第一章 人間の国 -ジゼトルス- Ⅱ

「しゅっぱーつ!」


バチンという音がすると馬が歩を進める。


ドルコト山に向かうため北門から出ると、こっち側にはわりと人通りがある。


「南門程じゃ無いけど人通りはあるんだな。」


「こっち側には遠いがシャーハンドって国があるんだよ。」


「シャーハンド?」


「エルフの国だ。山を二つ越えなきゃならないけどな。」


「エルフの国かー…ジル達は行ったことあるのか?」


「エルフの国は行ったことないな。」


「エルフと人間はなんと言いますか…仲が悪いので。」


「え?!そうなのか?!」


「はい…憎まれているとまではいかないですけど、あまり良い目で見られないです。」


「ジゼトルスにはエルフの奴隷も多いからな。」


「あぁ…」


あまり気にしないようにはしてきたが、街を歩くと貴族の様な身なりの男が首と手足に枷をさせた布切れを着させただけの格好の奴隷を連れているのを見かけることがある。


耳の長いエルフの奴隷も何度か見かけた事がある。


「奴隷という制度はこの世界に深く根付いています。冒険者の中には奴隷を使って依頼を受ける者もいるくらいです…」


「俺達にはあまり馴染みのない制度だし見ていると辛いな。」


「はい…」


「すまんな。気分が落ちちまった。切り替えていこう。」


「そうですね。」


ガラガラと馬車が進んでいく。


風景は門を出た時と変わらず見晴らしの良い草原がずっと広がっている。


空には雲がちらほら見えるが雨は降りそうに無い。


「そういや火属性のモンスターは雨降るとどうなるんだ?」


「弱体化しますよ。なので雨の日は洞窟などの中で動かないモンスターが多いですね。


ランクの高い火属性のモンスターは雨くらいでは弱体化しないものもいますので全てというわけではないですが。」


「へぇ。そんじゃ天候とかも加味して作戦立てた方が良いのか。」


「そうですね。依頼によっては雨を待つくらいはするものもありますよ。」


「ドルコト山は危険な所なんだろ?雨を待つのか?」


「確かにモンスターも数多く生息する場所だし危険だが、注意しておくべきモンスターはそれ程多くないぞ。」


「それ以外はそこまで驚異にはならないってことか…その注意しておくべきモンスターってのは?」


「全部で3種だな。一匹目はファイヤーリザード。ランクCのモンスターだ。


火を噴くデカいトカゲだな。人と同じくらいの大きさなんだが、足も早いし口から出る炎は高温でモロに受ければタダじゃ済まない。救いは基本的に単体で動くモンスターってところか。」


「群れる事もあるのか?」


「種を温存する為に強敵と戦う場合は群れる事もあるらしいな。」


「そうなると結構厄介そうだな。」


「まぁ今までも見たことないから大丈夫だと思うぞ。」


「2体目は?」


「フレイムタートル。こいつもランクCだ。炎を纏った亀だな。サイズはそれほど無いが特殊な可燃性のガスを撒き散らし爆発する。


防御力の高さ故に自身にはダメージを受けないが…」


「辺りは爆散するってことか。」


「それも厄介ですね。」


「あぁ。だが最も厄介なのはレッドスネーク。こいつのせいで今回の依頼がBランクになったって言っても過言じゃない。」


「つまりBランクのモンスターって事か?」


「そう言うことだ。火を噴くどデカい赤蛇だ。


もちろんの如く火属性に対する耐性は持っていて、体表は硬い鱗で覆われている。目撃情報は少ないし被害もほとんど無いが、今回もし出会ったら即逃げた方が良い相手だ。」


「そんなやつがいるのかよ…」


「あぁ。人間程度ならサクッと一飲み出来るくらいデカいぞ。」


「出会ったことがあるのか?」


「遠目に見ただけだな。寝てたからその時は直ぐに離れたぞ。」


「分かった。その3種類のモンスターは要注意だな。」


「他のモンスターはそれ程注意する必要は無いですけど、あの山に住んでいるモンスターはほとんどが火に対する耐性を持っていますので気をつけてくださいね。」


「せっかく貰ったこの外套が使えないとはな。」


「今回は火耐性のマント着ていくしどっちにしろ使えないだろ。」


「こいつも火耐性ついてんだろ?」


「こっちのマント程じゃなからな。」


「ちぇー。」


「次までお預けだな。」


「それにしても魔道具を自分で作るなんてマコトほんと頭おかしいな。」


「言い方?!」


「私は一緒に見張りしていたので知ってましたけど、目を疑いましたね。」


「買わなくて良いんだから儲けだろ?」


「着地点がそこかよ。」


「さすがマコトだな。」


「やかましいわい!」


「真琴様?それはなんですか?」


「ん?あぁ。こいつは防具屋で買った革だよ。小さく切ってエンチャントの練習をしようかなって思ってね。」


「エンチャントの練習ですか?」


「そ。エンチャントされた物をいくつか見て気づいたんだけど、エンチャントってのは魔法陣を使って魔法を常時発動させる物って感じなんだよ。」


「??」


「魔道具は魔石に含まれる魔力を使って魔法を発動させてるだろ?」


「はい。」


「エンチャントってのは魔法陣を使って空気中の魔力を使って小さいながらも魔法を常時発動するものなんだと思う。」


「そんな事が可能なんですか?」


「俺の読みが正しければ。だけどな。」


「なるほど…ですが私の革の防具にもこのマントにも魔法陣なんてありませんよ?」


「そりゃ簡単に見える様に作ったらエンチャントする職人は廃業しちゃうだろ。」


「隠されてるって事ですか?」


「そ。魔力を目に集中させるとうっすら見えるはずだけど。」


「目にですか?んー……見える様な見えない様な…」


「コツがあるから最初は難しいかもな。ただ見えたとしてもそれを解読できないと意味は無いけどな。」


「真琴様は既に解読されたのですか?」


「全部とはいかないけど大体な。


使われている魔法陣はどの店でも共通しているし、恐らくだけどライラーに伝えられる魔法陣があってどこも同じなんじゃないかな。」


「たしかにライラーの学校もありますけど、内容までは知りませんね。」


「学校で教えているのかは分からないけど…とにかく、効果と魔法陣が分かれば後は照らし合わせて解読していけば良いだけだしそれ程難しい作業じゃないさ。」


「そ、そうなんですかね…何か物凄い事を言っている気がしますが…」


「凄すぎて私達にはわかんねぇな!!」


「俺も完璧じゃないからこうして実験してるんだろ?とりあえずやってみるかな。」


「どんなエンチャントを?」


「無難に火の属性耐性を付けるつもりだ。革に対し、指先に魔力を集中させ、魔法陣を書く。ここがこうで…こうして…」


「光ってますね。」


「時間とともに薄れていくから手早く描かないとダメみたいだな。


よっと。これで出来たと思うが…」


「見ただけでは分かりませんね。」


ライター程の火を近づけてみると革は見事に焦げ付く。


「ダメだったな。


まぁ最初から成功するとは思ってないしどんどんいくか。」


馬車の後ろで何度も魔法の内容を変えて試してみる。


魔法陣に使われている記号に見えるものは文字でいくつかの単語の組み合わせの様だ。


それを上手くつなげていけば効果は発動するはず。


凛含め他の人にはこの記号の様な字を解読出来ないらしい。


「これだったら…おわっ!」


魔法陣を描き終えると同時に革が燃え尽きる。


「耐性を上げすぎると燃えるのかよ…


火魔法に近づき過ぎるのか…ならこうして…」


何度もトライアンドエラーを繰り返すとマントと同等のエンチャントに成功する。


「凄いです!」


「ま、ここまでは予想通りだよ。こっからがむしろ本番だ。」


「と言うと…マントのエンチャントより良い物を作るのですか?」


「そのつもり。出来るかわからんけどやってみる価値はあるだろ?」


「はい!」


更に何度も繰り返していくうちになんとなく限界点のような物を掴めてくる。


素材によってそれは違うのだろうが、とりあえずいまはそれは置いておく。


「ここが限界点かな。」


「す、凄いです!!全然耐性力が違います!!」


「言い過ぎ。3割増しくらいだろ。」


「3割違ったら全部違うだろ。」


「そうか?」


「どこまで行けると思ってたんだが…」


「よし。そんじゃこいつを革の防具にエンチャントして。おしまいだな。」


集中していて気付かなかったが既に昼近くになっている。


昼食を終えて再度馬車を進めていく。


馬の操縦も習わなければならないので午後からはガリタに教わりながら馬の轡を握る。


ガリタは緊張してどもる時もあるがコツなんかを丁寧に教えてくれるので日が沈む頃にはかなり上達出来た。


次からは一人でも良いとのガリタ先生からのお墨付きだ。


日が暮れ辺りが暗くなる前にテントを張り火を灯す。


少しは野営にも慣れてきた。


夕食を終えた辺りでやっと作業が出来るようになる。


なんの作業かと言うと健の刀作りだ。


武器屋で伝えた考えってのはこの事だ。


素材屋で刀の素材金属は見繕ってきたしなんとかなる!はず。多分…きっと?


