第一章 人間の国 -ジゼトルス- Ⅲ

「え、えーっと……何故俺は抱きつかれているんだ?」


いきなり抱きつかれて困惑している俺をそれでも尚抱きしめ続けるフィルリア。


ギルド内でも有名な巨にゅ…もとい、魅力的な女性でありSランク冒険者として有名なフィルリア。


冒険者達の間で囁かれていた噂ではあまり喋らず、いつも一人で依頼をこなし、感情的になる事は少ないとの事だったのだが…


いつしかフィルリアに近づこうとする男は殺されるなんて言われるようになっていたらしいが、そんなフィルリアが男をこれでもかと抱きしめ、しかも離さない。


未開の地に侵入し埋められている俺を恨まぬはずなど無く、男達は羨望と絶望と憎しみの目を俺に向けている。


「あ、あの…フィルリアさん…お久しぶりですが…そろそろ離して頂かないと真琴様が…」


「あ!ご、ごめんなさい!」


「ぶはぁーーー!!!し、死ぬかと思ったーー!!」


完全に首に腕を回しこまれてロックされた俺は振りほどくことが出来なかった。人の胸…言い方が悪いな。スライムさんに殺される時が来るとは思わなかった。


なんか絞め技に似たようなものがあった気が…


「大きくなったわね……」


「え?あー…うん?あまり覚えてないけど…」


「そうだったわね。さ、行きましょう。」


「え?!ちょっ!どこへ?!」


「何を言っているのよ。私の家よ。」


「待て待て待て!何故そうなる?!」


「久しぶりに会ったのよ?とりあえずお持ち帰りしておかないと。」


「言い方!?」


「フィルリアさん。嬉しいのは分かりますが、一度落ち着きましょう。とりあえず真琴様から手を離して杖をお持ち下さい。」


「しょうがないわね…」


やっと離れてくれたフィルリアは青い髪がウェーブしたロング。


細い目と薄い唇に胸元が空いた割と大胆な服を着ている。


特徴的なのは魔女と言われて思い浮かぶ様な大きな帽子に大きな杖を持っている事だ。


長くシルクのような生地の服で美しいという言葉が当てはまる人だ。


「マコトって言うのね。」


「あぁ。こっちは凛。で、健だ。」


「分かったわ。えっと、とりあえず出ましょう。」


「それには大賛成だな。」


受ける視線に殺気が混じり始めたのでさっさと退散する。


フィルリアの行きつけの店で個室を借りる。


それよりずっと健が黙ったまま下を向いているが…どうしたんだ?


「さて、何から聞こうかしら?」


「私の方から今までの事をお話しますね。」


凛が日本での生活、こっちに来てからのこと、ジルとガリタの事など掻い摘んで簡単に話す。


「それじゃあこっちに来てから暫く経つのね?」


「あぁ。フィルリアを探してたけど依頼で外に出てるって聞いてな。こっちはこっちで色々とやってたって事。」


「そっかぁ。なんか損した気分ね。」


「なんだそりゃ。」


「そのジルちゃんとガリタちゃんは?」


「今は討伐したレッドスネークが壊した採掘場の事で話をしにギルドマスターについて行ってるんだよ。」


「そっか。あそこは国の管轄だものね。」


「フィルリアさんはあれからどうされていたのですか?」


「マコト達が向こうに行った後も暫くは教師をしていたわ。


それでも国からの招集だとか、暗殺だとかが酷くてね。子供達まで危険に晒すといけないから辞めたのよ。


それで冒険者に戻ったの。」


「なんか、すまないな。」


「マコトのせいじゃないわ。全部あいつらが悪いのよ。だから貴方が気に病む必要なんて塵程も無いのよ。」


「あ、ありがとう。」


何かにつけて頭を撫でてくるフィルリア。


なんか恥ずかしい。


「その後はずっと冒険者を?」


「えぇ。ずっと国の連中がうるさかったけど、諦めたらしくて最近は一切来なくなったわね。」


「しつこいですね。」


「本当よ!あいつら私のマコトにこれ以上何かしたら許さないんだから!」


「私のは違いますね。」


「私のよ。」


「ち!が!い!ま!す!」


「何よ。あれだけ一緒にいて何も出来なかったくせに。」


「うっ…し、してますもーん!」


「な?!なななななにしたのよ!」


「教えませーん!」


「きぃーー!!」


「おい。これなんだ?」


「2人とも昔から真琴様を取り合ってあんな感じで喧嘩するんだよ。と言うより俺に話しかけるな。」


「ん?なんだよ?」


「良いから!」


「けーーーんーーー??」


「は、はいぃ!!!」


「どうしたの?何か私がしたかしら?」


「いえ!滅相もございません!今日もお美しい限りです!」


背筋ピーン!って…マジでどしたの?健さんよ。


「お世辞なんて必要ないわ。ほら、思っている事を言ってごらんなさい?」


「い、いえ!何もありません!」


「健のやつどうしたんだ?」


「健のその後のことなんですけど、毎日の様にボコボコにされまして、気が付いたらあんな風になってました。」


「あー…教官みたいな感じになってんのか…」


「あれから数年経つんですが、抜けないものなんですね…」


「なんでそんなに恐縮してるのよ?私が怖いみたいじゃないの。マコトに変な印象を持たせちゃうでしょ?」


「い、いえ!フィルリアさんは常に優しくお美しいです!」


「それより、フィルリアから俺が渡したものを返してもらおうと思っているんだが、大丈夫か?」


「元々預かっていただけのものだもの。直ぐにでも返したいけれど…ここじゃあまり良くないわね。」


「それもそうだな…


今からジル達が帰ってきた後に武器屋に行く予定なんだが、その後どこかに行くってのは?」


「そうね。それならやっぱり私の家に来なさい。あそこなら邪魔も入らないし大丈夫よ。」


「分かった。じゃあ用事が済んだら向かうから家の場所だけ教えてくれないか?」


「何を言っているのよ?私も一緒に行くわよ。」


「え?!」


「何よ?嫌なの?」


「いや、嫌では無いけど…ジル達もいるしな…」


「会いたいと思ってたから丁度いいわ。」


「お、おぉ…」


「どこで待ち合わせてるの?」


「俺達の泊まってる宿にだけど。」


「そっか…あの家はもう無くなっちゃったもんね。」


フィルリアが言っているのは健が忍び込んで俺達と初めて会った時の家だ。


もちろんまだあったとしてもそんな危険な場所には行けないが。


「じゃあ一先ずマコト達の泊まってる宿に行きましょ!」


「なんか凄いことになってきたなー…」


結局強引に着いてきたフィルリア。


もちろん宿に泊まっている人達も、テイジもフィルリアの事は知っていて大騒ぎ寸前の所まで行った。


そうなる前にテイジに押し込まれるように自室に入ってなんとか事なきを得た。


「はぁ…びっくりした…」


「どこ行ってもあんな風に騒がれるのか?」


「うーん…最近はそうゆうのも無くなってきたんだけど…ここは特別みたいね。」


「嫌な特別だな…」


コンコン


「開いてるよー。」


ガチャ


「あ、ジル、ガリタ。おかえり。」


「なんか下で凄い騒ぎになってたけど何かあった……の……かぁぁあ?!」


「フィルリアさん?!」


「なぁに?」


「あ!いえ!ビックリしてお名前を呼んでしまっただけです!すいません!」


「あら、そうなのね。大丈夫よ。」


「いやー。ギルドでばったり会ってな。着いてくる事になってしまった。」


「どうも、フィルリアよ。」


「私はジルです!」


「わわわわ私はガリタです!」


「貴方達が一緒に冒険者やってくれている子達ね。」


「は、はい!」


「ありがとう。感謝するわ。」


「わわわ!」


ガリタはフィルリアに頭を撫でられてふわふわしている。


「今から武器屋に行くんだってね?」


「はい!」


「私も連れて行ってもらってもいいかな?」


「もちろんです!」


「ありがとう。」


「あわわわ!」


「ガリタって人見知りじゃなかったか?」


「そのはずなんだけど…完全に攻略されてるな。」


完全にフィルリアに懐いたガリタと共に武器屋に向かう。


「おぅ!帰ったか!!」


「あぁ。ほらよ。ペングタイトだ。」


「お!!こりゃ上物じゃねぇか!」


「そうなのか?」


「ペングタイトってのは普通はこんな風に仄かに光ったりしねぇんだ。純度が高い結晶でないとこうはならねぇ。」


「へぇ。」


「しかもこんなに…良いのか?」


「気にするな。」


異空間収集ににまだ沢山あるし。とは言えない。


「ありがてぇ!よっしゃ!そんじゃ武器出してくれ!すぐやってやる!」


全員分の武器を渡す。


俺だけとの約束だと言われるかと思ったら気前よく受け取ってくれた。


それだけやってもお釣りが来るくらいの上物らしい。


「そうだな。数時間掛かるからまた明日来てくれ。」


「頼む。」


「任せとけ!」


「結局明日になっちゃったね。」


「まぁ全員分だしな。な?来ても詰まらなかったろ?」


「そんな事ないわよ!皆といられて楽しいわ!」


「何故そんなに眩しい笑顔……そして何故腕を組んでくるんだ。」


「離れてください!」


「いーや!」


「もー!……は!そうだ!」


「おい。何故凛まで腕を組んでくるんだ。」


「好きだからです。」


「直球過ぎませんか?!」


「それよりこれからどうするんだ?」


「あ、私とガリタはちょっと用事があるから抜けたいんだが、大丈夫か?」


「もちろん。じゃあまたな。」


「あぁ。」


「それなら今からうちに来なさいな。受け取りたいものがあるでしょ?」


「じゃあお言葉に甘えようかな。」


フィルリアに着いていくことになり、全員でフィルリアの家に向かう。


Sランク冒険者の家だ。どんな豪華な所に住んでいるのかと思っていたら、どんどんと中心地から離れていく。


遂には北門から外に出てしまった。


不思議に思いつつも着いていくと、北西の方向へと向かっていく。


少し歩くと小さな森があり、その中に入っていく。


そしてその中心地に質素ながら生活感の溢れる家が現れる。


「街の外に住んでるのか?」


「中に居た時に毎日兵士達が来るから嫌気が差して外に移ったのよ。でも住んでみるとなかなか良いわよ?静かだし、好きな様に過ごせるし。」


「モンスターは大丈夫なのか?」


「Sランク冒険者なのよ?」


「ん。愚問だったな。」


「さ、入って入って!」


木の扉を開いて中に入ると紅茶の様ないい匂いが漂ってくる。


「いい匂いだな。」


「紅茶の葉を乾燥させてるのよ。」


「へぇ。自分で作ってるのか?」


「趣味みたいなものだけどね。」


「これだけやれれば趣味の範疇は越えてるだろ。」


「うふふ。ありがとう。さ、飲んでみて。」


「お、ありがとう。どれどれ………うん!うまい!!」


「あ、本当だ…美味しい。」


「確かに…何かが違う様な気がする…」


「やはり筋肉バカには分からないですか…」


「分かるわ!………多分。」


「それより今は真琴様です。」


「そうだったわね。マコト。こちらへ。」


「あぁ。」


フィルリアがそっと俺の手をとると、優しい手つきでダブルビッグスライムの中心地に俺の掌を押し当てる。


これはただのスライム。そうスライムなんだ…


と自分に言い聞かせているとフワッとフィルリアの胸から白く四角い箱が現れる。


凛の時と同じだ。


それがパカリと開くと世界が白く染まる。


「グラン!グラン!」


「なに?父様。」


「ここにいたか。」


黒髪で顎に髭を生やした男が俺を呼んでいる。


これが俺の父さん。


「グラン。今日からお前の面倒を見ることになったティーシャ。ティーシャ-カラフリスだ。」


そこには凛によく似た母親らしき人に連れてこられた小さな凛がいた。


そして俺はグラン。元の名前はグラン-フルカルト。


フルカルト家は田舎の貴族で政権なんかとは無縁の生活。


昔父が武勲を上げた事でこの田舎の土地を任された貴族だった。


凛、元の名前はティーシャ-カラフリス。


カラフリス家は俺達フルカルト家に仕えてくれている家だ。


仕えると言ってもメイドの様なもので、そんなに多くを召抱える事が出来ないので一人だけ仕えてくれるという事になっている。


凛の前は母であるプーリーが仕えてくれていた。


本来であれば父が凛の紹介に来なければいけないのだが、凛の父は物心着く頃にはいなかった。


話では昔父と共にこの村を守る為にその命を掛けてくれたのだと言っていた。


名をバードン。


こんな辺境の村に腕の立つ人間が多く居る訳は無い。


ストーンドラゴンが群れを成して襲ってきた時に父と村を守り死んだ。


その後父はカラフリス家を守る為に仕えるという形で養う事になったのだ。


プーリーと凛はその措置に深く感謝をしていたが、父であるガーランは自分がバードンを助けてやれなかった事を悔いていてこんな事しかしてやれないと日々嘆いていた。


そんな事で凛とは小さい時からずっと一緒に育ってきたのだが、今回正式に従者として任を受けるとなり、形だけでも正式に行っているわけだ。


いつも一緒にいて名前もよく知っているのにそんな紹介の仕方を父がしているのにはそんな訳があった。


もちろん貴族の息子である俺もそれは重々承知している事なのでそれに則って挨拶をした。


凛はこれ以上なく緊張していたが、俺がよろしくと言うと満面の笑みになって嬉しそうにしてくれた。


それからは毎日一緒にいたのだが、俺には一つだけ心配事があった。


自分の魔力だ。


人並外れたこの魔力は時として人を傷付ける。


そんな事を考えていたら母様であるヒリス-フルカルトが俺に言った。


「グラン。どうしたの?」


「え?」


「貴方は誰の息子だと思っているの?私に分からないとでも思っているの?」


「…お母様……


…魔力が…自分の魔力がティーシャを傷つけてしまわないか心配です…」


「…そうね。確かにグランの魔力は人並外れたものだし誰かを傷つけてしまう事もあるかもしれないわね。」


「やっぱり…」


「でも、それは貴方がそうしたいと望まない限り、酷いことにはならないわ。魔法は怖いものかもしれないけど、制御出来ないものでもないのよ。


制御出来ない程の魔力など神様はお与えにならないのよ。」


「……」


「こちらに来なさい。」


母様はそっと俺を膝の上に抱き抱えると頭を撫でてくれた。


「良い?貴方は優しい子よ。その気持ちをずっと持ち続ければ、きっと近いうちに魔法は貴方の強い味方になってくれるわ。」


「……うん。」


バタンッ!!


