

俺は何もしてないよ。」


「……はい。」


首に巻かれた枷に手をやり、下を向くリーシャ。長い緑色の髪が耳から滑り落ち、その奥に笑みが見える。

それからリーシャは色々な事を試すようになった。

より上手く弓を使えるようになりたいと何度も相談されたし、出来る限り力になろうとした。

その成果なのか、リーシャの弓の腕はみるみる上達し苦戦を強いられていたモンスターも難なく討伐してくる様になった。

途中からは誰も着いていかずとも1人でモンスターの討伐をこなしていた。


プリネラは誰かに見られている気がすると伝えてくれてからずっと裏方として動いてくれている。

とは言うものの特に何かあったという事は無く、順調に旅は進んでいた。しかし、そろそろ旅も終盤に差し掛かったかと思っていた時に動きがあった。


「そろそろテイキビも近くなってきたしこの旅も終わりだな。」


「最後まで気を抜くなよ。」


「分かってるさ。来るならそろそろだろ?」


「目的地が近付いて気が抜け始めた今が危ないからな。」


星空の下、パチパチと鳴る火を囲んで座っていると、背中に冷たさを感じる。


殺気と言うやつだろうか?

どちらにしても遂に相手が動いたらしい。

突然暗闇の中から先端の尖った石槍が数本飛んでくる。


今まで目の前にいたはずの健が俺の後ろに立ち、その全ての石槍を刀で叩き落としていた。

貫通力の高い土魔法であるストーンランスだが、側面から叩かれれば弱い。暗闇の中から数人の人影が現れる。


どうやら全員魔法使いの様だ。

剣も腰に下げている所を見ると魔法剣士だろう。

不意打ち…という事は騎士とは真逆の奴ら。


「いきなり物騒な奴らだな。」


「……」


無言で抜剣し、月明かりを反射して鈍く光る刃をこちらへ向けてくる。全員顔を隠しているためどこの誰かは全く分からない。


ジゼトルス関係の人間なのか、それともまた別なのか。

どちらにしても命を狙われている事に変わりはない。俺も直ぐに杖を抜いて戦闘体勢をとる。

人数で言えば圧倒的に不利。

一人で数人は相手にしなければならない。

半円状に相手は陣取り、逃がしはしないという強い意志を感じる。

殺される気はもちろん無い。

相手の魔法は間違いなく殺そうとした一撃。なんの躊躇も無い一撃を叩き込める精神の持ち主達だ。


「来るぞ!」


健が叫ぶとほぼ同時に、相手の半数が剣を抜き、残りの半数は魔法を放つ準備を始める。

ただボーっと眺めているだけでは無い。健が接近してくる敵影の前に躍り出る。


健一人で相手できる数では無いしそもそも健が対応出来る範囲に入らずこちらに向かってくる奴らもいる。


暗闇に赤い線が走った。


すると、そのうちの数人が突然足をもつれさせた様に前のめりに倒れ込む。リーシャが的確に額を弓で撃ち抜いたのだ。

矢を額に受けた人影は一瞬にして体を炎に包まれる。リーシャの腕が良くてそいつらは安堵しただろう。生きたまま炎に包まれる事は無かったのだから。


凛の元に向かって来た奴らは突然身長が低くなった。と言うより凛の作り出した底なし沼にハマったらしい。


スワンプフィールド。第四位の広域系土魔法。魔力が足りず沼の範囲と深さが足りないが、それは問題にはならない。

自分の魔力量をしっかりと把握している凛がその事を想定していないわけが無い。つまり、この魔法は相手の動きを止めるだけのトラップ。


「ウィンドカッター。」


低く冷たい凛の声が聞こえると、沼に足を取られてオロオロしていた人影の首が沼にドチャリと落ちる。

吹き出した血が沼に染み渡り真っ赤に染る。

残念ながら相手の魔法は発動が遅く彼らを守る事が出来なかったらしい。


やっと完成した魔法が後方から放たれる。

色とりどりの魔法陣が光ると数多の攻撃魔法が飛来する。


「ブラックホール。」


俺が使ったのは第五位の闇魔法。

求心力が強い球体を作り出す魔法だ。

本来この魔法は特殊な物で、使える者が少ないらしい。そもそもイメージをしにくい闇魔法の中でも難度が高い魔法という事だ。

そのため使えたとしても拳大の球体を作り出すに留まるらしい。しかしながら、俺の作り出したブラックホールはその域を大きく逸脱していた。


俺と相手のハスラーの間、上空に出現した黒く大きな球体に全ての攻撃魔法が吸い込まれて行く。

もちろんこのブラックホールで相手を殺傷する事は可能だが、魔力消費の大きな魔法である事に加えて、本来は広域系魔法では無い物を力任せに広域系魔法として使用しているため、より消耗が激しくなっている。

つまり作り出せても数秒。

全ての攻撃魔法を無効化した後に何事も無かったかのようにブラックホールは消失し、また星空が戻ってくる。

時が止まったかと思う程の一瞬の静寂が辺りを包む。


ボボッという炎の燃え上がる音が聞こえた。

健の周りが炎によって赤く光っている。

外套の魔石を使ったのだろう。

ふわふわと三つの炎が健の周りを漂っている。

この世界でなければ不気味にも見えるだろう。


健はその状態で残った人影に斬り掛かる。

火の玉がふわふわとしているため健の刀と火の玉両方を気にしなければならずかなり戦いにくそうだ。

驚くべきはむしろその状態の健に瞬殺されない事にある。

戦闘技術が高いのか、身体強化の魔法が強いのかは分からないが数人で取り囲んで接戦を繰り広げている。


リーシャと凛にも数人がまとわりついているがなんとか対処出来ている。

俺達の実力をしっかりと把握しての襲撃らしい。

何故か俺には他の皆よりキツめにマークが着いている。

この中では記憶が戻りつつあるにしろ戦闘経験は少ない方なんだが…


相手の動きを見る限りそんな事も言っていられそうには無い。

覆面の下から覗く眼光は俺達を殺そうという意志を感じる。


第四位の水魔法、ウォータースライス。

水の刃を作り出し、対象を切る魔法だ。

魔力が足りないと範囲が小さかったり、水圧が足りず十分な威力を発揮出来ないが、そこは問題なさそうだ。


俺が杖を振るとその軌道上に大量の水が出現する。

今にも斬り掛かろうとしていた覆面の奴らも流石に面食らって歩みが止まる。

しかしそれを見て待ってやるほど甘くはない。

もう一度杖を折り返す様に振った瞬間に圧縮された水が刃となって襲い掛かる。

半円状に吹き出した水の刃に反応出来なかった2人が構えていた剣、そして下に着ていたであろう防具すらスライスして完全に真っ二つにしてしまう。

地面には血や内蔵が飛び散り、血の匂いが充満する。

なんとか水の刃の直撃を避けたが、片足の膝から下を失った者が一人、片腕を失った者が一人、そして無傷が二人。驚いたことに片足、片腕を失った二人は苦痛の声を一切漏らさない。