焚き火の前で素材を品定め。


鉄や銅など日本でも見られた金属はもちろん、ミスリルなんかのこっちにしかない金属も結構ある。


ミスリルなんかはかなり高かったが、試さない事には如何ともし難いのでとりあえず買ってきた。


「それはミスリルですか?」


「ん?あぁ。インゴットだと高過ぎて買えなかったから鉱石のまま買ってきたんだよ。安い鉄なんかはインゴットで買ってきたけどな。」


「それをどうされるんですか?」


「刀を作りたくてなぁ…」


「え?!出来るんですか?!」


「おいおい、マコト。それは無理だぞ。普通は炉とか専用の施設が無いと作れないんだから。」


「まぁそうなんだけど…凛が手伝ってくれたら出来る気がするんだよ。」


「私ですか?!」


「俺だけじゃ火しか使えないからな。手伝ってくれると嬉しいんだが…」


「もちろん手伝いますよ!ですが…私で大丈夫でしょうか…」


「魔力量の心配か?」


「はい…」


「それは関係ないな。どちらかと言うと魔力の操作力が大切になってくるんだよ。唯一魔力量が必要な火は俺がやるしな。」


「それならば…」


「助かるよ。」


「それで…どう致しますか?」


「まずはそれぞれの金属をより純度の高い物に変えよう。」


「純度ですか?」


「鉄を含めて俺が買ってきたこの金属達は全て純度が低い。恐らく鉱石を溶かして軽く濾しただけなんだろうな。」


「不純物が沢山入ってるんですね。」


「あぁ。それじゃ脆くなってしまうし使い物にならない。俺が火で溶かしていくから凛は濾し器を作ってくれ。」


「濾し器ですか?」


「石を網目状にしたものを作るんだ。目を細かくしてやれば大きな不純物は取れる。」


「分かりました。」


こうして始まった刀造り。


金属の純度を上げていく。


特に大変だったのはミスリル。軽くて硬いという性質を持っているが、融点が高く溶かすだけでもかなり大変だった。


2日目の夜は早速元になる刀の芯を作成する。


より硬い金属である必要があるためミスリルに決定した。


熱して圧力を掛けて冷やしてをひたすら繰り返す。


普段は涼しい顔をしている凛も汗ばみながら手伝ってくれた。


健は自分の刀という事で常に横にいて知っている知識を話してくれていた。


おかげで2日目にして芯が完成し、芯を挟むように鉄を巻き付け、更に叩く!


そうして三日目の朝にしてやっと形が完成し、研ぎに入る。


これは健が自分でやった。


素人がやると切れないナマクラに大変身を遂げるし完全に任せた。


そしてやっと完成したのは刀全体が白い刀だった。


健が研いでいるうちに作った柄等を取り付けて最後にしめ縄を手持ち部分に付ける。


木製の真っ赤な鞘に収まった刀。達成感が凄すぎて泣きそうになった。


健と凛に促されて彫り込んだ刀の名は白真刀(はくしんとう)。


安直だとは思ったが、こういうのはわかりやすい方が良いと思ってこれにした。


「おぉ…感動するもんだな…」


「いやー…これは…ちょっと泣けてくるぜ。」


「真琴様はもちろんですが私のお陰でもあるので咽び泣く様に喜びなさい。」


「いや、本当にありがとう。大切にする。」


「そ、それでいいのです。」


「まさか本当に作っちまうとはな…お前達本当に常識ぶっ壊しっぱなしだな。」


「健さん。似合ってますよ!」


「ほんとか?!いやー!嬉しいなー!」


「ちょっと振ってみて下さいよ!」


「お、おぉ。」


健が刀を振る。


「こ、こりゃぁ…研いでた時からなんとなく分かっちゃいたけど…めちゃくちゃ軽いな…」


「そんなに違うのか?」


「あぁ。剣速が段違いだよ。


それに…これ魔力を宿してないか?」


「え?そんな魔法陣とかは入れてないけどな……確かに魔力を感じるな。


魔法でやったからか?」


「ライラーでも魔法を使いますがこんな事にはなりませんよ。」


「じゃあ…なんでだ?」


「考えられるとしたら…真琴様が無意識に発していた魔力が一緒に練り込まれた…とかですかね?」


「え?なに。俺そんなに漏れてる?めちゃくちゃ恥ずかしいんですが…」


「真琴様に限らず誰しもが漏れてますよ。そう言うものですし。真琴様の場合は魔力量が多いので漏れ出ている量も普通の人より多いので、それが移ったのかと…」


「なんか弊害があるのか?」


「全くありませんよ。むしろ魔力で覆われているので魔法に対する耐性が上がっているのではないでしょうか。」


「つまり魔法を多少は受けられるって事か?」


「オススメはしませんが、恐らくは。」


「そいつは凄いな。」


「白真刀か……」


ニヤニヤしながら刀を見ている健。


ちょっと怖すぎるんですが…


「こいつなら……」


「どうした?」


「あぁ。こいつなら…俺の技についてこられるかもしれない。」


「技?どう言うことだ?」


「昔真琴様が打ってくれた刀を俺は使ってたんだ。」


「こっちでか?」


「あぁ。真琴様は日本を覗き見する事が出来てな。その時に見た刀を俺に作ってくれたんだよ。」


「覚えてないな…」


「まぁそうだろうな。


そしてそれから俺は欠かさずに刀の腕を磨いてきた。」


「それで日本でも剣道やってたのか。」


「まぁ他に俺の強みなんてないからな。


こっちでは剣士ってのは身体強化を使う。それが普通だ。」


「私も使ってるしな。」


「健は魔法が使えないじゃないか。」


「あぁ。でも昔真琴様が言ってくれたんだ。」


「なんて?」


「その剣術なら魔法と変わらないだろってさ。」


俺はガキの頃ただ生きるだけの生活をしていた。


それすらもままならない生活だった。


親の顔も声も知らない。


知っているのは捨てられたと言う事実だけだった。


食うために、一欠片のパンを食う為に盗みをする。


見つかれば殺される手前まで殴られ、道端に転がされる。


骨と皮だけの身体。


そんな奴らはこの国にはそれこそ腐るほどいる。


国がどうこうしてくれるなんてのは考えた事さえない。


誰かが手を差し伸べてくれる?有り得ない。


他人から与えられるのは怒声と暴力。


それ以外に与えられた記憶なんて一切ない。


自分の歳さえ分からないそんな薄汚い俺に、ある日転機が訪れた。


いつものように食い物を探して影を歩いていた。


しかしその日は運が悪かったのか…今にして思えば運が良かったんだろう、何も得られるものが無かった。


一日に一口何かを口に入れられれば良いと言う生活だ。


歩き回ったせいもあっただろう。


既に体力が尽きかけ、何か、なんでもいいから口に入れなければ死ぬという所まで来ていた。


こんなゴミの様なガキの中でも侵してはいけない唯一のルールを皆知っていた。


<大きな家には入るな。>


大きな家は大抵は位の高い奴らの家だ。


見付かれば殴られるのではなく、殺される。


あいつらにとって人の命と言うのは金や世間体より軽いものだ。


しかしどこに行っても何も得られず、残るは目の前にある大きな家だけ。


死ぬか入るか。


どうせ死ぬなら入って生きられる可能性に掛けるしかない。


俺は唯一のルールを破って壁をよじ登りその家に入った。


中はまるで別世界。


でも何か変な感じがする。


貴族の家を見たことがあるが、もっとピカピカしてキラキラしていた。


ここは……静かだった。


整然としていて街の中にいる事を忘れてしまいそうな程に。


庭を越えて家の中に入る。


人の気配はない。


中は真っ暗だ。


食い物を探して静かに部屋を探していく。


いくつかの部屋を探してやっと見つけた。


カゴの中にパンが置いてある。


俺はそれを取り上げて頬張る。


何年ぶりかにパンを丸々一個食べる事が出来た。


固くなってカビたやつじゃない。


もっと!と思ってカゴにもう一度手を伸ばそうとした時、部屋に明かりがついた。


心臓が一瞬動きを止めて冷たい何かが体の中を巡った。


「誰ですか?」


聞こえてきたのは女の子の声。


黒い髪の上に小さな花の髪飾りをつけた女の子。


「!!」


俺はパンを掴みその女の子を押し退けて逃げようとする。


しかし、それは叶わなかった。


魔法。


俺には使えない力。


多分俺を捨てた親が俺に求めていたものだ。


足に絡みつく木で全く動く事が出来ない。


「どうした?」


そしてその女の子の後ろから一人の男の子が出てくる。


黒髪に、まるで全てを見透かすような切れ長の鋭い目をしている。


死んだと思った。


女の子1人ならなんとか逃げられる。


でも俺と同い年くらいの男の子がいる。


骨と皮だけの俺は力も無ければ抵抗する魔法も無い。


この後こいつらの親が出てきて俺は連れて行かれ、川か沼か、どこかに殺されて沈められる。


そんな奴を何人も見てきた。


しかし男の子はじっと俺を見ると何故か考えるような仕草を見せる。


「お前。魔力が無いのか。」


「……」


「剣術やってみる気無いか?」


何を言われているのかさっぱり分からなかった。


剣術?


何故この状況でそんな言葉が出てくるのか…?


「どっちだ?やるか?嫌ならそのまま帰れば良いしやるならそう言え。」


「……やる。」


何故あの時そんな事を言ったのか未だに自分でも分からない。


間違いだらけのガキの時分に唯一正解があったとすればあの時やると答えた事だけだ。


「そうか!よし!」


そう言うと男の子はスタスタとどこかへ行ってしまう。


俺に巻き付けられていた木もいつの間にか無くなっていた。


殺されない…?何故…?


