第一章 人間の国 -ジゼトルス-

「よっと…」


健が先頭に立って神殿から出ると、そこは木々が生い茂る森だった。

広葉樹のように見えるが、どこか現界とは違うらしい。

足元に咲く花や草も見たことの無いものが沢山ある。


「ここはどこなんだ…?」


「こんな木々だけでは分かりませんね…」


「んー。とりあえず道に出会えるまで進んでみるしかないか…と言っても出会えるかんからんけど。」


「これだから筋肉バカは。そんな安直に行動して遭難でもしたらどうするんですか?バカですか?」


「筋肉バカというのは甘んじて受け止めるが、バカは違うだろ。」


「いや、どっちでもいいけど…昔神殿だったならどっかに古い道でもあるんじゃないか?」


「「………」」


神殿の周りを見て回ると草が生えてしまっているもののなんとか旧道と分かるくらいの道が見つかった。


「とりあえずこいつを辿っていくか。」


「「はい…」」


元気の無くなった二人と共に森の中を進んでいく。


神殿の側にいた時は凄く神秘的で美しかった森がこうしてみると不気味に見えてくるから不思議なものだ。


現状俺が使える魔法は火属性の魔法のみ。

こんな森の中で使えば山火事になり大変な事になってしまう。

それは避けたいとなれば俺は戦力外となる。


つまり二人が頼り。


どこの森なのかは全く検討もつかないらしいが、もし強いモンスターのいる森ならば即ゲームオーバーってことも十分有り得る。

そんな事を悶々と考えていると、健が何かを見つけた。


「お、あれは街道か?」


「えーっと…そうですね。」


「これはラッキーだな。」


どうやら現在も使われている街道を見つけたらしい。

木々の間に草が一切生えていない土丸出しの道が確かにある。


「これでとりあえず街には辿り着けそうだな。」


「どっちに向かって歩きますか?」


「んー……こっちだな!」


「なんでですか?」


「なんとなく?」


「やはり筋肉バカですね。」


「何が悪いんだ?!」


「安直だといっているんですよ。もっと真剣に考えて下さい。」


「じゃあどっちだよ?!」


「そ、それは…」


「ほーら!分からねぇんじゃねぇか!」


「うるさい!」


「ふぶぉ!?」


「あー。ここになんか書いてあるぞ。」


俺が見つけたのは街道の案内看板。

木でてきた看板に彫り込まれている文字。

見たことの無い記号の様な文字なのに、何故か読める。


「えーっと…こっちがテイキビ。そっちがジゼトルスだな。」


「「………」」


「まぁ、そう落ち込むな。それよりどっちに行くんだ?」


「ジゼトルスだな。会いたい人はそこに住んでいるはずだ。今も変わりなければだが。」


「ジゼトルスは人間の国ですね。もう一つのテイキビはドワーフの国です。」


「となると…こっちか。

そういや俺は真琴って名前のままで良いのか?」


「追われる身でって事か?それなら大丈夫だ。

前の名前は捨てたからな。」


「捨てた?」


「言葉通りだ。思い出しても使えない名前ならいらないって改名したんだよ。」


「思い切ったな…」


「戻したければ思い出して安全を確保出来てから戻せば良いさ。」


「んー…真琴で慣れてるからな…」


「ま、追追考えれば良いさ。」


「分かった。」


ガラガラ


後方から音が聞こえてくる。

振り返ると馬車が来ている。


なんか物凄い勢いで。


「おーい!!そこの奴ら逃げろー!!」


馬車の轡を握る男がこちらに叫んでいる。


逃げろと言われてもな…


馬車の後ろを見ると狼の様な何かが数匹追従している。

グレーの毛並みに角が一本生えた狼。


後から聞いた話ではグレーウルフと言うモンスターらしい。


そいつら三体が馬車を襲おうとしている。


「げっ…」


「ありゃそのうち追いつかれるな。」


「助けますか?」


「そうしたいのは山々なんだが火の魔法は使えないからな。」


「グレーウルフ三体くらいならば私達だけで十分ですよ。」


そう言うと凛が杖を振る。


「ウォーターショット!!」


凛の周りに出現した水の塊が凄い勢いでグレーウルフに向かって飛んでいく。

水は早く叩きつければコンクリートと同じ硬さになると聞いた事がある。

つまり凛はコンクリートの塊を射出したと言い換えても過言では無いわけだ。

もちろんグレーウルフはこちらに向かって走ってきているわけだしめちゃくちゃ痛いくらいじゃ済まないわけだ。


ギャンギャンと鳴いて転がったところに健が素早く駆け寄って三体とも切り伏せる。


つよー。この二人つよー。


ってか逆らったら死ぬんじゃないか俺?


「た、助かったー!!」


大きく安堵した声を出しながら馬車から降りてきた男は髭を生やし、身綺麗なところを見るに商人の様だ。


「ありがとうございます!助かりました!」


「いえ。」


「冒険者の方ですか?」


「まだ違いますね。」


「というとジゼトルスに向かって冒険者になるおつもりですか?」


「はい。」


「この辺りに村は無かったと思ったのですが…どちらから?」


「遠方から来たのですが、そこの森で迷ってしまいまして。今しがたこの街道に出てこられた所なんですよ。」


「そうでしたか…それは災難でしたね。」


「まぁ旅人にはよくある話ですよ。」


「ジゼトルスに向かうのであれば乗っていかれませんか?」


「いえ、手持ちが無くて…」


「そんなものいりませんよ!命の恩人に金を催促なんてしたら後世までの恥ですからね。」


「そんなに簡単に信じてしまって良いのですか?

もし私達が盗賊だったりしたら…」


「本物の盗賊ならそんな事言いませんよ。それに、私はこれでも長く商人をしていましてね。悪い事を考えている輩なら目を見て分かります。」


「そ、そこまで仰っていただけるのであれば…よろしくお願いします。」


「はい!どうぞどうぞ!」


何やらトントン拍子で話が進んでいく。


「このグレーウルフはどうされるんですか?」


「あぁ、そうでしたね…持っていっても良いですけど…」


「出来れば私に売ってはいただけませんかね?」


「これをですか?」


「えぇ。素材も綺麗なまま討伐されていますし、それなりの値で買い上げられますよ?

それに、街に入れば色々と入用になりますでしょ?」


「さすが商人だな。」


「それが商人ですので。」


「心遣いに感謝するよ。よろしく頼む。」


「はい!ありがとうございます!」


結局買い上げて貰う事にして、その場で素材を剥ぎ取る。

毛皮はもちろん牙、爪、骨等割と隅々まで買い取ってくれた。

肉もあまり美味しくは無いが売れるらしい。


「えーっと……金貨で三枚ですね。」


「金貨三枚?!高過ぎないか?!」


「私達に気を利かせて高く付けているのであれば…」


「そんなことはありませんよ。ここまで綺麗に討伐された個体三体であれば妥当です。確かに少しだけ色は付けてありますが、それは解体の代金としてお支払いしている分とお考え下さい。」


それにしても多少高く買い取ってくれているらしいが、わざわざ気を利かせてくれたのだ。下手に断るよりここは素直に受け取っておくべきだと金貨を三枚貰った。


凛の提案で銀貨三十枚と交換する。


因みに、銀貨は元の世界での一万程度、金貨は十万程度だ。

下には大銅貨、銅貨、上には白金貨があり、それぞれ千円、百円、白金貨は百万くらいの価値になる。


つまりいきなり30万手に入れたという事だ。


買い物で金貨を使う様な奴はいないらしく大きくても銀貨までらしい。

金貨を使うと目立つので銀貨にしてもらったわけだ。

この二人なら一日でかなりの額を稼げるなぁと考えると少し恐ろしくなった。


数時間馬車で走ると木々の合間を抜け、草原が広がる。


「見晴らしもいいし気持ちいいですね!」


「この辺りからはずっと草原で気持ちいい風が吹き抜けるんですよ。森を抜けてからはすぐなのでもう着きますよ。」


商人の言ったように少しすると大きな街が見えてくる。

外壁で中は見えないが大きい事は良くわかる。

門には商人や旅人、冒険者風の人も見える。


「ここで並んで中に入るんですけど…身分証ってありますか?」


「無いですね…」


「そうですか…大丈夫です。お任せ下さい。」


俺達の番になる。


「身分証を。」


「この三人は私の連れで身分証はまだ無いんですよ。」


「それじゃあ通せないぞ。」


「そこをなんとかお願いしますよ。」


「ん?んん……」


金を握らせている。


「中に入ったらすぐに身分証を作れよ。」


「もちろんです。」


「よし。通せ。」


門番ガバガバだなぁ…おかげで助かったが…


「ありがとうございます。」


「これくらいお安い御用ですよ。」


中に入れるらしい。


門を通り中に入る。

目の前に広がる光景は実に美しかった。

石造りの街並み、所々に見える魔法の道具。

家々を見るに中世ヨーロッパ風だが…井戸があったりと科学の存在が無いことを感じる。


「私達は早速冒険者ギルドに向かいます。」


「冒険者ギルドならこの大通りを中心に向かって行けば見えてくる大きな建物ですよ。見れば分かります。」


「ありがとうございます!色々と助かりました!」


「私の方こそ命を助けて頂いたので。それでは!」


商人と別れて3人で冒険者ギルドに向かう。

大通りは出店の様なものが出ていて所々から美味そうな匂いが漂ってくる。

しかし何をするにも身分証が無ければ始まらない。

いまは我慢してギルドに直行だ。


「は、腹減ったー…」


「今は兎に角身分証の作成です。」


「分かってるけどよー…」


「はぁ…」


「お?あれじゃないか?」


「ですね。大きな建物はあれくらいですし。」


冒険者ギルドらしい建物に入る。

天井は高く広いロビー。

丸テーブルと椅子もいくつか設置してありそこには冒険者らしき人達が座っている。


ま、ガラの悪そうな人達だ。


余計な事をするつもりもされるつもりも無いのでカウンターに直行する。


「どうも。」


「はい!こちらは冒険者ギルド、ジゼトルス支部です!本日はどの様なご要件でしょうか?」


受付の女性は黒髪セミロング、クリっとした目に小さめの背丈。



「えーっと、とりあえず冒険者として活動するのは初めてでね。」


「では登録からですね。あ……えっと、私はパルコ-トークスと申します!」


「これはどうも。」


本当は最初に名乗る手順なんだろう。気付いたように挨拶してくる。


「それではこちらの用紙に必要事項の記入をお願いします。」


「分かった。」


その場で書き込もうとして一瞬手が止まる。

俺あの記号みたいな文字書けるのか?


心配は無用だった。


知らないはずなのにどこからか脳裏に文字が浮かんできてそれを書いていく。


「えーっと…ま、こ、と?マコト様ですね。」


そうか。名前が前に来るからそっちが家名になるわけだ。


ま、良いか。


「あぁ。」


「それではここに一滴血をお願いします。」


ドッグタグのようなプレートと針を差し出される。

言われるままに血を垂らすがこれなんの意味があるんだ?

不思議に思っていると凛が横から耳打ちしてくる。


「人は大小ありますが、必ず魔力を持っています。それを確実に認識する為に血を使うんですよ。」


つまり健にも魔力自体はあるわけだ。

魔法として使うには少ないと言うだけで。


「はい!ありがとうございます!これで登録は完了です!冒険者としての活動に関しては説明致しますか?」


「あぁ。頼んでいいか?」


「はい!

まず、皆様は初めてですので、冒険者ランクはGになります。

このランクは依頼書に記載されている依頼ランクと連動していて、一つ上のランクまで受けることが出来ます。つまりFランクですね。」


「ランクはどこまであるんだ?」


「Aまで上がってその上にはSランクがありますが、Sランクの冒険者はほとんどいませんよ。」


「へぇ。」


「モンスターにもそれぞれランクが振り当てられています。同ランクのモンスターであれば基本的に大丈夫とされていますが、あまり高いランクのモンスターを相手にすると非常に危険ですのでお勧めしませんよ。」


「自殺願望は無いから大丈夫だ。」


「モンスターのランクは一覧がありますが…覚えるのは大変です。」


「ま、ボチボチやってくよ。」


「依頼は掲示板に掲載されていますので、受けたい依頼を剥がして持ってきていただければこちらで処理します。」


「分かった。」


「採取等の依頼から受けることをお勧めしますよ?」


「ありがとう。参考にするよ。」


「他に何か聞きたい事はありますか?」


「都度聞くよ。ありがとう。」


「ありがとうございます!」


カウンターを離れて早速掲示板とやらを見てみると本当に多種多様な依頼が張り出してある。

採取、討伐、護衛なんてのもある。


「折角だしパルコさんお勧めの採取依頼でも受けてみるか?」


「そうですね…あ、これなんてどうですか?」


「なになに…ブルダック草の採取?」


「ブルダック草というのは回復薬の元になる植物の事です。すぐ近くで採取出来ますし。」


「おいおい。あいつ女連れで採取だってよ。情けねぇなぁ!!」


「ひょろひょろの棒みたいな奴なんだから仕方ねぇだろ!」


「貴様ら…」


「いや、待て待て。そこは凛のがキレる所じゃないだろ。」


「しかし真琴様を侮辱して生きて返すなど!」


「生きて返すの。そんな事でキレてたらこれから先何人殺さなきゃいけないか分からないだろ?」


「しかし…」


「しかしもカカシもありません。」


「う……」


「なんだなんだ?言い返す度胸も無いのか?こりゃダメだな!おいそこのお嬢ちゃん!俺達と一緒に来いよー!」


よくある事なのか周りは嫌な目をしてみているものの止める気は無いようだ。

ま、触らぬ神に祟りなしだろうな。

別に貶されるくらいどうでもいいし好きに言ってくれて構わない。

それより目立つ方が怖い。

さっさと依頼書を出して立ち去ろうとすると絡んできた男達のうちの一人が凛の腕を強引に引っ張る。


「俺と一緒に行こうぜー!」


「は、離しなさい!」


ブンッ


「え?………うぎゃぁぁああ!!おれの手がーー!!」


「お叱りは後で受けるが、真琴様も今のはやれと言うだろ?」


「良くやったよ。健。」


いくら貶されても罵られても良いが唯一許せない事がある。それは凛と健を貶したり手を出したりされる事だ。


それは健も同じ気持ちだ。


普段はいがみあっている二人でも大切な仲間という認識に違いは無い。

抜き出した刀で男の腕を切り落とした。


「なっ?!何してやがる!!」


ドタドタと五人が立ち上がる。


「いくら貶されても無視してやろうとしたのに凛に手を出したりするからだ。」


「いでぇよぉ!俺の腕がァ!!」


「健。」


「あぁ。」


ザンッ


ゴロリ


腕を無くした男の頭が床に転がる。


「こ、殺しやがった…」


「この野郎!!」


「なんだ?殺される覚悟も無いのに人に突っかかってんのか?」


「殺す事は無かっただろ?!」


「人の嫌がる事をしてんだ。それくらい覚悟しておけよ。」


「殺してやる!!」


「凛、健、ギルドの設備を破壊したらダメだぞ。汚しても。」


「分かっていますよ。」


ギルド内での戦闘は禁止されているかもしれないが…まぁ売られた喧嘩だし。


「待って待って!!こんな所で暴れないで下さいよ!!」


「やっぱりダメだって。」


「表出ろや!!」


「そうなるわな。」


結局ギルドから追い出されて表の通りに出る。

殺気立った奴らが出てきたなら自然と道は場所を開ける。

周りに人集りが出来て大分目立ってしまっている。


三対五。


普通に考えたら不利な状況だが…俺含めて下がる気はない。


「殺してやる…殺してやる…」


ブツブツ言いながら各々剣や杖を構えている。


「死ねぇーー!!」


「お前の相手は俺だ!」


「私はあの魔法使いでもやりますね。」


「こっちに来て初めての戦闘がこれかー…」


健が相手にしているのは直剣を持ったゴリラみたいなやつ。

健の腕は知らないが、見る限り圧倒的らしく、余裕の表情だ。


凛は……なんか既に相手の魔法使いをやってしまったらしい。


残る三人が俺に向かってくる。


何故か凛さんキラキラした目で俺を見ている。


助けてくれる気は無さそうです。


助けてよ?!