「ヒリス!!グラン!!」


突然大きな音を立てて父様が扉を開ける。


額に汗を滲ませて息遣いも荒い。


「どうしたの?!」


「逃げろ!」


「逃げろって…どう言うこと?!」


「説明している時間は無い!早く!!」


父様は連れてきた凛とプーリーを含めて俺と母様を屋敷の裏へと引っ張った。


何が何やら分からない。


裏手には地下へと続く隠し扉があり、その中に押し込められる。


「あなた!?」


「行け!!早く!!」


父様は俺達を中に押し込むと扉を強引に閉めてしまう。


父様は外だ。


「見つけたぞ!!追え!!」


「くっ!」


ガシャガシャと鎧が擦れる音と、父様が走る音が遠ざかっていく。


「あなた…」


「奥様…」


「プーリー!一体何が起こっているの?!」


「………グラン様です…」


「え?!」


「魔力が高い子供を……その……」


「なんて事……」


「母様……僕……」


「貴方のせいじゃないわ!グラン!貴方が悪いわけじゃないの!」


強く抱きしめられる。


「父様は私達を守る為に一人で戦っているのよ。必ず生きて会えるわ。だから…逃げましょう。」


どこかふわふわとしていた。


何故こんな事になっているのか…僕のせい?僕の…


地下道を通って行くと川岸に出る。


深い川で少し下ると滝がある。


「行くわよ!」


「いたぞーー!!」


「?!」


森の中から鎧を着た兵士達が次々と出てくる。


母様とプーリーは僕と凛を庇うようにして抱き抱え、川の際まで寄る。


「その子を渡せ!」


「嫌よ!渡してなるものですか!!」


「お前の旦那のように死にたいのか?」


「?!!」


ゴロリと投げられたのは父様の頭。


首から下は無くなっていた。


「あなたーーーー!!!!」


「とう……さま………」


「そんな……旦那様………」


「早くその子を渡せ。」


剣を突き付けるように近付いてくる兵士達。


この時母様もプーリーも分かっていた。


俺を渡してしまえば実験やらなんやらで壊されてしまうだろうと。


凛も恐怖のあまり泣いてプーリーの腕の中にいる。


「早くしろ!死にたいのか!!」


母様に突き付けられる剣。


魔法でやっつけられれば良かったのだろうか…僕の魔法はまだ制御出来ない。


使えば十中八九皆を巻き込んでしまう。


母様はボクを抱き抱える手に力が籠る。


痛い程に。


「グラン。生きなさい。必ず生きて。私達の願いはそれだけよ。愛してる。何よりも…誰よりも。」


母様とプーリーは俺と凛を川に投げた。


「母様?!」


川へと引き込まれていく視界の中で、母様とプーリーが兵士達の剣に貫かれ、魔法に焼かれる姿が見える。


それでも、辛くはないと、僕達を見つめながら笑っていた。


バシャンという水音が聞こえると視界はそれまでと一転した。


ゴボゴボという水音。間近で同じように足掻いている凛。


僕は必死で凛の体を掴んでこの腕に抱き寄せた。


そして、数秒後、僕達の体は一度水から放り出される。


滝に到達したのだ。


浮遊感に襲われ、必死で凛と僕は互いを離さない様にしがみついた。


そして物凄い衝撃によって意識は完全に途絶えた。


「……ま!……んさま!!………グラン様!!」


「ん……」


「グラン様?!よか…良かったぁ…」


「ティーシャ…?」


「うぇーん!良かったよぉー!」


「良かった。ティーシャも無事だったのか…」


「ひっく……ひっく…」


「ほら、僕はもう大丈夫だから。泣くな。」


「ひっく……ふぁい……」


「いてて…体中が痛いな…ティーシャはいつから起きてたんだ?」


「今起きた所です…起きたらグラン様と一緒にいて…」


「そうか。」


「お母さん…ふぇー!!」


「………ティーシャ。これからは僕達だけで生きていくしない。」


「ひっく…ひっく…」


「必ず…絶対に生き残って必ずアイツらを……」


「ふぇーーん!!グランさまー!!」


凛は大粒の涙を流して泣き始めてしまった。


仕方ない事だと思う。僕だって泣きたい程辛い。


でも、そんな事をしても変わらない。状況は良くならない。


よく分かっていた。


父様がいつも言っていた。


(グラン。どんな事があっても諦めるな。絶対にどこかには突破口があるものだ。辛くても泣きたくても、歯を食いしばれ。状況を見て、突破口を探すんだ。)


「父様……」


「ひっく…ひっく…」


「ティーシャ。とりあえず僕達がどこにいるのか知らなきゃならない。


あの鎧はジゼトルスのものだ。他の国の偽装かもしれないけど、どちらにしても人が居るところには行けない。」


「そんなぁ…」


「泣くな。僕がついてる。大丈夫。」


「うん……」


「よし。とにかく寝る場所と食べ物、水は川があるからなんとかなるはず。」


そこから凛と2人のサバイバルが始まった。


僕は魔法が制御出来ない。


凛は使えるが威力は無い。


そんな2人、しかも子供が森の中で生きていくのは辛いものだった。近場に小さな横穴のある岩場を見つけてそこを拠点とした。


最初は全く何も捕まえられなくて水を飲んで空腹を凌いだ。


よく分からない草も食べたし虫だって食べた。


もちろん最初は凛が嫌がった。


それでも食べなきゃ死ぬ。


無理矢理口の中に入れて飲み込ませた。


プーリーさんが託したんだ。僕に。ならばどれだけ嫌われようとも僕が守ってみせる。


そんな生活をしていると子供でもそれなりに魚や小動物は捕まえられるようになってくる。


強いモンスターがいなかった事も良かったのだろう。


最初は嫌がって泣いていた凛もいつしか泣かなくなり、一人で獲物を取ってくる様になった。


どれくらい森の中で過ごしたかは正直覚えていない。


短くは無かったが、正確な期間までは分からなかった。


魔法を制御しようと練習もしていた。この力があれば仇を取れる。


服もボロボロになり穴だらけ。泥やなんかで真っ黒になっていた。


もちろん川で水浴びはするし服も洗うが綺麗さっぱりとはいかない。


自分達がどの辺にいるのかは一向に分からなかった。


どれくらい流されてきたのかも分からなければ近場に人工的な物は一切無かった。


兵士達が探しに来るかと最初は怯えていたが、それも無かった。


そんなある日のこと。


水辺で魚を捕まえようと2人でいた時の事だった。


ガサガサ。


近くの草が揺れた。


野生の動物やモンスターでは無い。


僕は直ぐに凛を庇うようにして移動した。


「ぷはーー!!!川だぁーー!!助かったーー!!」


「………」


そこに現れたのは兵士ではなく、物凄く大きな帽子と杖を持った女性だった。


体中に葉っぱがくっついて間抜けに見える。


川に近付いて両手で水を掬い飲み始めた。


「ゴク…ゴク……はぁ……助かったー…………ぅえ?!」


「……」


「こ、子供?!こんな所に?!」


「近寄るな!!」


「ま、待って待って!何もする気なんて無いからね?!」


「………」


「うーん……えっと、私はフィルリア。フィルリア-ラルフ。僕達はなんて名前かしら?」


これがフィルリアとの初めての出会いだった。


「………」


「えーっと……私はちょっと迷ってしまって…あはは……何があったのか分からないけど…こんな所で何をしてるのかしら?」


「……うるさい。寄るな!!」


「私は何もしないわ。ほら、杖も置くわ。絶対に何もしない。」


「……」


「私は学校の教師よ。休みでハイキングに来たのよ。大丈夫。何もしないわ。約束する。」


目の前で母様を殺された僕に人を信じる事なんて出来るはずも無かった。


それは凛も同じ。


普通はそんな子供がいたら避けるか知らぬ振りをするものだ。


無理に近付いて来る奴は奴隷として捕まえようと考えているか、あの兵士達の仲間くらいのはず。


そう考えていた。


とにかく凛を守る。


それしか頭には無かった。


「大丈夫。大丈夫よ。」


少しずつ近付いてくるフィルリア。


「来るなーー!!!」


思わず放った特大の炎魔法。


最近はある程度制御出来るようになってきていた為自爆なんて事にはならなかったが、思ったよりも大きな魔力を使ってしまった。


殺した。殺してしまったと思った。


バギィィン!!


何かが割れる音と共に爆煙が上がりその中から火傷だらけのフィルリアが両手を伸ばしてきた。


殺される!


そう思った僕をフィルリアはそっと抱き締めた。


「怖かったのね。大丈夫よ。もう大丈夫。」


凛も一緒に抱き締めて火傷だらけの手で強く抱き締めてくれた。


ずっと緊張していた。母様の死に際を毎日夢に見た。


怖かった。


人が、いや、この世界が。


そんな時に自分が怪我をしてまで抱き締めてくれたフィルリア。


何かがプツリと切れて凛と一緒にフィルリアの腕の中でわんわん泣いた。


「大丈夫。大丈夫よ。もう大丈夫。」


そうずっと耳元で優しく言い続けてくれた。


「その…ごめんなさい。怪我…」


「これ?大丈夫大丈夫!ほら!」


「回復薬?」


「そ。これでほら!綺麗になった!」


「でも、服もボロボロ…」


「服なんてまた買えば良いんだから気にしないの!それより何があったのか話してくれる?」


泣き止んだ僕達と並ぶ様に座ってそう聞いてきたフィルリア。


最初は話す事を躊躇ったが、話すべきだと全てを話した。


父様のこと、母様のこと、プーリーのこと、流されてきた後のこと。


全て。


何故かフィルリアには全て話していた。


この人には勝てないと思ったからなのか、その優しさがそうさせたのか。


気付いた時には既にフィルリアを信用していた。


「そう……凄く……怖かったわね。二人共今までよく頑張ったわね…」


「ありがとう。でも、もう大丈夫。僕達は人のいる所には行けないから。ここがどこだか分かったからこれからはもっと慎重に行動するよ。」


「ダメよ!そんな事!」


「え?」


「わたしがなんとかするから一緒に来なさい!」


「な、なんとかって…」


「大丈夫よ。必ずなんとかしてみせるから。」


かなり強引な話だが、結局引っ張ってでも連れていくと言われて街に連れていかれた。


フィルリアは僕と凛の服を用意してくれて着替えた後、甥と姪という話で街に入る事が出来た。


直ぐにフィルリアの自宅に向かった。


豪邸!とまではいかないけどそれなりに広く一人で住むには大きく感じるくらいの家ではあった。


そんな家を持っている人なんてそんなに多いものでは無い事くらい子供の僕にも分かった。


不思議そうにしていたら、フィルリアは自分の事を話してくれた。


元冒険者でそれなりに名も通っていたこと、そのお陰でお金には困っていないこと、子供好きで教師になり、今はハスラーの教師として教鞭を振るっていること。


「教師って本当だったんだね。」


「嘘だと思ってたのかしら?」


「うん。安心させる為に…」


「まぁいきなり近付く人なんてなかなか信用出来ないわよね…でも。私は絶対にあなた達二人には嘘をつかないわ。」


「なんで?」


「なんでって…」


「ううん。なんでそんなに優しくしてくれるの?」


「……なんでかな?単純に子供が好きなのよ。多分ね。自分でも分かってないわ。」


「フィルリアには得は無いでしょ?」


「そんな事ないわよ。好きな時にこうして抱き締められるしね。」


「……」


「それに、グランの魔法は凄く不安定だわ。」


「?!」


「これでも教師よ。あなたの魔力の事についてくらいは分かるわ。


とても強い魔力を持っているのね。」


「!!」


「警戒しなくて大丈夫よ。ただ、大変だったでしょ?」


「………うん……」


「あなたには魔法の才能がある。それは確かよ。でも、今は怒りや憎しみでその心が一杯になってしまっているの。」


「……うん…」


「あなたの魔法は酷く攻撃的。そんな魔法を使うなんて、私は悲しい。」


「なんで?」


「確かに魔法はあなたの恨みを晴らす為にも役に立つかもしれないわ。きっと誰よりもあなたは魔法に愛されているから。」


「ならこの力で…」


「否定はしないわ。私はグランじゃないし、ティーシャでもない。あなた達の悲しみも憎しみも私には分からない。だから、それを望むのであれば復讐も出来るかもしれないわ。」