女の子が俺を見ている中、男の子が戻ってくる。


渡されたのは見たことも無い剣。


「見様見真似で作ってな。材料足りなくてちっちゃいのしか出来なかったから丁度いいと思ってな!」


俺に渡されたのは刀。


この時既に真琴様はどんな魔道士よりも先にいた。


その腕で金を稼ぎあの家に凛と二人で住んでいたんだ。


「こ、これは?」


「刀って言う剣だ。使い方はよくわからん。」


「え?!」


「言ったろ?見様見真似で作ったって。」


「……」


「だからそいつをマスターして使い方見せてくれ。その代わりここに住んでくれていいし飯もやる。どうだ?」


「……やる。」


「そっかそっか!よーし!」


上機嫌でどっかに行ってしまう。


「あなたの部屋を案内します。」


女の子が淡々と俺に言って家の事を必要な物だけ教えてくれる。


俺の部屋と言われた場所に入ると、なんとベッドがある。


そんなもので寝た事なんてもちろん無い。


「ここです。」


「お、おぉ…」


「そのパンは食べても良いとの事ですが…まずは水浴びと服を着替えてください。


臭いです。」


それだけ言って消えていく女の子。


一応部屋に入るまでに色々聞いていたので水浴び場に向かう。


綺麗なベッドにこの臭い格好で乗るのは申し訳ない気がした。


水浴びをしていると男の子が来た。


「よっ。」


「……」


「これ服な。俺のだからサイズ合わないかもしれないけど。」


「なんで…?」


「え?」


「なんで助けてくれるんだ?」


「助ける?」


「俺はパンを盗みに来た泥棒だぞ。それなのにこの服も…寝床だって…


魔力さえ無いガキを…」


「……こいつは内緒なんだけどさ。」


「??」


「俺は魔力がアホほど有るんだよ。」


「自慢か?」


「いや…魔力がアホほど有るせいでいろんな大人とか国とかにあれやこれやと言われたりやらされたり。中には殺そうとしてくる奴だっているんだよ。」


「え?!」


「変だよな。別に欲しくて生まれてきたわけでも無いのにさ。


お陰で色々あったりしたけど…一人の女性に会った事で俺は今まで生きてこれたんだ。俺の先生なんだけどさ。


それまでは馬鹿みたいにぶっ壊すばっかだった俺に魔法の本当の使い方を教えてくれたんだ。」


「本当の使い方?」


「魔法は壊すばっかりじゃない。人を救う事だって出来るってな。」


「救う?……見たことないけど。」


「ま、まだまだだけどな。


俺は魔力が多すぎて苦労したけど、先生に救われた。


逆に魔力が無いお前も苦労したろ?なら、その痛みを分かってやれる誰かに救われても良いとは思わないか?」


「痛みを…」


「まぁ真逆だけど…表裏一体って言葉知ってるか?」


「……」


「ま、簡単に言えばどっちの痛みも似たようなもんってことだ。


なら先生に救われた俺は同じ痛みを持っているお前を救う責任があるだろ。それだけの事だ。」


意味が分からない。


救われたから誰かを救う責任がある?


そんな事あるわけないって事くらい馬鹿な俺でも分かる。


でも、真琴様のその時俺に向けてくれた目は、全てを見透かして尚、俺を受け入れると言ってくれている様に見えた。


単純に嬉しかった。


理由とか先生とかよく分からなかったけど、その目だけで俺は救われていた。


今まで世界に拒絶され続けてきた。


親にさえも。


それが同い年のこんな小さいガキがここにいても良いと言ってくれている。


これ程嬉しいことは無かった。


ベッドに戻って誰にも聞かれないように夜通し泣いた。


涙が自分から出てくる日が来るなんてついさっきまで思ってもいなかった。


そして俺は決意した。


この人の為に全て。俺の全存在を掛けて仕えると。


命なんて惜しくはない。


真琴様の采配次第で死んでいたし、それで当然だった。食うものも無いしどちらにしても死んでいただろう。遠くないうちに。助けて貰えなければ尽きていた命。


ならば真琴様の為に使う。それが道理。


それからひたすら刀を振った。


雨の日も、風の日も、雪の日も。


毎日欠かすこと無く。


最初は重くて持っていられなかった刀。血豆でズタズタになり、それでも毎日刀を振った。


するとある日を境に刀が自分の手足のように振れるようになった。


不思議な感覚だった。


それでも毎日、ただただ刀を振り続けた。


魔力を持たない俺が、身体強化さえ使えない俺が真琴様を守る為に出来ることはそれしか無かったからだ。


与えて頂いたベッドで目を覚まし、与えて頂いた飯を食い、与えて頂いた刀を振る。そして与えて頂いた飯を食い、与えて頂いた刀を振り、与えて頂いた飯を食い、与えて頂いたベッドで寝る。


毎日毎日。


ただただ与えて頂く毎日。


真琴様も凛も喋りかけてくれるし仲良くなれた。


二人とも友達の様に話をしてくれる。


凛に至っては俺をいつもバカにしてくる。


筋肉バカと。


その頃には俺の体は刀を振るための体へと変わっていた。


手入れを欠かさずやっていたし怠った事は一度として無かった。


それなのに、何故か刀がある日突然ポキリと折れてしまった。


真っ二つ。


「なっ?!お、折れた?!」


別段硬いものを切ったりもしていないし刃こぼれも無かった。


何故いきなり?!というか頂いた刀が折れた?!


自分の首を掻っ切って死のうかと思ったが、俺の命はすでに真琴様に預けたと考えていたしそれは出来ない。


死ねと言われれば死ぬ覚悟で折れた刀を持って真琴様の元に向かった。


「申し訳ありません!!」


「な、何だ急に……」


「また馬鹿力で扉でも壊しましたか?」


「こ、これを……」


「ありゃー…」


「折れてますね。ポッキリと。」


「……」


頭を上げることなど出来るはずもなく…真琴様の言葉を待った。


怒られるか、悲しまれるか。


「すげぇなこりゃ!」


「……え?」


「見てみろよ!これ!」


「折れてますが…何かあるんですか?」


「折れ方だよ折れ方!こうゆう武器が折れる時ってのは刃こぼれから亀裂が入って…ってのが一般的な折れ方だ。」


「手入れを怠ったってことですか?」


「普通はな。でも見てみろよ。破片を組み合わせると刃こぼれも何もない。」


「本当ですね。では何故か折れたのでしょうか?」


「こいつは俺の試作刀1号だからな。強度は普通の刀と同じ程度のはずなんだが、それじゃ足りなかったんだよ。刀が負けたんだ。」


「つまり…筋肉バカってことですね。」


「ははは!すげぇなー!こんな事あんのか!おもしれぇー!」


「お、怒らないのか?」


「なんでだ?毎日練習してたからここまで到達したんだろ?すげぇなとは思うけど怒る必要なんて無いだろ?」


「筋肉バカですし。」


「はっは!いやー!すげぇなー!