余程訓練された身でも難しい事だと思うのだが…

追撃…と行きたい所だが、さっきの一撃を完全に躱した二人もいるし下手には動けない。


目の端に映る凛達も苦戦している様だ。

後衛にいた魔法使いが再び魔法を放とうと手元を光らせる。

対処しようとしたが、その魔法は発動する事は無かった。


今の今まで身を隠していたプリネラが後衛の魔法使い達の後ろから急襲したのだ。

黒椿を逆手に構えて反応出来なかった魔法使い達を数人葬る。

離れた場所にいた魔法使いは剣を抜きプリネラと相対する。

どう見ても一人では辛い人数だ。すぐにでも手助けしなければプリネラが危ない。


俺は杖を振る。

目の前で俺を警戒していた無傷の2人と重症を負った2人がさせまいと斬り掛かってくる。

もちろん4人同時だ。

ガキーンッという金属音が聞こえる。

俺の周りには大きな氷塊が出現し、それが剣を防いでいた。


もちろん俺の魔法だ。

水魔法に無属性魔法を組み合わせた魔法。氷魔法だ。


第二位氷魔法、アイスピラー。単純に氷柱を出現させる魔法だ。分子振動を無属性魔法で強制的に止めることによって水を凍らせるという原理なんだが、今は原理より目の前の敵だ。

杖を振って発動させた魔法はこの氷柱では無い。

4人が氷柱に攻撃を防がれている中、4人を取り囲む様に拳大の水球が無数出現する。

それがパキパキと音を立てながら凍り、氷の棘となる。


アイスレイン。第四位氷魔法。

逃げ場が全く無いように、隙間なく空間を埋めつくした氷の棘。

それが一斉に4人を襲う。

逃げ場は無い上に発動させた本人である俺は氷塊に囲まれた中にいる。

手に持った剣で数発は切り落とせたらしいが、悪足掻きに過ぎず体中に氷の棘が刺さる。

4人は口から血をコポコポと流しながら絶命した。


もう一度杖を振る。


チリチリと焦げた様な臭いが鼻をつつく。

周囲を赤く照らしながら、炎で出来た犬が俺の足元に二匹現れる。


第五位火魔法フレイムハウンド。

意のままに操る事が可能な犬型の炎を出現させる魔法だ。

もちろん噛まれれば痛いだけでなく体中を炎が包み込む。

二匹のフレイムハウンドが地面をジリジリと焦がしながらプリネラの元へと走り出す。

フレイムハウンドの弱点はズバリ水魔法だ。

水魔法に対する耐性が低く水魔法をぶつけられてしまうと瞬時に消滅してしまう。そのため魔法使い達が待機していた状態では使い物にならない。

しかし現状ではプリネラがそのハスラー達の注意を引き付け近接戦へと持ち込んでくれた。つまり魔法をフレイムハウンドへ撃ち込もうとすればプリネラがその隙を見て攻撃するし、プリネラを倒そうと動けばフレイムハウンドが襲い掛かる。