「……」


「でもね。それはきっとあなた達のお母様やお父様は望んでいないと思うわ。」


「なんでそんなこと!」


「私がもしあなた達の親ならそんなこと望まないもの。ただ幸せに生きて欲しいだけ。」


(グラン。生きなさい。必ず生きて。私達の願いはそれだけよ。愛してる。何よりも…誰よりも。)


母様の最後の言葉。


そして最後まで僕達に微笑みかけていた。


きっとフィルリアの言うことは正しい。


でも……憎い。


「憎しみを捨てろとは言わないわ。そんな権利は無いもの。でも、抑えてみて。少しだけで良いの。」


「抑える…?」


「えぇ。グランは誰よりも優しい。ティーシャを守る為に恐怖を抑えて私の前に立ったあなたを見てそれは直ぐに分かったわ。


そんな優しいグランがあんなにも悲しい魔法を使うのは…寂しいわ。」


「………魔法は僕にとって破壊の手段でしかないよ。」


「…そうね。私のクリスタルを破壊したあの力は絶大だと思うわ。


でも、魔法はそれだけじゃないのよ。人を救ったり幸せにしたりも出来るのよ。」


「そんなこと出来るわけない。」


「出来るわ。」


「出来ない!!」


母様達を焼いた。そんなものに優しさなどあるものか。


「……来なさい。」


静かだが、しっかりとした声でフィルリアに言われた。


怖い感じはしなかった。


僕とティーシャはフィルリアの後に着いていく。


「ティーシャは無口ね。」


「グラン様の事を信用していますので。」


「……そう。」


少し悲しそうな顔をしたフィルリアは僕とティーシャをある場所へ招いた。


それはフィルリアの家の庭だった。


それ程大きくは無いが、小さな花壇が作られていた。恐らくは紅茶だろう。


いつの間にか日は陰り、外は暗くなっていた。


三日月が溢れる様な光を落とし、その光に集まってくる様に星々が瞬いていた。


「綺麗でしょ?」


「これを見せるために?」


「いえ、違うわ。ちょっと自慢したくなっちゃっただけ!」


イタズラを成功させた子供の様に笑ってみせたフィルリアは庭に向かって不意に杖を掲げる。


その瞬間に庭一面が霧に覆われる。


火魔法と水魔法を同時に発動して作り出した霧だ。


「なっ?!」


「さ、座って座って!」


驚く俺と凛を座らせる。


「それでは、始まり始まりー!」


そう言うとフィルリアが杖を少しだけ動かす。


ただ充満していた霧がスススッと動きだし、美しい女の人を作り出す。


そしてフィルリアが静かに語りだした。


内容はどこかの国の昔話とよく似ていた。


賢者の贈り物。


愛し合う男女が自分の一番大事な物を犠牲にして金を作り相手が一番大事にしているものに合うプレゼントを用意する。


しかし送ってみると相手は既にそれを金に変えていたからプレゼントだけ浮いてしまうというお話だ。


最後はその大切な物を買い戻して一件落着という流れなのだが、それを全て霧を魔法で動かして行う。


まるで本当にそこにその女性と男性がいるかのように。


フィルリアの演技も入りながら物語は順調に進んでいき、最後を迎え、霧が晴れる。


俺と凛は完全に惹き込まれていた。


「馬鹿だよ。最初に確認しておけばそんな事にはならなかった。」


「そうですね。私もそう思います。」


「ダメダメー。相手の驚いてから嬉しそうな顔を見たいから黙って用意するのよ?先に確認してしまったら驚いてくれないじゃないの。」


「驚かせてどうするの?」


「これから先、本当に大切な人にプレゼントを送る時になんでそんな事をするのか分かる時がくるはずよ?」


「そうなの…?」


「そうよ。大切な人の驚いた顔が見たいってだけだもの。それ以外に理由なんて無いわよ。」


「……」


俺と凛は当たり前の様に物語の内容についてフィルリアと話していた。


魔法自体の凄さなんてまるで無かったかの様に。


この時既にフィルリアの術中に嵌っていたのだ、


この魔法は相手を傷つけるでもなく、相手を不快にさせるものでもない。


むしろその逆だ。


話の途中凛の目はキラキラしていた。


その顔を見た時にフィルリアの言いたいことが少しだけ分かった。


相手を傷つけるのではなく、こんな顔を増やす為にこそ魔法はあるべき。と言いたいのだろう。


それはフィルリア自身がこうして証明してくれた。


確かに魔法は強力な武器だ。


極めれば戦果は計り知れない。でも、こんなにも優しい魔法があるという事もまた事実だ。


「グラン。ティーシャ。魔法は優しいものでもあるのよ。」


そう言ってウインクしたフィルリアは僕とティーシャをそっと抱き締めてくれた。


それから僕と凛、主に俺はフィルリアから魔法を一から教えて貰った。


一通りの基礎を学んではいたが、魔力が多すぎる僕にとって普通の教えでは足りなかったらしい。


フィルリアはそれに気が付いて魔力の制御と使い方を教えてくれた。


「グラン。あなたはどんな魔法が使いたい?」


「どんなって……」


「良い?今世の中に出回っている魔法というのはグランよりもずっと魔力の少ない人達が考えた魔法なの。


だからグランみたいに魔力の大きい人がその魔法を行使しようとすると不安定な魔法になってしまうのよ。


制御が上達したならそれも可能となるけど、今のグランには無理。だからまずは魔力の大きなグランが使える魔法を使って、魔法を安定して使うという感覚を掴むのよ。」


「そおだったんだ…」


「でも、そんな魔法となると出回っている魔法の中ではずっと高位のものになってしまうのよ。」


「大規模な魔法ってこと?」


「えぇ。そうなってしまうと練習なんか出来ないでしょ?」


「こんな所でそんな魔法を使ったら…」


「街ごと吹き飛んでしまうわ。そこで!先ずはどんな魔法を使いたいのか考えてみましょ。」


「うーん……


フィルリアが使ってたクリスタルのシールドが作ってみたい。」


「クリスタルか……あれは私にしか使えない魔法なの…」


「そうなの?」


「土魔法の一種なんだけれど、土の中にある1つの成分だけをイメージするのよ。


ただ、これを作るにはそれなりのイメージと魔力が必要になるの。」


「土の中にある成分……」


ピキピキ


気が付くと俺の目の前に小さなクリスタルの結晶が現れていた。


「えぇ?!」


「な、なんか出来た…」


「す、凄いわ!まさかいきなり出来るなんて!!」


「でも小さいよ?」


「出来ることが凄いのよ!他の人にどれだけ説明しても欠片も出来ないのよ?!グランすごーい!!」


「そ、そうなのかな?」


「凄いのよ!グランはきっとイメージをしてからそれを魔法に変えてみるってやり方が合ってるんだと思うわ!