ん?となると刀が無くなっちまったよな!えーっとこいつなら…」


ガチャ


目の前に置かれたのは前に使っていた物より長めの刀。


「こいつは近々渡そうと思ってた刀だ。あれは短いからな。これが本当の長さだ。」


黒い鞘。赤いしめ縄。


「研ぎに出してさっき帰ってきたばかりだ。抜いてみろ。」


刀を手に取って鞘から抜く。


綺麗に波打つ刃文。


「どうだ?」


「恐ろしく綺麗です。」


「だろ?!なかなか良い出来だと思ってたんだよなー!今日からそいつ使え!強度は前の二倍くらいにはなってるはずだからもう折れたりしないはずだ!」


「また馬鹿力で折るかもしれないですよ?」


「そん時はまた作れば良いだろ!」


「………」


「どうした?」


「これを受け取る前に。一つだけお願いしたいことがあります。」


「改まってなんだ急に?」


「今まで沢山のものを頂いてきました。


私はその恩を少しでも…ほんのひと握りでも返したいのです。


どうか、どうか私を従者にして下さい。」


「………」


これは自分が真琴様に着いていく為に必要な事だった。


ケジメといえばわかりやすいかもしれない。


なんとなくでここにいて、なんとなくで着いていくのではなく。一人の従者として真琴様をお守りしたい。


その為に必要な事だった。


この時真琴様は俺の事を友達の様に考えていたと今では思う。


それが従者になりたいと言ってきたのだ。


真琴様の性格なら笑って友達で良いと言われていてもおかしくはなかった。


「顔を上げてくれ。」


しかし、真琴様は俺の目をじっと見て、目を瞑った。


その時は断られる覚悟もしていた。


既に凛という従者もいる。


魔力の無い者を従者にしているとなれば馬鹿にされるのは真琴様だ。


それを嫌がって断られるとしても、それは至極当然の事だ。


だが真琴様は目を開き、もう一度俺の目を見て言った。


「頼む。」


その一言だけだった。


しかしその一言が、俺の中でどれだけの意味を持っているのかを真琴様は知っていた。


俺の覚悟を笑うでもいなすでもなく。


真っ直ぐ受け止めてくれたのだ。


これ程嬉しい事は無い。


涙を流してしまったが、この時ばかりは凛も馬鹿にはしなかった。


それからは更に練習を重ねた。


それ以前よりも。


食う寝るより刀を優先させる程に。


流石の凛も心配する程。


それでも止めなかった。


魔力が無いという事が剣士にとってどれ程不利な事かを知っていたから。


そして新しい刀が体に馴染んだ頃、真琴様の先生に初めて会った。真琴様を尋ねて来てくれたのだ。


真琴様を溺愛していてかなり驚いたが俺の事を聞くとそれまでの緩んでいた顔はどこに行ったのかと思う程厳しい表情で言われた。


「貴方には魔力がありません。」


「はい。」


「剣士にとって致命的なものですね。」


「はい。」


「それでも従者をするというのですか?」


「はい。」


「……何故ですか。それだけの体があれば力仕事くらい直ぐに見つかるでしょう。


従者になり、命を掛ける世界に行けば魔法を使う剣士など数多います。むしろ身体強化さえ使えない剣士など一人もいません。


はっきり言います。死にますよ。」


「……分かっています。


ですが。私はこれ以外の道を進む事は出来ません。」


「死ぬとしてもですか?」


「はい。」


「……分かりました。そこまで言うのであれば、私が直々に貴方の腕を見ます。


もしそれで使えないと判断した場合は誰がなんと言おうと叩きだします。」


「フィルリア?!俺の従者なんだけど?」


「私にとって息子の様なものです。その友が目の前で死ぬ所など見させたくはありません。誰がなんと言おうと叩きだします。」


「分かりました。」


「おい?!」


「私が今までやってきたことが無駄では無かったと…信じます。」


「いい覚悟です。」


俺は先生に連れられて街の外に出る。


草原のど真ん中。


刀を抜いて構える。


真琴様からフィルリアさんの話はいつも聞いていた。


学校の先生であり、実力はSランクの冒険者にも引けを取らない。


そんな魔道士であるフィルリア先生が今、俺の事を品定めしようと杖を握っている。


こんな状況にありながら、すこしだけワクワクしていた。


今までひたすらに鍛えてきたこの体と技が、どこまで世の中に通じるのか。


もしかしたら全く通じないかもしれない。


一瞬でやられて気付いたら地面に突っ伏しているかもしれない。


それでも信じていた。


魔力が無くても、同じ痛みを知り、手を差し伸べてくれた真琴様を守れる力を欠片でも持っていると。


「行きます!!」


「来なさい!」


「はぁぁあああ!!!」


地面を蹴る。


真琴様の先生だ。最初から全力で行っても届くわけが無い相手。


ならば出し惜しみなど失礼以外のなにものでもない。


「速い!」


「だがあれじゃあフィルリアには追いつけない。」


フィルリアさんは土魔法で地面からいくつもの棘を出す。


もちろん当たれば怪我じゃ済まない。


「だぁぁ!!」


その数本を切り、無理矢理前進する。


何本か体を掠めるが致命傷だけ避ければそれでいい。


「ぐっ!」


フィルリアさんに斬りかかろうとするが水球が襲いかかり腹に直撃する。


いつ魔法を発動したのかさえ分からなかった。


激痛と共に後方へと吹き飛ばされる。


何度も地面を転がり全身が痛む。


「………」


俺を無言で見つめるフィルリアさん。


「まだだ。まだ。」


その場で立ち上がりもう一度向かっていく。


容赦のない魔法の嵐。


二度、三度と吹き飛ばされる。


それでも立ち上がる。


「もうやめなさい。ボロボロよ。」


「ここで…諦める訳にはいきません。絶対に…諦めません。」


「…良いわ。終わらせてあげる。来なさい。」


きっとこれが最後だ。


体力も残っていない。


次吹き飛ばされれば立ち上がる事は出来ない。


「うぉぉおおおお!!!」


痛む体を無視して全力で向かっていく。


飛んでくる魔法を切り、致命傷だけを避けて前進する。


「終わりよ。」


またしても水球が俺に向かって飛んでくる。


これを待っていた。


俺は地についている右足に全力を込める。


「なっ?!」


水球を避けてフィルリアさんの後方へと一瞬で到達する。


そしてそのまま斬りかかる。


ガキンッ


フィルリアさんの背後を完全に取った。


死角からの一撃。


それでも尚届かなかった。


俺の刀はフィルリアさんが作ったクリスタルの盾によって完全に防がれた。


フィルリアさんと真琴様のみが使えるという第四位土魔法、クリスタルシールド。


「ぐ…くっ……」


その場に膝をついてしまう。


終わった。


あと少し…だったのだろうか…


今になって考えてもそれは分からない。


最後の最後まで温存した最高スピード。


そして最高の一撃。


「………」


「はぁ…合格と言うしかないわね。」


「……え?」


耳を疑った。


負けたのに…合格?


勝てるとは思っていなかったけど…フィルリアさんが手加減してくれていたのは分かっていた。


それでも1合でさえものにできなかったのに………合格?


「な、何故ですか…?」


「元々この魔法を使う気は無かったのよ。これは反則みたいなものだしね。


最後のスピードにはついていけなかったわ。隠してたのね?」


「は、はい。奥の手は隠しておくものだと言われていましたので…」


「私の教えよ。


それに……」


フィルリアさんの目の先を見るとクリスタルシールドの上部からヒビが少しだけ入って欠けている。


「これに傷を付けたのはあなたで二人目よ。一人目は…」


「俺だ!」


真琴様は満面の笑みで俺を見ていた。


「あの子の場合は破壊されたけどね。」


ウインクしながらフィルリアさんは笑顔を見せてくれた。


「で、では!」


「えぇ。認めるわ。確かに貴方は強いわ。」


「やった…やったー!!」


「で!も!


鍛錬を怠ったら直ぐに落ちてしまうわよ?」


「はい!絶対に欠かしません!」


「よろしい!そうねぇ…じゃあ私がたまに相手しに来てあげるわ。」


「え?!」


「何よ?嫌なの?」


「そんな事はありません!よろしくお願いします!」


「はい!よく出来ましたー!」


「やったな!」


「はい!やりました!」


「最後のは凄かったなー!ビュッて行ったの!」


「ありがとうございます!


魔力は無いけど…これからもよろしくお願いします!」


「魔力?そんなもん関係ないだろ。


最後のなんて俺からしてみればありゃもう立派な魔法だぞ。


お前の剣術は魔法と同じだ!」


「?!!


あ、ありがとうございます!!」


「あの時そう言われた事は今でも俺の心の支えなんだよ。


っと、そんな話じゃなかったな。つまり、普通の強度の刀じゃ折れちまうんだよ。


でもこいつなら。」


「なるほどなー。折れないって事か。つまり本気で戦えるってことか。」


「そゆこと。ありがとな!……ってえぇ?!」


「何が……ええぇ?!」


「「ぶぇーーーん!!」」


「ジルとガリタめっさ泣いてるけど…どした?」


「ばっべべんがーー!!ぶぇーーーん!!」


「さっきの話で感動したみたいです。」


「お、おう…なんか…すまんな。」


「ぶぇーーーん!!」


しばらく二人が泣き続け凛があやすという不思議な光景を見ていた。


「ぐすっ……」


「お、落ち着いたか?」


「うん…」


「それにしても身体強化無しで他と変わらないって化け物クラスだよな。」


「私じゃ考えられないな…今まで普通に健も使ってると思ってたし…」


「なんか…いけるもんだな!」


「筋肉バカですしね。」


「そうそう、この筋肉がっておい!」


「でもそれなら俺とか凛が健に身体強化掛けてやったらいいんじゃないのか?魔道具とかエンチャントもあるし。」


「あー、それ昔やった事があったんだけどな…」


「筋肉バカ過ぎて大変な事になったので必要な時以外は禁止にしたんですよ。」


「何があったんだ?」


「まぁ、その…踏み込んだ時に地面の岩盤踏み抜いてな…」


「うぇ?!」


「地面がめくれあがって直すのに一日掛かりました。」


「す、すげぇな…」


「フィルリアさんにその後一日攻め立てられたぜ…あっちの方が怖かった…」


「自業自得ですし。」


「やろうって言い出したのは真琴様だぞ?!なんで真琴様はお咎めなしなんだ?!」


「なんでって。真琴様ですし。」


「納得。っておい!」


「なんか目が気持ち悪いからですかね。というか生理的に受け付け無いです。」


「女性に言われたくない言葉ナンバーワン来ましたよ?!そこまで言われるの俺は?!