言ってられないし魔法を使ってみよう。

イメージは火球。

三人だしそれを飲み込めるくらいの大きさにして…温度も高めが良いはず。


「お!出来た!」


俺が杖を前に突き出すと特大の火球が出来上がる。


「おいおい…ファイヤーボールのデカさじゃないぞ…?」


「真琴様なんですから当然ですよ。」


「まぁ、そうか。」


「な、なんだこいつ……」


「や、やべぇ!逃げろ!」


言い終わる前に射出された火球は三人をまるっと飲み込む。

ジュッという音がして断末魔も無く綺麗に三人が消え去る。


「な、なんだありゃ…」


「あれは第六位のフレイムヘルじゃねぇか?!」


「嘘だろ…あんなガキが第六位?!」


周りで見ていた冒険者やその他諸々がザワつく。

フレイムヘルってなんぞ?


「第六位の魔法と間違えられているようですね。」


「ただのファイヤーボールだろ?」


「というか真琴様は単純に大きな火の玉作ろうとしただけだと思います。それがファイヤーボールだっただけですね。第一位の魔法であの威力…フレイムヘルと間違われてもおかしくない威力でしたからね。」


「なになに?皆ザワザワしてるけど…第六位って真ん中より一つ上でしょ?なんでそんなに驚いてんの?」


「第六位ともなると上級魔道士が使う魔法ですよ。」


「そうなの?!ってか俺そんな魔法使ったの?」


「いえ、今のは第一位のファイヤーボールですね。威力は桁違いですけど。」


「そうなのか?」


「普通はもっと小さいですしあんなに高熱にはなりませんよ。」


「基準が分からん……」


「真琴様ですから。」


「真琴様だからな。」


「その常識知らずの代名詞みたいな使い方やめて貰えませんか?!」


「おい。」


「ん?」


振り向くと顔に大きな傷を持った茶髪短髪の男が立っていた。


「どちら様でしょうか?」


「このギルドのギルドマスターだ。騒がしいから出て来たら何してんだ。」


「いや、あそこの奴ら…三人消えたけど。が、絡んできてやり過ぎたから。」


「とりあえず中に入れ。」


いやー。なんか怖いこのおじさん。


おずおずと着いていくと個室に連れていかれる。


「とりあえず座れ。」


「あぁ。」


「二人も座れ。」


「私達は従者ですので。」


「従者?どっかのボンボンか?

まぁいい。とりあえず俺はギリヒ-ドーム。ギルドマスターだ。」


「真琴と言います。」


「登録された情報は聞いている。」


「はぁ。」


「何があったんだ?」


事の成り行きを話す。


「なるほどな。経緯は分かった。

だが、やり過ぎだろ。」


「そうか?あの感じ一度や二度じゃ無いし他でも悪い事をしてるのは明白だろ。」


「それにしてもやり過ぎだ。」


「真琴様を侮辱したのですから当然です。」


「どっか壊れてんなお前等。」


「酷い言われようだ…」


「まぁいい。あいつらには周りの冒険者やギルド職員も困っていたからな。今回は大目に見るが、次からは殺すな。」


「はーい。」


「まったく…分かってんのか?」


「もちろんでありまーす。」


「まぁいい。

それより本題は別にあってな。」


「??」


ギリヒの話によると、殺したパーティはそれなりに高いランクの冒険者達だったらしい。

それ故に手を出しにくかったという事だったんだが。


「つまりだ。お前達のせいでうちの重要な戦力が消えたわけだ。」


「あいつらにとっては自業自得だろ?」


「あいつらにとってはな。

俺達ギルドには関係の無い話だ。」


「……はぁ…それで?何をさせたいんだ?」


「話しがわかる奴らで良かった。

簡単に言えば討伐依頼だ。」


「討伐?」


「ここから東に行った所にゴブリン達が巣を作ってな。それが想像よりデカいらしい。」


「そいつらの討伐か?」


「あぁ。」


「そんなの他の冒険者でも可能だろ?」


「今はBランクの依頼をこなせる奴らが少なくてな。頼める奴らがいないんだよ。」


「つまり、あいつらの代わりに行ってこいと。でも俺達はまだGランクだぞ?」


「だから今回はこちらで無理矢理Cランクまで上げる。」


「職権乱用だな。大丈夫なのか?」


「無理な話ではない。」


「……」


「今回の依頼を受けてくれたなら、代わりに今回の件は上手く揉み消してやる。」


「……」


「あまり目立ちたく無いんだろ?」


「まったく…いい性格してるわ。」


「褒め言葉として受け取っておくよ。」


「分かった。やるよ。」


「報酬もちゃんと出すから安心しろ。」


「へいへい。」


「頼むぞ。

あ、さっきのはファイヤーボールか?俺も魔法剣士だから気になってな。」


「ファイヤーボールだ。」


「桁違いの威力だったな。」


「偶然だよ。偶然。」


「偶然で出せる大きさじゃなかったぞ?」


「世の中不思議が一杯なんだよ。」


「まぁ深くは詮索しないさ。それじゃ依頼の件はよろしく頼むな。

ランクはこちらでCにしておく。詳しい情報はカウンターで聞いてくれ。」


「分かった。」


ギルドマスターにまんまと転がされた気がするが選択肢はこれ以外には無かった。


個室からでてカウンターに行くと青い顔をしたパルコが立っていた。


「あー…」


「は、はい!!」


「いや、ごめんな。驚いたよな…」


「い、いえ!そんな事は!!」


「俺達の担当が嫌なら代わってもらって構わないから。今回の依頼の説明だけお願いしてもいいかな?」


「は、はい…」


「凛が聞いた方が気が楽だよな。頼んでいいか?」


「お任せ下さい!」


俺と健はその場から離れる。

周りにいる冒険者達も俺達に目をやりながら何かコソコソと喋っている。

いきなりあんな事になれば周りも警戒するよな。

と思っていると突然目の前に二人の冒険者が現れる。


「あんたら凄かったな?!」


「ジル…いきなりすぎるよ…」


いきなり声を掛けてきたのは茶髪ショートペアの女性で見るからに男勝り。

腰に下げたショートソードと背中に背負った丸い盾からして前衛だろう。


後ろに隠れるように小さな声で諭しているのも女性で茶髪セミロングの髪。目を前髪で隠している魔道士。

落ち着いた青いローブを羽織っている。


「お、そうか。まずは自己紹介からだね!私はジル!ジル-ビリトール!ジルってよんでくれ!

こっちの声が小さいのはガリタ。」


「が、ガリタ-アカリフです…」


「どうも。俺は真琴。こっちは健だ。んで、あっちで話を聞いているのは凛。」


「マコトにケンにリンだな!よし!覚えた!」


「それで?どうした?」


「いや、あいつらに絡まれてたのはあんたらだけじゃなくてな!スッキリしたのは私達も同じなんだ!ありがとう!」


「ジル…死者への冒涜は良くないよ…」


「んだよ。困ってたのは本当の事だろ?」


「それでもう…」


「それより声掛けてきて大丈夫なのか?」


「皆自分も殺されるんじゃって縮こまってるだけさ。見た限り普通に接してれば怒るような人達じゃないだろ?」


「まぁ、別に殺しが好きな訳じゃないしな。」


実際初めてだし。何故か落ち着いていられる所から記憶を失う前の日々を想像して恐ろしくはなるが…


「下手に手を出したりしなきゃ我慢してたぞ。一線を超えずにこっちから手を出したりしてたら、俺が真琴様に怒られちまう。」


「ほらな?大丈夫だろ?」


「う、うん…普通の人達みたい…」


「それより…マコト様って言うのは?」


「俺と凛は真琴様の従者でな。別に貴族とかボンボンとかじゃないけどガキの頃からの事だからな。」


「そうなんだ?貴族でも無いのに従者って…」


「あんまり気にすんな。形はそうでも友達みたいなもんだしな。」


「ふーん。面白い関係なのね?」


「まぁな。」


「真琴様。話を伺ってきたんですが…そちらの方々は?」


「わぁ……」


「ん?私の顔に何かついていますか?」


「あ、ご、ごめんなさい…」


「あー、わりぃ。許してやってくれ。普段はあまり人を見ないんだが…」


「いえ、別に怒ってませんよ?」


「私はジル。こっちは…」


「ガガガ、ガリタです!」


自分が思っていたより大きな声を出したのか真っ赤になっている。


「すまねぇ。リンの事綺麗だって言っててな。緊張してんだ。」


「え?私がですか?」


「はい!」


「嬉しいですね。ありがとうございます。」


「いいいいいいえ!!」


「私からするとパルコさんも可愛いと思いますが…」


「そそそんな!私なんて!」


「そうですか?真琴様はどう思いますか?」


「なんか小動物みたいで可愛らしいな。」


「一応健は?」


「一応は余計だろ?!

まぁ普通に可愛いんじゃないか?」


「私もパルコは可愛いと思うぞ!」


「う、うぅ……」


「後は自信だけですよ。自信を持ってください。」


頭から湯気が出るほど赤くなったパルコはジルの背中に隠れてしまった。


「あはは…すまねぇな…」


「いえいえ。それよりどうされましたか?」


「そうだった。本題はそこだったな。

実は私達はCランクの冒険者でな。まだ来たばっかりのマコト達にいうのは変かもしれないがパーティを組んでもらいたくてな。」


「パーティですか?」


「見ての通りわたしが前衛でパルコが後衛としてここまでやってきたんだが、2人じゃ限界があってな。」


「敵が多いとどうしよも無くなるわな。」


「そうなんだよ。だからパーティを組んでもらえそうな人を探してたんだが、女二人だと変な奴らしか見つからなくてな…」


「まぁ…なんとなく分かるな。」


ジルもかなり美形の顔だ。

ものにしたい男性は多いはずだ。


「そんな奴らとパーティなんて嫌だろ?

そしたらマコト達の事を見つけてな。強さも申し分ないし人も良さそうだからさ。」


「そんな簡単に決めていいのか?」


「私は馬鹿だしこんな性格だけど人を見る目には自信があるんだ。

何よりガリタが懐く人なんてそういないからな。」


「懐くって…」


「どうかな?マコト達のランクが上がるまでの間でも良いんだ!頼む!」


「ランク……」


「??」


「実はたった今Cランクに格上げされてな。」


「え?!マジか?!」


「あぁ。」


「そ、それは凄いな……」


「やっぱりそうなのか?」


「腕のあるやつがいきなりランクを上げるのは聞いた事があるが…いきなりCランクってのは初めて聞いた。」


「目立ちたく無いってのに…あの野郎…」


「真琴様ならば当然ですね。目立ってしまうのは仕方ないかと。」


「まぁ真琴様だからなぁ…」


「お前等まで…」


「いやー…やっぱり凄い人達だったんだな。

ランク上がるまでって思ってたが…私達の実力じゃ…こいつは無理そうだな。」


「え?なんでだ?」


「なんでって…実力が見合わない人がいてもパーティ的には良くないだろ?」


「実力が分からんけど…関係あるのか?」


「そうですね…別に問題あるとは思いませんが。」


「いや、あるだろ。足でまといがいると面倒だろ?!」


「んー…分からん。別に助け合えばいいんじゃないか?」


「そうですね。私達は冒険者一日目ですし。わからない事の方が多いですからね。教えて頂くのであればCランクくらいで、出来れば私と同じ女性が…二人くらいの方々が良いですね。」


「そうだな。俺もそう思うな。」


「だな。」


「じゃあ…」


「よろしく頼むよ。先輩。」


「やった!ガリタ!やったぞ!」


「ゆ、夢みたい…」


「よし!じゃあパーティ申請してくる!」


「パーティ申請?」


「パーティ申請ってのはギルドに出すものでな。報酬とか色々面倒事にならないように私達がパーティですよって申告しておくんだ。」


「そんなのがあんのか。」


「パーティ申請したらこのタグが記憶して見た目で分かるようになるんだよ。」


「へぇ。そんな機能があんのか。」


「申請してタグを渡せばすぐ終わるから今のうちにやっておこう!」


「分かった。頼むよ。」


「任せてくれ!」


早速ジルに助けられながら数分でパーティ申請が終わる。


「それで、依頼はどうする?」


「それなんだが、実はギルドマスターに頼まれた依頼があってな。良かったら一緒に行ってみないか?」


「どんな依頼なんだ?」


「ゴブリンの討伐だ。いや、殲滅か。」


「殲滅って事は…ブリリア城跡地のゴブリン達か?」


「知っていたんですか?」


「まぁこの街で冒険者やって長いからな。大体の事は知ってる。」


「ブリリア城跡地は雨風が凌げるからゴブリンが巣を作りやすいんです…」


「って事はこの依頼は珍しくないのか?」


「頻繁にあるわけじゃないが初めてでもないな。」


「今回の巣はいつもより大きいって聞きました。普通はDランク以下の依頼なんですけど…」


「今回はBランク指定になってるらしい。」


「Bランク…」


「とりあえず受けたは受けたが、難しいか?」


「私達だけじゃ無理だけど…マコト達がいるなら大丈夫かもな。」


「作戦立てないと…」


「普通はどうするんだ?」


「そうだな。ゴブリンってのは単体じゃそんなに強くないモンスターだ。

単体ならFランク指定のモンスターだからな。

だが群れると数に応じてランクも上がっていく。

Cランク以上だと上位種がいる可能性が高いな。」


「上位種?」


「ゴブリンシャーマン。魔法を使うゴブリン。

ゴブリンアーチャー。弓を使うゴブリンとかな。

普通のゴブリンより一回り大きいから見て分かるぞ。単体でもDランクのモンスターになる。」


「まぁ魔法や弓だしランクも上がるか。」


「今回の依頼がBランクとなると更に上のオーガが居る可能性もあるな。」


「オーガ?」


「めちゃくちゃデカくて、力も防御力も高い奴だ。単体でもCランクのモンスターだな。」


「倒せるのか?」


「一人じゃまず無理だな。その為に作戦を立てる必要があるんだ。

数が揃えば押し潰す事も可能なんだが…」


「数を揃えるのは無理そうだな。」


「となればそれなりの準備がいる。」


「揃えなきゃならないものとかもあるのか?」


「あぁ。この人数でBランク指定のゴブリンの巣を殲滅しようと思うと、単純に力押しでは確実に無理だ。

回復薬はもちろん、巣の状況、敵の数、上位種の数や種類なんかもしっかり把握して、どこにおびき出すのか、どこで戦うのかしっかり把握していないとあっという間に殺られる。」