これからどんどん練習してみましょ!」


フィルリアの何かに火がついたのかそれから色々な魔法をフィルリアと一緒になって練習した。


昼間は教師として働き、それが終わると直ぐに帰ってきて練習の毎日。


とはいえそれなりに心得があったのも助力になり直ぐに色々な事ができる様になった。


制御はまだ完全とは言えないにしても暴走することは完全に無くなった。


「はぁ…なんか二人共日に日に魔法が上手くなって寂しいわー。」


「え?」


「なんでもなーい。それよりティーシャと一緒に居ないなんて珍しいわね?」


「ちょっとプレゼントを作ろうと思ってさ。」


「プレゼント?」


「ここに来た時フィルリアが見せてくれた物語。覚えてる?」


「えぇ。もちろんよ。」


「その時に話してくれたよね。驚く顔が見たいだけって。なんとなく分かったかも。」


「はっ?!まさかティーシャに?!」


「ま、内緒でね。」


「ぐぬぬー!ティーシャめー!」


「よし。できた!」


「花?」


「前に違う世界を覗く魔法作ったでしょ?あれ使って見てた世界で見つけた花なんだ。鈴蘭…だったかな。」


「綺麗ね?」


「うん。で、これはフィルリアに。」


「え?」


「驚く顔が見たいと思ったのはティーシャだけじゃないよ。フィルリアの驚く顔も見たかったんだ。」


「……………グランーーーー!!愛してるわーー!!!」


「ちょっと!そんなに抱き締めるとぉぷっ!」


「はぁ…私グランと結婚するわ。決めた!」


「あはは…それ、ブローチになってるから、まぁ好きに使って。ライラーとしての初作品だから不格好かもしれないけど…」


「宝物にするわ!ありがとう!」


「分かったってば!抱き締めると苦しいから!」


「ぶーぶー!」


「ティーシャのところ行ってくる!」


「あー!グランー!」


俺は蓮の髪飾りを持って凛の元に向かった。


凛には庭に出て一人で魔法を練習する様に言っておいた。


ここに来てしばらく経つ。あまり気にしていなかった…というかそんな余裕が無かった。


目前で自分の唯一の肉親である母親を殺され、知らない場所、しかも森の中に放り出され獣と変わらない生活。


そんな厳しい状況で頼れるのは隣にいる僕だけ。


守らなければと思ったし今でも思っている。でも、凛がいたから僕だって救われた。


落ち着いてきた今だからこそそれが身に染みて分かる。


凛は魔法を使わず、庭をぼぅっと眺めていた。


「ティーシャ。どうしたの?」


「あ、グラン様。


いえ、その……ここに来た時のことを思い出していまして…」


「そっか…大変だったもんね。」


「……私は…グラン様にとって足でまといですよね…」


「え?急になにを?」


「魔力は少ないですし…何も出来ません…グラン様に助けられてばかりです…」


「そんな事考えてたの?」


「……」


「そんな事は無いんだけどな…僕なんて身の回りの事なんか全然だし、僕としては逆にティーシャに助けられてばっかりなんだけどな…」


「グラン様はやればなんでも出来ると思います。身の回りの事だって…」


「どうかな…分からないけど…これからもティーシャが居てくれるから別に出来なくてもいいかな。」


「え…?」


「そうでしょ?僕にとってティーシャはもう居ないなんて考えられない存在になってるからね。


逃げてきた時もティーシャが居てくれたから助かった部分も大きいし。


だから…ありがとうって事と、これからもよろしくねって事でこれを作ってみたんだ。受け取ってくれるかな?」


「こ、これは……」


「蓮って言う花なんだ。水面に咲く花で凄く綺麗なんだよ。それを見た時に何故か凛を思い出してさ。髪留めにしてみたんだ。」


「……」


「まぁちょっと不格好かもしれないけど…貰ってくれたら嬉しいな。」


「不格好なんて…そんな事ありませんよ……私は……私は幸せです……」


急にポロポロと涙を流し始める凛。


嬉し涙だと分かっていてもやっぱり涙を見ると少し焦ってしまう。


「ありがとうございます……」


「うん。」


凛は髪留めを綺麗な黒髪に着けると涙を拭って笑顔を見せてくれた。


それから少しの間フィルリアの家に厄介になっていたが、ずっとと言う訳にはいかない。


フィルリアのお陰で、魔法や魔道具の開発からお金もいくらか稼ぐ事が出来た。


そのお金でフィルリアが選んだ家を1軒買ってそこに凛と2人で住むことにした。


「別にここに居てくれて本当に良いのよ?」


「ありがとう。フィルリア。」


「……分かったわ。でも!定期的に見に行くわよ?」


「それは構わないよ。いつでも来て。外には出られないからフィルリアの顔が見れると嬉しいしね。」


「くぅーー!グランーー!!」


「フィルリアさん。ありがとうございました。」


「えぇ。ティーシャ。あなたもよく頑張ったわ。大変だったしこれからも大変だろうけど、諦めてはダメよ。」


「はい。」


最後に2人まとめて抱き締められるとフィルリアは去っていった。


あんな先生なら学校にも行ってみたかったな。


これが、フィルリアとの最初の思い出だった。



まるで目が覚めた様に白い世界から色付く世界へと引き戻される。


「大丈夫?」


「あ、あぁ。そのブローチ。まだ着けてくれてたんだな。」


「思い出したのね?!」


「全てではないけど、フィルリアと最初に出会った頃の事を思い出したよ。それに、多分水魔法も使えるようになった。」


「あぁ…マコト…よかった…」


「フィルリアには返せないくらい色々なことで世話になってたんだな……ありがとう。」


「お礼なんて言われても困っちゃうわよ。私は私のやりたい事をやっただけだもの。」


「それが俺と凛には凄く大切な事だったんだよ。」


今思い出した事だとしても、あの時両親に手を掛けた連中の事は許せそうにない。


憎しみが心の中をジワジワと侵食している。


それでもフィルリアとの毎日を思い出した事でそれがダムの様に塞き止め、堤防となってくれている。


それは紛れもなくフィルリアが築いてくれた物だ。


「今日は遅いし泊まっていきなさい。」


「良いのか?」


「今更何を言ってるのよ。気にする事なんて無いわ。」


「じゃあお言葉に甘えるよ。」


フィルリアは笑顔で頷くと台所へと向かっていく。


凛も後に続いて台所へ消えていく。


「……はぁーーー………」


「長い溜息だな。大丈夫か?」


「ん?あぁ。フィルリアさんの前だとどうしても緊張してな…」


「そんなに酷かったのか?」


「そりゃぁもう…何度も死に目を見た。


それが魔力の無い俺に対する優しさだって事くらい十分に理解しているが…それでも怖いもんは怖いぜ…」


「あんなに強くなってんのにまだ怖いのか…」


「俺の強さ云々は関係ないさ。刷り込みってやつだな。」


「野生の動物みたいだな。」


「黙らっしゃい!」


凛とフィルリアが作った夕飯を食べるのも久しぶりだったので少し調子に乗って食べ過ぎてしまった。


消化をする間少し夜風に当たりたくて外に出た。


「ふぅー…食いすぎた……」


森の中だが、木々の間をすり抜けてきた風が頬に当たる。


上を見上げると木々の間から見える星空が美しい。


日本にいた時には街や家の明かりでここまで鮮明に星を見ることなど無かった。


化学という概念が進歩した事で見えなくなってしまう物も数多くあるのかもしれないなぁ…


「マコト。」


「ん?フィルリア。どうした?」


「私も少し風に当たりたくて。」


「そっか。」


「………ねぇ、マコト。」


「ん?」


「マコトはこっちに来てからどんな事を思った?」


「どんな事って……?」


「こっちではあなたは色々な人から狙われる身よ。やっぱり嫌だった?」


「そりゃぁ狙われるなんて嫌だよ。」


「そうよね…」


「でも、そればっかりじゃないよ。


こっちに来たからジルやガリタにも会えたし、フィルリアとの大切な思い出も思い出せた。いい事ばかりじゃないのはこっちでも向こうでも一緒だよ。


それに、今まで大切に思ってきた人達を忘れたままなんて悲しいよ。やっぱり…思い出したい。嫌な事も含めて全部ね。」


「……そっか……ありがとう。」


「なんでお礼?」


「分からないわ。なんとなくよ。」


「真琴様ー!」


「おっと。凛がお呼びだ。」


「そうね。戻りましょ!」


その日は積もる話もあったので遅くまで4人で話を続けた。


「ふぁぁ………んん?」


起きると両脇に凛とフィルリア。


俺昨日一人で寝たような気がしてたんだが……


「ん……


おはよう…」


「おはよう。とりあえず離れようか。」


「もう少し……」


「離れい!!」


「あぅ!」


「凛も起きてるだろ!」


「ば、バレましたか…」


「ったく。なんで二人共ここにいるんだよ。」


「「………さぁ?」」


くそっ!こんな時だけ合わせてきやがって!


ジルとガリタには泊まること伝えてないし早めに宿に行ってやらないと。


「もう行くの?」


「ジルとガリタを待たせると可哀想だからな。」


「そう……」


「そんな顔すんなって。また来るから。」


「えぇ。ありがとう。」


フィルリアと別れてジル達の元に向かう。


宿に着くと丁度朝食を摂っているタイミングで、2人で朝食を摂っていた。


「おー…おかえりー…」


「どうした?元気ないな。」


「昨日報告内容をまとめるとかでギルマスの所に行ったんだけど、帰りが遅くてなー…眠い。」


「なんかすまんな。」


「あぁー。そうゆう意味じゃないから良いって。それより今日は武器屋に行くんだよな?」


「時間指定されてないし出来上がってるんじゃないか?」


「じゃあ早めに済ませるかー。私達も食べ終わったしすぐ行こう。」


ジルとガリタの朝食が片付いた所で武器屋に向かう。


「おっちゃーん。」


「早いな。」


「まだ出来てなかったか?」


「いや、出来たぞ。そこのお姉ちゃんの杖もなんとか出来たぞ。性能は劣ってしまうが、まぁかなり良くなったと思うぞ。」


出された武器は特に変わった感じはしない。


受け取って調べてみると確かに性能は1段階上がっている。


普通の杖では付与できないなんて言ってたが、なんとかガリタと凛の杖にも付与してくれたらしい。


質の良い鉱石だったから出来た事らしいが、詳しくは教えてもらえなかった。


企業秘密というやつだろう。


「こいつは素晴らしい仕事だな。おっちゃん。」


「誰に言ってんだ誰に。」


「そうだな。ありがとな。また来る。」


武器屋のおっちゃんに礼を言って外に出る。


「ほ、ほんとうに良いのか?!」


「私達まで…」


「一緒にレッドスネークを倒したんだから当然の報酬だろ?気にするなよ。」


「あぁ…ありがとう。」


「俺達は少し出てくる。二人は…」


「宿で休むよ。まだ眠くてな…」


「分かった。じゃあな。」


ジルとガリタを見送った後、三人で西門に向かう。


「水魔法ですか?」


「あぁ。試運転も無しに使うのは怖いからな。とりあえず使ってみて感じを掴んでおきたくてな。」


「遂に二つ目かー。そういや次に探す人のヒントは得られたのか?」


「一応な。なんて言えばいいのか…一言で言うなら忍者だな。いや、くノ一か。」


この世界では見ることなど出来ないはずのくノ一。


何を言っているのか分からないかもしれないが、本当にそう見えた。


黒髪をサイドテールにして背は小さい。


服装が完全にくノ一。


何を言ってるのって顔で見られると思っていたのだが…


「あー……あいつか…」


「え?!心当たりがあるのか?!」


「まぁなぁ…あまり会いたくは無いが…」


「私もですね。」


「凛がそう言うとなると…かなり癖の強い子なのか?」


「癖というか……面倒くさい奴なんだ。」


「名前はプリネラです。健よりも後に出会った子で…会えば分かるかと。」


「なんか怖いんだが…で、そのプリネラってのはどこにいそうか検討は着くのか?」


「そうだな……ここを出た時はこの街にいたんだが…」


「あれから数年経っていますし…もしこの街にいるのであれば貧民区にいると思いますよ。」


「貧民区?」


「真琴様に会う前の俺みたいな奴らが集まる場所だ。あまりいい場所とは言えない場所だな。」


「なんでそんな所に?」


「この世界では浮いた存在ではありますが、プリネラのくノ一としての腕は一級品です。


稼がねばならないとなると、一番身を隠しやすくくノ一としての仕事を得られやすい貧民区にいるかと。」


「暗殺とか偵察とかってことか?」


「そうですね。」


「なるほど。でもそんなに腕の良いくノ一だとしたら見つけるのは難しいんじゃないのか?」


「あ、それは大丈夫だ。多分近くまで行けば向こうから出てくると思うぞ。」


「???」


健達の言っていることがよく分からないが、練習が終わり次第貧民区へと向かう事になった。


貧民区、正確には居住区の一角を指してそう呼んでいる。その貧民区は街の東側にあり、他の区域とは全く異なる様相だった。


一歩足を踏み入れれば死臭が鼻を指し、そこら中に死体が転がっている。


生きているか分からない奴らの姿がたまに見えるが、ほとんど意味を成していないボロ切れを身に付け、骨と皮だけの身体が見える。


中には人間以外の種族も多く見られる。


女はなんとか小綺麗にして、その身で客をとって稼ごうと必死。


奴隷として生きていくのか、ここで生きるのか選べと言われても難しいだろう。似たようなものだ。


「真琴様。ここから先は特に気をつけてくれよ。」


元々こういうところにいた健が言うのだ。かなり危険なんだろう。


周りを見ると他人を殺してでも生きてやると言いたげな目をそこかしこから向けられる。


様子を伺い、その時が来ないかと見られている様な気がする。


暫く歩いていると健が足を止める。


「どうした?」


「んー。この先からなんか嫌な感じがするんだよなー。」


「嫌な感じ?」


「面倒くさいような…」


「どうします?一度引き返しますか?ここにいると決まったわけでは無いですし。」


「そうだな…あまりことを荒立てて目立ちたくないしなぁ。」


「いや、どうやら帰らせては貰えないみたいだな。」


ボロボロの街並みからゾロゾロとガラのわるそうな連中が出てくる。


「おいおい。こんな所に三人で来たら危ないだろ?悪い人達に捕まっちゃうよー?」


「悪い人達ねぇ。」


「おじさん達みたいなねー。」


「何が目的だ?」


「全てだよ。全部置いていけ。女もだ。」


「なんでお前達みたいな奴らって皆同じ事を言うんだ?教本とかあんのか?」


「あ?」


「まぁいい。俺達は人探ししてるだけだ。構わないでくれ。」


「残念だが、ここでは俺達が法なんだ。下手な事考えないでさっさと置いていった方が身のためだぞ。」


「あー。確かに健の言う通り面倒くさい。」


「どうする?ここまで来ていないとなるとこの辺りには現状いないと思うが…」


「他にあてはあるのか?」


「仕事中ってことかもしれないな…」


「おいおい。俺達のこと無視して話とか傷ついちゃうなー。」


「ったく。真琴様の話が聞こえないだろ。静かにしててくれ。」


「え?」


ブシュッ


健に向かってきた男の首から上が切り取られて血が吹き出す。


抜刀した事さえ気付いていないようだ。


そりゃレッドスネークの攻撃を凌げるような腕の持ち主が街のゴロツキ如きに傷を負うなんて事は無いだろう。


自分達が誰を相手にしているか理解できないらしい。


目の前の男の首が無くなったのは魔法のせいだと思ったのか、健との距離を詰める方向に動く。


むしろ健からしてみればそれは嬉しい事なのだが…


ハスラーに近付くというのは基本的な魔法潰しの戦法という事は分かるが、そんな簡単に近付ける様な相手もなかなかいないだろうに…


自分達が死地へと足を踏み入れていることにすら気付くことが出来ず結局全員健の射程範囲に入ってしまう。


「おら、どうした。魔法でもなんでも撃ってみろや!」


「ハスラーなんざ近寄っちまえばなんも出来ない雑魚なんだよ!」


ゴロツキのハスラーは身体強化に全ての魔力を注いでいるらしい。


ハスラーはハスラーと言うだけでそれなりの生活を保証されたようなものだからゴロツキになる様な連中にハスラーがいるということ自体かなり珍しい。


恐らく魔力が少ない上に身体強化くらいしか魔法が使えないのだろう。


元々戦闘力が圧倒的に低い連中にいくら身体強化を付与したってちょっと力強めの大人。くらいにしかならない。


「死ねやおらぁ!!」


周りの連中が剣を振り下ろす。


健はそれをスルスルと狭い行動範囲の中で全て避けてしまう。


本当に洗練された達人とはこういうことを言うのだろうか。


強い弱いの話以前の問題だろう。


相手がわざと剣を外して振っているのかと思う程かすりもしない。


完全に取り囲まれているのにだ。


「な、なんで当たらねぇんだ!」


「魔法か?!」


「真琴様を待たせるわけにはいかないんだ。今引いてくれれば見逃すぞ。」


「はぁ?!調子に乗るんじゃねぇ!!おい!!後ろの二人も殺っちまえ!」


「折角チャンスをやったのに。


……黒夜叉。」


チンッ


刀が鞘に収まる時の音が耳に届く。


健の周りにひしめいていた男達の身体が全て半分になる。


聞いた事があったような…確か刀技で、自分の射程圏内の敵を神速の一刀で殲滅する技だったような…


「終わったぞ。」


「なんで私達に絡んでくるのでしょうか?放っておいてくれればこちらも手を出さないんですが…」


「さぁなぁ…弱そうに見えるのかもな。」


「別に自分が強いとは思ってないが…最初の時点で引いてくれれば良かったのになぁ。」


「それにしてもこいつらは一体なんだったんだ?プリネラの事くらい聞くべきだったか?」


「こいつら程度の腕じゃプリネラは知らないと思うぞ。」


「そっかぁ…」


「真琴様。」


「ん?どうした?」


「あちらを…」


凛の指し示す方向をみると瓦礫の山に隠れる様に一人の女性がいた。


耳が長く緑色のロング髪を緩い三つ編みにしている。髪も服もボロボロ、スタイルは素晴らし…ゴホン。


エルフは皆そうなのかな?