くそ…俺は何故こんなにも…」


「まぁいいじゃないですか。貴方には刀がありますし。」


「そうだな。俺にはこいつがいるからな。って凛が言うのか?!お前の言葉に傷付いてるんですけど?!」


「傷付いたんですか?良かったです。」


「もうやめて!俺の心は既に死にかけている!」


「トドメをしっかりささないとですね。」


「くそー!凛は真琴様以外にももっと優しく有るべきだー!」


「してますよ?健以外には。」


「ま、まぁその辺にしとけよ。」


「はい。」


「ほんと…リンはマコトの言う事はだけは聞くのね…」


「真琴様以外の男の言葉には意味がありませんので。」


「徹底してるなー。」


「さてと、そろそろ行きますか。」


既に目に入っているドルコト山。


あと一時間も馬車を走らせれば麓に着くだろう。


馬車を走らせると少しずつ大きくなっていくドルコト山。


所々から煙が上がり、どことなく暑くなってきた。


卵の腐った様な臭いがし始める前に馬車を繋ぎ、歩いて麓に向かう。


ガスを吸わないようにマスクをしっかりと付ける。


草原だった風景が草一本生えないゴツゴツした岩場へと変わっていく。


「以前よりもガスが濃くなってるな。」


「ジルと来た時はこれ程じゃ無かったよね。」


「あぁ。」


「こんな危険なところで鉱石を掘り出してたりするのか?武器屋のおっちゃんはここからの鉱石が途絶えたとか言ってたけど。」


「この辺りで鉱石を取れるのはドルコト山だけだからな。危険でもここで取るしか無いんだよ。」


「この奥にももう1つ山があるんだろ?」


「そこは既にエルフの領土だからな。下手に入ったりしたら大変な事になる。」


「なるほど…」


「っても鉱石が届かないってのは変な話だな。」


「言ってもまだ途絶えて二、三日間だし遅れているだけだろうって話だけどな。」


「採掘場には専属の護衛もいるしな。ま、行ってみたら今から持っていくところでしたーって事もよくある話だしな。」


「まぁ取れる量もその時その時で違うし仕方ない事だわな。


そっちは後にして取り敢えずホーリン草だよな。って…こんな所に本当に生えてるのか?草一本生えてないが…」


「見つかったのは中腹東側の崖らしいけど…」


「ってことはあっちに向かっていくわけか。」


「いや、話によると一度上まで登って降りていかないと辿り着けないらしいぞ。」


「げ、マジか…」


「そんなに高い山でも無いしさっさと行けばすぐ辿り着くよ。」


「だな…愚痴ってても仕方ない。行くか!」


ゴツゴツした岩肌に足をかけて登っていく。


採掘場があるのか途中までは杭が打たれそれなりに慣らされた山肌になっていてずんずん進めた。


採掘場は中腹付近にあり、西に向かって少し歩くらしくそこからは完全に自然のままの山肌を登っていくことになった。


「ここを登っていくのか…」


「身体強化使えば楽勝だろ?」


「こう…日本での事を考えると見ただけで気分がげんなりしてくるんだよ。」


「ま、気持は分からんでもないけどな。それより……」


「あぁ。おかしいな。」


「何がだ?」


「以前ここに来た時、確かにこの山道にはモンスターはあまり寄ってこなかったが、それでも2、3度は戦闘した。それなのに今回は戦闘どころか姿や気配さえ感じない。」


「先にここを通った人が倒してくれたんですかね?」


「その可能性もあるが…ここから先に人が向かったとは考えにくいし恐らくモンスターも出てくるだろう。ここまでのようにはいかないから気をつけて登っていこう。」


「分かった。」


道無き道を進み始めてすぐ、ジルの言っていたことが現実となった。


岩影に隠れるようにしてモンスターの気配がする。


「あれは?」


岩影に隠れているのは赤い体毛で丸い尻尾を持った狐。


「あれはファイヤーフォックス。臆病な奴らだから手を出さない限り向こうから何かしてくることは無いぞ。」


「確かに遠巻きに見ているけど襲っては来ないな。」


「一応ランクDのモンスターだから下手に手を出すなよ。


危険と見るや群れで火球を吐いてくるからな。」


「分かってるさ。」


更に進んでいくと周りにちょこちょこしていたファイヤーフォックスが急に居なくなる。


「おっと……あいつだ。」


ジルが指をさした先にはフレイムタートルがいる。


「出来れば避けて通りたいが…それは難しそうだな。」


進む先を見るとそこ以外は切り立っていて通るには厳しそうだ。


「いいか。フレイムタートルは防御力が異常に高い。私の攻撃じゃあいくら叩いても切っても倒せない。」


「どうすりゃいいんだ?」


「俺なら切れるとは思うが…近付くには一人じゃ無理だな。」


「常に炎で体を守ってるようなもんだし適当に行ったら燃やされちまう。」


「私のウォーターショットで弱らせられますか?」


「第一位の魔法じゃ弱すぎるな。失敗したら自爆攻撃でこっちが危険になる。」


「ではウォーターバルーンで捕らえてしまえば大丈夫ですか?」


「それでいってみよう。」


「では行きますよ。ウォーターバルーン!」


フレイムタートルの周りに出現した水がフレイムタートルを閉じ込める。


水球の中で蒸発した水がブクブクと泡になっている。


「長くはもちません!」


それを見て水分が無くなればフレイムタートルが出てきてしまうと察知した凛が叫ぶ。


ジルが飛び出すよりも速く健が一足飛びでフレイムタートルの元まで行く。


「速っ!!」


ザンッ


水球ごとフレイムタートルを綺麗に真っ二つにする。


「真っ二つかよ…


本当に本気を出せていなかったんだな…」


「だな。」


「危ない!!」


凛の叫び声に反応して健が飛び退く。


ドガーンという爆発音がした思ったらすぐ近くの岩場が爆発する。


「ちっ!もう一匹いたのか!」


「もう一度捕まえます!ウォーターバルーン!」


カメと言われるとノロノロと動くイメージが強いが、このフレイムタートル。わりとすばしっこい。


自分の下に小さな爆発を起こしてその爆風でぴょんぴょんと移動するのだ。


「くっ…」


凛のウォーターバルーンは捕まえてしまえば確かに強いが、速い敵だと発動から完成までに時間の掛かるウォーターバルーンは相性が良くない。


「捕まえられません!」


「はっ!」


俺は杖を勢い良く振る。


ズバッとフレイムタートルが縦に真っ二つ。


「え?」


「おぉ。上手くいった。」


「な、何したの?」


「え?いや、火属性じゃ戦えないから風魔法使ったんだよ。」


「風魔法?!」


「あ、そう言えば普通はあまり使えないんだっけ?」


「なんでマコトはいつもそんななんだ?」


「そんなってなんだよ。」


「異常。」


「異常?!なんという悲しい言葉…」


「真琴様は異常ではありません!世の中が異常なんです!」


「おいおい。この子世界を敵に回したぞ。


ってもいきなり風魔法使うとか聞いてないんだが?」


「俺も実戦では初めて使ったからな。」


「ぶっつけ本番かよ…」


「なんでもやってみないと分からないだろ?」


「言いたいことは分かるが…まぁいい。いまのはなんて魔法なんだ?」


「なんだ?」


「自分で分かっていないのは相変わらずなのか…」


「今のはウィンドカッターですね。第一位の風魔法ですよ。」


「そうなのか。だそうだ。」


「聞いてたわ!そのウィンドカッターってのは本来もっと威力少ないんだよな?


あの防御力自慢のフレイムタートルを真っ二つに出来るのはマコトだからだよな?」


「そうですね。普通は無理ですね。」


「やはり異常だったか。」


「異常言うな!」


「では、マコトだから仕方ない。か?」


「同じに聞こえてしまうのは何故なんだ……」


「それよりおかしいな…」


「おかしくない!!」


「いや、違う違う。そのフレイムタートルだよ。」


「??」


「フレイムタートルは群れることは無いしそれぞれの縄張りがあるんだ。」


「それが?」


「こんなにも近くに違うフレイムタートルが居るなんてことは今まで一度だって無かったんだが…」


「採掘場付近にモンスターがいなかった事と何か関係があるのか?」


「どうかな。無いと願いたいけどな。」


ジルの顔が少し険しくなった。


もし関係があるとしたらこんな事になる理由が一つ思い当たる。


もしこの考えが当たっていれば…採掘場は…


不吉な考えを頭を振って追い出して山を登っていく。


山頂に辿り着き、東側の崖の方へと降りていく。


「ホーリン草ってのはどんな形なんだ?」


「日本で言う楓のような葉っぱを持った背の低い草ですね。楓よりも少し小さいですね。」


「へぇ。凛は見た事あるのか?」


「昔真琴様が色々とお作りになる際に買ってきた物の中にありましたので覚えています。」


「俺そんなもんまで買ってたのか…」


「それより…崖まで来たけど……何も無いよな?」


健が言うように周りには特に何も見当たらない。


「ここじゃないのか?」


「いや、東側の崖ってなるとここしか無いんだが…」


「あっ!ありましたよ!」


ガリタが叫ぶ。


近付いてみるとガリタが見ているのは崖の下。


同じように覗き込んで見ると崖の中腹辺りに少しだけ出っ張り出した部分があり、そこに生えているホーリン草が確かに見える。


しかし……


「あれ取りに行くのか…?」


「私の木魔法なら下まで降ろすことは出来ますが…」


「俺が行くよ。」


「いや、健はここにいてくれ。俺が行く。」


「それは駄目です!!」


「なんでだ?」


「当然です。」


「当然だな。俺も同じ意見だな。」


「んな事言っても現状を考えるとそれ以外の選択は無いだろ。」


「なんでだ?」


「現状単独で行ってもなんとかなる可能性があるのは俺か健。フレイムタートルなんかが襲ってきたら他の三人には対処出来ないだろ?


それに足場の悪い場所だし下手には動けない。となれば動かずに攻撃できる俺が行くしかないだろ。」


「あんな崖で襲われる事など…!」


「無いとは言えないだろ。それにもし本当に襲われる事が無いならここにいるより降りた方が安全って事になるぞ。」


「うっ…」


「ホーリン草を取って戻るだけだ。そんなに大した事はしないんだから大丈夫だって。」


「……分かりました。気をつけてくださいよ!?」


「分かってるって。」


俺は凛が魔法を使い生成した木にしがみついて崖を降りていく。


にしても何故敢えてここに咲いているのかと聞きたくなる。


ガスが届かない場所という事なのだろうが、別に活火山に生える必要は無いと思うんだが…


そんな事を思いながら下まで降りる。


上から見ていたよりも崖側に抉れていてそれなりにスペースがあった。


そこに生えている数としては30本程。丁寧に採取して全て異空間に収納する。


「よーし。終わったぞー。」


「わかりましたー!」


上から凛の声が聞こえると壁沿いに木がジュルジュルと伸びてくる。


それを足場に上まで登って行く。


ゴウッ


突然どこかから炎が飛んでくる。


「真琴様!!!」


俺が手を伸ばしていた先にある凛が作っていた木に当たり俺の体重は上ではなく下へと引き戻される。


「うわっ!」


なんとかホーリン草の生えていた位置に落下して難を逃れたが、一体何が…?