「私達女は殺されるより悲惨な目に合ってしまいますね。」


「それは嫌だな。」


「ゴブリン自体は弱いモンスターだから、特に冒険者になりたての奴らは侮ってしまう。

それで殺られるなんて話は腐るほどある。

いくら相手が弱くても絶対に侮ったりしてはいけないんだ。」


「分かった。」


「じゃあとりあえず巣の状況を詳しく調べるところから始めよう。

偵察だけだが、遭遇戦になる可能性も十分あるからそれなりの装備は整えて行こう。」


「分かった。」


ジルの指揮の元次の作戦が決まった。

作戦が決まったと言っても詳しい事は分からず何を用意していくか迷っていると申し訳なさそうにガリタが声を掛けてくれた。


「大丈夫ですか…?」


「いやー、何を用意したら良いのかさっぱりでな!わはは!」


「回復薬は買いましたか?」


「それだけは買ったぞ!」


「それも私が言ったんですけどね。筋肉バカに言っても何も進みませんよ。」


「失敬な!」


「えーっと…これだと少ないですね…」


「そうなのか?」


「はい。ブリリア城跡地までは丸一日掛かりますので…その間もモンスターと何度か戦うことになります。」


「そ、そうなのか…」


「お、落ち込まないでください。知らないのも仕方ないです。ジルは大雑把なので…」


「聞こえてるぞー!?」


「うっ…」


「まったく。なんだ?手伝ってあげるのか?」


「うん。皆さんあまり詳しくないから。」


「それもそうだったな。」


「ガリタさん。後は何を揃えたら良いですか?」


「あ!はい!えっと…これとこれに…」


「うんうん。」


「長くなるかな。」


「女の買い物ってなんであんな長いんだろうな。」


「私もそう思う。」


「ジルは女だろ?!」


「あはは!この街で私を女扱いしてくれるのは新米か物好きくらいのもんだよ!」


「そうなのか?綺麗な顔してるのに。」


「なっ?!じ、冗談よせよ!」


「冗談じゃないが…」


「あれ?ジルどうしたの?顔だ赤いよ?」


「な、なんでもねぇ!さっさと買い物済ませろよ!」


「う、うん…?」


「真琴様がまた何か言ったんですよね?」


「何故俺と決めつける?!」


「いつもの事ですから。」


「間違ってはいないが…釈然としないな…」


「そういや移動はどうすんだ?」


「私達が小さいけど馬車持ってるからそれで移動しようと思ってるぞ。」


「馬車で一日掛かるのか?」


「あぁ。」


「結構遠いのな。」


「そうか?馬車で一日なら近い方だぞ。

依頼によっちゃ一週間とか掛かる場所もあるからな。」


「マジか…」


「ま、慣れだよ慣れ。慣れれば馬車の旅も面白いもんだぞ。」


「流石先輩は言うことが違うね。」


「任せなさい!」


なんて話しているとガリタと凛が戻ってくる。


「終わりました!」


「ありがと。で?出発はいつにするんだ?」


「私達はいつでも良いけど早い方が良いな。」


「被害が出る可能性もあるからか?」


「あぁ。用意したもので事足りそうなら良いが無理なら一度戻ってくる必要もあるしな。」


「そうなると往復で二日掛かるもんな。」


「そういうこと。」


「俺達も早く行く事に問題は無いぞ。宿も取ってないしな。」


「それならすぐ行こうか。」


「今からですか?」


「そ。無理なら時間指定してくれれば大丈夫だけど?」


「いえ。問題ありませんよ。行きましょう!」


「よし!決まりだな!」


ジルとガリタの所持している馬車に乗り込むとそのまま西門に向かっていく。


この街に入る時は南門からだった。南門には多くの人が詰めていたが、西門にはほとんど人がいない。


ガリタが馬車を走らせてくれるらしい。


「西門には人が少ないんだな?」


「ここから出て進んでいっても何も無いからな。」


「何も無い?」


「私達が向かう先はここから一日の所にあるけど、更に奥に進んで行くと大きな森があるんだ。」


「大きな?」


「深き森と呼ばれる森でな。その全貌は分かっていない程の大きさだ。

しかもその森に生息しているモンスターはかなり巨悪なモンスターばかりで、奥地にはドラゴンまでいると言われているんだ。」


「ドラゴン…」


「ドラゴンはこの世界で最強の生き物さ。存在は確認されているし毎年方々で被害も出ている。」


「対処しないのか?」


「出来ないんだよ。あいつらは地震や嵐の様な天災と同じ様な扱いでな。人がどうこう出来るもんじゃない。姿を見たら一目散に逃げるだけ。そして出来ることは祈る事だけだ。」


「恐ろしいな。」


「まぁな。でも、同じドラゴンでもストーンドラゴンやワイバーンは討伐依頼もあるし倒せない相手じゃないぞ。」


「ランクは?」


「ストーンドラゴンがCランク。ワイバーンはBランクモンスターだな。」


「どちらも天災と呼ばれるドラゴンに較べてかなり小型で数が多いんですよ。」


「小型って…どのくらいなんだ?」


「全長で2メートルくらいですかね。」


「十分でかくないか?」


「天災級ドラゴンは小さくても8メートルはあるので小さい方ですよ。」


「8メートル…」


「まぁ天災級ドラゴンは基本的に巣で寝てる事が多いから普通に暮らしていれば会うことはまず無いぞ。」


「それは安心だな…」


「とはいえワイバーンやストーンドラゴンもドラゴンだ。出来れば会いたくないモンスターだぞ。」


「だよな…」


「そんなランクの高いモンスターのことより今はまずゴブリンの殲滅だ。それさえ上手くこなせないのにワイバーンなんて夢のまた夢さ。」


「仰る通り。

ゴブリンってのは弱点とか無いのか?」


「普通のゴブリンは耐性という耐性を持ってないからどんな攻撃でも倒せるぞ。

上位種のシャーマンだと得意属性があるから相性があるな。

そう言えばマコトとリンは二人とも黒髪だけど、魔法使いなのか?」


「私は魔力量が少ないですが、一応全属性使えます。」


「うげっ?!マジで?!それ凄いな?!」


「魔力量が少ないので威力はあまりありませんよ?」


「それでも凄いさ!適性がハッキリしない人は黒髪になるからそれかと思ってたが、まさか全属性使えるとはな!」


「真琴様も全属性使えるのですが…事情があって今は火属性しか使えません。」


「へぇ。詳しくは聞かないけどあれだけの威力があれば火属性だけでも十分だろ。」


「ありがとな。」


「むしろ二属性以上使えるやつの方が少ないんだ。気にする事は無いだろ?」


「私も土属性しか使えませんし気にする事は無いと思います。」


「二人ともありがとな。


そう言えば…魔法使いとか魔道士とか呼び方色々とあるみたいだけど何か違いがあるのか?」


「おいおい。魔道士やっててそんなことも知らないのか?!」


「勉強不足でな…すまん。」


「魔法使いと言うのは魔法を使える人の総称です。」


「総称?」


「はい。魔法使いは、ライラーと呼ばれる術士と、ハスラーと呼ばれる魔道士の二通りがあります。」


「ライラーとハスラー。何が違うんだ?」


「ライラー、つまり術士と呼ばれる人は、魔法を使い物質の形状を変える事しか出来ない人達の事です。」


「形状変化だけ?」


「はい。つまり私たちが使う様に何も無い所から火や水を生み出すことが出来ません。」


「へぇ。それが出来る人をハスラー、魔道士と呼ぶのか。」


「その通りです。ライラーの人達は皆さん黒髪ですので魔法を使わなければ恐らく私たちはライラーと思われるはずですよ。」


「へぇ。ライラーね。」


「ライラーは鍛治職人とかの職人に多いな。ドワーフに多いぞ。」


「ハスラーよりも形状変化をコントロールする感覚が鋭いとされているので差別なんかはありません。」


「適材適所的な事か。」


「普通の生活ではむしろライラーの方が重宝する場面も多いからな。」


「ん?物質を生成できるハスラーの方が重宝する気がするが?」


「基本的に魔法で生成された物質は消えてしまいますので。」


「あぁ。そうか。」


戦闘を思い出すと確かにふっと魔法が消えていた。


「魔力量や精度で存在時間は変わるみたいですけど最後には必ず消えるので。」


「消えちゃったら意味無いもんな。」


「はい。」


「ライラーとハスラーか。覚えとこ。」


「普通は覚えてるもんなんだがな。」


「うっ……」


「話は変わるけど、ケンの持ってる武器。変わってるな?」


「こいつか?こいつは刀って言う武器だ。」


「カタナ?聞いた事ないな。」


「まぁかなり特殊な武器だし他に見た事無いな。」


「見せてもらっても良いか?」


「構わないぞ。ほら。」


「じゃあ失敬して…ほう……こいつは…綺麗だな。」


「あぁ。普通の剣よりずっと手間を掛けて作られる武器でな。硬く鋭い。」


「片刃なんだな。」


「あぁ。使いこなせれば普通の剣より強力だがかなり繊細なんだ。

下手な打ち込みしたら反りが返って切れなくなるし、刃を合わせたりしたらまた切れなくなるし。」


「ゴリゴリ使えないわけか。」


「その通り。扱いは倍以上に難しいぞ。」


「よくそんな武器を使おうと思ったな?」


「まぁ真琴様の指示でな。会得するには苦労したぞ。」


「あれ?そうだったっけ?」


「本人忘れてるぞ?」


「昔の事だからな。」


「勉強になったな。ありがと。」


「気にするな。」


「武器の話になったしパーティーとしての動きを今のうちに決めておこうか。」


「誰がどんな事を担当するかって事か?」


「あぁ。先の話を聞くと私が最前衛で決まりだと思う。盾もあるしショートソードの方が臨機応変に動きやすいはずだ。」


「異論は無いな。俺はそのすぐ後ろ、前衛でジルの後ろから攻撃力を出す位置だな。」


「ここの二人は固定だろう。となると、火力の出るマコトは中衛、細かな調整をリンとガリタが後衛で行うって感じかな。」


「真琴様は中衛より後衛の方が良いのではないでしょうか?」


「何故だ?」


「真琴様は司令塔としての能力に長けています。柔軟な対応力と的確な指示を出していただけるので、私や健は真琴様から指示を受けて動くという事になってくると思います。恐らくはジルとガリタも。」


「へぇ。マコトがねぇ?」


「なんか凄い過大評価な気がするが…」


「そんなことはありませんよ。今までだってずっとそうだったと思いますよ?」


「だな。俺もそう思う。」


「よし。じゃあそれで行こう。」


「そんな簡単に決めて大丈夫なのか?」


「別に無理なら途中で変えたって良いんだ。無理にこだわる必要も無いしな。とりあえず仮でフォーメーションを組むだけだからな。」


「それなら…」


「ガリタも良いか?」


「私は大丈夫です。」


「よし!決定!!」


「後は実際に動いてみて細かい所は擦り合わせて行きましょう。」


「おっと。言ってたら来たな。」


「グリーンウルフの群れです!!」


「数は?!」


「分かりません!見えるだけでは五体です!」


ガリタの視線の先を見ると薄緑色の毛を持った狼が五体、こちらに向かって走ってきている。

確か…群れで行動して素早い動きが特長のモンスターだったか?


「よし!さっきのフォーメーションで行くぞ!」


「任せろ!先輩の力見せてやる!」


「健!」


「分かってる!ジル!背中は任せろ!」


「任せた!!」


「ガリタ!凛!二人の背後に回ろうとするヤツらの妨害だ!倒せるなら倒して構わないぞ!」


「「はい!!」」


作戦通りジルが最前衛でグリーンウルフの攻撃を盾と軽快なステップで避ける。

ジルがうまく注意を集めている間に後ろから健が一刀でグリーンウルフを切り裂く。

三匹はジルと健が相手をしているが二匹は凛とガリタの方へと回り込んでくる。

それに凛とガリタが反応する。


「ストーンエッジ!!」


第二位の土魔法で地面から尖った石の柱を生成する魔法だ。


突然真下から現れても反応できるはずもなく、一匹はストーンエッジに串刺しにされ、口から血を吐いて絶命する。


「ウォーターバルーン!」


凛の放った魔法は大きめの水球を生成し、相手をその中に閉じ込め、溺れさせる第二位の水魔法だ。

回り込んできたグリーンウルフの残り一匹の周囲に発生した水。

グリーンウルフは異変に気付いて逃げようとするが時既に遅く、水球内に閉じ込められる。

もがいてなんとか逃げ出そうとしているが、水流が発生しているのかどれだけ暴れても中心からズレることすら出来ない。

そのままゆっくりと動きが止まっていき完全に停止する。


その間にジルと健も三匹を仕留め終えていた。


「危ない!」


五匹だと思っていたが、グリーンウルフの群れは全部で八匹だった。

残りの三匹は茂みに隠れていて様子を伺っていたのだ。

健とジルの背後から飛び掛かろうとしていたグリーンウルフにいち早く気が付いた俺は咄嗟に魔法を行使する。

2人を取り囲むように出現した炎の壁。

それに飛びかかったグリーンウルフがそのまま突っ込む。

またしても温度が高かったのか、燃えるのでなく三匹のグリーンウルフは蒸発した。


「た、助かったよ。」


「やっぱり真琴様はよく見てる。ありがとな!」


「それにしても…やっぱりマコトって無詠唱だよな?」


「無詠唱?」


「普通はイメージを明確にする為に魔法の名前を呼んだりするんだけど、それが無いよなって。」


「凛も出来るだろ?普通じゃないのか?」


「私も出来ますけど、やっぱり詠唱した方が明確にイメージ出来るので威力や精度は上がりますよ。」


「そうなのか?!なんか損した気分だな…」


「真琴様は多分関係ないですよ。」


「え?なんで?」


「真琴様の場合イメージの方が先行してますので。」


「…どう言うこと?」


「普通は教えてもらったり書物で読んで魔法を覚えていくものです。なので魔法の名前なんかを先に覚えて、それに結びつけるようにイメージを確立していくんです。」


「へぇ。俺の場合はそんなの知らないからイメージから入るな。」


「はい。だから無詠唱でも詠唱でも変わらないと思いますよ。むしろ詠唱の時間を考えると…」


「損する事になるな。」


「はい。」


「待て待て!って事は何か?!今のファイヤーウォールもイメージから先にしたってことか?!」


「あれ、ファイヤーウォールって言うのか。」


「………凄いですね…」


「え?何が?」


「真琴様は魔法を行使する度に自分で新しく魔法を作っていることになるんですよ。」


「……確かに。でもそんな凄いことなのか?誰でもできるだろ?」


「普通は出来ません。そんなに明確なイメージが持てないので。」


「そうなのか?」


「私には出来ませんね。」


「凛は?」


「真琴様に教えてもらったりしたので少しは…でも真琴様と比べてしまうと児戯ですね。」


「マコトって凄いんだな…さっきのファイヤーウォールも威力おかしかったろ?」


「グリーンウルフが蒸発しましたね。」


「何度あんだよマコトの炎。第二位の魔法だぞ?」


「お、ファイヤーボールより一つ上がった!」


「マコトのはそんなレベルじゃ無いよなって言ってるんだよ!」


「そ、そうなのか?」


「はぁ…なんか私達が間違ってる気になってくる…」


「真琴様ですから。」


「真琴様だからな。」


「その結論釈然としないなー…」


ともあれグリーンウルフを退け旅路は順調に進んでいく。

この道程にはグリーンウルフが多く何度か襲撃されたが、その後は危ない場面も無く順調に討伐した。

もちろん素材もしっかり剥ぎ取った。

持って帰ると毛皮は高く売れるらしい。

他の部位はあまり使われないが肉は普通に食えるらしい。

味は…普通らしい。


ランクの高いモンスターになると肉も美味いらしいが、中には食えたもんじゃないモンスターもいるとの事だ。


「そろそろ日が暮れてきたしこの辺りで野営の準備でもしようか。」


「分かりました。」


背の低い草が生える草原の様な場所に野営地を設定する。

暗くなると特に危険なのでなるべく見晴らしの良い場所に野営地を作るべきらしい。

野営などした事が無いのでてんやわんやな俺達に溜息混じりにジルが、申し訳なさそうにガリタが手伝ってくれる。


テントを貼るだけなのに…


火を起こすのは魔法で簡単にできる。

こういう所で魔法の便利さを痛感する。


火を囲んでグリーンウルフの肉を調理する。

味は……普通。


「ブリリア城跡地まではあとどれくらいなんだ?」


「そうだな…四時間くらい進むと見えるはずだ。」


「半分以上は来たのか。予定より速くないか?」


「いつも二人で移動してたからな。二人よりずっとスムーズに移動が出来たから予定よりずっと速く進めたんだ。」


「少しは役に立ててるって事かな?」


「少しどころか、こんなに戦闘が楽になるとは思ってなかったよ。」


「そんなに違うのか?」


「後ろを気にしないで良いし、いつもなら逃げる数でも倒せるからな。」


「そいつは良かった。」


「さてと、そうなると明日の事を決めとかないとな。」


「とりあえずは偵察だけ。下手に手を出したりしたらあっという間に囲まれるからね。それだけは勘弁。」


「しっかり情報を掴むまでは一切手を出さないって事か?」


「ゴブリンは別にバカというわけじゃない。

仲間が死んでいれば警戒もするし捜索もする。敢えて警戒させるよりも無警戒の所を一気に叩く方が安全だ。」


「分かった。任せるよ。」


「よっと。」


「これは?」


「ざっくりとしたブリリア城跡地周辺の地図。」


「こんなの売ってるのか?」


「これはガリタの手書き。売ってないよ。」


「凄いな?!」


「そ、そんなことは……


ありがとうございます…」


「うんうん。成長してるね!」


「ブリリア城自体はこの範囲だ。東、つまりこのまま正面からブリリア城に向かうと辺りは背の低い草が生い茂る草原になっていて目立ち過ぎる。」


「北と南は森になってるのか?」


「あぁ。深くは無いけど木々が生えていて身を隠せる。でもそれはゴブリンも同じだ。」


「この西側は何になってるんだ?」


「切り立った崖だ。昔この辺りで大きな地震があってね。その時に地盤が緩んで崩壊したんだ。


それが原因でこのブリリア城は廃墟になったのさ。」


「つまり西側からは近寄れないのか?」


「無理だね。行けたとしても危険すぎる。」


「となると北か南に迂回して森を徒歩で進むしかないのか。」


「それが一番懸命かな。」


「北と南だとどっちが良いんだ?」


「北かな。北の方が少しだけ高い地形になってるんだ。」


「じゃあ、北に回り込んで偵察って感じか?」


「その方が良いと思う。」


「異論が無ければ北から行こう。」


「大丈夫です!」


「となれば、えーっと…そこを右に入ってくれ。」


道と言うにはあまりにも野性的な場所を馬車が進んでいく。


一層馬車が揺れ始める。


誰も酔いやすい人がいなくて良かった。

そんな場所を突き進んでいくと、左手に木々が見えてくる。


「あれがブリリア城跡地がある森だ。」


大きくないという話だが、俺から見ると結構な広さだ。

こっちではあれくらいは小さい部類なんだと馬車に揺られながら考えていると、直ぐに森の近くまで到達する。



「なぁ。敢えて今まで聞かなかったけど…今回ゴブリンの数って最低どれくらいなんだ?」


「そうだな…ハッキリとは分からんが…100はいるだろうな。」


「ひゃっ?!……」


「驚いてるがそれはかなり希望的な観測に基づいた数だぞ。倍、三倍くらいはいてもおかしくない。」


「つまり300…?」


「それくらいいてもおかしくないな。」


「そんなにいると殲滅って大変だよな?」


「勿論だ。完全にゼロにする事は難しいだろう。したとしても次のゴブリンが住み着くだけだしあまり意味は無い。

今回の依頼は現在ある巣とそこにいるゴブリンの殲滅って事だ。現状ではかなり危険だからな。」


「まぁそれだけいれば、小さな村くらい簡単に押し潰されるわな。」


「そういうこと。」


「ジル!!」


突然ガリタが小さな声でジルを呼ぶ。


「こんな所にゴブリンが?!」


ジルはガリタの指差す方向を見て驚いていた。


いや、ゴブリンのいる森だって最初から話してたやん?!そこ驚くとこ違くない?!