プリネラは俺の放ったフレイムハウンドを一目見た瞬間に意図を理解し、即座にフレイムハウンドを利用した攻撃方法へと変わる。

フレイムハウンドを盾にして側面からのヒットアンドアウェイ。

一撃で倒さなくても何度も攻撃する事で少しずつ削いでいき最後に命を奪う。やっている事は人殺しだが、プリネラの動きはまるでダンスでもしている様に見える。

結局プリネラとフレイムハウンドで10人以上いた奴らを駆逐してしまった。プリネラは無傷とはいかなかったが、軽傷で済んで良かった。


プリネラの援護を終えると直ぐにフレイムハウンドをリーシャの元へと走らせる。凛と健は各自でなんとか出来そうに見えるしプリネラも参戦する。時間の問題だろう。

それに対してリーシャは弓を主に使っているし近付かれると弱い。

既に数箇所切り付けられて血を滴らせている。

息も切れ切れで苦しそうだ。


相手は3人。一人はなんとか倒せたらしいが…

そのうちの一人がリーシャへと近付き剣を振り上げる。

その後ろからフレイムハウンドが襲い掛かり首筋に炎の牙を突き立てる。

首筋から全身へと炎が広がり、火達磨となり地面をのたうちまわった後動きを止めた。


フレイムハウンドが二匹リーシャの足元に駆け寄る。


「マコト様!!」


「集中しろ!」


「はい!!」


前衛を完全にフレイムハウンドに任せることによって息を吹き返したリーシャ。

フレイムハウンドとの連携は見事と言う他ない。

ひたすらに練習を重ねてきた矢は狙いを絶対に外さない。

予想外の角度から曲がって飛んでくる矢は尽く相手の体に刺さっていく。

魔法防壁を張っているのか矢によって炎に包まれる事は無いようだが、ダメージは確実に増していく。

リーシャが後衛に専念できる状態になってしまえば後は一方的だった。

フレイムハウンドを倒そうと水魔法を準備した奴の額をリーシャの矢が捕らえ、その隙を着こうと走ってきていた奴を二匹のフレイムハウンドが捕らえた。

呆気なく絶命した2人。


振り返ると凛達も終わった所の様だ。


「こいつらどこの奴らだ?ブリトー家の奴らじゃないだろ。」


「貴族の私兵とは確かに思えませんね。戦闘力も戦い方も。」


「マコト様。これを見てください。」


プリネラの元に行くと1人の死体の顔を見ていた。

どこかで見た顔だと思ったら途中で出会った物乞いだ。


「やっぱり…おかしいと思ったんですよ。」


「……いや、どうだろ。こいつの体つき見てみろよ。」


「体つき?」


「あぁ。」


健が男の纏っていたマントをひっぺがすとその下に見えたのは痩せ細り肋骨が浮き出ている体だった。


「こいつの体つき見れば分かるだろ。あんな動きができるような体つきじゃない事。」


「剣も振れないくらいの体つきだな。」


「それに斬られようと殺されようと全く声を上げなかったろ?普通そんな事有り得ないだろ?」


「…つまりドMだったの?」


「なんでやー!!」


「ぁう!」


「変な声出すな!」


「操られていたって事か?」


「多分な。他の奴らを見ても同じ様な体つきだ。

物乞いとかを使って襲ってきたんだろうな。」


「……斬られても解けないような強い従属の魔法なんてあるのか?プリネラみたいに杭を打ち込まれているわけでも無さそうだが?」


「無くは無いですよ。禁術の類ですし簡単に行えるものでは無いですが…確か色々と必要な物もあったと思います。」


「必要なもの?」


「その魔法を完遂する為には希少な素材なんかが大量に必要だったと思います。」


「そんなもんほいほい使えるような奴らが相手ってことか?」


「ですね。」


「……ジゼトルスかな?」


「いや、どうかな。もしジゼトルスなら街を出る前に手を打ってきていると思うぞ。」


「つまり他の国…ですかね?」


「もしくは何か知らない組織の連中って事も有り得るな。」


「相手の動きを見るに殺しに来てましたよね。」


「あぁ。」


「もしマコト様の魔力が目当てなら、こっちに来ているのですし、捕縛して奪い方を聞こうとするのでは無いでしょうか?」


「何が目的なんだ?」


「さぁ…目的は何にしても殺そうとしていることだけは確かだから味方では無いよな。」


「次から次へと…」


「操られていたならどこかでその誰かが見てるんですかね?」


「いや、それは無いだろうな。見ているなら今がチャンスだろ?それでも姿を見せないってことはこいつらの視界を使ってこっちを見てたと思うぞ。」


「陰険な奴らですね。暗殺に覗きって。」


「そのうちまた現れるだろうな。」


なんとか窮地を脱した俺たちは体を休めるために野営地に戻る。

それからは何の音沙汰も無いままテイキビに辿り着いた。


テイキビはドワーフの国の首都。

実に多くのドワーフ達がここに住んでいる。人種との貿易も盛んで門前で多くの人種を見掛ける。

ドワーフは主にライラーとして働く者が多く、手先はかなり器用だ。門前でその手先の器用さを目の当たりにする事が出来る。


門へと続く道は綺麗に石畳が敷き詰められ、その両脇には美しい装飾が施された街灯が等間隔に配置されている。街へと入るための門にはまるで生きているかのようなドワーフとそれを取り囲む様に何かの花が彫刻されている。


「あの門に見えるドワーフがドワーフの王テイキビ王です。」


「目付きが鋭くて怖そうだな。」


「ドワーフ達を纏めあげる手腕は素晴らしく、怒ると怖いそうですよ。」


「へぇー。周りにある花はなんだ?」


「メイサ草の花ですね。」


「メイサ草?何か特別な物なのか?」


「いやいや、そんな事ぁねぇよ。」


門前で列を待っていながら話をしていると突然隣にいた小さなおじさんが話し掛けてくる。


ドワーフの男性らしい。

黒髭でもっさりと黒髭をたくわえている。


「このメイサ草ってのは俺達ドワーフにとって神聖な物なんだ。」


「神聖な?」


「まぁトレードマークみたいなもんだな!」


「なるほど。」


「俺はアジャルってんだ。よろしくな!」


「こちらこそよろしくな。俺は真琴だ。」


「マコト?変わった名だな?」


「まぁな。」


「どっから来たんだ?」


「ジゼトルスから来たんだ。」


「は?!歩きでか?!」


「まぁな。」


「はぁー…豪快な奴もいたもんだなぁ…」


「まぁ色々と事情があってな。」


「ガハハ!!面白いヤツらだ!俺ぁ装飾職人してんだ!なんかあったら街の東にある店に来てくれや!」


「分かった。必ず足を運ぶよ。」


「ガハハ!」


豪快な笑い声と共に門の中へと消えていった。


「な、なんだったんでしょうか…?」


「さぁ…?気のいいドワーフって感じではあったけどな…。」


「ほら。俺達の番だぞ。」


門で身元確認を行った後壮大な門を潜ると、門に負けず劣らずの街並みが広がっていた。

建物は勿論のこと、街灯や噴水、至る所に装飾が施され見ているだけで楽しむ事が出来る。


「凄いなー!?」


「ですねぇー!全然違います!」


もしこの世界に化学という概念が生まれるとしたならば恐らくこのドワーフ達によってだろう。そう思わせる程の技術が街中に溢れている。


「街の散策も良いけど先に宿探さねぇか?」


「健という生き物が滅びたらいいのに。」


「え?!なんで?!」


「私は?!私はどうですか姉様?!」


「プリネラ食いつくな!!」


「この景色を見てそんなことが言えるなんて…健は本当に健ですね。」


「うわー…自分の名前を言われて傷付くのは初めてだぜー…」


「まぁまぁ。その辺にしといて、宿は必要だろ。探しに行こう。」


「はい!」


「えー…俺も同じこと言ったんだけどなー…」


健の扱いはいつもの事だし放っておいて、宿を探しに街を歩く。宿は直ぐに見つかった。

というか宿がかなりの数あって逆にびっくりしたくらいだ。


ドワーフの技術は他の種族では真似出来ない程高いため多くの種族がドワーフの物を買い求めに来るらしく、宿が豊富なんだそうだ。

この街並みを見れば納得いく事だろう。

来る時に一悶着あったのだしその日はゆっくりと体を休める事にした。

それ程高くはない安宿の部類に入る宿であったのにベッドや椅子等の家具に装飾が施してあるのを見て驚いてしまった。


翌日俺達は直ぐに冒険者ギルドへと向かった。


「お?新人さん?」


受付に向かうと直ぐに受付嬢が声を掛けてくる。

黒髪セミロングの女性ドワーフだ。

背が小さいと年齢が特定しにくい。


「私はここのギルドの受付嬢、ジュミンって言うの。よろしくね!」


「こちらこそ。」


「おぉ?!Bランク?!」


「ジゼトルスで活動してたんだが色々あって移ってきた。」


「ありがたいよぉ!」


「何か良さそうな依頼あるか?」


「どんな依頼がお好み?」


「あまり選り好みはしないぞ。」


「うーん!素晴らしいねぇ!えーっと…それなら…これなんかどうかな?」


「偵察…?」


「うん!地形とか諸々分かってないのにいきなり討伐任務に当たるよりまずは偵察とか採取の任務で土地勘を付けた方が良いかなって!」


「ありがたい気遣いだな。」


「えっへん!」


「じゃあこいつを受けようかな。」


「ありがとうございまーす!」


「このガニルテ鉱山ってのは?」


「はい!今回偵察に行って頂きたいのはこの街の南西にあるガニルテ鉱山です!既に廃止された鉱山ですが、そこに最近モンスターが巣を作っているという話が上がってきまして。」


「どんなモンスターか分かっていないのですか?」


「それを偵察してきて頂きたいのです!」


「モンスターの特定と数やなんかを調べるだけでいいのか?」


「今のところ実害は出ていませんので、討伐任務とはなっていませんが、もし実害が出そうであれば討伐して頂いても構いません!