「真琴様!ご無事ですか?!真琴様様ぁ!!」


「大丈夫だ!怪我もない!」


「よ、良かったぁ…」


「こいつは…ちょっと厄介だな…」


「何があった?!」


「盗賊です。」


「は?!」


俺からは見えないが、どうやら盗賊に襲われたらしい。


まぁ狙いはホーリン草だろう。


あわよくば俺を下まで落として死体から回収しようとしたのだろうが、それが出来なくて健達を襲ったのだろう。


「凛!」


「直ぐに!!」


もう一度降りてきた木に捕まるとほとんど無理矢理引っ張りあげられる。


どうやらジルが手伝って引っ張ってくれた様だ。


さっきは俺が狙われたのに何故無事に上がってこれたかと思ったら、健を見て直ぐにわかった。


異常な殺気。


漫画やアニメの世界でしか無いと思っていたが、人は殺気で動けなくなると初めて知った。


なんとか足止めをしてくれていたらしい。


とはいえわざわざBランクの依頼を受けた冒険者を襲うのだ。それなりに腕に自身のある連中の集まりだ。


俺が上がりきる頃には平静を取り戻していた。


「なかなか面白い事してくれんじゃねぇか。」


「久しぶりに良い気分だぜぇー!」


「あひゃひゃひゃひゃ!!!」


狂ってるように見えるが、間違いなく狂っている。


手にはロングソードや曲剣。杖や盾を持っている。


盗賊にはどう見ても似つかわしく無い装備。どこかの冒険者の持ち物の様だ。


襲って奪い取ったのか。


「まぁなんだ。取ったホーリン草と女を置いていけば見逃してやるよ。」


「あひゃひゃひゃひゃ!!!」


ま、見逃す気なんて無いだろうな。


目がそう言っている。


「……何をしたか…分かっているのか…?」


今まで一度だって聞いたことの無い健の声が響く。


響くと言っても大声じゃない。


低く普通なら掻き消される様な声なのに、何故か耳にしっかりと届く。


「何って…なんだ?」


「俺が知るかよ。まぁなんでもいいだろ?」


「それもそうか。」


「……お前達がした事がどれ程罪深い事なのか教えてやるよ。」


健が刀を抜いて構える。


「健。私の分までしっかりと教えてあげなさいよ。」


「分かってる。」


いつもは正面に構えている健がすっと腰を落とす。


異常な程に低く構える健。


刀に至っては地面スレスレだ。


「なんだありゃ?」


「あんなんで戦う気かよ!」


「押し潰して終わりだろ!」


「おらおら!行くぞー!あはははは……」


健を嘲笑う様にロングソードを掲げた男の笑顔が恐怖へと変わっていく。


「あれ…?……あぁぁぁあああ!!!」


掲げたはずの腕が、肘から先に掛けて最初から無かったかの様に綺麗に無くなっている。


今さっきまで目の前にいたはずの健がいつの間にか集団の右側にいる。


「な、なんだあれは…速すぎる…」


ジルが驚くのも無理はない。


それ程までに速いのだ。


まるで目で追えない速度。


瞬間移動したと言われても信じるレベルだ。


これで身体強化を使っていないとなると、いよいよ人間か怪しくなってくる。


「ぎゃぁああああ!!!」


腕を無くして騒いでいた男は更に自分に起きた変化に叫び声を上げている。


膝から下も切り離されたからだ。


「う、嘘だろ…」


「ぎゃぁあ!た、助けてくれ!たすけ…」


額に刺さった刃先が男の言葉を中断させる。


「な、なんだこいつは!?殺れ!殺れぇ!」


リーダーらしき男が声を張ると全員が武器を構えて健に向かっていく。


血走った目、ボサボサの頭。


そんな奴らが一斉に襲い掛かる。


「死ねやぁぁ!!」


ほとんど同時に健がいる場所に突き刺さる武器。


魔法も飛んできていた。


だが、そんな事はまるで意味を持たなかった。


見えないのだ。健が移動した事も、刀を振ったことも。


わけも分からず斬りかかった全員の手足が吹き飛ぶ。


叫び声と血飛沫が飛び交いガリタは真っ青になっている。


「な、なんなんだお前は…」


「……」


手足を失った男達はなんとか逃げようと無い手足を必死に動かしている。


「無駄ですよ?」


まるで汚物を見るような目で凛がその男達を見下ろしている。


「ひ、ひぃーー!!」


「貴方達は何があろうとも絶対にやってはいけないことをしたのです。


いけないことをしたのならば罰を受けるべきでしょう?」


そう言うと凛が杖を振る。


「や、やめて…やめてくれぁぁあ……」


男達の顔面を大きな岩が潰す。


酷い行いに見えるかもしれないが、長く苦しませないようにという慈悲なのかもしれない。


残るのはリーダーらしき男と魔道士が2人、そして自分の背丈程のラージシールドを持った男が3人だ。


魔道士達は既に戦意を失ったらしく腕を上げることは無かった。


ラージシールドを持った男達は健に向けて盾を構えている。


健は低く構えていたのを止めてすっと直立姿勢に戻る。


「…はは!この盾は破れまい!」


健は何も言わずに盾の前まで移動する。


そして盾に向けて刀を突き立てる。


「はっ!バカが!鉄の盾を敗れるわけがないだろうが!」


健はそのまますっと刀を押す。


ドスッ


「え?」


そりゃそうだ。


鍛錬を加えていない鉄のシールドに対してこちらは鍛錬に加えてミスリルまで使っている。


強度の差は歴然。


粘土を切るようなものだ。


「ごふっ……」


口から血を吐いて自分の胸に刺さっている刀を見ている男。


健はそのまま刀を下へと勢い良く移動させる。


胸から下半身に掛けて切り開かれた男は膝をつき、自分の体から流れ出る色々な物を抑えながら前のめりに倒れた。


「な、なんだそれは…なんなんだお前は!」


「ば、ば、化け物ーーー!!」


対抗手段が一切無くなった盗賊に出来ることは逃げる事だけだ。


盾を放り出して、杖を投げ捨てて走り出す。


「それはお前。ダメだろ。」


逃げ切れるはずが無い。


他と同じように両手両足を斬られ、凛に顔を潰される。


「さて。残るはお前だけか。」


リーダーらしき男の顔を見るが最早余裕なんてものは欠片もない。


「た、助けてくれ!欲しものがあればなんでもやる!」


「盗賊であるお前がか?」


「あぁそうだ!これでも名の知れた盗賊なんだ!頼むよ!」


「お前が俺達に与えられるものは常に誰かから奪い取った物だろ。」


「心を入れ替える!約束する!これからは奪い取っりしないと約束する!」


「いや、もういいんだ。そんな事じゃあ無いんだよ。さっきも言っただろ?やってはいけないことをやったんだよ。」


「一体俺達が何をしたってんだよ!」


「分からないのならば、そのまま逝け。」


「くそ…くそがぁーー!!!」


隠し持っていたのかどこかからか曲剣を取り出して斬りかかる。


当然だが、他の男達と同じように腕と足が無くなる。


「うぎゃぁぁぁあああ!!」


「あぁ、そうだな。一つだけ貰える物があったか。」


「ぎゃぁあ!」


「さ、代償を払って貰おうか。命でな。」


ぐちゃっ。


綺麗に潰された顔は、恐怖に引き攣った顔だった。


ゴブリン達との一戦である程度耐性が付いたのか、それとも元々そういう人間なのか分からないが、それ程気分は悪くならなかった。


逆にガリタはダメだったらしく最後の方はジルの後ろに隠れていた。


「すまない…」


自分が我を失っていた事に気付いてジルとガリタに謝る。


凛も申し訳なさそうに頭を下げる。


「ビックリはしたけど気にするなよ。相手は盗賊。それにマコトになにかあればこうなることは声を掛けた時に知ってたしな。」


「その…私は血があまり得意ではないので…」


「まぁ気にするなよ。それよりホーリン草は確保出来たのか?」


「あぁ。全部回収してきた。」


「よっしゃ!こりゃ追加報酬も期待出来るなー!」


「追加報酬?」


「そもそもホーリン草は採取して持っていこうとすると何かに入れるだろ?」


「まぁ手で抱えていくなんて事はしないだろうな。」


「そうなるとどうしても状態が悪くなるんだ。潰れたり折れたり。沢山摘んでも最終的に使えるのは2、3本なんだよ。」


「マジかよ。」


「だから異空間収納すると全部使える可能性が高いんだ。マコトの異空間収納は時間も止まってるんだっけか?」


「あぁ。熱いものをいれたら熱いままで出せるからな。」


「そんな異空間収納聞いた事は無いが…本当なら摘んだそのままを手渡し出来るってことになるだろ?