「馬車を隠すぞ。」


ジルは馬車を森から離したところに隠す。


「何驚いてんだ?」


「あぁ……ゴブリンってのはより巣に近い所により上位のゴブリンが住み着くんだ。」


「へぇ。つまり今回の場合城って事か?」


「そうだ。城から離れるにつれて個体の力が弱くなるんだが、今までいくら大きな群れになったとしても森の外にまでゴブリンが溢れることは無かった。」


「あー…つまりゴブリンの数が今までで1番多いってことか?」


「あぁ。今回本当にオーガがいるかもしれないぞ。」


「例のデカい奴か?」


「あぁ。確認は必要だが…恐らくいると思う。」


「ヤバいのか?」


「かなりな。オーガは単体ではCランクだが、その周りにゴブリンの上位種がいるとしたら…」


「Cランクじゃ足りないわけか。」


「最初に話していた様に、ジルさんの予想通りですね。」


「当たって欲しくない予想だけ当たるんだよな…正直オーガいるのであればBランクの依頼としてはかなり厳しい部類だと思うが…」


「言ってても仕方ないだろ。こっからはどうすんだ?」


「さっき見たゴブリンの武器はその辺に落ちている木の棒だった。という事は外周を固めているゴブリンの装備は貧弱なはず。警戒すべきは内側にいる奴らの装備、数、上位種の存在。それが知りたい。」


「知りたいって言ってもそんな簡単に行ける場所には見えないぞ?」


「そこはガリタに頑張って貰う。」


「はい!」


「おいおい…まじで大丈夫なのか?これ?」


「何度かやったことあるし大丈夫。崩れたりしない。」


「まさか土魔法で穴を掘って真下を通っていくとはな…」


「他にいい案ある?」


「いや、無いけどさ…」


「筋肉バカに案を求めても時間の無駄ですよ?」


「事実だが腹立たしいよ?!」


「静かに。音までは遮断できないんだから。」


目立たない場所からガリタの魔法で地面にトンネルを掘ってブリリア城へと向かっている。

二人の話ではブリリア城には地下室があり、風年劣化によって現在は瓦礫の下に埋もれているらしく、そこからなら内部に侵入できるかもという事らしい。


「あと少しのはず……出てきた!」


ガリタの掘った穴の先に石壁の様な物が出てくる。


「……行きますよ?」


ガリタの声に全員が身構える。


ガラッ


石壁が崩れる音と共に小さな空間に出る。


地下室だ。


元々は貯蔵庫に使っていたのかボロボロになった棚がいくつか残っている。


「よし。とりあえず中には入れた。」


「ここからはどうするんだ?」


「階段は塞がれてて進めないから……確かこの辺りに……」


「何を探してるんだ?」


「隠し扉。」


「そんなもんがあるのか?」


「昔一度来た時に見つけたんだ。地下への避難通路がこの辺りにもあったはず……あった!」


ジルが天井部分を強く押すと一枚の天板が外れる。


「………よし。上には何もいないみたい。


こっから先は物音立てないでね。」


「わかってる。」


ジルが穴に入っていき上から合図を出してくれる。

書斎に続いていて中には何もいない。

ホコリを被ってボロボロの本や壊れて斜めになった机が置いてある。

扉は既に朽ちていてその先からは何か聞こえてくる。


足音を消して近づくと外は廊下だったらしいが、天上も壁も崩れ、木がそこかしこから幹を滑り込ませている。

実にオープンな設計で崩れた壁の隙間からブリリア城中央のホールが見える。

巡回するような知識も警戒心も無いゴブリン達はそこかしこで寝そべっていたり何かを食べていたりする。

中央ホールには一回り大きなゴブリンが何体かいて弓を持っていたり杖を持っていたりする。


上位種だ。


ゴブリンの数は正直数えきれないが、ホールにいるシャーマンとアーチャーの数はそれぞれ5匹と10匹。

多いのか分からないが…こっちも他のゴブリンと同じ様にグダグダしているみたいだ。


他にも全身を鎧で守り、大きな盾とロングソードを持った奴もいる。

たしかゴブリンウォーリアー。単体ランクでC。

単純に防具と武器を扱うため他より厄介。

こいつはホール脇の壊れた壁にもたれるように座っている奴が多い。


鎧が重いのだろうか?