首と手足には枷が着けられている。奴隷だ。しかし、今まで見ていた奴隷達とは違い、緑色の瞳は不安そうでありながら力強くこちらを見ていた。


「奴隷ですね。」


「目を見る限りまだ酷い目にはあってないみたいだな。」


「分かるのか?」


「目を見ればな。まだ生きてる。」


「そうゆうもんなのか。」


「それよりどうすんだ?」


「どうするって言われてもな……俺達に出来ることなんざそうないぞ。」


「捨て置きますか?」


「まぁ目覚めが悪いから多少の金だけ渡して後は自身で頑張ってもらうしかないな。」


「では、同性の私が話してきますね。」


「頼む。」


凛が近づくとビクリと体を跳ねさせるが、同性という事もあってか話は出来ているみたいだ。


「さて、プリネラとやらはどこにいるのかねぇ…」


「どっかで情報を集めないと検討つかないな。」


「だよなぁ…そう言う情報ってのはどこで集めるんだ?」


「大抵は酒場とかだな。ただそこらの酒場じゃ無理だろうな。」


「道程は長そうだな…」


「真琴様…」


「お、どうだった?」


「それが…その……」


凛は奴隷のエルフを俺の前に誘導する。


「えーっと…?一体どうしたんだ?」


「お、お供させてください!!」


「………ん?どうなったらそうなるんだ?」


「申し訳ございません!その…現在のこの人の主人が…」


「え?!俺?!なんでそんな事に?!」


「先程のゴロツキの中に主人として登録された者がいたようで…」


「それを殺したから主人が移ったと…?」


「はい。」


「それなら健に行くはずじゃ?」


「健は真琴様の従者ですので…その主である真琴様に移ったと言う事だと思います…従者は基本的に奴隷を取れないので…」


「おー…なるほど…それでなぜお供するという事になったんだ?」


「奴隷は主人として登録された者から一定以上離れてしまうと枷がその者を苦しめ、最終的に殺してしまうのです…」


「つまり俺から離れると死ぬと…じゃあ奴隷としての身分を解除したらどうなんだ?」


「それは出来ません。教会で特別な処理が必要なんです。」


「それなら教会に…」


「真琴様。それは出来ねぇ。俺達は教会にも…」


「……つまりだ、教会にも行けないとなると現状は連れて歩くしかないと?」


「……はい…申し訳ございません…」


「いや、予想は出来なかったし仕方ない事だが……困ったなぁ…」


「置いていくか?」


「お願いします!!連れて行って下さい!!」


涙目で訴えてくるエルフ。


「いや、流石にそれはしないけどさ…」


「連れてくのか?」


「魔法が使えます!強化魔法が使えます!」


「使えますって言ってもな…誰かに譲渡とかは?」


「主人の死以外で登録者を変える場合は教会へ行かなければ不可能です。」


「……」


「お願いします!お願いします!」


「んぁー…分かった…とりあえず連れていこう。」


「ありがとうございます!!」


「何か打開策が無いか調べてみよう。目立つから宿は禁止だな…


街中は避けるとするとやっぱり野宿かな…」


「私達は構いませんよ。」


「も、申し訳ございません!!」


「あー、いや、別に気にしなくて良いよ。なんとかするまでは引き受けると決めたわけだしね。」


「…はい……」


「ここから一番近いのは東門か。出たことないけど人通りとかはどうなんだ?」


「この貧民区があるからそれ程多くはないぞ。東側には小さな村がいくつかあるから全く無いって事は無いけどな。」


「……とりあえず東門から出るか…健。悪いんだがジルとガリタに簡単に説明してきてくれないか?」


「分かった。」


「俺達は東門から出た所で待ってる。」


「すぐ向かう。」


健はジルとガリタの元に走ってくれた。


俺達三人は東門に向かう。


冒険者風の男が奴隷と女を連れて歩いているとなると世間の目はわりと厳しい。


変態扱いだ。


顔を隠してそそくさと東門から出る。


健はすぐに戻ってきた。


「早かったな。」


「足は速いからな!


おっと、忘れる前に伝えとくぞ。ジルとガリタがもしかしたらプリネラの居場所を突き止めてくれるかもしれない。」


「ジル達が?」


「聞いた事があるらしくてな。詳しくは分からないし分かるかもだけど一応調べてくれるってさ。」


「関係ないのに申し訳ないな…」


「同じ事言ったら仲間だろって笑われたよ。」


「ありがたい限りだな。」


「あぁ。それで?これからどうするよ。」


「とりあえず近場の村に向かってみようかと思う。小さな村なら俺達のことは知られていないかもしれないしな。」


「それは有り得る話だが…小さな村だとそれだけ話が回るのも早いぞ?」


「奴隷も連れているとなるとそれなりに注目を集め集めますし…」


「……その問題は不確定だし取り敢えず置いておくとして、どの村に向かうかだな。」


「それならば、マージ村が良いかと。」


「マージ村?」


「ここから数日の場所にある小さな村です。


昔と変わりがなければ奴隷の随伴もそれ程気にされないかと思いますので。」


「どう言うことだ?」


「マージ村は簡単に言えば奴隷の集まる村なんだよ。」


「奴隷が…集まる?」


「奴隷には戦闘に参加させる為の奴隷がいる。」


「あぁ。それは知ってる。」


「例えば戦闘力の高い奴隷がいたとして、そいつはどうやって奴隷になったと思う?」


「生活に困ってとかか?」


「ここでは戦闘力が高いだけで稼ぎは得られるだろ。」


「冒険者か…」


「そうだ。無理矢理奴隷にされた奴もいるにはいるが、普通戦闘力の高い奴を無理矢理奴隷にしようとしても難しい。」


「最悪返り討ちだもんな。」


「じゃあどうするか。簡単だ。奴隷にした後戦闘をさせるんだ。」


「……その考えは分かったが…それとマージ村になんの関係が?」


「マージ村はダンジョンが出来たことによって作られた村なんだよ。」


「ダンジョンってあの?」


「あぁ。ゲームやアニメなんかでよく聞くやつだ。


どこからか分かっていないが、ダンジョンを形成するコアが生成し、そのコアを中心にダンジョンが形成される。」


「ダンジョンの中にはモンスターが常にいます。討伐してもモンスターはダンジョンに直ぐに取り込まれ一定時間後に別の場所に再出現します。」


「コアを壊せばダンジョンごと消えるのか?」


「その通りだ。しかしダンジョン自体は珍しく階層ごとにモンスターの強さが決まっていて修練が積みやすい。それに加えて強力な武器やアイテムが手に入る事もあるから走破してもコアが残されている場合がほとんどだ。」