その場合は討伐報酬は出ますよ!ただ目的は偵察なので無理をしないで下さいね!?」


「分かった。じゃあ行ってくる。」


「お気を付けてー!」


ギルドを出るまで元気に手を振るジュミン。


「凄く可愛らしい方でしたね。」


「背の低さもあってか子供に見えちゃうよな。」


「いくつなのでしょうか?」


「んー…聞いたら怖い事になりそうだからやめておこう。」


因みにプリネラは既に行動を別にしている。

時折視界の端に見えるが基本的には別行動だ。


テイキビの南には大きな国や街が無いため人通りはかなり少ない。

小さな農村があるくらいと聞いているので普段はこのくらいの交通量なのだろう。

鉱山まではそれ程離れていないとの事で数分歩くだけだ。


「それにしても、人通りの少ない南門でさえ手を抜かずに綺麗にしてありますね。」


「だな。舗装されているだけでも驚きなのにな。」


「こっち側はかなり視界が開けてるな。」


「ほとんど草も木も生えてないですね。」


「土地が痩せてるんだろうな。」


「小さな農村がいくらかあるって話だったが…」


「場所によってはそれなりに作物が育つ場所があるんじゃないか?」


「だとしてもこんな痩せた土で農村となると…大変だろうに。」


「生きていくためには仕方が無いんだろうな。」


「……」


「魔法を使えたり剣を使える奴ってのは沢山いる。逆に沢山いるからこそそれで生きていくには競争率が高過ぎる。

満足に給金貰っていけるのは一握り。だから冒険者なんて言う危ない仕事が成り立ってんだろうさ。」


「世知辛い話だよな。」


「それがこの世界なんだよ。」


「真琴様は帰りたいですか…?」


「故郷にか?」


「…はい…」


「いや。俺のいるべき場所はここだよ。間違いなくね。」


「……はい!」


「凛は帰りたいのか?」


「私は真琴様さえいればどこでも関係ないです。」


「そっか。ありがとな。」


「はい!」


「あれか?」


健の視線の先には小高い山が見える。

その麓に採掘場らしき場所がある。

ドルコト山に行った時の様なトンネルは無いが山肌を削った後のような痕跡が見える。

その横には小屋が建っていて数人なら寝泊り出来そうな大きさだが、何かに壊されたように屋根が半分倒壊している。


「廃棄されたと言うよりは放棄された様な感じだな。採掘道具なんかも置きっぱなしだぞ?」


「何かがあって逃げ出した…とかですかね?」


「どうかな?そんな感じには見えないけど。争ったような形跡は無いし…小屋は破壊されてる様に見えるけど、壊されたのは多分最近だな。」


「でも道具を置いていくって何かあったようにしか見えないですよ?」


「……」


「今はそんな事より調査だろ?」


「そうでした。」


採掘場はそれ以外に特に何かがある様には見えない。


「モンスター…いませんね?」


「ここがガニルテ鉱山であってるよな?」


「そのはずですけど…あれ?」


「どうかしたのか?」


「……何か聞こえませんか?」


リーシャの言葉で全員が黙ると微かに小屋の裏から何かが聞こえてくる。

カシャカシャと言うような金属を擦り合わせるような音だ。

鎧が擦れ合う音にも聞こえるが…


警戒しながら小屋の裏手へと回り込む。


「な、なんだありゃぁ…」


一言で言えばドデカい芋虫。

ゆうに3メートルはある様に見える。


「き、気持ち悪いですね…」


「あれはメタルワームですね。」


「リーシャは知ってるのか?」


「はい。何度か見た事があります。」


「どんなモンスターなんだ?」


「雑食性のモンスターで、中でも金属を好んで食すモンスターですね。食べた金属を体表に纏い身を守ります。」


「それであんな音がしてたのか。」


「基本的には臆病なので人前にはあまり現れないんですが、一度巣を作ると縄張り意識が強くなり非常に獰猛になります。」


「つまり…」


「現状は獰猛ですね。」


メタルワームの奥に見える山に空いた丸い横穴は恐らく巣だろう。


「この状態になるとランクB対象のモンスターです。」


「そんなに強いのか?」


「食す金属にもよりますが、このガニルテ鉱山から採れる金属はバニルカ鉱。」


「バニルカ鉱?」


「魔法耐性が高く硬い金属です。ただ、爆発性を持っていて扱いが非常に難しいのであまり目にしない金属です。」


「そんな金属を掘り出してたのか…」


「魔法を変に山に撃ち込むと危険だよな…?」


「バニルカ鉱はそのままではそれ程爆発性も無いのですが…マコト様の魔力だと危ないかもしれませんね…」


「あっぶねぇ…一歩間違えたら大爆発だったな…」


「普通はそれ程高い魔力を持っていないのであまり気にしないのですが…火を入れて加工する段階で爆発性が高まる金属なので。」


「確かに真琴様の魔力だとその辺の炉なんか目じゃないくらいの温度にはなるよな。」


「火魔法は禁止だな…」


「ん?って事はあのメタルワームも下手に火魔法なんか使ったら爆発すんのか?!」


「メタルワームがどの様にしてあの金属を纏っているのか分からないのでなんとも言えませんが、留意するべきかと思いますね。」


「また怖いもん纏いやがったなぁ…どうするよ?」


「……今回は調査だけだろ?帰って報告するべきだな。」


「討伐はしないのか?」


「この辺りには農村も無いし実害は出ないだろ?」


「それもそうだな。」


「マコト様。」


「プリネラか。どうした?」


隠れていたプリネラが突然目の前に現れる。


「近くに人…ドワーフがいます。」


「は?こんな所にか?冒険者か?」


「いえ。その様には見えませんでした。」


「なんでこんな所に…いや、それよりそのドワーフは?」


「あちらに。」


「うわぁー!!」


突然プリネラの示した方向から叫び声が聞こえてくる。

今話していた実害になる予感。


走って向かう。


「なっ?!もう一匹いたのか?!」


メタルワームの別個体が一人のドワーフを食さんと首をもたげている瞬間だった。


「危ない!」


凛の判断でドワーフの目の前に石の壁が現れる。


第二位の土魔法ストーンシールドだ。

メタルワームの大きな口がストーンシールドにめり込み、突き破る。しかし、ストーンシールドで稼いだ僅かな時間でドワーフはプリネラによって助け出されていた。


「くそっ…なんて破壊力だよ…」


凛の作ったストーンシールドは焦っていたにしてもそれ程弱いものではない。

そこらのハスラーが作り出すシールドよりずっと緻密で防御力の高いものだ。

それをいとも容易く突き破るとは…


こちらを向いて口を開けるメタルワームを見て理由が分かった。

顔自体が口、という程にでかい口の中には鋭く尖った歯が全周にびっしりと生え揃い、それが何段にもなっている。

あれで噛みつかれて身体ごと回転されればまるでドリルの様に硬い物も突き破れる。


「あんなんに噛み付かれたら即死だな…」


「牽制します!!」


リーシャが矢をメタルワームに撃ち込む。

リーシャの矢は火属性なので念の為直撃は避けている。

爆発されたら堪らない。しかし気を散らす程度にはなる。それはリーシャも分かっているしダメージを与えようとはしていない。


動きは割と単調だが外皮が硬すぎて攻撃が通らず、健の攻撃も凛の魔法も受け付けない。

1体でも十分厄介なのに2体とは…気が滅入る。

逃げても良いが変に追われて街に近付けたら実害どころの騒ぎでは無くなってしまう。


バニルカ鉱の魔法耐性以上の魔法を打ち込めば倒せるとは思うが、メタルワーム内に取り込まれた事でめちゃくちゃ爆発性が上がってしまっているとしたらそれでも爆発する可能性はある。