脱げば良いのに…


ゴブリンウォーリアーは見えるだけで三匹。

数で考えれば圧倒的不利な状況になる気がする。


廊下に出てゴブリン達に見つからないように移動していくといくつかの小部屋の中にも気配がある事が分かる。


崩れているにしても元々は城。

それなりに小部屋は残っているみたいで全ての数を把握するにはかなり時間が必要だが、あまり長居できる場所ではない。

そしてホールからさらに奥にある朽ちた扉の向こう側には二階部分と天井が完全に崩れ落ちた吹き抜け状態の場所があった。

その中に一際でかいモンスターが寝そべっている。


オーガだ。


しかも二匹いる。


それを確認したジルは直ぐに踵を返してもといた書斎に戻っていく。

地下室に戻るとジルはかなり険しい顔をしている事に気がつく。


「………」


「辛いか?」


「あぁ。オーガ二体となると…私達では相手に出来ない。しかも上位種の数も異常だ。」


やっぱり多かったらしい。


「普通だと上位種は合計しても数匹です…」


「確認できただけでも二桁はいってたもんな。」


「それだけならばなんとか対処出来るとは思うが…」


「オーガか。」


「あぁ。私の盾じゃあいつの攻撃は受け止められない。動きは速くはないが、一度でも攻撃を受ければ死ぬ。」


「ゴブリンの数も多いしな…」


「他のパーティーにも協力を要請する他ないと…」


「離せえぇぇ!!」


「なんだ?!」


突然地下室にまで届くような耳を刺すような悲鳴が聞こえてくる。


女性の物らしいが…


地下室から再度這い出て壁の隙間からホールを見ると、一人の女性がゴブリン達に縛り上げられてホールに連れてこられていた。


「貴様ら…私に何をするつもりだ!離せ!」


騎士の様にも見えるが…鎧はほとんど取られて横にいるゴブリンが着けている。

緑色の髪を後頭部でまとめ、気の強そうな顔立ちだが美人な女性だ。


「グゲゲゲ!!」


ゴブリン達の醜悪な顔と笑い声がホールに響き渡る。

ジルが言っていた話では…女性は死ぬよりも酷い目にあう……

ゴブリンは他種族とも子をなせる特別繁栄力の強いモンスターだ。


つまり、人間もそのうちの一つ。


ゴブリン同士でも子をなせるらしいが、女型のゴブリンというのはほとんど産まれない。


「ちっ……」


ジルは小さく舌打ちする。


これから行われるあの女性に対する仕打ちを想像したのだろう。

女性でなくても吐き気がする。

押し倒され、ゴブリン達がワラワラとその女性に集まっていく。

いても立ってもいられなくなり助けに行こうと立ち上がるが、その俺の腕をジルが握る。

首を振って行ってはならないと俺に諭す。


行けば俺達も同じ様に…


凛やガリタを見る。

ガリタはガタガタと震え下を向き、必死に声を我慢している。


「………」


「………分かった。俺と健だけで行く。」


「自殺行為だ。」


「ここであの人を見捨てるくらいなら…自殺してやる。」


「私は行きますよ。」


「凛。」


「何度言われてもついて行きます。


もし2人が負けてしまった時は…自害します。」


その目に決意が篭っていた。

恐らくそんな状況になれば本当に自害するだろう。


「………そうならないように頑張るしかないな。健?」


「だな。凛が自殺なんて似合わねぇからな。」


「お前達……」


「ジルはガリタを連れて逃げろ。戦闘が始まれば逃げられなくなる。俺たちの事は気にするな。」


「……」


「さてと。」


「行きますか!」


「や、やめろ……やめてくれーー!!!」


健が今にも飛び掛かろうとしているゴブリンに向かって壁を蹴破り突進していく。


「うぉぉおおお!!!」


派手な血飛沫と共に二匹のゴブリンが上下で半分になる。


「フラッシュ!」


凛が叫ぶと女騎士の上部に発生した光の玉が閃光を放つ。

第一位の光魔法で殺傷力は皆無だが目くらましとしてはもってこい。


女騎士に飛び掛かろうとしていたゴブリンの群れを健が光の中で次々と切り刻んでいく。


なんとか女騎士の周りにいるゴブリンを殲滅出来た所で光が弱まる。


もちろんゴブリン達も黙って見てはいない。


シャーマン、アーチャー、ウォーリアーが立ち上がる。

とにかく遠距離攻撃を持っているアーチャーとシャーマンを優先しなければならない。


「はぁ!!」


俺が放った直径で約1メートルはある炎の玉がアーチャー達の上に飛んでいく。


「??……グゲゲゲ!!」


どこ狙ってんだと言わんばかりに笑い出すゴブリンアーチャー。


しかし頭上で止まった炎の玉はいきなり爆散する。


拳大の火の玉が雨のように降り注ぐ。


「ギィャァァ!!」


大ホールに隠れる場所などない。

降り注ぐ火の玉を避ける術などなく、次々と炎に包まれ、断末魔をあげて倒れていく。


第四位 火魔法 ファイヤーレイン。


後から聞いたが割と強い魔法らしい。


ホールに残ったのはアーチャー2、シャーマン1、ウォーリアー3。

鎧と盾のせいでウォーリアーは殺れなかった。


ゴブリンは半数以上が燃え尽きた。


「シャーマン優先!!アーチャーも早めに倒せ!」


「「はい!」」


ウォーリアーが動き出した。


動きは鈍いがもともとゴブリンは人間より筋力等の身体能力は数段上。

全身鎧でもそれなりのスピードで向かってくる。


「真琴様!」


「俺より先にシャーマンとアーチャーを殺れ!」


「はい!!」


俺の火力が一番危ないと判断したのか三匹のウォーリアーが健と凛を完全に無視して俺の方に向かってくる。


後ろに女騎士がいる以上逃げる訳にはいかない。

高温の火魔法なら倒せるとは思うが博打が過ぎる。

弱い火魔法では鎧に弾かれて終わり。

ならもっと違う使い方をしなければならない…


ガシャガシャと鎧が鳴り、三匹は直線的に俺に向かってきている。


「これならどうだ!」


俺が杖を振っても特に何か起きたようには見えない。


一瞬警戒したが、ウォーリアーは俺の魔力が無くなったか、魔法が不発に終わったと思ったらしく再度歩みを進め始めた。


ガシャ…ガシャ…


「すまない……すまない……私のせいで…」


後ろの女騎士から漏れるような声が聞こえてくる。


「まだ諦めるには早いぞ。」


「え?」


ドゴーンッ


ウォーリアーの進んできていた足元が突然爆発する。

地面に設置していた火の種が爆発し、膨張した空気によって石が高速で飛び散り、ウォーリアーを襲う。

石畳の構造だったのでレンガくらいの大きさの石が高速で飛来するため下手な鈍器より余程効果が高い。

全身を鎧で覆っており、盾を持っていても真下からの飛来する数多の攻撃を防ぐことは出来ない。

鎧ごとウォーリアーの腕や足を逆方向に曲げる。

一体は顔面に受けたらしく、顔が完全に潰れてその場に横たわる。


「な、なんだ今の……何が起きたんだ…?」


目をぱちくりさせる女騎士。


凛と健はその隙にアーチャーとシャーマンを殺してくれたらしい。


「真琴様!!」


弾けた様に俺の元に戻ってくる凛。

そして般若かの様な顔で動けなくなったウォーリアーに魔法を撃ち込み絶命させる。


怒らせないように気をつけよう。


動けなくなったウォーリアーに遅れをとることはなく、健がもう一匹を片してくれた。


残るはゴブリン。


そして……


ガンッ


奥の部屋にいたそれは壁を無いものかのように崩しながら現れた。


「グガァァアア!」


鼓膜が破れるんじゃないかと思う程の雄叫び。

そして更にもう一匹奥から同じ様に現れる、オーガだ。

筋肉隆々の体に額に生えた二本の角。

背は3メートルくらいはある。

単体ランクはCと言われたが、その時に念を押されていたのは、Cランク内でも強さに差があるということ。

ウォーリアーはCランクでもDランクに近いC。

そしてこのオーガはBランクに近いCだ。

つまりBランクモンスターと戦うと考えていた方が良いという事。


「お怒りだな。」


「見れば分かる。健。あいつに勝てるか?」


「いやぁ…ちょっと難しいな。」


「無理とは言わないのか?」


「援護があれば一匹は倒してみせるが…凛の援護を貰っても互角…いや、ギリ届かないな。」


「届いたとしてももう一匹いますよ。」


「なかなか厳しい戦いだな。」


「後悔してるか?」


「んなわけあるかよ。あそこで見捨ててたら俺が真琴様を殴ってたぜ。」


「だよな。悪足掻きしますか!」


「おぅ!!」


構えを取ると、ゾロゾロとどこからか湧いて出てきたかの様にゴブリン、アーチャー、シャーマン、ウォーリアーが現れる。

恐らく城のあちこちにいた奴らが駆け付けたんだろう。


「嫌な事ってのは続くもんだな。」


「まぁな。凛。その人の縄を解いてあげてくれ。」


「はい!」


「さてと、どうすっかな。」


「わ、私にも戦わせてくれ!」


「この数相手にか?」


「命を救われた方々に戦わせて…私だけ逃げるなど、わたしには出来ない!」


「そいつは素晴らしい騎士道だが…このままじゃさすがに俺達ごと押し潰されて終わるぜ?」


「私が…私が命を掛けてでも貴方達を逃がしてみせる!」


「せっかく助けた命なんだからもっと大事に使ってくれよ…」


ゴブリンが持っていたロングソードを拾い上げ、構えを取る女騎士。


「何かいい案ありますか?」


「筋肉バカに案を期待するなよな。」


「でしたね。」


ジリジリと導火線が焼けていく様な緊張感が漂う。

一度戦闘が始まれば後は乱戦も乱戦。何匹いるか分からないゴブリン達と殺し合うしかない。

逃げ道はあっても外にまでゴブリンがいるのだからあっても無いようなもの。


「やるしかねぇな…」


「はぁぁぁああ!!」


「ストーンショット!!」


「ギャァァア!!」


突然オーガを挟んで奥からゴブリンの断末魔が聞こえてくる。


「ジル?!ガリタ?!」


「なんでそんな所に?!」


「パーティーメンバー置いて逃げるなんて出来るわけないだろ?」


「わ、私だって……出来ます!!」


「逃げろって言ったのに。」


「私はバカなんでな!」


「ったく…」


ジルとガリタが反対側に現れた事で唯一の光明が見えた。

挟み撃ちに出来た事でシャーマンとアーチャーはジル達から一番近い場所にいる。

これで遠距離攻撃を封じる事が出来る。


「ガリタ!凛と一緒にジルを援護しろ!」


「はい!!」


「ジルはシャーマンとアーチャーを優先して片付けてくれ!」


「任せろ!」


「健!女騎士はオーガだ!一匹で良いから足止めしてくれ!」


「きっつい事言ってくれるぜ!」


「命に替えても!!」


「行くぞ!」


「うぉぉおおお!!!」


健が走り出し、オーガに向かっていく。


人の胴が細く見える程の腕を振り上げて叩きつけるオーガ。


ボゴッという打撃音には聞こえない音がして地面がめくれ上がる。


「馬鹿力野郎が!」


オーガの攻撃自体はそれ程速くはない。

多分俺でも避けられる。

当たれば一撃で沈むと言っても当たらなければ意味が無い。

健も女騎士もうまく避けているが、厄介なのは防御力。

二人共何度もオーガの体に刃を走らせているが、皮膚は切れても肝心な部分まで刃が通っていない。

突き系統の攻撃ならある程度刺さるかもしれないが、あの筋肉量だと刺さったとしても抜けなくなる。

それが分かっているから地道に2人は斬りつけ続けているのだろうが…


もう一匹のオーガは俺が炎をまとわりつかせる事でなんとか足止め出来ている。

この間にジル達が周りをある程度片付けてくれなければ次には進めない。


「はぁぁぁあああ!!!」


「ジル!下がって!」


「分かった!」


「ストーンエッジ!」


「よし!アーチャーは片付いたな!」


「危ない!」


ジルが目を離した瞬間を狙ってシャーマンがジルに魔法を放った。

飛んでくる石の塊がジルに当たる寸前で地面から伸びてきた木に阻まれる。凛がうまく守ったらしい。


「余所見しないで下さい!」


「あ、あぁ。すまない!」


「シャーマンは残り3!なんとかウォーリアーを足止めしているうちに早く!」


「任せろ!!」


凛は魔力量はあまり多くはないが、少ない魔力の魔法をうまく組み合わせる事で通常よりも高い効果を発揮している。

木魔法で出現させた木材に火をつけ、攻撃力をあげたり、水魔法で生成した水球を火魔法で蒸発させ一時的に局所に目くらましを作ったりと実に多彩だ。

魔力量の多いだけの人より余程相手にしたくない卓越した物がある。

全属性使えるという利点を最大限に有効活用していると言って良いだろう。

凛の奮戦のおかげでシャーマンも綺麗に片付いた。

シャーマンは近づかれると弱いのでそれ程時間は掛かっていない。


「ジル!ガリタと一緒にウォーリアーを全滅出来るか?!」


「こいつらくらいなら任せて!!」


「よし!普通のゴブリンにも気をつけろよ!」


「わかってる!!」


「凛!健と女騎士に加勢してなんとかオーガを始末しろ!もう一匹は俺がなんとかする!」


「はい!!」


凛は健と女騎士の元に駆け寄る。


「ちっ!硬すぎて断ち切れん!」


「こいつは厄介だぜ。」


「わたしが貫通力のある魔法を叩き込みます!」


「チャンスを作れってか?」


「真琴様の前で出来ないなんて言わないでくださいよ!」


「はっ!言うかよ!任せとけ!女騎士!目を狙え!」


「あの剛腕を掻い潜ってか?!」


「出来ないなら死ぬしか無いぞ!」


「…元々拾われた命だ。やってやろうじゃないか!」


「行くぞ!」


「はぁぁぁあ!!!」


「うぉぉおおお!!!」


2人が同時に別方向からオーガに向かっていく。

オーガは二人共攻撃しようと両腕を振り回す。

女騎士はロングソードを上手く使ってオーガの攻撃を滑らせる。


健は単純に身体能力で体を捻らせ腕を避ける。

同時に繰り出された攻撃がオーガの顔面に直撃する。


顔をギリギリで逸らされた事により女騎士の攻撃は目ではなく頬に当たる。

しかし、健の攻撃は完全に反対の目に当たった。

激痛にオーガが顔を片手で抑えてもう一方の腕を振り回す。

その防御力を持っていたせいで今まで痛みという痛みを受けた事が無かったのだろう。


「下がってください!!


ストーンランス!!」


凛の作り出した石の槍、と言うには形状的に無理がある気がするが…鋭い棒状の石がオーガに向かって飛んでいく。

第三位土魔法。形状通り貫通力に優れるが、対象にある程度垂直に当てる必要があり、動きまわる相手に当てるのは難しい。

石の槍は苦しむオーガの胸部に飛んでいく。


ドスッ


「グガァァアア!」


悲痛な叫び声と同時に石の槍がオーガの胸部に突き刺さる。

根元まで完全に突き刺さっている。

それでもまだ立っているとは…どれだけタフなんだ?


「しぶといんだよ!きっちり死んどけ!!」


健が凛の突き刺した石の部分に刀を差し込み、胸を切り開く。


「グガァァアア!アァァ……」


ドスンッ


完全に切り開かれた胸部から血が飛び散り、オーガが前のめりに倒れ込む。

地面が揺れ、周りにいたゴブリンが一歩下がる。


そりゃそうだ。自分達より圧倒的に強いオーガが倒されたのだ。気が引けるのも仕方がない。


しかし、完全に後退はしていない。

もう一匹オーガがいるからだ。

ジルとガリタの方も順調そうだ。

凛に任せろと言った以上こっちもなんとかしなければ。

健達の攻撃を受けていた所を見れば単純に魔法を使っても耐えられる可能性がある。

シャーマンには炎が効きにくい個体もいた。

ならばオーガにも効きにくい可能性は十分ある。実際に炎で邪魔をしているがあまりダメージというダメージは入っていない。

決め手に欠ける魔法では逆に大きな隙を作る事になってしまう。

ならば確実な方法を取るしかない。


一つは健達の様に弱い部位を狙う。


しかし炎は基本的に表面に対する作用が大きい。

あれだけ分厚い筋肉があるオーガには効果が薄いはず。

ならばもう一つの弱点を狙うしか方法はない。


「グガァァアア!!」


一匹殺られた事で怒りがMAXなオーガ。

鬱陶しい俺の攻撃にも怒りが来たのだろう。

邪魔している炎を無視して俺の方に突っ込んでくる。


「残念だけど……そこまでだ。」


杖を振ると、オーガの動きが止まる。


「グ…グゴォ……」


「な、なんだ?急に苦しみ出したぞ?」


「あいつが馬鹿みたいに叫ぶからちょっと体内に圧縮した火種を入れておいた。」


「圧縮した火種…?」


「そ。出来る限り圧縮したやつ。」


「真琴様が出来る限り圧縮したってなると…」


「……水風船…だな…」


ボンッ


圧縮された火種から圧力を解く。


すると体内から莫大な圧力が外に向かって働く。

つまりオーガの体がまるで風船の様に膨らむ。

口、目、耳、鼻から炎が吹き出し、混ざって出てきた血は即座に蒸発する。


「グゴォアァ!!」


ボンッ


破裂音と共にオーガの体が爆発し、炎を纏ったオーガだった欠片が周りにいたゴブリン達を襲う。

触れたゴブリンは体を炎に包まれて阿鼻叫喚。


ジル達のウォーリアー討伐も終了し、完全に上位種を失ったゴブリン達は逃げ出し始める。


「逃がすなよ!殲滅だ!!」


残ったゴブリン全て…とまではいかないが、かなりの数を殲滅した。

なんとも血みどろの現場になってしまったが、とりあえず今回の依頼は達成された。


「ふぅ…なんとかなったな。」


「真琴様がいれば当然です。」


「一体凛のそれはどこに根拠を持っているのか分からんな…」


「それにしても最後の魔法はなんだったんだ?なんかえげつない魔法だったが。」


「あれは真琴様オリジナルですね。魔力的には第四位相当ですかね。名付けるなら…ファイヤーボムとかですかね。」


「オリジナルって……」


「真琴様ですから。」


「そうだな…マコトだからな。」


「ジルまで乗ってきた?!」


「あ、あのう…」


「おっと。そうだった。助かってよかったな。」


「あぁ!本当に助かった!ありがとう!」


「まぁこれも何かの縁だ。気にするな。」


「気にするさ!命を救われたのだ!騎士たるもの受けた恩は忘れたりしない!」


「お、おぉ…」


「遅れて済まないな。私はシェア。シェア-ブリリアだ。」


「ブリリア?」


「あぁ。お察しの通りこの城に住んでいた者の末裔だ。」


「そりゃすげぇ人に会ったな。でも、なんでここに?」


「今までもここにゴブリンが巣食う事はあったのだ。その度にここに来て排斥していたのだが…」


「今回も巣が出来たから討伐しに来たが、捕らえられてしまったと。」


「面目ない…」


「なんで廃城になったここを?」


「確かに廃城になって長いが、元々は我が先祖の地。その地にモンスターが巣食っているとれば当然私の責任でもある。」


「深く考え過ぎだろ。」


「そんな事は無い。」


「律儀な奴だな。」


「これが私の性格だ。」


「面白い奴だが…なんで仲間とか連れてこなかったんだ?」


「私の家は代々ジゼトルスの騎士。ジゼトルスの騎士はジゼトルスを守ることが任であり、自分の敷地を守ることに仲間を巻き込み危険に晒す訳にはいかない。」


「シェアってバカって言われるだろ?」


「な?!失敬な!!ま、まぁ…言われるが…」


「やっぱりか。」


「うううるさい!私もそれなりに考えてはいるのだからな!」


「気持ちは分かるが…まぁ良いか。次からは危ない時は素直に誰かに頼れよ?」


「う……分かった…」


「ったく。


ジルとガリタも。助かったよ。ありがとう。」


「同じパーティーの仲間だろ?お礼なんていらないっての。それに、助けられたのは私達も同じだからな。」


「??」


「パーティーを見捨てて逃げ出したなんて事になれば私達と組んでくれるパーティーはこの先絶対に現れない。となれば戦うしかない。

マコト達でなければ恐らく蹂躙されて終わっていたさ。オーガ二体を始末するのは私達には無理だったしな。」


「それもジル達の援護があったから出来た事だろ?」


「だから、お互い様ってことでお礼なんて良いさ。」


「分かった。」


「真琴様。討伐したモンスターの素材はどうしますか?」


「どうすんだ?」


「ゴブリンからは素材という素材は取れない。討伐証明部位の耳だけ切り取って持っていけば討伐報酬が貰える。

上位種のモンスターは多分胸の中心辺りに魔石が入ってるからそれが素材になる。」


「魔石?」


「魔力を宿した石のことだ。強力なモンスターは大抵体内に持っているぞ。

今日だとオーガからは大きめの物が手に入るはずだ。証明部位も忘れず切り取っておくんだ。」


「真琴様。これが魔石ですね。」


「へぇ。宝石みたいだな。」


シャーマン、ウォーリアー、アーチャーから取れる魔石は小指の先くらいの大きさ。

オーガからは親指くらいの大きさの魔石が取れた。

結構色んな色がある。


「魔石ってのは売れるのか?」


「もちろんだ。色によって秘める魔力の属性が決まっていて、大きさによって値段は変わってくる。」


「つまりシャーマン達の魔石よりオーガの魔石の方が高く売れるのか。」


「その通りだ。魔道具の動力に使われていて重宝するんだ。そんな事も知らないのか?」


「う……」


簡単に言うと電池みたいな物だ。

まぁ火を出したり水を出したりするが。

魔道具は魔力の無い者でも使える便利な物だ。

使う為には魔法陣等の仕組みが必要らしいが。


「ん?この魔石は透明だが…」


「それは無属性の魔石ですね。」


「無属性?」


「これは一般には知られていませんが、魔法にはもう一つ属性があり、無属性という括りがあるそうです。」


「へぇ。」


「真琴様が見つけたんですよ。」


「俺が?!」


「はい。誰にも言うなって言われているので誰も知らないはずです。」


「なんでだ?」


「詳しくは分かりませんけど、危ないって言ってました。」


「そうなのか?そもそも無属性の魔法ってなんだ?」


「なんでも動力やその他に分類される魔法とか…」


「なるほど…なんとなく分かった。

でもそうなるとこの魔石って一般的にはクズって事か?」


「はい。二束三文で買い取られますね。」


「マジか…もったいねぇ…」


「はい。なので恐らく真琴様の異空間収納に大漁に入ってますよ。昔買い取りまくってましたから。」


「げっ。ほんとだ。すげぇ数。

とっといたってことは魔道具とか作る気だったのか?」


「昔は色々と作ってましたよ。ほとんど処分してしまいましたけど。」


「そうなんか…分配して俺たちの手元に残った分はしまっておいた方が良さそうか?」


「そうですね。魔道具を作る気であればあった方が良いと思いますよ。」


「ならそうするかな。凛と健の分は好きにしてくれて構わないぞ。」


「いりません。」


「は?いや、それは…」


「全て真琴様に任せます。」


「えー…」


いや、待てよ。


この2人今金って持ってたか?