「マージ村のダンジョンも随分前に走破されていますが、コアは壊されていないはずです。」


「そのダンジョンを使って戦闘力の高い奴隷を作り売るってことか。」


「はい。マージ村には奴隷を連れてくる奴隷商が多く目立ちにくいと思います。」


「分かった。


それじゃあ取り敢えずマージ村を目指そうか。」


「はい。」


「バタバタしてて聞き忘れてたけど、名前は?」


「リーシャ…と申します…」


「リーシャか…どっかで聞いた事がある様な……」


「エルフには珍しくない名前なので…」


「そうなのか?ならどっかで聞いたかもな。」


「強化魔法が使えるって言ってたけど?」


「はい。妨害魔法も得意です。」


「完全に支援型って事か?」


「攻撃的な魔法はあまり得意ではなくて…申し訳ございません…」


「別に謝る必要は無いけど…」


「あの…ダンジョンには入られるのですか…?」


「面白そうだとは思うけど…」


「見学程度と考えれば…ここのダンジョンはあまり強いモンスターは出てこないダンジョンだからな。」


「そうなのか…」


「私は…その……」


「なんですか?」


「いえ…」


「ダンジョンに行くかはまた考えれば良い。今はまず村に入っても大丈夫かどうかだからな。」


歩いて村に向かっていると、馬車のありがたみがよく分かる。


一日中歩いてもあまり距離が稼げない。


俺達3人ならばもっとペースを上げても問題は無い無いが、リーシャの体力を考えるとペースはどうしても落ちてしまう。


それはリーシャ自身がよく分かっているみたいで、時折小さく謝る声が後ろから聞こえてくる。


日が暮れてくると野営の準備を始める。


「とりあえず……リーシャ。」


「はい!」


「ん?なんでそんなビクビクしてるんだ?」


「い、いえ……」


「真琴様……」


「え?」


「リーシャは奴隷です…今回の旅路で奴隷のせいで進行が遅れているとなると、普通は酷くあつかわれる場面です。」


「あー……つまりリーシャは俺がリーシャに乱暴すると思ってビクビクしてるわけか…」


「はい。恐らく。」


「リーシャ。」


「…はい!」


「えーっと…最初に言っておくべきだったかもしれないけど、俺達はリーシャに乱暴するつもりは一切ないよ。」


「………え?」


「俺達はあまり奴隷という制度に対していい感情を持ってなくてね。」


「??」


「本当に理解できないらしいな…」


「まぁ当然だろ。それがこの世界での常識だからな。」


「そうだよね…まぁいいや。


とりあえず、リーシャ。さっき簡単に作ったんだが、この服に着替えてこの靴を履いてくれ。」


「ふ、服に靴ですか?!そんな!?」


「え?変なの?」


「普通はそんな物は奴隷には高価だと与えられない物ですね。清潔な布でさえ触らせないくらいですよ。」


「マジかよ…酷いな。


とは言えこのままの姿でもなぁ…そうか!俺水魔法使えるし水浴びしてから着替えればいいんじゃないか?!」


「……どうしてそうなるんだ?」


「え?綺麗にしてから着たら服も靴も綺麗なままだし汚れないから気にならないだろ?」


「いや、うん。違うと思うぞ。」


「真琴様…奴隷自体が汚いという発想から来るものなので…」


「水浴びしてもか?!」


「水浴びしてもです。」


「えー…面倒臭いな…」


「面倒臭いって…まぁ真琴様らしいが。」


「現在は真琴様の奴隷なわけですし好きな様になさればよろしいかと思いますよ。」


「そうだよな!じゃあ水出すから水浴びしてくれ!」


「みみみ水浴び?!」


「水浴びもなのか…えぇい!面倒臭い!」


水を生成してリーシャにぶっかける。


正に人間洗濯機。汚れを落とした後水を消すとさっぱりした。


薄汚れていた顔や体もさっぱりした様だ。


目が回ってフラフラしているが。


凛に頼んで後は着替えを済ませる。


「お、着替え終わったか。」


「は、はい…その…本当によろしいのですか…?」


「俺に着ろって言うのか?」


「い、いえ!その様なことは!」


「ならそれでいいだろ。寝床はこっちで用意したからそこ使ってくれ。」


「そ、そんな事は出来ません!」


「あなた。」


「え?!は、はい!」


「真琴様が自らお作り下さった寝床を使わない…などと言うつもりですか?」


「ひぃ?!」


「そんな事ありませんよね?ね?」


「は、はい!ありがたく使わせていただきます!!!」


「凛が怖い…」


「なんですか?リーシャが地面で寝るなんて言い出したらまた真琴様がお手を煩わせる事になるんですよ?そんな事も分からないんですか?馬鹿ですか?筋肉ですか?」


「筋肉を馬鹿と同列にするなよ!」


「では健ですか?」


「同列?!俺の名前が同列?!」


「いえ、名前ではありませんよ。他の健さんに失礼ですからね。あなたという存在です。」


「より酷いな?!」


「ほらほら。遊んでないで夕飯を作るぞ。」


「はい。」


「真琴様ー。俺の扱い全体的に酷くないかー?」


「………」


「せめて聞いて?!」


あまり触れてこなかったが、俺の異次元収納があるため野営にしては、食事が豪華だ。


普通カチカチで砂の混じったパンと水みたいなスープが多い。


旅路が長くなればなるほど食品は腐るし保存がきく干し肉なんかを持っていく。


食料だって重量になるし質素なものになる。


その点家で作るのと変わらない状況を作り出せる為ガッツリ食べられる。


今宵ももちろんいつも通りに作っていた。


リーシャは料理もそれなりに出来るらしく凛の指示で手伝っていた。


凛の料理の腕は間違いなく凄い。


加えて俺が作ることは絶対に許してくれない。


包丁を持とうとしただけで泣き出した事もある。


それ以来関わっていない。


日本に居た時も外食や食べ歩きで美味いなぁと呟いただけで次の日には凛が作ってくれる事も多かった。


しかもアレンジまでしてオリジナルより美味い。


なので食事の支度は基本的に凛が行っている。リーシャに任せることはまず無いだろう。


「皆さんよく食べるんですね?」


「え?そうですか?特別多いという事も無いはずですけど…」


「出来た?」


「はい!あとは盛り付けて終わりです。」


「美味そーー!じゃあ座って食うかー!」


焚き火の周りに腰掛ける。


リーシャはスタスタと歩いてきて俺の後ろに立っている。


「……なにしてんの?」


「え?皆さんの邪魔にならないように…ここではお邪魔でしたか?!」


「え?いや、リーシャも座って食べろよ。」


「ふぇ?!」


「この際だから言っとくけど俺達はリーシャの事を奴隷として扱う気は無い。だから一緒に座って同じ物を食え。」


「そ、そんな事出来ません!私は奴隷です!」


「……食え。命令だ。」


奴隷にとって主人の命令というのは絶対厳守。


俺が命令したのだからリーシャは断る事が出来ない。少し狡いやり方かもしれないが、俺達が気持ち悪い。


ビクビクしながら腰を下ろす。


凛から受け取った皿。


何を考えているのかは分からない。


「いただきまーす!」


「いただき…ます?」


「いただきますというのはかくかくしかじかです。」


「そんな言葉があるんですね。」


「この辺では聞かないけどな。」


「いただきます。………はむっ。……」


一口目が口の中に入る。


木のスプーンが口の中から出てこない。


咀嚼も無く、目からポロポロと涙が溢れ出す。


「美味しい……温かい……」


多分温かい食事なんて食べて来なかったのだろう。


ゴミの様な食事を少しだけ。


いつでもお腹を空かせて死ぬスレスレを生きてきたはずだ。


何を言うでもなく食事をした。リーシャは泣きながら消え入りそうな声でお礼を呟き続けた。


「それは?」


「レッドスネークの鱗だよ。」


「なんかに使えるかもって持ってたやつか。」


「あぁ。結構良い素材だって聞いてたから何かに使えないかなぁって思ってたんだけどなかなか思い付かなくてさ。」


「防具として加工される事が多いって聞いたが?」


「んー…確かに硬いし火にも強いから防具としても優秀なんだけど、もっと良い使い方あるんじゃないかなぁって思っててさ。」


「良い使い方?」


「あぁ。なーんか有りそうな気がしてるんだけどなぁ…」


「あの…」


「ん?どうした?リーシャ。」


「私の故郷シャーハンドではレッドスネークの鱗を加工して弓を作ります。」


「弓?」


「はい。何故かは分かっていませんが…レッドスネークの鱗を使って弓を作ると放った矢に火属性が乗るんです。」


「え?!なんだそれ?」


「その…エルフに伝わる特別な加工が必要なんですが…」


「特別な加工?」


「はい…ですが。私はその加工方法を知っています。」


「おう……ん?でもそれ教えちゃうとまずいやつなんじゃないか?」


「本来は門外不出です。


ですが、これ程の恩を頂いておきながら返せるものなど私には…」


「いやいや。別に恩を着せてもいないし返さなくていいから。リーシャの身が危険に晒される様な技術なら聞かないよ。」


「……ありがとうございます。ですが、それは心配ご無用です。」


「どう言うことですか?」


「私は既に奴隷へと落ちた身であり、マコト様に救って頂いた御恩があります。例えシャーハンドに帰ったとしても、この御恩を返すまではマコト様の側を離れるつもりはありません。」


「えー……」


「随分と強引ですね。」


「マコト様が私を要らないと、離れろと命じるのであれば…離れますが、それでも御恩をお返しするまでは関節的にでもお手伝いします。」


「いや、別に離れろとは言わないけど…奴隷として側にいるのも辛いだろ?」


「……今まではずっと辛いと思っていました。ですが…今はマコト様の奴隷であるなら。」


「辛くないと?」


「はい。正直に申し上げますと…嬉しいくらいです。」


「嬉しいって…」


「この枷もマコト様との繋がりを証明する物であると考えると愛おしいくらいです。」


「お、おう……」


「分かっているのですか?私達と共にいれば奴隷としての身分を消し去る事が出来ないのですよ?」


「はい。」


「良いのかよ…真琴様、どうすんだ?」


「どうするかと聞かれてもなー…」


「ご迷惑でしょうか?」


「え?!いやー、迷惑って事は無いけど…」


「一つよろしいですか?」


「はい。」


「何故急にその様に考えたのですか?」


「急に…ではありませんが…


奴隷という身分は簡単には消せません。確かに教会へ行けば取り消す事は可能ですが、申請しても認可されるまでかなり待たされます。それ以前に認可される事はほとんどありません。」


「そうなのか?」


「はい。奴隷とはそう言うものなのです。」


「それで?」


「マコト様が主人を放棄したのであれば、また他の主人の元に行かされ奴隷としての毎日が始まるだけです。」


「それは嫌だってことか?」


「正直に申し上げますとそれもあります。ですが、奴隷となった時ある程度覚悟はしていました。もしもマコト様がいらないと仰るのであれば、私も従います。」


「何故ですか?他の主人の元に行くのは嫌なのでしょう?」


「はい。ですが、これ程の恩を受けたお方を困らせてしまう方が私には辛いのです。


奴隷ではなく、一人の人として扱われる事は、私にとっては諦めていた事なので…


ですから、私は何があっても必ず恩を返すつもりです。その為であれば、この命を捨てる事でさえ…」


「命は大事にね!!そんな事で命を掛ける必要なんか無いだろ。」


「私はあのまま救われなければ少しずつ死んでいくだけでした。命を救われたのであれば、それを掛けてお返しする事は道理であると考えています。」


「……どこかで聞いたセリフですね。」


「俺か?!」


「はぁ…なんでこう自分の命を軽く見る奴らばかりなんだよ…」


「それは真琴様だからだと思います。」


「凛まで?!」


「私の命は既に真琴様の物ですから。心も体も全て。」


「お、おぉ……」


「それより、リーシャさん。本当に良いのですか?」


「はい。」


「真琴様。私からもお願いします。」


「あー!分かった分かった!連れてくから!」


「ありがとうございます!!どこまででもお供致します!!」


結局レッドスネークの鱗の加工を考えていたらリーシャを連れていく話になってしまった。


そもそも村に向かっているのもリーシャの事を考えての話だし変わらないかと自分を納得させる。


凛がリーシャに肩入れしているのも似た所を感じたからだろう。女性一人っていうのも可哀想と言えば可哀想だから良しとしよう。


大幅な変更はあったにしろ、シャーハンドに帰る気は既に無いと言い切るリーシャからレッドスネークの鱗の加工方法を聞いた。と言うより強引に聞かされた。


聞いたからには作ろうと弓の制作に入る。


弓を使う人がいないじゃないかと思うかもしれないが、リーシャが使えるらしい。


弓に杖と同じ様な効果を持たせれば杖の代わりとして弓を使えるらしいのでその方向で決めた。


但し、杖は魔法を使うことにのみ特化しているため弓に掛けられる効果より高くなる。


つまり弓に魔法の効率化を効果として付与しても杖程にはならないらしい。


リーシャに聞くと支援系の魔法以外はあまり得意ではないらしく、それだけでも十分との事だ。


リーシャに聞いた弓の加工はそれ程難しいものではなく、マージ村までの道程で完成させる事が出来た。


「出来た!」


「すごく綺麗な弓ですね。」


「透明感のある赤色の弓か。確かに見たことないな。」


「普通はこんなに透明感のある素材にはならないんですよ。マコト様の加工が素晴らしかった為ですね。」


「お陰様でかなり素材をダメにしたけどな…」


「矢も同じ様に作ったんですか?」


「あぁ。一度コツを掴んだら上手く作れるようになってな。調子に乗ってしまった。エンチャントも済んでるから早速リーシャに使ってもらおうかな。」


「ほ、本当によろしいのですか?私が使っても…」


「奴隷に武器や魔法を使わせるなってやつか?」


「はい…」


「気にしない事くらい分かるだろ?」


「分かりますが…」


「焦れったいやつだな。素直に受け取れ!」


「は、はい!ありがとうございます!!」


「的必要だよな。」


「私が魔法で作りますよ。」


凛が作り出した木の的に向かってリーシャが構える。


キリキリと矢が引かれる音が聞こえる。


ビュンという風切り音と共に赤い矢が走る。


その矢尻から尾を引くように火の線が続く。


的に命中すると的を突き抜けて先の地面に刺さる。


的は一瞬にして炎に包まれ燃え尽きる。刺さった地面の矢からも火が上がっている。


「えげつない威力だな…」


「す、凄いです…本来こんなに威力のある武器ではないのですが…」


「なんか凄いものが出来たらしいな…」


「こんなに威力が高いものになるとどれ程の値がつくか分かりません…」


「またまたー。そんな大袈裟に言ってー。」


「全く大袈裟なんかじゃありませんよ?!本当に凄いことなんですよ?!」


「距離感距離感!!分かったから!!近いっての!」


「あ、見えてきましたよ。マージ村。」


凛が指さした先には簡素な木の柵が立てられている村が見える。


「ん?見ない顔だな。」


「ジゼトルスから来た冒険者だ。」


「冒険者とは珍しいな…ん?そっちのは奴隷か?」


「ま、一応な。」


「一応?」


「それより泊まる所ってあるのか?」


「村の中央に宿があるぞ。あまり使う人は多くないみたいだけどな。」


「なんでだ?」


「あそこの業突く張りのババァが値段を高く設定してるからな。皆ダンジョン近くにテント張って寝泊まりしてるぞ。」


「そうか…


ダンジョンはどこに?」


「この大通りを行った先にある。」


「助かるよ。」


門番に身分証を提示した後大通りを進んでいく。


村の中央近くに門番の言っていた宿があるが、確かに利用者は少ないらしく賑わってはいない。


宿を使う必要があるかどうかは後に考えるとしてとりあえずダンジョンへと向かう。


村自体はそれ程大きくは無いみたいだが、活気に溢れている様にも見えない。


民家が周りから無くなると点々と馬車が止まっている。


全部で4、5台だが全て奴隷商の馬車だ。


奴隷商の馬車は後部に檻が設置されていてその中に奴隷が入れられている。


奴隷になれば逃げないが、奴隷にしようとして捕まえた人が逃げないようにとの事らしいが…あまり見ていて気持ちの良いものでは無い。


「これがダンジョンか。なんか普通の洞窟に見えるな。」


「見た目はそうですね。ただ、中に入ればモンスターが襲い掛かってきますよ。」


「それで?真琴様はこっからどうするつもりなんだ?」


「んー。とりあえずダンジョンに入るのは止めておこうか。必要も無いしな。それに奴隷商人とはあまり顔を合わせたくない。」


「何故ですか?」


「奴隷商人に限らずだが、商人ってのは情報収集力が高い。奴隷商人なんて難儀な仕事なら更にその能力は高いはずだ。


こんな小さな村だとしても俺達の事を知ってる奴らがいる可能性も無くはない。」


「ジルとガリタをただ待つのか?」


「いや、こっちはこっちで調べてみようとは思っているが…」


「そこの方!」


「ん?」


村の方から声を張り上げて俺達に手を振って、おばさんが走ってくる。


エプロン姿から見るにどっかの飯屋の店員か何かだろうか。


「そこの方!少しお待ち下さい!」


「そんなに焦ってどうしたんだ?」


「冒険者の方々ですか?!」


「まぁ一応な。」


「こんな事をいきなりお頼みするなんて無礼だとは承知しておりますが…どうか…どうか!」


「待て待て。焦りすぎだ。話の内容も分からないぞ?」


「私の息子が…まだ小さな息子がダンジョンに!」


「どう言うことだ?」


「村の子供達との度胸試しでダンジョンに入ったと…」


「…一人でか?」


「はい…どうか…お助け下さい!」


「入ったのはいつだ?」


「つい先程です!どうか…どうか!」


「分かった。」


母親の顔に滲む汗と悲壮感。


「すまないが……予定変更だ。ダンジョンに入る。リーシャ。健と凛の援護を頼む。」


「はい。」


「健。先導してくれ。」


「任せとけ!」


健を先頭に洞窟の中に入る。


洞窟内は真っ暗闇かと思いきや所々にランタンの様な魔道具が据え付けてあり以外に視界が通る。


ゴツゴツとした岩肌から時折水滴が落ち、その音が洞窟内を反響する。


凛達が言っていた様に即時襲われる事は無かったが、静か過ぎてそれが逆に怖い。


「少し前に誰かがこの辺りのモンスターを倒して進んだみたいですね。」


「となるとずっと奥まで進んでいった可能性があるって事か?」


「はい。モンスターの再出現までには少し時間があります。その間に通り抜けてしまった…という所でしょうか…」


「つまり再出現する前に見つけ出さないと…」


「早く行きましょう。」


洞窟内を進んでいくと直ぐに右に左にと入り組んだ構造になり、どこをどう進んでいけば良いのかわからないと言った状況になってしまう。


モンスターのいない場所を選んで進んではいるが、それではいずれ追いつけなくなってしまう。


焦る気持ちを抑えて確実に進んでいく。


「何が聞こえるぞ。」


「人の声か?」


「……少年って感じの声じゃないな。」


岩陰から奥を見るとどうやら奴隷商人と数人の奴隷がモンスターを倒した直後の様だ。


その中に一人小さな男の子がいる。


短く切り揃えられた赤い髪でツリ目の男の子だ。7、8歳くらいだろうか。


依頼された女性もセミロングの赤髪でツリ目だった。


まず間違いなく彼女の息子だろう。


「な、何するんだ?!」


「何って。君を奴隷にするんだよ。」


「は?!」


「バカな子供は騙しやすくて良いもんだ。」


奴隷商人らしき太った男が腕を掴み離そうとしない。


話を聞く限り何か言われてのこのこと着いて行ったらしい。


「は、離せ!!」


「別に構わないが。逃げても無駄だぞ。ここから一人で戻れるとでも思っているのか?」


「このクソ野郎!!」


「ふはは!なんとでも言えばいい!