ギルド側も2、3本だと思ってるから追加報酬が期待出来るってわけだな。」


「そいつはラッキーだな。」


「ラッキーなのは私達の方だけどな。」


「そんな異空間収納の魔法を使えるのは真琴様くらいですからね。」


「え?!そうなのか?!」


「私の異空間収納も時間は止まらないので。」


「……なんで?」


「分かりません…同じように作っているはずなんですが…」


「こらこら。研究は後にしてくれよ。ココは危険地帯って事忘れてないか?」


「す、すまない。」


「ほら、行くぞー!」


ジルに怒られてしまったが来た道を戻っていく。


フレイムタートルが何度か出て来たがジルとガリタも上手く牽制したりして難なく戻ってこられた。


「やっと戻ってこられたな。雑でも道があるって良い事だな。」


「そんで、ペングタイトだったか?」


「あぁ。この先の採掘場で採れるって話だったな。」


「……やっぱりおかしいよな?」


「だな。人の気配が一切しないし…とりあえず行ってみよう。」


疑問を抱いたまま採掘場の方へと足を運ぶ。


採掘場まではそれ程遠くはなく、直ぐに近くまで来る事が出来た。


広くなったスペースがあり、台車の様な物が置いてある。


しかしその幾つかは壊れていて潰されたようにバラバラになっている。


何より気になる事は…


「ここにも人がいないとなると…いよいよ危険な感じがしてきたな。」


本来であれば採掘場の人間が出入りしているはず。


しかしだれも見当たらない。


そっとその広場へと足を踏み入れてみる。


「こ、これは……」


入口に作られている木の枠組みが崩れ、その脇にはいくつか死体が転がっていた。


何か大きな物に潰されたかの様に関節があちこちに曲がりガリタには刺激が強すぎる死体だ。


中には丸焦げになっている死体もある。


「ここの護衛任務に着いていた兵士だな。」


「兵士って言うとジゼトルスのか?」


「あぁ。この採掘場は国にとってかなり重要な施設だからな。兵士達が護衛に着いて守ってるんだが…」


「かなり激しく戦った痕跡が残ってるな。」


「モンスターも多いし危険地帯だからそれなりに腕の立つ人間が任務にあたってたはずなんだがな…」


「真琴様。これを見て下さい。」


「これは…何かが這った後か?」


「だと思います。」


「間違いなくレッドスネークだな。」


「この中に居るってことか?」


「習性は蛇と変わらないからな。ジメジメして暗い場所を好むんだ。ここはうってつけだろ?」


「となると、ペングタイトは今回お預けだな。


戻ってレッドスネークの事を伝えよう。」


「そうだな。無理する必用は無いからな。」


俺達だけでやる必要は無いし討伐に参加したいならば依頼として引き受けるべきだと考えて振り返る。


「おっと……こりゃやべぇんじゃねぇか?」


「ファイヤーリザード?!」


「しかもこいつら…群れてるぞ?」


「レッドスネークが出てきた事で身を守る為に群れたんだ…」


ゾロゾロと岩陰から現れるファイヤーリザード。


チロチロと下を出してこちらを見ている。


何匹いるか分からない程にいるが、そのうちの数体が口から炎を吐こうと準備している。


「嘘だろおい!」


発射された炎の塊が一気に襲い掛かる。


防御魔法を咄嗟に展開する。


爆発音と炎上により辺りが一瞬明るくなる。


三人の防御魔法でなんとか防げた。


が…


「崩れる!!」


既に枠組みが崩れていた入口が爆風に耐えきれず崩壊する。


全員ダッシュで採掘場の中へと向かう。


轟音とガラガラという岩が洞窟内に響きわたり静かになった時には完全に出口は塞がれていた。


「あ、危ねぇ……」


「全員無事か?!」


「怪我は無いですけど…」


「出られなくなったな。」


「魔法で吹き飛ばせないですかね?」


「入口の支えが無い状態だからな。下手に岩をどかして更に崩れたら今度こそ埋まる。下手に触るわけにはいかないだろうな。」


「出口が無理となると…」


奥に繋がる暗く深い穴を見つめる。


「まさかこんな事になるなんてな…」


「この先には間違いなくレッドスネークがいるぞ?」


「とはいえここにいてもそのうち追い詰められるだろ。こんな狭い通路で出会えば逃げ場もないし不利な戦いになる。


それならいっそ奥まで行ってみたらどうだ?