確かジゼトルスに入る前に商人に渡してもらった銀貨30枚は俺が管理している、

異空間収納があったからスリ対策なんかと思っていたし後で渡せばいいと思っていた。

討伐に俺は参加していないし俺が貰うつもりは一切なかった。

だからこそ依頼を早目に終わらせて自分の手持ちを作りたかったというのもある。

今回の依頼の準備でいくらか使ったが、俺の分を差し引いて取り分にするつもりだったが…


「り、凛?」


「なんでしょうか?」


「今手持ちで銀貨が25枚ある。」


「そうですね。」


「今回の依頼を達成したら、準備費用を三等分して俺の分を差し引いて、残りを凛と健の分にしようと思ってるんだが、それで大丈夫だよな?」


「え?何を言ってるんですか?」


「ん?」


「私達が稼いだお金も全て真琴様の物ですよ?私達には必要ないですし。」


「いやいやいやいや!!必要でしょうよ!?日用品とか諸々あるしさ!」


「そういったもので必要なものは真琴様に聞いて許可が出ればその分だけ頂いて買いに行きますよ。」


「まてまてまてま!まが多かった。

じゃなくて!」


俺の言葉に本気でキョトンとしてる。


いや、よくよく考えてみれば、向こうの世界でも凛ってお金も一切使わなかった。

本当に必要な物のみ。せっかく小遣い貰っても全て俺の為に使ってた気がする…部屋なんかめちゃくちゃ殺風景だったし。


健は…分からんが、私物っていう私物を見たこと無い気がする。


「何かいけませんでしたか?」


「いけないというか…2人が働いて正当な報酬が払われたんだぞ?それを受け取らず俺に渡したら変な話だろ?」


「??必要ないですし、真琴様が持っていた方がより効率的に使って頂けると思いますが?」


なんて事だ……この子マジで言ってるよ……


「年頃の女の子ですよ?!あんな物とかこんな物とか欲しいでしょ?!甘い物とかさ!?」


「必要ありませんよ。それは真琴様にとってプラスになる物ではありませんので。」


「お前の行動原理はそこだけか?!」


「勿論です。」


ダメだ…これあれだ。ダメな宗教とかにハマってしまったときのやつだ。


「け、健はどう思うんだ?」


「ん?俺か?まぁ普通に凛と同意見だけど。」


「のぉーーーー!!!」


「な、なんだ?!どうした?!」


「い、いや。今少し俺の世界観が変わってな…」


「何言ってるんだ?」


「なんでもない。気にしないで作業に戻ろう。」


「あ、あぁ?」


ふむ。よし。とりあえず二人が訳の分からん宗教にハマってしまった事は分かった。

とりあえず、この事は三人で一度ゆっくり話し合うとしよう。


「よし。こんなもんだな。」


「ゴブリンだけでこの量だと切り取るだけでも大変だな。」


「百匹はゆうに超えてるからな。」


「帰りは地上を行って残ったゴブリンを少しでも減らしていこう。」


「分かった。」


「シェアはどうやって来たんだ?」


「歩きだ。」


「歩き?!」


「国の大事な馬車を私用に使えるわけが無いだろ。」


「いや、そう言うことではなく、借りるとかさ。」


「私の給金は民の血税で賄われているんだ。無駄遣いなどできるか。歩いて来れる距離なら歩くべきだろう。」


「やべぇ。こいつもやべぇやつだ。」


「じ、じゃあ帰りは私達の馬車に乗っていきませんか?」


「なに?いや、しかし…命の恩人たる皆様の馬車になど…」


「いや、普通に乗ってくれよ。私達だけはいさよならって鬼畜でしょ?」


「そ、そうか。分かった。ありがたく同乗させていただく。」


「それでいい。それじゃあ馬車に向かおうか。」


森の中を進み、いくらかゴブリンを討伐したところで森を抜けた。

隠した馬車を取り出して早速帰路に着く。


「シェアって今は休暇なのか?」


「あぁ。非番だ。」


「普段は何してんだ?」


「訓練や見回り。たまに近隣のモンスター討伐したりだな。」


「城務めなのか?」


「いや、父はそうだったが、私はまだ城の警護は任されていないな。」


「そうゆうのって父親が引っ張ったりしないのか?」


「そんな卑劣な事はできん!私の力でなるべきであろう?」


「ま、真面目だなー。」


「こういう性格だからな。」


「変な奴。」


「う。それもよく言われるな…」


「ま、でも良い奴だな。」


「ありがとう。」


「そういや依頼の報酬なんだがシェアも入れて六等分でいいか?」


「私達はそれでいいですよ。」


「いや、それはだめだ。」


「え?」


「私は命を救われたのだ。報酬など受け取れん。

それに元々報酬に関係なく来たのだ。受け取る訳にはいかない。」


「いや、それはそれだろ?」


「だめだ。いくら言われても銅貨一枚だって受け取らないぞ。」


「な、なんて頑固なんだ…」


「私は自分の仕事で給金を頂いているからな。それで十分だ。報酬は皆で分けてくれ。」


頑として受け取らないと言われてしまうとそれ以上言う事も出来ず、渋々承諾してしまった。

なんというか有り得ない程の不器用だな。


夜が来るとシェアが自分だけで見張りをすると言い出して言いくるめるのに苦労し、なんとかジゼトルスまで帰還した。


「馬車、助かった。それでは私はこれで。」


「元気でなー!」


街に着くとすぐにシェアは降りて何処かに行ってしまった。

同じ街にいるのだしそのうちまた会うこともあるだろう。


「そう言えばマコト達は宿とか取ってなかったよな?」


「あぁ。まだだ。」


「ギルドに報告終わったら私達のいる宿に来るか?安宿では無いが安心だぞ。飯も美味いしな。」


「それはありがたいな。是非頼みたい。」


「任せとけ!じゃあ報告に行きますか!」


「だな。」


ギルドに着いて受け付けに向かうとパルコさんが出てくる。


「あれ?」


「そ、その…私でも宜しいでしょうか?」


「俺達は全然構わないけど…大丈夫なのか?」


「はい!」


「そっか。良かった。これからもよろしく。」


「はい!ありがとうございます!

それで今回は?」


「依頼の達成報告。」


「なるほど!達成報告ですねぇええ?!」


「お、おぉ……」


「えっと…確認しますけど…このBランク依頼を達成してこられたのですよね?」


「そ。」


「……達成ですね?」


「うん。あれ?なんか変だった?」


「えっとですね…Bランクの依頼をこんなに早く終わらせてくるなんて新人には無理な事ですよ?

いくらゴブリンとは言え巣を作っている訳ですし。」


「まぁ大変だったな。死ぬかと思ったし。」


「あれは二度とやりたくないな。」


「危険ですから気をつけてくださいよ?」


「まぁ色々とあってな。次からは気をつけるよ。」


「分かりました。では達成報告を…ギルドマスターに報告しますね。」


「頼む。」


しばらく待っているとパルコさんに呼ばれて個室へGO。


「お!帰ったか!よくやってくれた!!」


「まったく。あんなキツイ仕事だと思わなかったぞ?!報酬弾んでくれよ?」


「分かってる分かってる!それで?どんな感じだったんだ?」


「討伐成果か?えっと…」


「ゴブリンが152体、シャーマンは15、アーチャー30、ウォーリアー8。そしてオーガ2体の討伐です。」


「さすが凛さんです。」


「……え?」


「えってなんだよ。聞こえなかったのか?」


「いや、なんかおかしな数や名前が聞こえてきたんだが…オーガ?」


「あぁ。二体いてな。」


「倒したのか?」


「あぁ。後で提出するけどちゃんと証明部位も持ってきたぞ。」


「…上位種だけで50近くいたのか?」


「そうなるな。」


「…………」


「??」


何故かギリヒが石像化しているが。


なにか悪い事でもしたのか?


「討伐数が少なかったか?確かに全滅は出来なかったしな…依頼失敗扱いか?」


「んなわけあるかーーーー!!!!」


「び、びっくりした…」


「オーガだって?!それに全部で200近くのモンスターを5人でやったのか?!」


「正確には6人だけど。」


「納得出来るかぁーー!!」


「いや、証明部位は持ってきたぞ?」


「いや、信用してるが納得は出来ん!」


「言ってること無茶苦茶だな。」


「お前達のやったことの方が無茶苦茶なんだよ!!」


「え?そうなのか?」


「どこにこの短時間でオーガ含めた巣を破壊して帰るやつがいるんだよ!!?」


「いや、ここに。」


「はぁ…あのな。その成果だとAランクは確実にいくパーティーの成果だぞ。」


「うげっ!!マジかよ?!」


「下手したらSランクに相当するぞ。」


「いきなり目立つ?!」


「はぁ…いや、まぁ成果を伏せておけば目立つ事は無いが…ランクCじゃおかしな話になっちまうだろ。」


「マジかー…」


「いきなりAランクには出来ないがとりあえずBランクにする。ここにいる全員だ。」


「お、おぅ…」


「はぁ…まぁいい。パルコを呼んで話をしたら証明部位はパルコに渡せ。


1時間位で討伐報酬と合わせて報酬を渡す。」


「分かった…」


部屋に来たパルコに証明部位を渡し、ギルドを出る。


「ま、まさかいきなりBランクとは…」


「ギルドマスターの驚いた顔面白かったな!」


「ジル達は驚かないのか?」


「まぁあの成果ならそう言われると思ってたからな。」


「先に教えてくれよ…」


「やっちまったもんを取り消すことは出来ないだろ?」


「いや、そうだが。」


「まぁそんなに気にするなよ!