そこから連鎖的に鉱山に眠るバニルカ鉱が爆発して地形が変わったら大事件になってしまう。

考えならいくつかあるが…


杖を振ろうとした時、凛が何かを思いついた様だ。

俺は杖を下ろして成り行きを見守る。


凛は魔力量が少ない。それは凛自身でもよく分かっている。それ故に凛はあらゆる努力を惜しまず、その努力によって誰よりも優れたハスラーとなった。

もちろん並大抵の努力でそんなハスラーになれるわけも無い。

フィルリアの元にいた時はそれこそ健に負けない程練習をしていた。俺も練習はしていたが、凛は元々器用なだけあって魔力操作が芸術的に上手くなった。ロスの少ない魔力操作というのは口で言う程簡単ではない。出力した魔力を余すところなく全て魔法へと変換させるのは不可能とまで言われている。

ゼロではないにしても限りなくゼロに近づけることの出来た凛の魔法は見る者が見ればいかに凄いことをしているのかが分かるだろう。そんな凛が思いついた、メタルワーム討伐の打開策。

信用して任せた方がきっと良いだろう。


凛は集中して杖を振る。

特に何かが起きたようには見えない。メタルワームも元気に暴れ回っている。


「おいおい凛!?どうすんだよ?!」


「大丈夫。」


「…頼むぜー?!」


健はメタルワームの猛攻を受け流しながら凛に一度だけ目をやった。


パキッ


小さな音だった。

聞き逃してもおかしくない程の小さな音。

しかしその音がメタルワームの外皮が剥がれ落ちる音だと直ぐに分かった。メタルワームの外皮を覆うガニルテ鉱の一部にヒビが入り割れてゴトリと地面に落ちた。


「割れた!!」


「…なるほど。」


「一気にいきますよ!」


「頼むぜ!」


バキバキバキ!


メタルワームの全身を覆っていたはずのガニルテ鉱が一気に物凄い音をたてて剥がれ落ちていく。裸同然となった外皮にはもちろん健の刀が通る。

健がメタルワームに近付き刀を2度3度と振り抜く。


「グギャーーー!!」


断末魔と緑色の体液を撒き散らし、土埃を上げてその場に倒れて動かなくなった。


「ふぅ…助かったぜ。」


「凛様はどうやってあのガニルテ鉱を…?」


「ガニルテ鉱の隙間から木を成長させたんだよ。」


「木ですか?」


「そ。よく考えたな。」


「ありがとうございます!」


植物というのは存外力強いものだ。

街中のコンクリートを突き破って咲く花やアスファルトを波打たせる木の根っこを日本にいた時によく見たものだ。それが凛の発想に繋がったのだろう。


「グギャーーー!!」


「げ、そういや…」


「もう一匹いましたよね…」


背後から聞こえてくるメタルワームの鳴き声。

健達は完全に忘れていたらしい。


俺は杖を振る。

目には見えないが風の玉がメタルワームの口の中に入る。


「グギ、グキャァァァ!!」


口からドバっと緑色の体液を吐き出してそのまま絶命する。


ウィンドブレイク。風魔法で第四位位にあたるだろうか。ウィンドカッターの応用で、ウィンドカッターを複数個まとめ、玉にして飛ばす。

任意の位置で圧を取り除くと四方八方へとカッターが飛び出す爆弾みたいな魔法だ。


考えたのは俺。


オリジナル魔法というやつだ。名前は健が考えた。


「え、えげつねぇ…」


「体内ぐちゃぐちゃですね…」


「自分に置き換えると血の気が引きますね…」


かなり不評だったが…


「プリネラ。もういいぞー。」


「はい!」


安全のためドワーフを連れて下がっていてくれたプリネラが戻ってくる。


「ひぇー…たまげたなぁー…」


「あれ?アジャルか?」


「おぅ!昨日ぶりだな!!」


「こんな所で何やってんだ?モンスターがうろついてるから出入り禁止にされてるって話だったと思ったが?」


「色々あった!ガハハ!」


「そんな言い訳通用するわけないだろ?上に報告しても良いのか?」


「そ、それは困る!」


「で?」


「む……」


「アジャル?」


「分かった分かった!話す!