採掘場なら奥は広くなってるんだろ?」


「広くはなってるが…出られなきゃ意味が無いだろ。」


「いや、さっきから見てるが、このレッドスネークが這いずった後。奥まで続いてるが、その下に外に向かってる跡があるんだ。」


「だからなんだ?」


「つまり先に中から外へと向かって、戻って行ったって事だ。」


「は?中に最初からいたのか?意味が分からないが…」


「これは憶測だが、採掘している時にレッドスネークの巣をぶち壊したかなんかで採掘場の中に現れたんじゃないかな。」


「壁を壊したらレッドスネークが出て来た!みたいな感じか?」


「そ。この予想が当たっていればそのレッドスネークの元巣から外に出られるんじゃないか?」


「そうですね。可能性は十分あるかと思います。」


「レッドスネークをここのモンスター達は避けているみたいだしわざわざレッドスネークの巣の近くには寄ってこないだろ。」


「つまり、どちらにしても奥に進むしか道は無いと言うことですね。」


「そう言うことになるな。」


「Bランクのモンスターとこんな採掘場内で戦うことになるなんて…」


「作戦はどうする?」


「レッドスネークは取り敢えず硬いらしい。


私や健の攻撃が通るかは分からない。通らないものとして考えた方が良いかもしれない。」


「そうなると有効打を打てるのは俺と凛とガリタになるって事か。」


「貫通力の高い魔法ですか?」


「オーガと同じ様に目や口なんかの弱い部分を狙っていくしかないな。そうなるとどの位置にでも攻撃の起点を作り出せる技が一番効果的だと思う。」


「レッドスネークの頭が上にあると何も出来ないからですね。」


「健とジルは相手を牽制しつつ狙えそうなら攻撃を狙って欲しいが、無理そうなら何より攻撃を受けないように気をつけてくれ。」


「分かった。回復薬があるって言っても限界あるしな。」


「炎の攻撃は避けられると一番良いんだが、無理なら俺達が防御魔法を展開する。」


「後は実際にやってみなきゃ分からんか…」


「とにかく攻撃を貰わないように気をつけよう。」


通路は暗くジメジメしていて実に不安を煽る状況。


ガリタは杖をずっと胸の前に持ってキョロキョロしている。


怖いのは当たり前だ。


自分達だけで相手に出来るか分からないモンスターの元へ向かっているのだ。


ゲームの様に生き返るわけでも無く、死ぬ時はなんの情緒もなく死ぬ。


それこそさっき殺した盗賊たちよりあっさりと死ぬだろう。


静かに、なるべく音を立てないように進んでいくと、薄明かりが見えてくる。


どうやら作業場の明かりは未だ生きているらしい。


とはいえかなりか細い明かりだ。中を覗いてみるとそこにいた。


赤い、と言うよりは赤黒い体表の恐ろしく大きな蛇だ。


直径50メートルはある広い空間の中央で戸愚呂を巻いて眠っている様に見える。


ここで見ていても仕方がないと健がレッドスネークに静かに近寄る。


するとまるで知っていたぞと言わんばかりに首を擡げてこちらを見る。


チラチラと舌を出し入れしている様は良い餌が来たと言っているように見える。


バンッ


健が突然後に飛び退いたと思ったらレッドスネークの尻尾が健のいた場所を打つ。


相当速い。


「ジル!!」


「分かってる!!」


2人が左右に別れてレッドスネークの気を逸らす。


戸愚呂を巻いていたレッドスネークは体を伸ばし戦闘態勢に入った。


左右からチクチクとされて嫌がってはいるがダメージは一切入っていない様だ。


尻尾でジルを攻撃すると同時に健を食おうと噛み付く。


バクンッという音が響く度に血の気が引く。


火の玉を吐き、地面や壁が黒焦げになる。


俺達の役割はレッドスネークにダメージを与えること。


出来ることならば致命的な。


下手に小さなダメージを与えてしまうと健とジルを無視してこちらが狙われてしまう。


そうなればこちらに勝ち目は無くなってしまう。


凛もガリタもそれは分かっているからこそ、健とジルがレッドスネークの攻撃を全て引き受けてくれていても未だ一度も魔法を使っていないのだ。


俺を含めて焦る気持ちはある。


自分達の目の前で今にも潰されそうな仲間がいるのだ。


とにかく一度撃ってみよう。いや、ダメだ。でもこのままでは!そんな事をしたらチャンスを作ることすら出来なくなる。


自分の中でひたすらにせめぎ合う気持ちをなんとか抑えてチャンスを待っている。


レッドスネークの尻尾が勢い良く地面を打つ。


その時に爆ぜた地面から飛び出した石礫が不運にもジルの額に当たってしまう。


「うっ!」


「ジルっ!!」


「やめろ!!ガリタ!!まだダメだ!!」


ジルを助けようとしたガリタに向かって、額から血を流しているジルが叫ぶ。


ポタポタと顎まで滴った血は行き場を失って地面に落ちる。


額に傷を受けるとダメージは少なくても血は派手に出てくる。


ジルの左目は血に濡れ開く事は出来ない。


回復薬を使う隙があればいいのだが、そんな事させないとレッドスネークの尻尾が追撃を仕掛けてくる。


片目で応戦してはいるが、一気に動きが悪くなり、完全に回避できない事が増えてきている。


疲労もあるだろう。自分を一撃で殺すことの出来る相手と戦闘しているのだ。それだけでもかなりのストレスだと思う。


「こっちだおらぁ!!」


健がレッドスネークを威嚇して少しでも自分に注意を向けようと斬りつける。


そのうちの一刀が運良くレッドスネークの舌に当たったらしく、叫び声をあげて健への攻撃が激化する。


ジルへの注意は確かに逸れたが…


それでも健は実に巧みに攻撃を躱し続けている。


残念ながらレッドスネークも馬鹿では無いので弱点への攻撃は全く通っていないが。


「真琴様!」


「まだだ。まだ待て。」


「くっ……」


辛抱強く見守っていると、健が遂にそのときを作ってくれた。


あまりにも目の前でうろちょろされて業を煮やしたレッドスネークが、健に向かって直線的に大口を開いて噛みつきに掛かる。


「ここだ!!!」


凛は木、ガリタは石の杭を、俺は風魔法でその2本の杭にまとわりつかせるようにカマイタチの様な魔法を展開する。


健の目の前に生成された魔法を見るや健はその場から離脱。


レッドスネークも気づいたが、せっかくのチャンスを無駄にするわけが無い。


レッドスネークの反応よりも早くその杭を口の中にぶち込む。


口内から体内に掛けて風魔法がズタズタに切り裂いていき、杭がレッドスネークの体内から突き出す。


また落盤事故でも起きるんじゃないかと心配になるような叫び声と共にレッドスネークの巨体が地面に横たわる。


「や、やった……?」


「はぁ…はぁ……あぁ…やったな…」


「し、死ぬかと思ったぁーー…」


「ジル!!」


ジルと健はその場に腰を落として肩を上下させて息をしている。


ガリタは回復薬を手にジルの元に走っていく。


健は身体強化が無い分息切れは酷かったが、まぁ助かったのだから良しとしよう。


ガリタがジルの額に回復薬をかけると見る見るうちに傷が塞がり何も無かったかのように完治していた。


傷跡も残っていなくてよかった。


「良かった…」


「すまねぇな。さっきは大声出して。」


「ううん。ジルが止めてくれなきゃ、きっとこんなに上手くいかなかったよ。ありがとう。」


「それにしてもこのデカ物。硬かったなー…この鱗斬っても斬っても傷すらつかねぇ。真琴様の刀だぞ?どんだけ硬いんだよ。」


「この鱗はそれだけでもかなり良い素材になるし、牙やその他諸々も全て使えるんだが…」


「うぉ?!消えた?!」


「あ、出来た。」


「な、何したんですか?真琴様…」


「え?いやー…死体なら収納出来るのかなーって思って…」


「で、出来たのですね…?」


「まぁね…」


「………あははははは!!マコトはほんと…くくっ!」


「なんだよ…?」


「いや、ほんと規格外も良いとこって思ってな!あははははは!!」


「笑い過ぎだろ。」


「素材とかはどうしますか?」


「まぁ帰りでも剥ぎ取って等分すればいいんじゃないか?売りたい奴は売れば良いし。」


「私達は任せるよ。」


「じゃあそうしよう。っと…そういやペングタイトってのはどこなんだ?」


「鉱石なんだろ?掘ってたらそのうち出て来るだろ。」


「真琴様!」


「ん?どうした、凛?」


「これ見てください!」


凛の方へと向かうと作業場の一部の壁が崩れて大きな穴が出来ていた。


その中を覗くと、壁中にビッシリと緑色の鉱石が並んでいる。


暗闇でも微かに光を放っているのか、仄かに明るい。


「すげぇなこりゃ…これがペングタイトか?」


「みたいですね。」


「ラッキーだったな。ここから持っていけば十分足りるだろ。」


「勝手に持って行って良いものなのか?」


「ここを守ったんだぞ?これくらい国も許してくれるだろ。」


「悪い奴ら。」


「なんだよ。いちいちお伺い立てろって言うのか?」


「いいのかなー?」


「武器屋に持ってけば強化のエンチャントしてくれるって言ってるのに。」


「これだけあれば良いか?!足りない?!もっとか!!」


「変わり身早すぎるだろ。」


結局目につくペングタイトは全部収穫した。


綺麗に全てね。


「結局ここがレッドスネークの住処だったんだな。」


「そこに運悪く貫通して中の人達が全滅後外にいる連中も突然中から現れたレッドスネークに殺られた。


モンスターもレッドスネークの住処が貫通して今までと全く違う場所に現れる様になったから、てんやわんやだったってことか。」


「ファイヤーリザードも単純にレッドスネークから自分達の身を守るためにあんなにまとまってたんだな。」


「あいつら次会ったら許さん!」


「会う会わないより今は早く帰ろうぜ…。」


「あはは!だな!」


結局レッドスネークの住処は山の裏側に繋がっていた。


迂回して馬車に戻るとやっとマスクをとる。


「ぷはー!!やっと外せたー!」


「空気が美味いってこういうことをいうんだなぁー!!」


「作業場の人達はよくこのマスクを着けて作業出来ますね…」


「それが仕事ならやるだろうな。」


「俺の話じゃ無いが、この国では全員が幸せってわけじゃない。奴隷や乞食の様な奴もいれば貴族や王族の様に金が余りまくって困ってる奴らだっている。貧困の差は酷いんだ。


魔力が無くて体力しかない奴はどんな仕事だって仕事があるならやるさ。俺はただただ運が良かっただけさ。」


「そんな事は無い!」


「じ、ジル?」


「少なくとも私とガリタは健に助けられているし、それは健が今まで死ぬほど努力したからだ。それは皆に出来るわけじゃない。健だから出来たことだ。」


「お、おぅ…」


ジルは話を聞いてから健の事を剣士として尊敬しているらしく、自身を卑下した事が許せなかったらしい。


横でガリタも頷いているし、二人の合意らしい。


「ありがとな。話としてはここで働くしかない人間はここでだって働くってことを言いたかっただけだ。」


「分かってはいるが、健。自分を卑下するものでは無いぞ。」


「そうだな。すまない。」


「謝る必要は無いが、友の事を馬鹿にするのはそれが友自身でも悲しいんだよ。」


「あぁ。ありがとな。」


「ん?では凛が馬鹿にするのも悲しいのか?」


「あれは……一種の愛情表現ではないかな。」


「愛情はありませんよ。」


「はっきり言ってくれますね!?凛さん?!」


「同情です。」


「何に対して?!ねぇ?!」


「ふっ…」


「その笑い方やめてーー!!」


「来ないで下さい。気持ちが悪くなります。」


「リンは本当に健に厳しいなぁ…


まぁ同じ従者という立場だし私たちより健の事を知っているからな。私達にはそれを否定する権利は無いと思うんだ。」


「丁寧な言い回しで見捨てないでよ?!」


「ほらほら、遊んでないで帰るぞー。」


「はーい!」


Bランクモンスターであるレッドスネークをなんとか倒した俺達は帰り道で素材を剥ぎ取り、鱗、牙、肉に変身させた。


全て綺麗に等分したが、相変わらず凛と健は要らないと言って受け取らない。


俺が使った方が絶対に有用だと言って下がる気は無いらしい。


とりあえずそれは収納しておいて、ジルとガリタは肉以外は全て金に変えるらしい。


持っていても宝の持ち腐れという事だ。


とりあえずギルドに納品と状況の説明、レッドスネークの討伐報告に行く。


「あ!皆さん!おかえりなさい!」


「パルコさん。」


「無事そうで良かったです!」


「結構大変だったけどなんとかな。とりあえず納品な。えーっと、収納から出したいんだけど…」


「あ、そうですね。では一度こちらへ。」


別室に通される。パルコさんが対応してくれるらしい。


「とりあえずホーリン草だな。


えーっと、はい。こんだけあった。」


「うぇ?!こ、こんなにですか?!」


「やっぱりこんなに持って来られるのは普通はあまり無い事なのか?」


「数としてはよくありますが…どう見ても全て状態が最高です。全てがこんなに良い状態で納品される事は、少なくとも私の経験上ではありません。」


「カウンターで渡さなくて良かったかもな。」


「こちら全て納品で宜しいでしょうか?」


「あぁ。それで頼む。ただ、中級回復薬が出来た時は優先的に数本買い取らせてもらえないか?」


「私の一存では決めかねますが…ギルドマスターに相談してみますね。呼んで参りますので少々お待ち下さい。」


パルコさんが出ていって戻ってくるとギリヒが入ってくる。


「お前達は帰ってくる度に俺を呼び出して…嫌がらせでもしてるのか?」


「なんだよ。これくらいで怒ってたらギルドマスターなんて務まらないぞ?」


「言ってくれる。それで?今回は何やらかした?」


「心外だな。ホーリン草の収集に行ってきただけだ。」


「納品された物がこちらになります。」


「……マジかよ…」


「こんだけ取ってきたから中級回復薬の買い取りを優先的に回して欲しいって話だよ。」


「どれくらい必要なんだ?」


「人数分欲しいから5本だな。」


「ふむ……まぁそれくらいなら良いだろう。パルコ、優先的に買い取らせてやってくれ。」


「わかりました。」


「それで?顔を見る限りそれだけじゃないだろ?」


「まぁな。むしろこっちが本題だ。」


「何があった?」


「ドルコト山に行ったんだが、採掘場の連中は全員死んでいた。」


「なに?!」


「護衛も含めて全員だ。レッドスネークに殺られたらしい。」


「また厄介な相手が出てきたな。」


「採掘場の入口もモンスターによって落盤して完全に封鎖された状態だ。」


「となると人手がいるな…まずはレッドスネークの討伐部隊を編成して…」


「あ、レッドスネークは討伐したから作業員と護衛だけの派遣で大丈夫だと思うぞ。」


「あ、そうなのか。それなら……はぁ?!」


「び、ビックリしたー…」


「ビックリしたのはこっちだわ!!レッドスネークを討伐したのか?!」


「え?まぁ、討伐したぞ。


でも、Bランクのモンスターだし俺達のランクもBだからそれ程驚く事じゃないだろ?」


「いやいや、レッドスネークにその人数で挑む奴らがいるなんて普通は思わないからな…」


「どう言うことだ?」


「マコト。レッドスネークはBランク以上の冒険者が最低でも20人くらいで討伐する相手なんだ。その人数の冒険者が挑むという基準の元付けられたランクなんだよ。」


「ん?なんでそんなまどろっこしい付け方すんだ?」


「Bランク以上のモンスターは全て、普通は少数で倒せる相手じゃないからだよ。そんな事出来るのはSランクの冒険者くらいのものだ。」


「へぇ。知らなかった…」


「はぁ……いや、お前達に常識を求めた俺の間違いだったな。」


「仕方なかったんだって。閉じ込められてやるしかなかったんだよ。」


「こっちは死にかけたからなー。」


「無事で良かったと喜ぶべきところなんだろうな…それで討伐証明部位は?」


「ジルとガリタは素材売るみたいだしそれが証明部位で良いか?今全部出すのは無理だし。」


「ん?どう言うことだ?」


「あー、マコトはレッドスネークを一匹丸々収納してるんだ。」


「……ん?」


「何を言っているのか分からないかもしれないが、この目で見たから間違いないぞ。」


「よし。考えるのはやめておこう。レッドスネークの素材は重宝するからこちらとしてもありがたいよ。


3人は売らないのか?」


「こっちで使いたくてな。」


「残念だが…まぁ良いだろう。それよりも採掘場の事だよな。あそこは俺達の管轄じゃなくて国の管轄だからな…」


「どうするんだ?」


「そうだな…とりあえず俺から報告しておくが、詳細な情報を求められるかもしれん。」


「それは私達が行くよ。」


「ジル、ガリタ…」


「来た時から目立つの嫌がってたろ?やってる事は目立ってたが…


それくらいは私達でも出来るからな。」


「そうか。なら今から一緒についてきてくれないか?その方が早く済む。」


「分かった。」


「なら、宿にいるから戻ってきたら武器屋に行こう。」


ジルとガリタを見送った後、パルコさんと少し話してギルドを出ようと振り返る。


カラン


乾いた木が地面に転がる音がしたと思ったら突然良い香りと未だ知らぬ触感が顔を覆う。


「「フィルリアさん?!」」


抱きつかれていると分かったのは二人の声を聞いた後自分が腰を曲げている体勢という事を認識した後だった。


「戻ってきたのね…」


頭の上から聞こえてくる声は懐かしい気がした。

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