それより宿に行こう!」


「そうだな。気にしてても仕方ないしな。」


気持ちを切り替えてジル達の泊まっている宿に向かう。

ギルドからそれ程離れていない場所に宿があり、店の前に小学生くらい、青髪ショートヘアの女の子が箒を持って立っている。

背は小さくていかにも騒がしい感じの子だ。噂好きって感じだ。


「あ!おかえりなさい!ジルさん!ガリタさん!」


「ただいま。テイジ。」


「そっちの皆さんは?」


「客だ。」


「やった!お母さーん!!お客さん!」


「はいはい!」


中に入ると青髪ロングヘアで、髪を頭の上でまとめ、少しふくよかだがデブではない感じの女性が対応してくれる。

母子でよく似た顔立ちだ。


「どうも。三人なんだが泊まれるか?」


「3人ですね。えっと…一部屋になってしまいますが、宜しいですか?」


「大丈夫です。」


「え?!凛さん?!」


「大丈夫です!!」


「良かった。一泊一人大銅貨一枚です。

まとめて泊まる分を払っていただけると安くなりますよ。」


「それなら一人銀貨一枚だとどれくらいになる?」


「10日と1日ですね。」


「じゃあとりあえずそれで。あと少し大銅貨に両替頼めるか?」


「大丈夫ですよ。」


「助かる。更に泊まりたい時は都度払えば良いのか?」


「はい。ですが一度出てしまうと部屋の取り直しになりますので気をつけてください。」


「他に待ってる人がいたら無理になるってことか。分かった。」


「確かに銀貨3枚受け取りました。

部屋は2階の左手2番目の部屋です。1階では食事も出来ますので是非利用してください。」


「夜もやってるのか?」


「はい。お酒も出しますのでどうぞ。」


「ありがとう。」


未成年の飲酒は法律で禁止されています。


日本では。


「荷物無いんですか?」


「えっと、確か…」


「テイジ!私はテイジ-フォルト!さっきのはお母さんでピーリル-フォルト!よろしくね!」


「よろしく。俺は真琴、こいつが健。そんでこれが凛だ。」


「変わった名前だね?」


「遠くから来たからな。」


「へぇ!それにしてもリンさん綺麗だね!!」


「そうですか?」


「うんうん!すっごく!それと……」


テイジは凛の耳に顔を近づけてこしょこしょと何かを言っている。

ボンッと聞こえてきそうな程瞬間的に顔を真っ赤にした凛。


「……テイジはいい子ですね。」


「何を言われたんだ?」


「女の子の秘密です!」


「秘密です!」


「お、おぉ…」


「それより早く部屋に入らねぇか?」


「だな。」


本来ならここでテイジが荷物持ちをしてチップを貰うところなんだろう。

最初に荷物ないか聞いてたし。


「なんかよくわからんが凛が上機嫌だしよくやってくれた。これはそのお駄賃だ。内緒だぞ?」


「いいの?!」


「あぁ。」


大銅貨一枚渡してテイジの頭を撫でてやる。


「やった!ありがとうマコトさん!」


「気にするな。それよりお母さんにバレないようにな?」


「うん!」


なんか悪い事させているみたいだが、まぁ可愛いし良いだろ。

部屋に入るとベッドが四つあり、割と広々としている。


「割と広いですね。」


「安宿じゃないとか言ってたがかなり安いしな。一日千円て。」


「日本とは物価も違いますからね。こっちでは安い所では一日百円くらいで泊まれますよ。」


「すげぇな。となるとテイジには少しやりすぎたか…?」


「え?」


「いや、なんでもない。

それよりちょっと三人で話したい事があるんだが。」


「なんだ?」


「お金の話なんだが。」


「前に話してたやつか?」


「あぁ。報酬の受け取りとか金の管理とかの話だ。」


「話っても…何が気に入らないんだ?」


「いや、気に入らないと言うより納得出来ないんだよ。」


「別に俺達が良いって言ってんだからいいんじゃないか?」


「うーん…」


「正直俺達が貰っても使わないし邪魔なだけだぞ?」


「そうですね。使えと言われても…」


「なんて無欲な子達なの?!欲しいものとかあるでしょ?!」


「口調変わってんぞ。」


「ほしいものですか……」


「うーーーん…………」


「そんなに無いの?!」


「強いて言うなら…飯か?」


「あと飲み物くらいですかね?」


「それは欲しいものとは言いません!」


「んなこと言われてもなー。」


「よし!決めた!」


俺は銀貨を十枚出す。


「2人にはこの銀貨を5枚ずつ渡します。それで銀貨2枚で今日中に自分の為に使って好きな物を買ってください!」


「と、突然言われましても…」


「これは必要な事です!」


「わ、分かりました…」


「残った3枚は有事の時の為に自分で管理すること。もし何かあって必要な時はそれを使いなさい。」


「分かりました。」


「それじゃあとりあえずギルドに戻って報酬を受け取り、その後街の散策だ。」


「はい!!」


とりあえず二人は報酬を受取ならないから俺が一括で管理することにした。

まずはお金を使う事から始めなければ。


「お、来たか。そろそろ行くか?」


「あぁ。それより報酬貰ったらちょっと街の散策しに行かないか?」


「良いね!ばぁっと行こう!」


「うんうん!そうだよな!」


「??」


歩いてギルドに向かい、パルコさんの元に向かう。


「あ、お待ちしておりました。こちらへ。」


何故か別室に通される。

普通皆カウンターで受け渡しされて終わりなんだが。


「それでは報酬をお渡ししますが…」


「なんだ?」


「今回の報酬は白金貨十枚です。」


「ブーーー!!」


ジルが口から汁出してる。これぞ…やめておこう。女性だし。


「は、白金貨?!」


「渡して頂いた魔石も換算されていますので。」


白金貨二枚。つまり、約一千万の大金です。


一人頭二百万。


「白金貨二枚……つまり金貨20枚…」


「これって報酬としては凄いよな?」


「普通ありえないぞ!?」


「本来設定していたランクよりも難易度の高い依頼になってしまいましたので、その分もプラスされています。

報酬は直ぐにお渡しできますが、どうしますか?」


「俺達三人の分は金貨30枚、銀貨300枚で用意できるか?」


「すぐに。」


「じゃあそれで頼む。」


「かしこまりました。」


「わ、私達も金貨半分残りを銀貨でお願いします…」


「分かりました。すぐにお待ちしますね。」


パルコさんが一時退出する。


「す、凄いな…」


「一度の依頼でこんなに…」


「運が良かったな!!」


「そ、そうだな。」


「お持ちしました。」


「ありがとう。」


異空間収納に入れる。


「?!」


「マコト?!」


「あ、しまった。つい。」


「お前異空間収納使えるのか?!」


「まぁな。皆には内緒にしてくれないか?」


「それは構わないが…」


「あのー…パルコさん?」


「はっ!し、失礼しました!」


「さっきからパルコさん業務的だしなんか変ですよ?」


「こ、こんな大金扱うなんて初めてなので…」


「あぁ…」


「そこにきて異空間収納を見せられたから完全に処理出来ずにって事だな!あはは!」


「お恥ずかしい…」


「いや、気持ちは分かるぞ。私達も最初は似たようなもんだったからな!」


「マコトさんですし…」


「遂にガリタまで?!くそー…」


「ふふふ。」


「あ、パルコさん笑った!」


「し、失礼しました!」


「あれから初めて笑顔見せてくれたな!やりぃ!」


「え?」


「いやー!良かった良かった!ずっと緊張してたもんな!」


「筋肉バカが気持ち悪かったんでしょうか。」


「やかましいわ!」


「ま、こんな奴らだからそんな緊張しないでよ。楽しくいきましょ。」


「……はい!」


「あ、そうだ。パルコさんていつまで仕事なの?」


「えっと…あ、既に時間過ぎてますね。」


「じゃあ一緒に街の散策にいかない?私達これから街に繰り出すつもりなんだけど。」


「い、良いんでしょうか?」


「私達が誘ってるの。」


「…ぜひ!」


「決まりー!!じゃあ待ってるから声掛けて!」


「はい!」


部屋を出て椅子に座る。

別室に通されたのは金額がでかかったからか。


「お待たせしました!」


「パルコさん制服脱ぐと印象変わりますね。」


「そうですか?」


「可愛いです!」


フワフワした服が可愛さを引き立てているのだろう。


「そんな服私には無理だから羨ましいよ。」


「そうですか?ジルさんなら似合うと思いますけど。スタイルも良いですし。」


「私は性格的に無理だってこと。こんな男勝りじゃ似合わない。」


「ふふふ……」


「ガリタ?」


「いいこと考えました。」


「なんか嫌な予感しかしないが?」


「さ、行きましょう。まずは服屋ですね!」


「ま、待て!着ないぞ?!わたしは絶対着ないぞ?!」


強制的に着せられるんだろうなー。


とりあえずついて行く。

パルコさんも楽しそうだ。

服屋に入ると男物も沢山置いてある。

せっかくだし替えの服無いから買っていこう。


「ま、待て!やめてくれ!やめてぇー!」


聞かなかった。そう俺は何も聞いていない。


「健も替えの服選べよ。必需品だから凛と健の分はきっちり払うから。」


「つまり自分で使う銀貨2枚には含まれないってことか。」


「もちろんだ。」


「くそー。」


「これなんてどうだ?お前黒好きだろ?」


「なんでもいいけど動きやすい物が良いな。」


「んー。そんなら…」


「凛さんはどんな服が好きなんですか?」


「んー…割とシンプルな物が好きですかね。」


「凛さんならなんでも似合いそうな気がしますけど…これなんてどうですか?」


「ワンピースですか?さすがに花柄は派手じゃないですかね?」


「ちゃんと着飾らないとマコトさん振り向いてくれませんよ?」


「なななにを?!」


「ふふふ。目を見てれば分かりますよ。いつからですか?」


「パルコさん?!」


「いいじゃないですか!」


「うー…ずっと昔からです…」


「きゃー!素敵ー!ずっと想ってるんですか?!」


「はい…」


「マコトさんは鈍そうですしもっと積極的にはアピールしないとダメですよ!」


「わ、私は従者ですのでそんな…」


「なにを言ってるんですか!愛の前にそんなものは関係ありませんよ!」


「そ、そうですかね…?」


「はい!なのでどんどんアピールしないとです!ほらこれなんてどうですか?着てみてマコトさんにどうか聞いてみたら良いんですよ!」


「は、恥ずかしいですよ…」


「そんな事言ってたら誰かに取られちゃいますよ?!」


「そ、それは…」


「ほら早く着て着て!」


「う、うぇ?!」


「あ、凛さんも何か見つけたんですか?」


「えぇ。そうみたいです。そっちはどうですか?」


「ジルがそろそろ出てきますよ。」


「うー…ガリター。」


「隠れてないで見せて!」


「うわ!やめろ!」


「おう…可愛い!」


「やっぱり似合いますね!マコトさん!ケンさん!どうですか?!」


「ま、まて!呼ぶな!」


「ん?おぉ!こりゃ眼福だな!」


「スカートなジルも素晴らしいな。」


「は、恥ずかし過ぎる!」


「でもそれ着て外出ると男が寄りすぎないか?可愛過ぎるだろ?」


「か、かわっ?!」


「そうですか?ジルの魅力に気付かなかった人達なんて無視です無視!」


「ガリタはジルの事になると熱いな。」


「はい!ジルですから!」


「なぁもう着替えていいか?」


「何言ってるの?今日はそれ着て散策に行くんだよ?なんの為に着せたと思ってるの?」


「な、なにぃ?!聞いてないぞ?!」


「前の服は既に没収済みだよ。」


「か、返してくれ!」


「マコトさん。」


「よし来た。」


「収納するなー!」


「遅い!!」


「うわー!」


「ふふふ。私もなにか買っちゃおうかしら?」


「パルコさんもスタイル良いですしなんでも似合いそうですね。」


「あら、ガリタさんもでしょ?」


「私は…」


「せっかくだし2人でなにか選びましょ?」


「……はい!」


シャー…


「…………」


「………」


「あ、あのー…どうですか?」


「可愛いーーーー!!!凛さん可愛過ぎ!!」


「そ、そうですか?」


「うん。俺も似合うと思うぞ。ワンピースなんて初めてか?俺は好きだな。」


「本当ですか?!」


「え?うん。嘘言ったりしないって。」


「やりましたね!」


「はい!」


「俺の感想はいらないのか?」


「え?聞いて何になるんですか?」


「ですよねー…分かってたけど…ですよねー。」


「それより私の服を…」


「あれ?真琴様服買われるんですか?」


「ん?あぁ。普段着とか欲しくてな。着替えもないし。」


「私が選びます!」


「グイグイ来る?!」


「良いですか?!」


「別に構わないが…」


「お任せ下さい!」


あ、しまった。これ長いやつだ。


「いや、これではない気がしますね…こっち?いやいや…うーん…悩ましい…」


「な、なんでも良いぞ?」


「真琴様のお召し物ですよ?!なんでもいいなんて事はありません!」


「あー…」


結局パルコさんは少し大人しめのスカート、ガリタは肩が見える様なちょっと大人な服を購入。そのまま着ていくらしい。


因みに健はパルコさんが選んだ服を買っていた。

健も服装どうでもいい人だからお任せコースだったらしい。


「うー…恥ずかしー…」


「ジル!そんな風に歩いてたら逆に目を引くよ?」


「そんな事言われても…なんかスースーして頼りない感じが…」


いつもとは逆にガリタの背に隠れる様にジルが着いてきている。


なかなか面白い光景だ。


ガリタは服を筆頭に買い物が好きらしく色々な店を知っていた。

屋台で美味しい串焼きを紹介してもらって食べ歩いて、小物屋さんに入ってぶらっと見回ったりと特に女性陣、まぁパルコとガリタが特に盛り上がっていた。


「あ!ここの小物屋さん凄く可愛いんですよ!」


「そうなんですか?!入ってみましょう!」


「買い物時の女性って絶対身体強化かなんかの魔法使ってるよな。」


「それ俺も思う。」


「俺達はここで待ってるから見てこいよ。」


「はーい!」


「はぁ…体もたねぇ…」


「わかるわー…」


「いや、ジルは行ってこいよ。」


「無理だ。絶望だ!」


「なんだそれ。」


「それにしてもパルコさん来てくれて良かったな。」


「あぁ。大分打ち解けてくれたみたいだしな。ジルのおかげで助かったよ。ありがとな。」


「あんくらいなんでもないっての。変な気を使うなっての。」


「あぁ。」


「話は変わるけどマコト達って遠いところから来たんだろ?」


「あぁ。」


「こっちになんか用があってきたのか?」


「ちょっと人を探しててな。」


「人探し?」


「フィルリアって人なんだが。」


「フィルリア…?もしかしてフィルリア-ラルフか?!」


「え?!知ってんのか?!」


「知ってるも何も…この街唯一のSランク冒険者だぞ。」


「え?!そうなのか?!ってか冒険者?!」


「あぁ。確か私がまだガキの時にこの街に来た人で、当時は周りに国の奴らとか来てたらしいけど、今じゃそれも無くなったみたいだし普通に冒険者してるぞ?」


「会ったことあんのか?」


「会ったって言うより見ただけだな。超絶美女の魔道士として有名だし、皆一度は見た事あるんじゃないのか?」


「まさかこんな近くにいたとは…」


「知り合いだったのか。」


「まぁ一応な。と言っても向こうが覚えてるか分からんが。」


「会うにしてもいつも依頼で飛び回ってるからなぁ…」


「まぁ気長に待つしか無いか。」


「それより健の奴どこ行ったんだ?」


「さっき凛達の方に歩いてったぞ?」


「なんか欲しいものでも見つけたか?」


「かもな。なんか店員に聞いてたし。」


「それはいい事だな。うん。実に良い。」


「お、出てきたぞ。」


「どうだった?」


「はい!素晴らしかったです!」


「そいつは良かった。日も落ちてきたしそろそろお開きにするか。」


「はい!」


「パルコさんはどの辺に住んでるんだ?」


「ここからだとすぐそこですよ。」


「そうなんだ。送ってから帰りますか!」


「え?!そんなの悪いですよ!本当にすぐそこですし!」


「何かあったら困るしパルコさん一人じゃ何も出来ないでしょ?ほらほら。行くよ!」


「は、はい。ありがとうございます!」


結局強引に送り届け、俺達も宿に戻る。


「おかえりなさい!」


「ただいま。テイジはいつも元気だな。」


「看板娘だからね!」


「そうかそうか。」


「わぁ!ジルさん可愛い!!」


「うるさい!」


「えぇー。褒めたのにー。」


「私は着替える!ガリタ行くよ!」


「ふふ。自分の服を返してもらうの忘れてますね。」


「余程恥ずかしいんだな。はい。返しとくな。

今日はありがとな。」


「いえいえ。こちらこそ楽しかったです!」


「おっと、ほい。忘れる所だった。テイジにはお土産。」


「わぁ!ありがとう!」


「屋台で買ったもんだけど、お母さんと食べてくれ。」


「うん!お母さーん!」


「さてと、俺達も部屋に行くかね。」


「流石に疲れたなー。」


「あれだけ歩き回るとなー。ベッドにダイブがこれだけ気持ちいいとは……はっ!忘れるところだった!二人共お金は使ったか?!」


「はい!」


「もちろん。」


「うむうむ。宜しい。」


「という事で、はい。」


「なんだ?」


「俺から真琴様にプレゼントだ。」


「は?!自分のために使えって言ったろ?!」


「私も受け取って下さい。」


「凛もか?!」


「んー、やっぱり俺達にとっては真琴様に使う事が自分達の為だしな。」


「私も同じ意見です。」


「ぐはぁ……まったく……」


「も、申し訳ございません…」


「いや、別に怒っちゃいないけどさ…」


「それより開けてくれよ!」


「そうだな。せっかくだしな。どれどれ。健は…」


箱を開けるとブレスレットが入っていた。

銀の実にシンプルなやつだ。

中央に小さな水色の宝石が入っている。


「そいつは守護魔法が発動する様に組まれてる魔道具だ。一度しか使えないってのが残念だが身を守るにはあった方が良いと思ってな。」


「そっか。さんきゅな。大事にするよ。」


「いや、危ない時は使ってくれよ?」


「分かってる。使わなくて良いように気を付けるさ。」


「あぁ。」


「凛は……指輪?」


こちらも銀で出来た大きめサイズの指輪だ。

中央に緑色の石が埋め込まれている。


「その…健と被っちゃいますけど…親指にはまるサイズで守護魔法が発動する様に組まれてる指輪です…」


「へぇ!嬉しいな!ありがとな!」


さっそく着けると両方ピッタリ。


「サイズピッタリだな。」


「真琴様の事ならなんでも知ってますので。」


「お、おう。」


「喜んでくれて良かったです。」


「そりゃ二人からのプレゼントだぞ?喜ばないわけないだろ。」


「ふふ。ありがとうございます。」


「さてと。そんじゃこっちの番だな。」


「「??」」


「どうせ二人のことだからそんな事だろうと思って俺から二人にプレゼントだ。」


「え?!」


「マジかよ…」


「あ、開けてもよろしいですか?!」


「もちろんだ。」


「わぁー!!」


健に渡したのは外套。

魔法防御の効果が着いた魔道具だ。


「外套?」


「あぁ。首の所に魔石が着いてるだろ?」


「赤い魔石が入ってるな。」


「そいつを2回叩いてみろ。」


コンコン


「うう?!」


外套から炎が走り、健の周りを漂う。


「これは…真琴様の魔法?」


「そっ。俺が作った。」


「え?!いつ?!」


「昨日の夜。野営の見張りの時に。っても外套はさっき買って取り付けただけだけどな。」


「そ、そんな簡単に作れるものじゃないだろ…魔道具って…」


「っても出来ちまったし。」


「真琴様って…」


「私の方はネックレスですか?」


凛に渡したのはネックレス。

こちらに来る時に砕け散った物の代わりだ。

シンプルなデザインで透明な魔石がはめ込まれているだけだ。

これもこっちに来てペンダントにはめ込んで貰った。

魔石さえあれば魔道具の機構を埋め込む事が出来るからどっちも夜中に作っておいたものだ。


「そいつは魔力を少し流し込むと発動するタイプだ。」


「えっと…こうですか?わ、わわわ!」


凛の周囲に風の防壁が展開される。


「これは…風魔法?!」


「嘘だろ…」


「なんだ?どこに驚いたんだ?」


「風魔法というのは、特定の人物にしか使えないとされている魔法です…」


「え?そうなん?」


「はい…私も今までに風魔法を見た事はほとんどありません…」


「そうなんか…まぁでも相手にはバレないし大丈夫だろ!」


「そう言うことなのか?!」


「え?違うのか?」


「ふふふ。真琴様らしいです。

それにしても風魔法というのは無属性魔法だったのですね。」


「空気を動かすだけだからな。他の魔法より簡単なくらいだと思うぞ?」


「そうなんですか?んー…使えそうに無いですけど…無属性に適性が無いんですかね?」


「いや、魔法を使えるなら誰でも使えるぞ。」


「え?」


「無属性魔法ってのは今まで無意識的に使ってた魔法で、補助的な物が多いんだよ。」


「補助ですか?」


「例えば飛ばす。とか纏わせる。とかな。」


「??」


「水球を作るとするだろ?」


「はい。」


「その水球ってなんで浮いてんだ?」


「え?いえ…魔法だから…ですかね。」


「違うんだよ。無意識に重力と同等の力を反対方向に向けて使ってるからだ。

そいつを飛ばそうとした時も飛ばそうとする力はどっから来るんだ?」


「それが無属性魔法ということですか?」


「そゆこと。まぁそれだけじゃないけどな。」


「確かにそう考えてみると動かすという魔法を使っている気がします。」


「それを上手く取り出して考えると、空気を動かすことも出来るだろ?それが風魔法。」


「なるほど…真琴様って本当に凄いです!」


「そうか?自分じゃよく分からんが…」


「凄いんです!」


「あ、ありがとう。」


「はい!」


考えついた案を試しているだけに過ぎないが、褒められると嬉しいもんだ。


気分上々で布団に入ったのは良いが…


「ん……」


朝か……ん?なんか…なんでか左側が暖かい気がするな…

それになんかいい匂いもするし。

いや、まてよ。この匂いどこかで…


そっと目を開くと目の前にドアップの凛の寝顔があった。


「ーーーー?!」


声にならない叫び声を上げた。


実は、これは初めてのことでは無い。


日本で生活していた時にもたまにあった。

部屋は別々だから間違いなく分かっててやっているはずだが、起きると白々しく驚いた振りをして部屋を出ていく。


「おい!凛!」


いつもはまぁ良いかと忘れていたが、今回はそんな訳にはいかない。


健も同じ部屋で寝ている。


「おい!」


「ん……」


凛を起こそうとしたのに健に反応が?!


固まる俺。

ムクリと上体を起こし、俺と凛を半開きの目で見る。


「あ……いや……これは……」


「…………」


「………」


バタッ


上体を戻して寝たフリをする健。


「待て待て!おかしいだろ?!」


「いや、そのー。見てはいけないのかとな。」


「朝起きたら隣にいたんだよ!」


「まぁ、その。なんだ。俺は気にしないから。」


「気にしてくれー!」


「んん…

………真琴様?」


「おはよう。凛。」


目を覚ました凛は俺と健を見て……二度寝。


「っておい!」


「あれー。おかしーなー。」


棒読み全開でベッドから出ていく凛。


絶対わざとだ。わざとに違いない!