君の人生は今日から私の思うままになるのだからな!小さな男の子というのは存外人気があってな。」


後ろに控えてる奴隷も一瞬眉を寄せるがそれ以上の事はしないし言わない。


いや、言えないのか。


「おっと。すまんがその子は俺達が預かるよ。」


「なんだぁ?お前達。」


「その子の母親に依頼されてな。無事に連れ帰らないといけないんだよ。」


「母親?知るか。見る限り冒険者か?こんな所に来るような冒険者に遅れを取るような奴だと思わないでくれよ?


おい!」


後ろに控えていた男の奴隷2人と女の奴隷1人が商人の前に出る。


3人ともエルフだ。


女のエルフは魔法を使うらしい。


男2人は弓と剣。


あまり体格は良くないが、弱そうには見えない。


「やれ。こんな所を見られたんだ。死んでもらうしかない。」


「平和的に行こうぜ?その子を帰してくれれば俺達は何もしないからさ。」


「はっ!どうせお前達はここで死ぬんだ。そんな事を受け入れるわけが無いだろ。それに、交渉ってのは相手が求める何かを差し出す必要がある。そうだな。そこの2人の女を寄越せばこの子を返してやっても良いぞ。」


「気持ち悪いですね。寒気がします。」


「私のみならず、凛様まで愚弄するとは…万死に値します。」


「交渉決裂か?それならば力で押さえつけてやろう!!」


「商人以外は殺すなよ。」


「「「はい!」」」


相手の弓が放たれ飛んでくる。


狙いは健。


ビンッ


硬く張られた弦が鳴ると、火の尾が走る。


リーシャの放った矢は相手の矢を燃やし尽くし、それでも尚勢いは衰えず弓をもつエルフに向かって行く。


バチィッ!


激しい閃光と共に弓を持つエルフの目の前で矢が止められる。


第三位の光魔法、ライトシールド。


物理攻撃を弾く役目を持っている。


しかし、そのシールドもリーシャの放った矢の前では十分では無かったらしい。


パキパキとガラスにヒビが入る様にライトシールドが割れていく。


矢は男に届かなかったが、ライトシールドは完全に消失し、弓を破壊した。


弓を失った男は短剣を構える。


その目には恐怖が浮かんでいた。


一矢で矢、弓、そして物理攻撃を弾く為のシールドを完全に破壊した事がどれだけの事なのかを正しく理解したらしい。


それは他の2人の奴隷にも伝わっている様だ。


杖を持っている女のエルフに至っては手が震えている。


唯一この中でそれを理解出来ていない商人が声を荒らげる。


「何をしている!あんな奴らさっさと捻り潰せ!!」


「う……うわぁぁああ!!」


奴隷は主人を置いて逃げる事は出来ない。


それは死を意味するからだ。


だからこそ力の差が歴然としていても戦うしかない。


死を覚悟してなのか剣を突き出すように向かってくるエルフ。


健は刀を抜くと刀を反転させる。


突き出された剣に向かって刀をそっと添える様に振る。


すると剣を強く握って突っ込んで来ていたエルフの体がすぅっと横にそれていく。


刀を使って相手の力の方向をズラしたのだ。


何が起きたのか分からないエルフだが、振り返り健に向かって何度も剣を振る。


だがどの攻撃も健の刀に触れると全て意図しない方向へと軌道がズラされてしまう。


息を切らして何度も何度も振る剣は次第にその勢いを失っていく。


体力はまだある様だが、心が折れたらしい。


「む、無理です……勝てません……」


「ちっ!!死にたいのか!さっさと戦え!!おい!お前も行け!!」


弓から短刀へと持ち替えたエルフに指示を出す商人。


短剣を構えるエルフは、ビクリと体を震わせる。その顔は完全に恐怖に怯えている。


一人増えた所でこの差は埋められないと確信しているらしい。


「命令だ!早くしろ!!」


「く…くそぉぉーー!!」


「させませんよ。」


走り出そうとしたエルフの足に絡みつく木の根。


凛の魔法だ。


足を完全に取られたエルフは当然だが、その結果に驚いていたのはむしろ後ろの女エルフだろう。


物理攻撃の対策をしていたのならば、魔法に対しても対策を講じていただろう。


しかし何故か凛の魔法を防げなかった。


何が起きたのか分かっていないらしい。


簡単なことだ。


リーシャの矢には火の属性が付与されている。


つまり魔法の矢という事だ。


リーシャの放った矢は物理攻撃と、魔法攻撃の両方の意味を持っている。つまり、魔法攻撃の対策をも突き破ったのだ。


「さてと。完全に戦意喪失してしまったらしいが、どうする?」


「ま、待ってくれ!お、俺が悪かった!こいつは連れて行って構わないから見逃してくれ!」


「お前がさっき言ったじゃないか。交渉は相手の欲するものを差し出す必要があると。


そうだな。四肢を貰おうか。」


「はっ?!」


「手足だよ。これから先お前の人生が一変するが、生きていられるぞ?」


「な……」


「嫌か?なら交渉決裂だな。」


「そんな対価払えるわけが無いだろ!!」


「だから言ったじゃないか。その子を素直に渡せば俺達は何もしないと。蹴ったのはお前だ。」


「こんなに強いとは思わなかったんだ!!」


「知らん。大人しく死ね。」


「く……くそがぁぁああ!!」


バンッ


懐に忍ばせていた短剣を取り出して俺に向かって来ようとした商人の首から上が消え去る。


ウォーターショットをなるべく威力を抑えて放ったのだが…


首から上が消え去った後の体は2、3歩歩き、ドチャっと音を立てて目の前に転がる。


「まったく…真琴様の提案を蹴るなんて愚者としか言えませんね。」


「当然の末路ですね。」


「それより…良いのかよ?」


「何が?」


「そいつ殺しちまうと…あの3人は…」


「あ!!まさか!?」


「考えてなかったのかよ…」


「しまった…」


「おい。もう構えなくて良いぞ。お前達の主は死んだんだ。」


「?!」


「お前達が好きで俺達に向かってきてたとは思ってないしここから何かする必要も無いからな。とりあえず剣を下ろせ。」


「は、はい!」


「さてと…どうしたもんかね…」


「あの…私達はその人の奴隷ではありません…」


「ん?どう言うことだ?」


「その人は私達の主から依頼されてここに連れてきただけの商人です。」


「えっと…主人からは離れられないんじゃないのか?」


「許可されていますので、期間内は主から離れても問題ないのです。」


「へぇ…ん?てことは現状主はその人って事か。」


「はい。一時的に仮主人となっていたのでその商人に逆らう事は出来ませんでしたが…申し訳ございません。」


「事情は分かったから頭を上げてくれ。気にしてないから。」


「ありがとうございます。」


「その主はどこにいるんだ?」


「この村の端にある屋敷です…」


「つまりそこに帰れば良いのか。帰れるか?」


「はい。大丈夫です。」


「そいつは良かった。気をつけて帰ってくれよ。」


「「「ありがとうございます!」」」


3人の奴隷は連なるように出口に向かっていった。


「さてと…坊主。大丈夫か?」


「お、お前等お母さんに依頼されて来たって…」


「あぁ。もう大丈夫だ。」


「本当か?」


「ま、騙されてすぐだし信じられないわな。」


「別に信じてくれなくても良いんじゃねぇか?どちらにしろ出口に向かうしか無いわけだしな。」


「それもそうだな。1人じゃ出られないわけだし着いてこい。」


「……」


男の子は疑いの眼差しを向けてくるが、先導する俺達がモンスターを倒して出口に進んでいくと、その後ろをちょこちょこと着いてきた。


モンスターはゴブリンの様なあまり強くはないモンスターばかりだったが、男の子の年齢からしてみれば脅威だろう。


「出口だな。」


「ムルゴ!!」


「お母さん!!」


後ろにいた少年は走り出し、心配していたエプロン姿の母親に駆け寄っていく。


「ありがとうございます!ありがとうございます!!」


「無事で良かったよ。」


「ムルゴ!どれだけ心配したのか分かってるの?!」


「ご、ごめんなさい…」


「なんであんな所に1人で行ったの!?」


「……父さんをバカにされたんだ…」


「父さんを?」


「元冒険者の息子ならそれくらい出来るだろって…それが出来ないのはお前の親父が弱かったからだって…」


「バカ!そんな事でダンジョンなんかに入って!死んだらどうするのよ!!」


「まぁまぁ。お母さん。その辺で。」


「す、すみません…お恥ずかしい所を…」


「お母さんの気持ちも分かりますけど、その子の気持ちも分からなくは無いですから。


まぁ出来ないことをしようとしてお母さんに心配掛けたのは良くないがな。」


「……ごめんなさい…」


「親父さんをバカにした奴らを懲らしめないと意味が無いだろ?次に言われたらそいつらを懲らしめろよ?」


「真琴様。助言としては些か乱暴な気がしますが…」


「あれ?そうか?」


「親父さんはどうしたんだ?」


「今はジゼトルスに用事があって出かけていまして…そろそろ戻ってくる頃ですが…」


「おーーーい!!」


村の方から赤髪を短く切り揃えられたツリ目のがっしりした男性が走ってくる。


親子だけでなく夫婦でも似ているとは…


「はぁ…はぁ…」


「あなた…」


「ムルゴは?!大丈夫なのか?!」


「え、えぇ…その…ごめんなさい…」


「お前のせいじゃないさ。無事で良かった。」


「お父さん…」


「まったく。母さん困らせたらダメだろ?」


「うん…ごめんなさい…」


「あの…あなた方は?」


「ムルゴを助けて頂いた冒険者の方々です。」


「それは!この度はどうもありがとうございました!」


「気にするな。」


「いえ!そんなわけにはいきません!


そうだ!ここでの宿はどうされるおつもりですか?」


「宿?ここら辺で野宿するつもりだったが?」


「そんな!恩人の方々が野宿なんて!