ここには仲間を助ける為に来たんだ。」


「仲間を?一体どう言うことだ?」


「このガニルテ鉱山は元々俺の持つ鉱山だったんだ。」


「え?そんじゃここはアジャルの私有地なのか?」


「少し前まではな。」


「今は違うのか?」


「まぁ色々あってな。」


「……まぁ詳しくは聞かないが、何か大事な事の為にここに来たってことか。」


「そうだ。」


いつも豪快に笑っているだけに見えるアジャルの目が、この時だけは真剣なものに見えた。


「んじゃ報告は控えとく。っても今はまだ危険かもしれないし大人しく帰れ。」


「…そうだな。危うく死ぬところだったんだしな。」


「分かってくれたなら良いさ。俺達はもう少し見回っていく。気を付けて帰れよ。」


「おぅ!助かったぜ!じゃあまたな!」


アジャルは振り返って街へと向かって行った。


「マコト様。どうしますか?」


「そうだな…少し調べてみてくれないか。アジャルの様子だともっと危険な事に首を突っ込む気がする。」


「相変わらず世話焼きだな。」


「気付いてて放置なんて寝覚めが悪すぎるだろ?」


「まぁな。」


「なんだよ。」


「なんでもねぇよ。真琴様は真琴様だなって思っただけだ。」


「なんだそりゃ。まぁ良いさ。

プリネラ。すまないけど少し探ってくれないか?」


「どの程度調べますか?」


「そうだな…アジャルがここを手放した理由と、仲間がどうのって言ってた事の理由かな。多分どっちも繋がってはいるとは思うが…」


「分かりました!」


プリネラは元気よく返事をすると街へ向かって行った。

俺達はガニルテ鉱山周辺を一周回ってみてほかのメタルワームがいないことを確認した後街へ戻った。

もちろんメタルワームの素材はしっかり頂きました。


「えぇ?!メタルワームですか?!」


ギルドに報告にいったらジュミンさんが物凄い叫び声をあげた。


「あ、あぁ。」


「バニルカ鉱を纏ったメタルワームを討伐してきたんですか?!」


「そう言ってるんだけど…」


「誰もお怪我はありませんか?!」


「えーっと…?」


「バニルカ鉱はメタルワームに吸収されるととてつもなく爆発性の高いものになるんです!火を近づけるだけで爆発するんですよ!?」


「マジか…」


「火を使わずに討伐するにはそれなりの準備が必要なんです!」


「ま、まぁ、なんとか倒せたから良かったよ…」


危うく鉱山と共に吹き飛ぶ所だったわけだ。


「申し訳ございません!まさかメタルワームがいるなんて!」


「あー、いや、ジュミンさんのせいじゃないよ。討伐しようと考えたのは俺だし。」


「それでも想定しておくべきでした…」


「あー…じゃあ次から気を付けてって事で。今回の話はここでお終い。」


「はい…」


「それより、そんなに爆発性が高くなるならメタルワームの素材は危ないってことになるのか?」


「いえ、素材は普通のバニルカ鉱と同じです。詳しく分かってはいませんが、メタルワームが爆発性を高くしていると考えられています。」


「つまりメタルワーム自体が死ぬと爆発性も安定するってことか。」


「はい。なのでバニルカ鉱としての価値はありますが、それ以上にはなりませんね。」


「その言い方だとやっぱりバニルカ鉱はそれ程需要が無いのか?」


「取り扱いが難しいので…取り扱えるのは一部の職人さんだけですね。」


「そうか…」


「ですが、メタルワームの牙はそれなりに高値で買い取られますよ。」


「そうなのか?」


「金属を抉る程に強い牙ですから。色々な物に加工されてますので。」


「そっか。じゃあ牙だけ買い取ってもらうかな。」


「ありがとうございます!」


「一応ガニルテ鉱山の周辺を一周したけど他にメタルワームは見当たらなかった。けど、他にもいるかもしれないから気を付けてくれ。」


「はい!分かりました!注意を呼び掛けるように報告しておきますね!」


「あぁ。」


牙を買い取ってもらいバニルカ鉱自体は取っておく。何かに使えないかまた試行錯誤してみよう。


依頼の達成報酬を貰ってギルドを出る。


「思ったよりも報酬貰えましたね?」


「メタルワーム討伐分も入ってるからな。放置してたら被害が出てた可能性も大いにあったってことで色を付けてくれたらしい。」


「討伐しておいて良かったですね!」


「まぁ結果的にはなぁ。危険な事に変わりは無いし今後はもっと気を付けていかないとな。」


「はい…」


「これからどうすんだ?」


「特に決めてないし街の散策でもしようかと思ってた所だけど、他に何かあるか?」


「無いです!街の散策行きたいです!」


「じゃあそうすっか。」


凛の熱い希望により街の散策へと向かうことになった。大通りには多くの店が並び、行き交う人々は思い思いの店の前で足を止める。どの店も店構えには凝った装飾があしらわれている。


東西南北に伸びた大通り全てがその様な商店街の様になっており、実に商業的に盛んな街だ。

多くの店が立ち並んでいるが、中には装飾品を売る店もあった。どんな物なのか店に入ってみると日用品にかなり凝った装飾を施した物を取り扱っているらしい。

机や椅子、本棚。中には置物なんかもある。


「へぇ。凄いな。」


「ここまで精巧な装飾は他の国では見られないですよね。」


「これぞドワーフ…って言ったところなのかな?」


一言で言えば本当に手先の器用な人が多い種族だろう。

必要そうな物はあまり見当たらず買う事はなかったが、それでも悩むくらい美しい造形物だった。


大通りを歩いているといい匂いが漂ってきて腹が減って仕方がない。美味そうな物を買い食いしながら街を練り歩き、腹が一杯になった頃には日も暮れ始めていた。街の構造を知る為には練り歩く事が一番手っ取り早い。