我々は家族で宿を営んでおります。どうぞお泊まりになって下さい!もちろんお代は結構ですので!」


「いや、そんなことまでしてもらわなくても…」


「私達の宝を守って貰ったのです!どうぞお泊まり下さい!!」


半強制的に連れていかれてしまう。


村の中央にある宿の家族だったらしい。


業突く張りと聞いていたが、イメージとは違う様だ。


「どうぞお入りください!」


「思ってたより広いな。」


「食事も出してますので…人が居ないのは、うちが高過ぎて寄り付かないからですね。」


「ん?高過ぎてって……分かってるのに値を下げないのか?」


「下げられないんですよ。ここはマージ村。田舎ですし物資はとことん集まりにくいんです。


ダンジョンに来る冒険者が多い時は商人の出入りも多かったのでなんとかなったのですが、今では食料さえジゼトルスまで買い出しに行かなければならない程です…」


「それで親父さんはジゼトルスに?」


「えぇ。高くする代わり…と言ってはなんですが、食料くらいはいい物をとジゼトルスで買ってきているんです。


安くしてしまえば利用者が増えて賄えなくなってしまいますから…」


「なるほど。そんな事情がね。」


「他の街に移動しないんですか?」


「確かに他のもっと楽な場所で宿を建てる事は考えましたが…ここには私達の宿を必要としている方々も数多くいますので…」


「常連さんのため…って事ですか。」


「息子がいながらも情けない話ですが…」


「そんなことはありませんよ?!素晴らしい事だと思います。私ならば誇りに思うでしょう。」


「ありがとうございます。」


「でも、それならば尚更私達をただで泊めてしまうのは良くないのでは?」


「息子の命の恩人から金を取るなど出来ようはずもありません。お気になさらず。」


「とは言っても……そうだ。俺達は冒険者だ。困った事や依頼があれば格安で引き受けるってのはどうだ?」


「依頼…ですか?」


「それこそ食料の買い出しでもなんでもやるぞ?」


「買い出しに行ってきたばかりなので食料には困っておりませんが……」


「そういえば……いや。なんでもありません。」


「そこまで言っといてなんでもありませんは逆に気になるっての。なんか思いついたのか?」


「……その……私達だけ、と言うことでは無いのですが、この村には貴族の屋敷があります。」


「あぁ、なんか村の端にあるって聞いたな。」


「ビリンド-ハイカシ。それがその貴族当主の名前です。」


「そのビリンドがどうかしたのか?」


「ビリンドはこの村唯一の貴族であり、その権力を振りかざし市場の多くを取り仕切っています。」


「食料や武具って事か?」


「魔道具や生活品についても…ですね。」


「ここらで暮らそうと思うとそのビリンドって言う貴族が必ず関わってくるってことか。」


「はい…」


「あんたらの顔を見る限りあまり良い事をしている貴族とは思えないんだが?」


「商人が食料を持ってこなくなったのもそのビリンドのせいです。商人から買うのではなくビリンドを通して買うので食料品やその他多くの物は高値で買わなければなりません…」


「そのせいで買い出しに行かなければならなくなって……って流れか。やりたい放題だな。」


「とは言っても相手は貴族ですから何が出来るでもなく、皆従うしかないのです。」


「なんで皆この村を離れないんだ?」


「私達と同じ様に離れたくない人も多いとは思いますが、ビリンドが村を出ようとする村民を引き止めるのです。」


「引き止める…ねぇ。そんな優しいもんじゃないんだろ?」


「脅しに違いだろうな。貴族ってのはそんなもんだ。」


「ビリンドは数多くの奴隷を従えていて、どの奴隷も戦闘に長けた者ばかりなので…」


「さっきの3人もそのビリンドって言う奴の奴隷だったわけか。」


「村でも目当ての娘を見つけると強引に屋敷に連れて行ってしまうのです。」


「なんだそりゃ。人攫いと変わらないだろ?」


「止めようとした一家が……」


「それを見て何も言えなくなったのか。」


「はい…それ以来この村では若い娘は外には出されなくなりました。」


「確かに村に入ってから若い女性は見てないな。」


「ここではそれが掟…ですからね。こんな事お話してもどうする事も出来ないので…」


「……どう思う?」


「極悪人ではありますが、貴族は貴族ですからね。下手に動けば私達の方が危険に晒される事になりかねません。」


「だよな。」


「ただの愚痴の様なものなので、忘れて下さい。」


「……」


「それよりお部屋を用意しますね。」


本当に愚痴が溢れただけの様で俺達に何かをさせたいとは思っていないらしい。


笑顔で部屋を用意してくれる。


部屋はあまり広いとは言えないが4人で泊まるには十分な広さだ。


使い古されてはいるがベッド等も綺麗に手入れされている。


「なんとかしてあげられるのであれば手を貸してあげたいですね。」


「気持ちは分かるが、真琴様が危険に晒される可能性が高い以上下手に手出しは出来ないだろ。」


「貴族は横の繋がりが強いですからね。」


「俺達は正義のヒーローってわけじゃないからな。」


「……」


「それよりプリネラについてここからどうやって調べるんだ?何か言いかけてたけど…」


「現在の俺は詳しくプリネラを知ってる訳じゃないが、俺達が追われてるって事はフィルリア同様にプリネラも国から何かあったんじゃないかって思ってな。」


「まぁ追求はされただろうな。」


「となればプリネラもフィルリア同様にジゼトルスにはいないんじゃないか?」


「まぁ詮索されて邪魔だとは思うだろうな。」


「くノ一として腕がたつなら逃げ隠れはお手の物だし、凛や健もそう思ったから貧民区にいると思ったんだよな?」


「まぁな。」


「国の兵士や貴族にも知れ渡っていたと考えると仕事もなかなか難しいだろうし近隣の村を渡り歩いたりしながら仕事をこなしてたんじゃないかってさ。」


「つまりこの村にも立ち寄った可能性があるってことか?」


「そ。そんでこの村で得られる仕事ってなると、奴隷商人の護衛だとか限られてくるだろ?その辺の情報を仕入れたら何か分かるんじゃないかって思ってたんだ。」


「…十分考えられますね。」


「俺達の事は詳しく話せないし情報を仕入れる先は吟味しなきゃならないけどなんとかなるんじゃないかなって。」


「調べてみる価値はありそうだな。」


「それじゃ明日からはその方向で調べを進めてみよう。二手に別れて調べようか。俺はリーシャと一緒に回るよ。」


「分かりました。」


何をしていくかの方針を決めてその日は寝る事にした。


その次の日から二手に別れて色々と聞いて回った。村の人はもちろん、ダンジョンを目的に来る冒険者や奴隷商人にまで声を掛け続けた。


しかし手掛かりになる様な情報は無く、無駄足を踏んでいた。


宿にいくらでも居てくれていいとは言われているが、お金も払わずに居座り続ける程肝が太いなんて事は無い。


そろそろその辺の事も話し合って野宿でどうにかしようかと考えていた時、馬車に乗ったジルとガリタが村にやってきた。


「おー!マコトー!」


「ジル!ガリタ!」


「やっぱりマージ村に来てたか。予想が当たって良かったよ。」


「行先決める前にさっさと出てきちゃったからな。すまん。」


「まぁ行く場所なんて限られてるしすぐに見つかるとは思ってたから大丈夫だ。


それより例の件について色々と調べてきたぞ。主にガリタが。」


「ジルは?」


「私はそうゆう手の話とか交渉とかは苦手だからな。適材適所だ。」


「手伝ってくれただけでもありがたいよ。」


「気にするなって。」


「一度宿に行って話を聞かせてくれないか?」


「宿?マコト達ここの宿に泊まってるのか?高いって有名だぞ?」


「まぁ色々あってな。」


「マコト達はいつも色々あるな。」


「好きで色々あるわけじゃないっての。」


「あはは!」


ジルとガリタを連れて宿に戻る。


部屋に通すと早速ガリタが調べてくれた内容を話し始める。


「まず、プリネラさんの行先は正確には分かりませんでした。」


「正確には?」


「はい。街の外にいる事までは分かったのですが、どこにいるかまでは分かりませんでした。」


「それが分かっただけでもありがたいさ。」


「はい…そもそもプリネラさんという方は近隣の村々を渡り歩いていたそうです。ふらっと現われては仕事になりそうな事をこなして少しするとまたふらっといなくなる。と言うような生活をしていたみたいです。」


「真琴様の読み通りだな。」


「しかし、現在は雇われの身になっているそうです。」


「つまりどっかの誰かに雇われて一所に留まってるのか。」


「はい。それがどこか、までは分かりませんでしたが…」


「何か手掛かりになりそうな情報とかは?」


「情報…と言う程のものではないですけど、もし本当にプリネラさんが腕の良い人であればそれなりの額を出してると思います。


なのでそういった額のお金を出せる人だと思いますけど。」


「貴族とかか?」


「貴族でも田舎貴族と呼ばれる様な金銭を持っていない様な人達では無いと思います。」


「そうなるとそれなりに絞られてくるんじゃないのか?」


「そうですね。このマージ村にいるハイカシ一族。一族と言っても主人のビリンド一人だけですが…


ジャビット村の二ルメイ一族、そしてミュルリュ村のスコトノス一族ですね。」


「その三家だけか?」


「貴族は沢山いるが、それだけの金を持ってて護衛に腕の良い奴を必要とする様な事をしている奴となるとその三家だろうな。」


「このマージ村のビリンド-ハイカシは奴隷の事やこの村に対する措置が有名ですからね。」


「恨まれてるってことか。」


「他の二家も似たようなものです。」


「金を持つと人が悪くなるものなのかねー。怖い怖い。


となると、計らずしもこのビリンド-ハイカシについて調べる必要が出てきたわけか。」


「計らずしも?」


「あぁ。村の人にどうにかしてくれないかと言われてな…」


「必要がありあればやるしかないですね。」


「だよな。よし。ちょっと調べてみますかね。」


ジルとガリタも宿に泊まらせたいと言ったらまたしてもお代はいらないと言われてしまったので全員分でいくらかは無理矢理渡しておいた。


流石に気が引けてしまうし。


数日間調べてみて分かったことはとにかくこのビリンド-ハイカシと言う男主人がこの村を食い物にしているという事だけだった。


村に対して救いになる様な良い政策は一つもしていない上にやりたい放題。


最高級のクズ野郎という事がよく分かった。


しかし、ジゼトルス内にいる貴族との繋がりが強く定期的に連絡を取り合っていたり、教会とも強い繋がりがある様だ。


事を構えるとなれば、このジゼトルスを離れる覚悟が必要になってくる。


「なかなか下衆な奴ですね。」


「俺達もいい人間かは疑わしいがここまで人の心を無くした奴を見るのもなかなか無い事だよな。」


「真琴様は容赦が無いだけで人情が無いわけではないですからね。」


「…プリネラがここにいると思うか?」


「どうでしょうか…誰も見た事が無いと言っていますし、判断が出来ませんね。」


「プリネラがいるかどうかは実際にこいつの屋敷に行ってみるしか無いって事か…博打が過ぎるよなぁ…」


「マコトー!」


「何か分かったのか?」


「あぁ!今あそこにいた子供に聞いたらプリネラっぽい人を見た事があるって言ってたぞ!」


「子供?」


「ガリタが子供なら変な場所に遊びに行ったりしてるから何か見てる子がいるかもって言い出してさ!」


「探検みたいな事か。」


「そ!そしたらドンピシャ!」


「ジルー!速いってー!」


「お、おぉ!ごめんごめん。」


「はぁ…はぁ…ふぅ。」


「プリネラっぽい人を見かけた子供が見つかったって?」


「はい!近くにいた他の子達にも聞いてみたのですが、何人か見掛けたそうです!」


「子供とは盲点だったなー。」


「な!?」


「あぁ。確かにガリタのお陰だよ。」


「やっぱりなー!さすがガリター!」


「ガリタよりジルが喜んでるのな。」


「嬉しいからな!」


「それは何よりだ。」


「それで?こっからどうするんだ?」


「それなんだが……ジルとガリタはジゼトルスに戻ってくれないか?」


「ジゼトルスで何かやるのか?」


「いや…」


「…どう言うことだ?」


「ジル…私達が今回の事に首を突っ込むとジゼトルスに居られなくなるから…」


「あ?!なんだそりゃ!?そんな事関係ないだろ?!」


「関係無くは無いだろ?」


「私達はパーティーだよな?!なんで今更!!」


「パーティーだから、大切に思ってるからだ。


今回手を出してしまえば確実にジゼトルスには居られなくなるし、これから一生追われ続ける事になるんだ。そんな事はさせたくない。」


「そんな…」


「ジル……私達は戻りましょう。」


「ガリタ?!」


「……もし本当に追われる事になったら…多分私達は足でまといになる。それはジルだって感じてたでしょ?」


「………」


「それを分かった上でマコトさん達は戻れって言ってるんだよ。


私だって悔しいよ…でも…足でまといになるくらいなら残る。」


「ガリタ…」


「別に今生の別れって事でも無いし、悔しいならマコトさん達が頼むから着いてきてくれって言うくらい強くなって会いに行けば良いんだよ。私は絶対そうする。」


「………」


「ジル。」


「分かったよ!!戻れば良いんだろ!!戻れば!!」


「助かるよ。」


「くそー!覚えてろよ!絶対またぶっ飛ばしに会いに行くからな!!」


「あぁ。忘れたりなんかしないさ。」


「ばーか!!」


濡れる目を見せたくないと言わんばかりに振り返り走っていくジル。


悔しそうな、寂しい様な目でこちらを見て頭を一度下げた後、ジルを追って走るガリタ。


忘れるなんてできるわけが無い。


「辛い…ものだな。」


「まぁ別れってのはな。いつもこんなもんだ。」


「すまんな。二人にも格好良く残ってろって言えたらいいんだけどな。」


「言われても着いていきますよ。」


「だな。俺の主は真琴様だけだからな。」


「………ありがとな。


さぁ。行くか!!」


「はい!」


「おぅ!」


ジルとガリタが見えなくなると、振り返り、ビリンドの屋敷に向かう。

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