数日間はギルドに行って適当な依頼をこなし、街を歩いて寝る。を繰り返した。おかげで一週間もした頃には大体の街の構造や周囲の地理を把握出来た。


テイキビから見て南西はガニルテ鉱山があり、荒地になっている。

東には農村が最も多く、人の出入りが激しい。

西には大きな川、ワビリス川が流れている。

北には所々に森が生い茂り、ずっと先に行けばジゼトルスへと辿り着く。俺達が来た道だ。

テイキビの街は東西南北に大きな通りが通っている。四つに別れた地区で特色がある。

北東地区には職人が好んで住み着く。来訪者が多く人の行き来が激しいため店や宿もここに多く建っている。

北西地区。ここは貧民街と呼ばれる場所にあたるが、困窮しているイメージは無く、貧民という人々もほとんどいない。あくまでもテイキビ内では…という事だ。

南西地区。ここはテイキビに住み着くドワーフの居住区となっている。店を構えていないドワーフなんかはほとんどがここに住んでいる。

南東地区は貴族街。金持ちの者たちが住み着く場所だ。王城もこの地区にある。

ギャンボの情報は集めてはみたものの現在何処にいるか分からず八方塞がりになっていた。

テイキビの事も分かり始めた日の夜の事。宿に帰るとプリネラが一人で待っていた。


「びっくした!!明かりくらい付けとけよ!」


暗闇に佇むプリネラを見て健がチョップを繰り出す。


「ぁふっ!」


「気持ち悪い声出すなや!」


「流石兄様…」


「うるせぇよ!それよりなんか話があってきたんだろ?」


「そうでした!」


「例の件か?」


「はい!!」


一先ず明かりを灯して腰を下ろした所で話に入る。


「それで?」


「はい!まずは、ガニルテ鉱山の事からですね。あの鉱山は確かにアジャルというドワーフが所有していた鉱山だったそうです。

バニルカ鉱を掘り出して加工出来る職人は限られていて、アジャルはその一人だそうです。」


「素材としては良いものなんだよな?」


「はい。魔法耐性が高く硬度も十分なので防具に用いられる事が多い素材です。適切な処置で加工しないと爆発してしまうので取り扱うには認可が必要なんです。」


「認可?」


「突然隣の家が爆発!なんて事になると困るので国が認可した者のみが取り扱っても良いと決めているみたいです。」


「その認可された人が少ないわけか。」


「はい。アジャルはその認可された数少ない職人の一人なので鉱山を持っていたという事ですね。」


「まぁ使えなきゃ宝の持ち腐れだもんな。」


「ですが、数ヶ月前に突然ガニルテ鉱山で発掘作業にあたっていた人達が姿をくらましたそうです。」


「……作業が嫌になったのか?」


「いえ。安全はしっかりと守られていたそうですし、給料も良くて多くの作業員が羨ましがる職場だったそうですよ。」


「…なのにいきなり全員が?」


「真相は明らかになってはいないそうですが、アジャル曰く突然作業員が持ち場を離れてフラフラと歩いていってしまったそうです。」


「……」


「アジャルは勿論止めたんですが、その制止も全く意に介さず道具も置いて行ってしまったとの事です。」


「どう言うことだ?」


「分かりませんでした。その作業員達は家にも帰っておらず不可解過ぎるので、国としては鉱山を問題解決まで封鎖させたそうです。」


「所有権はアジャルって事か?」


「所有権だけで言えばその通りですが、実質国に取り上げられている状態ですね。」


「もしその話が本当であれば、アジャルが言ってた事と繋がる…か。」


「そうですね。第三者の介入があったのだとしたら、アジャルからしてみれば作業員を一気に誘拐された様なものですから。」


「作業員との関係がどうだったかは分からないが、仲が良かったのであればその通りだろうな。」


「アジャルはそれから毎日あの鉱山に出掛けては作業員達の行方を探っているそうです。」


「……魔法か?」


「もし魔法であれば、かなり厄介な相手ですね。」


「そんなにか?凛。」


「相手の精神や意識に働き掛けて操る類の魔法は基本的に禁術として世界的に禁止されています。使わなくても、調べたりしただけでも最悪牢獄で一生を過ごす事になりますね。」


「おう……」


「それをやってのける相手ともなると、かなり大きな組織…だと思います。」


「発狂した個人って事は無いのか?」


「それは考えにくいですね。作業員が何人いたかは分かりませんが、この手の禁術は人手も掛かりますし、そもそも個人が入手出来る情報ではありませんので。」


「つまり世界的に見ても大きいと言えるくらいには大きな組織って事か?」


「はい。」


「確かに厄介な相手だな。」


「まだ禁術を使用したと決まったわけではありませんが…」


「テイキビに来る途中で襲ってきた奴らも絡んでるとすれば恐らく同じ相手だろうな。」


「そんなにポンポン禁術使う奴がいたら禁術の意味が無いだろ。」


「だよな。同じ相手と見るべきだな。」


「…にしてもそいつらの目的はなんなんだ?」


「私達を狙った事と、この鉱山での出来事……繋がりませんね。」


「本気で殺そうとしてた所を見ると真琴様の箱の奪取方法が目的ってわけでは無さそうだけどな。

殺す事で手に入るとでも思ってるのか…?そんな感じはしなかったよな。」


「ガニルテ鉱山の作業員達が私達を襲ったのでしょうか?」


「いや、体格的に違うだろ。襲ってきた奴らは間違いなくそこらの物乞いだったからな。」


「目的が分かればこちらも動けるんですけど…」


「禁術ってのはそんな簡単に出来ないんだったよな?」


「はい。恐らくですが、この規模になるとかなり大きな魔石なんかが必要になってくると思いますよ。」


「大きな魔石?」


「真琴様程の魔力になれば必要無いかもしれませんが、高位の魔法を使おうとすると魔力が足りません。なので魔石を使う事でそれを補ったりするんですよ。」


「そんな使い道があるのか。」


「もちろん魔石から無理矢理魔力を奪い取ってしまうので魔石自体はボロボロに崩れてしまいますが。」


「使い捨てって事か。」


「そうですね。」


「デカい魔石を取るには強力なモンスターを討伐するしか無いのか?」


「基本的には…」


「裏技でもあるのか?」


「裏技と言いますか…外法という方が正しいかもしれませんが…人工的に魔石を作り出す事が出来るという話を聞いた事があります。」


「人工的に?」


「あ、それ知ってるかも…」


「プリネラ知ってるのか?」


「私がまだマコト様と出会う前に誰かから聞いた事があったと思います。」


「覚えてることだけでいいから教えてくれないか?」


「はい!えっと、確かその魔石の事をギビドって呼んでました。」


「ギビド?」


「ギビドは小さい子供が悪い事をした時に来ると言われている悪い妖精の事ですね。生気を吸って殺されてしまうと教えられます。」


「空想上の生き物…って事か?」


「妖精自体はいますが、ギビドが実際にいるのかは確認されていないと思います。」


「そのギビドの事を話してた奴の事は分かるのか?」


「いえ…昔の事ですし、顔も見ていないので…」


「仕方ない事なんだしそう落ち込むな。他には?」


「はい!そのギビドを作る為にはいくつか必要な物があるとは言っていましたが、中でも生物の生気が必要だとの事です。」


「生気?」


「はい。特に知性を持った生物の生気が必要だと。」


「……つまり、それを作り出す為には元気な奴らが何人も必要なのか。」


「はい。」


「って事は作業員は…」


「かもな。いや、まず間違いなく…な。」


「作業員達を操っていたのもその魔法なんだろ?どこでその生気を手に入れたんだ?」


「恐らくは色んな所からそれとバレないように誘拐してきたんだろうな。」


「今回はバレても良かったのか?」


「これだけあからさまだとな。多分バレても良いくらいにそのギビドってのが溜まった。とかじゃないのか?」


「そうなると結構ヤバイ気がするのは俺だけか?」


「実際に危険な状態だと思いますよ。」


「どんくらい危険なんだ?」


「どれだけのギビドを作成したかによるとは思いますが…この街の一地区をそのまま操る事も出来ると思います。」


「プリネラ。可能なのか?そんなまるまる一地区を操るなんて。」


「どうでしょうか…多分。としか言えませんね…

私が知っているのはそのギビドを使って魔法を、禁術を行使するという話だけでしたので…」


「くそ…もっと禁術についてフィルリアに聞いておけば良かった!」


「禁術ですから。教えてくれないと思いますよ。」


「正論?!」


「どちらにしても今はフィルリアさんがいる訳では無いのでどうするか決めませんか?」


「だな…」


「その前にあの物乞いの連中はなんで俺達を襲ったんだ?」


「分からない。ただ適当な冒険者を狙ったのか、俺達だから狙われたのか。」


「……どうする?」


「……ギャンボを探そう。」


「その後は?」


「…街から出る。」


「そんな?!」


「リーシャ。」


「でも凛様?!」


「簡単になんとか出来るなら真琴様は何とかしようと仰るはずですよ。」


「……でも…」


「俺達は正義の味方じゃない。もちろん助けられるなら助けたいが…」


「……はい…」


「プリネラ。ギャンボさんの居場所については何か分かったか?」


「いえ。ほとんど情報がありませんでした。ですが、ギャンボさんの居場所を知っている人の検討なら。」


「誰だ?」


「アジャル。」


「……これは…」


「巻き込まれるパターンかもな。」


「はぁ…真琴様は本当に苦難の星の元に生まれたのかもしれませんね…」


凛の溜息に俺も溜息で返す。

アジャルの現状を考えるに恐らく協力を頼まれる。となれば今回の件に間違いなく首を突っ込む事になるだろう。


たった今関わらないと決めた直後でこんなことになるとは…


「真琴様…?」


「ん、あぁ。大丈夫だ。

こうなったなら仕方がない。もしアジャルから要請があった場合は結局首を突っ込む事になる。その時は腹を決めて動くとするか。」


「はい!」


「まずはアジャルに会うところからだな。アジャルの店は東側だったよな?」


「はい。」


「明日アジャルの店に行くとしようか。」


結局進むは茨の道らしい。観念して次の日朝一でアジャルの店に出向いた。

山一つ持っている男の店だから覚悟して行ったのだが、実際はかなり質素な雰囲気だ。

他の店はこれでもかと店構えを派手にして人目を引こうとしているのに対して、アジャルの店の装飾は微々たるもの。必要最低限だ。


カランッ


扉を開くと乾いた鐘の音が聞こえ、それと同時に木の香りがする。

店内にあるテーブルや椅子に使われている木の匂いだろう。どの商品も派手過ぎず、落ち着き過ぎずの装飾が施されている。まるで主役は装飾では無い。とでも言いたげだ。


武器や防具もチラホラと見える。

どれもかなりしっかりしていて一度買えばかなり長く相棒として働いてくれそうだ。


「いらっしゃい!……って、マコトか?!」


「約束通り来てやったぞ。」


「この前は助かった!ありがとな!」


「気にするな。俺達も仕事だったんだから。」


「それでも礼は言わせてくれ!」


「分かったよ。素直に受け取っておくよ。」


「おぅよ!

そんで?今日は何か探しに来たのか?」


「いや、ちょっと聞きたいことがあってな。」


「聞きたいこと?俺の知ってることならいくらでも話すぜ?命の恩人だしな!」


「なら聞くが、ギャンボの居場所を教えてくれないか?」


「な?!お前らなんで?!」


「俺の仲間の一人が情報収集に長けた奴でな。色々と探ったらお前に辿り着いたってわけだ。」


「……それを聞いてどうするつもりだ?」


「昔馴染みでな。預けたもんがあるから返してもらいに来たんだ。」


「……」


「まぁ信用出来ないわな。」


「すまねぇが…確かにマコト達は命の恩人だしそれ以外の事なら話してた。だが、これだけはそう簡単に教えられねぇ。マコト達が命の恩人ならあの人は俺にとっちゃ人生の恩人だ。もしもあの人を裏切る事になったら俺は死んでも死にきれねぇ。」


「そうか…」


「なんだ?もっと食い下がると思ってたのに。」


「いや。俺にもそんな人がいるからな。気持ちが分かるし言葉で何を言っても信用出来ないことくらいは分かるからな。」


「……」


「まぁ他の方法でも探してみるさ。いきなり悪かったな。」


俺はアジャルに背を向ける。


プリネラに頼む事がまた増えてしまった。しかも直ぐにはギャンボに辿り着くとは思えない。

早くしなければ…


「待て。」


ドアに手を掛けた所でアジャルから声を掛けられる。


「一つ頼みがある。」


「…頼み?」


「あぁ。その頼みを聞いてくれるなら、あの人に会えるかもしれないぞ。」


「…聞こう。」


ドアに掛けた手を離してアジャルの方へと振り返る。


「奥で話そう。」


アジャルに連れられて店の奥へ向かう。

金槌や炉が置いてある煤だらけの部屋。

作業場だろう。


最近は使っていないのかうっすらとホコリが被り、道具がどこか寂しげに見える。


「座ってくれ。」


木でできた質素な丸椅子に全員が腰を下ろす。


「それで?」


「あぁ…俺が鉱山に向かってた理由。誰かから聞いたか?」


「まぁそれとなくな。」


「あいつらは絶対に誰かに連れ去られたんだ。」


「当日もそう言い続けていたらしいな。」


「どう見ても普通じゃなかったからな。」


「助けてやりたいから手伝えってのか?」


「その通りだ…今回の事件はネフリテスの仕業だと睨んでる。」


「ネフリテス?」


「禁術と呼ばれる魔法を研究し、使用する組織だ。禁術研究のためならばどれだけの命を奪っても構わないと考える狂った奴らだ。」


「…ネフリテスね。それで?」


「そいつらの動きが最近活発になってきているんだ。俺は仲間を助けたい。

だが、それには間違いなくネフリテスとの戦闘が必要になってくる。」


「護衛って事か?」


「あぁ。俺は戦闘は出来ねぇからな。」


「助けるっても場所は分かってるのか?」


「いや。分かってねぇ。」


「そこから手伝えって事か?」


「頼む。もう俺一人じゃどうにもならねぇ。」


「……それがギャンボとどう繋がるのか分からないが…分かった。アジャルがそう言うなら信じて手伝うとするよ。」


「本当か?!」


「あぁ。」


「助かるぜ!」


「手伝うのは良いが、早くしないとまずいことになるぞ?」


「どう言うことだ?」


「恐らくだが、近いうちに大規模な禁術が行使されるはずだからな。」


「なっ?!」


「推測でしかないが、多分当たってると思うぞ。」


「そんなっ?!じゃあ皆に知らせなくては!!」


「いや、パニックになるだけだ。大規模なって言ったろ。国ごとまるっとどっかに避難するってか?どいつがそのネフリテスの奴か分からないのに選別はどうすんだ。」


「んなこと言ったって俺には分からねぇよ!でも伝えないよりマシだろ?!」


「知らせた事で禁術が使われるタイミングが早まれば対策もクソも無くなる。それなら知らせずに禁術の行使を止める手だてを考えるべきだ。」


「……くそっ!」


「まだそうなると決まったわけじゃ無いしな。俺達でなんとかしてみるから少し待っててくれ。」


「……分かった。頼むぞ。」


「あぁ。」


アジャルと約束を交わし店を出る。


「で?どうすんだ?」


「相変わらず真琴様はお人好しですね。」


「なんでだよ。こうするしかなかったろ?」


「アジャルを助けなくてもプリネラなら近いうちにギャンボの居所掴めるって事くらい分かるだろ?」


「出来ないかもしれないし保険は大事だろ?!」


「そんなこと思ってないですよね?」


「うっ…うるさい!ほら行くぞ!」


「はいはーい。」


ニヨニヨしながらついてくる健と凛。

付き合いが長いとこれだから…

まぁいいか。とにかく早く情報を集めなくては。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る