「何故ここにいたんだ?!」


「………何故でしょうか?」


「俺が聞いてるの!」


「なにか引力的なものを感じませんか?」


「感じんわ!!俺は磁石か何かか?!」


「はっ!!なるほど!!」


「違うわ!!」


「まぁまぁ。隣に寝てたくらいでそんな怒るなよ。昔は2人でずっと寝てただろ?」


「そうですね。私は寂しいです。」


「待て待て。いつの話だ。」


「あっちに行く前の話だな。」


「ね!ん!れ!い!年齢考えろ!!」


「私はいつでもウェルカムなのですが。」


「女の子がそんな事言っちゃダメ!!」


「いえ。真琴様限定ですので。健が来たら生きている事を後悔するまで地獄を見せますよ。」


「ひでぇ…いや、行く気は全くないが俺の扱いが酷すぎるんだが…」


「真琴様と健では全てにおいて格が違いますから。男として。いえ。人として?生命体として?」


「その疑問文は俺の精神力を削っております!」


「分かってますよ。」


「確信犯!?」


「いやいや、そんな事じゃなくてさ!こっちの問題!」


「そんなことより今日はどうしますか?」


「そんな事……」


「フィルリアさんがここに居ることは分かりましたし離れる事は出来ませんよね。」


「はぁ……」


「となれば冒険者として依頼こなしていくのか?」


「暫くは冒険者として依頼をこなしていくしかないな。方々から追われている事を忘れずにな。」


「分かった。」


「そう言えばフィルリアさんってのは昔から冒険者なのか?」


「違いますよ。元々は魔法学校の教師です。」


「魔法学校なんてのがあるのか?」


「はい。この街にもありますよ。」


「へぇ。でも教師から冒険者ってかなり思い切ってるな。」


「フィルリアさんは私達と出会った時は教師でしたが、その前は冒険者をやっていたそうなので、戻った。と言った感じではないでしょうかね。」


「それで今はSランク冒険者だろ?なんか凄い経歴だな。」


「そうですね。あの人柄ではあまり考えられませんね。」


「どんな人なんだ?」


「喋り方や仕草はおっとりしてますね。」


「怒るとすげぇ怖いけどな。あの静かに相手を追い詰めていく感じは背筋が凍るぜ。」


「へぇ。」


「怒られるのは健だけです。

基本的に凄く優しい方なので私は怒られませんでした。」


「言われてみれば……真琴様は溺愛されてたからなぁ。」


「そうなのか?そんな学生を差別して非難とか無かったのか?」


「私達は魔法学校に行って出会ったわけではないので。」


「え?!違うのか?!」


「真琴様はもっと早くから魔法を自在に扱ってましたので。それを見て声を掛けてくれたんですよ。」


「思い出せねぇ…」


「記憶は抜き取られてますから思い出そうとしても無理ですよ。」


「そりゃそうだ。」


「それで?今日は具体的にどうする?」


「とりあえずジル達に声を掛けてからギルドに行こう。」


「分かった。」


支度を整えて外に出るとちょうどテイジが俺達を呼びに来ようとしていた所だったらしく頭を扉にぶつける。


「あてててて…」


「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか?!」


「ちょっとぶつかっただけだから平気だよ!」


「良かった…」


「朝食の準備が出来たから呼びに来たの!」


「そっか。ありがとな。」


「うん!」


下に降りるとジルとガリタが既に朝食を摂っていた。


「あ!おはよー!」


「おはよ。」


「こっちこっち!」


「朝から元気だなー。」


「私の取り柄の一つだからね!」


「昨日のしおらしさはどこにいったのやら。」


「やめてくれぇ!思い出させるなぁ!」


「ま、でもたまにはあぁいう格好も悪くないだろ?」


「ま、まぁ…その…たまになら。」


「ふふふ。」


「たまにだ!たまに!極稀にだ!」


「またまたー。」


「やめてくれぇー!」


「はいどーぞー。熱いから気をつけてねぇ!」


「お!うまそー!いただきまーす!」


「「いただきます。」」


「気になってたんだがそのイタダキマスってのはなんなんだ?」


「あー。そっか。こっちには無いのか。」


「私達の来た所では食べる前に食材や料理してくださった方等に感謝を込めて食前にいただきます。食後にはご馳走様でした。と言うんです。」


「へぇ。変わった風習のある所から来たんだな。

こうか?イタダキマス!」


「少しイントネーションが違いますけど、要は気持ちなので大丈夫ですよ。」


「面白いな!」


「面白いか?」


「知らない土地の風習とか聞く機会なんて無いからな!」


「なるほど。確かに俺達もこっちに来て色々面白いと思うところがあるしそれと一緒だな。」


「それより今日はどうしますか?」


「せっかくランクも上がったし依頼でも見に行かないかって話してたんだがどうだ?」


「私は構わないぞ。疲れも取れてるしな。」


「私も大丈夫です。」


「んじゃ朝食終わったら早速行ってみるか。」


「あ!おはようございます!」


「パルコさんおはよー!」


「昨日はありがとうございました!」


「いえいえ。私達も楽しかったですよ!」


「今日はどうしましたか?」


「ランクも上がったしなんか依頼受けようかなってさ。」


「昨日の今日で仕事ですか?!」


「大丈夫大丈夫。体調管理はしっかりしてるから。」


「それなら良いですけど…」


「なんか肩慣らしくらいの程よい依頼とか無いかな?」


「そうですね…これなんてどうですか?」


「えっと…採取依頼?Bランクでは珍しいな。


ホーリン草の採取か。」


「ホーリン草?」


「中級回復薬の原料となる植物だ。」


「中級回復薬…?」


「これも知らないのか…?」


「あははー…」


「まったく…回復薬には下級、中級、上級があって、基本的に使用しているのは下級回復薬だ。こいつは怪我を完治するが、欠損となる怪我までは治らない。」


「ほう。」


「中級になると部位欠損は完治するが、死に至る程の怪我は治らず、上級になるとそれすら治る回復薬となるんだ。」


「じゃあ上級持っとけば良いよな?」


「そんな簡単に手に入るもんじゃない。まず数がめちゃくちゃ少ない。素材が希少な上に基本的に超危険な場所にしか咲かないからだ。」


「高そうだな…」


「今の私達じゃ手が出せないくらいするぞ。」


「うげっ。そいつは無理だな…」


一千万あっても買えない代物か…まぁ全ての傷が生きてさえいれば完治するとなると欲しがる人はいくらでもいるわな。


「中級回復薬もそれなりに希少だし高いぞ。一本で白金貨一枚は必要だからな。」


「マジかよ…」


つまり百万。でも欠損が治ると考えたら安いのかもしれない。


「もちろん中級回復薬の素材であるホーリン草もそれなりに危険な場所に生えてる。」


「それでBランク依頼ってことか。」


「そうゆうことだ。討伐が依頼じゃなければ戦闘を避ける事も出来るし無理しなくて済む依頼だけどな。」


「なるほどなー。因みに下級回復薬は?」


「割とどこにでも生えてるし手に入りやすいぞ。」


「下級回復薬の原料であるブルダック草の採取はEランク指定の依頼ですよ。」


「へぇ。知らんかった。」


「冒険者にとってというより人にとっての基礎知識だから知ってて当然だぞ?」


「あははー…

あれ?ギリヒって顔に傷あるよな?治さないのか?」


「回復薬ってのは傷を受けてから一定時間内に使わないと効果が無いんだよ。」


「どれくらいなんだ?」


「正確には分かっていないが大体30分くらいだ。上級回復薬に至ってはそんなに待てない傷になるから実質はもっと早いけどな。」


「結構短いな。」


「だから回復薬の買い付けは多めにするんだ。」


「なーるほど。」


「で、ホーリン草の採取となると…どっかで見つかったってことか?」


「ん?見つかったって…同じ場所に生えないのか?」


「ホーリン草と上級回復薬の原料であるヤロカ草は同じ場所には生えない。稀に見つかる事があってそれを採取するんだ。」


「そんなんだと確率低くないか?」


「仕方ないんだよ。生態なんて一切分かっていないし、養殖も出来ないんだ。」


「つまり見つけ出すしか無いわけか…」


「そうゆうことだ。大体は偶然が重なって見つかる事が多いんだが、危険な場所という事が多いし冒険者への依頼となるな。」


「その通りですね。今回は北にあるドルコト山で見つかりました。」


「ドルコト山?」


「ここから三日くらい馬車で行ったところにある活火山だ。」


「活火山かよ…」


「標高的にはそれ程高くは無いですが、活火山でグツグツしてますので結構暑いです。」


「そんな所のモンスターって火に強いんじゃないのか?」


「はい。」


「俺役に立たなくね?」


「大丈夫ですよ。真琴様ですし。」


「だな。マコトだから大丈夫だろ。」


「なんなのこの感じ?!」


「もし受けられるのでしたら暑さ対策はもちろんですが、呼吸についても気を使ってくだいね。」


「あぁ、そっか。ガスな。」


マグマからは有毒なガスが発生する。

吸ったら1発でアウト。


「有毒ガスなんかは回復薬じゃ治らないからな。」


「解毒薬とか無いのか?」


「もちろんあるし揃えていくが、その前に呼吸出来る装備を揃えないといけないな。」


「マスク的なやつか。」


「魔道具屋で普通に買えるからそれは問題無いな。」


「じゃあとりあえず受けてみるか。」


「承りました。

あの、私からの助言では無いですけど…お願いなんですが…」


「なんだ?」


「予備の武器や防具をしっかり整えて下さいね。」


「予備か。」


「私達はあるけどマコト達は無いのか?」


「手持ちが無かったからな。」


「じゃあ今日はそれ含めて準備、明日出発でどうだ?」


「よし。それで行こう!」


「決まりだな。」


二日続けて街に繰り出すことになるとは思っていなかったが、ジルとガリタ曰く、準備を怠る事はその分死に近づくということらしい。

言っていることもその通りだと思うし準備をしっかりしておくことで回避出来る危険もきっとあるはず。

手を抜かずにしっかり準備しよう。


回復薬、解毒薬、必要な物はしっかり買い付ける。

もちろんケチったりしない。


次に向かったのは魔道具屋。


「へぇ。ここが魔道具屋か。」


「なんか見た目じゃ何に使うか分からんもんも沢山あんな。」


「真琴様は気になるんじゃないですか?」


「確かに気になる。が、まぁ今回はお預けだな。」


「というか真琴様なら作れるんだし要らないんじゃないか?」


「そんな事は無いよ。他の技術を見るのは凄く勉強になるからな。」


「真琴様がですか?」


「お前は俺をなんだと思ってるんだよ。」


「真琴様。」


「なんか今代名詞的な使い方に聞こえたか気がするが…まぁいい。」


「今回は有毒ガスの対処が可能な魔道具を買うんでしたよね。」


「いくつかあるが、長期使用にも耐えられて品質も保証されるとなるとやっぱりこれだな。」


口と鼻をしっかりと覆い隠し、後頭部でしっかりと固定できるタイプのまさにマスク。


「これを一人二つだな。」


「予備だよな。そんなに高くないんだな?」


「下水とかの仕事だったり鉱山なんかの仕事だと有毒ガスとはよく出会うだろ?

だから量産されてるんだよ。」


「仕組みも簡単らしくて安く売ってるんですよ。」


「へぇ。じゃあ数を揃えて次に行くか。」


「真琴様。そろそろ昼時ですが。」


「あれ?もうそんな時間か。」


「昼食とったら最後に装備を揃えに行こうか。」


「はい!」


近場で簡単な昼食を済ませ、装備を整えに行く。

装備品は冒険者含めモンスターのいるこの世界では需要が高い物の一つだ。

その為店もかなり多くどの店が良いのかさっぱり分からない。


「めちゃくちゃあるな…」


「こうあるとどの店に入ればいいか分からんな。」


「ここは私達が案内するよ。」


「さすが先輩です!」


「まっかせなさい!

えーっと。武器を揃えるならここか、あそこだね。」


「防具ならここですね。」


「じゃあとりあえず防具から行こうか。」


「はい。」


ガリタおすすめの店に入る。


カランカラン


扉に付けられている大きな鈴が鳴る。


「いらっしゃーい。」


店員が直ぐに寄ってくる。


「今日は何をお探しですか?」


「こいつの肩当、胸当て、あと篭手が無いかな?」


「金属製がよろしいですか?」


「どうなんだ?」


「それで頼む。」


「そうなると、このあたりですね。」


ずらりと並んだ防具。

品揃えはかなり豊富らしい。

俺が見てもよく分からない。本人に決めさせる方が絶対良い。


「これだとちと重いな。」


「そうなると…」


「真琴様?」


「ん?」


「私達はどうしますか?」


「そうだな。俺達後衛はどちらかと言うと素早く動いて攻撃を受けない事に徹するし下手に重いものより革製の胸当てとかの方が良いとおうぞ。」


「ガリタさんもそんなかんじですもんね。」


「あぁ。ただ今回はそれに加えて火炎とか熱の対策が必要だからな…お、これなんていいんじゃないか?」


「マントですか?」


「あぁ。黒で色合いも好みだししっかり火炎耐性が付いてるみたいだ。


簡単な炎なら弾いてくれると思うぞ。」


「ならこれにしましょう!」


「だな。3人分買って、革製の防具は自分に合うものを選んだ方が良いかな。」


「分かりました!」


革製の防具にも簡単な耐性が付いている物が多く、かなり迷っていた。

最終的に魔力を微増させる効果のある革製の防具を選んだらしい。

俺は何もついていない革製の防具を購入。


「え?マコト何もエンチャントされていないの買ったのか?!」


「まぁちょっとやってみたい事あってな。」


「革自体も買い込んだな…」


「まさか…マコト…エンチャントを?」


「やってみたいなーって思ってさ。」


「考える事が普通じゃないぞ?」


「出来るかやってみないとわからんだろ?!」


「まずやろうとか思わないからね。」


「出来る気がするんだよなー。」


「何故かマコトがそう言うと出来る気がするのはマコトだからだな。」


「お?ここの隣って素材屋か?」


「そうだな。鉱物とか革とかその他諸々を売ってるぞ。」


「ちょっと見てきても良いか?!」


「いつになく活き活きしてるな。マコト。」


「ちょっといってくる!!」


「は、早いな…」


「あれ?真琴様は?」


「今隣の素材屋に向かったぞ。」


「何か思いついたんですかね?」


「さぁな。マコトの頭の中とか分かる気がしないからな。」


「ですね。私達も早く終わらせて行きましょう。」


「はいよー。」


「どうだ?なんか面白い物でも見つかったか?」


「ん?あぁ。いくつか購入したよ。」


「何に使うんだ?そんな素材。鍛冶屋でも始めるのか?」


「いや、そんなつもりは無いけど使えないかなってさ。」


「真琴様の考えてる事なんて俺には分からんが…とりあえず武器屋に行くって皆待ってるぞ。」


「分かった。すぐ行く。」


「おぅ。」


素材屋で目に付いた物をいくつか買って外に出る。


「真琴様!皆さんあっちの武器屋に行くそうです!」


「分かった。行こうか。」


「はい!」


ガチャ


扉を開けると最初に目に入ったのは無数の武器。

他の店に比べると陳列の仕方…と言うより陳列せずに適当置けるところに置いた感じだ。

雑多な感じだが見る限り物は良さそうだ。


「ここは私の行きつけでね。結構掘り出し物が多いんだよ。全部あそこに座ってる店長が自分で作ってるらしいんだけど、品質は保証するよ。」


「たしかに物は良さそうだな。杖とかもあるのか?」


「もちろんあるよ。ただどこにあるかは…探して。」


「なんか宝探しみたいでワクワクするな。」


「私も前回の戦闘でショートソードが結構痛でるし新調しようかなー。」


「武器は常に満足いく状態じゃないと命とりになるだろ?それに今買わないと金はどんどん無くなるぞ。」


「だよね!よし!新調しよ!!」


飛び跳ねるようにウキウキしたジルは棚の後ろへと消えていった。

オレの持っている杖は別に傷んではいないが、パルコさんの言う通り予備として持っていく必要はあるはず。

元々杖と言うのは魔法を発動する時により効率的に発動を補助してくれる媒体だ。

つまりその能力が高いもの程杖としては素晴らしい物となるわけだが、見ただけで分かるような物では無い。

杖だけでまとめてある。なんて親切心はこの店にはなく、掘り起こして探すという作業が続く。


「お!私はこれにしよー!」


「良いのあったのか?」


「どう?」


ジルに見せられたショートソードは鍔の部分がしっかりしていてかなりシンプルな物だ。

変な飾りが無い分性能は高そうでちょっとやそっとではダメになることは無いだろう。


「良さそうだな。かなりしっかり作ってあるし。」


「だよな?!よし!これにした!」


ガリタは現在の装備で大丈夫らしく見ているだけの様だ。

凛は……何か気になるものを見つけたらしい。


「なんか見つけたな。」


「え?!」


「これか?」


手に取った杖は木なのに綺麗な水色をしている。


デザイン的には簡単な堀柄が施してある程度だが、確かに今まで凛が使っていた物より数段良い物に見える。


「こいつにするか?」


「え?!その…もっと安いので…」


「武器にケチると良くないぞ。ほら。買ってこい。」


「は、はい!」


「健はどうだ?」


「さすがに俺に合うもんは無いな。」


「やっぱり刀は無いか。」


「この際適当に似た様な曲剣でも買っていく方がいいのか?」


「使いにくい剣を買ってもあまり意味ないだろ。」


「だよな…」


「……ちょっと俺に考えがあるから今回は見送ったらどうだ?」


「考え?……真琴様がそういうなら見送るかな。」


「ま、なんか見つかるかもしれないから探してみたら良いさ。」


「おぅ。」


「さてと……俺はどうするかな……ん?」


自分の杖を探そうと歩いて見ていると店の隅、しかもそこにある棚の更に奥の方に何やら不思議なものを感じる。


手を伸ばして棚の奥を探る。


指先に何かが当たる感覚があり、それを掴んで引っ張り出す。

埃を被ってしまっているが杖みたいだ。

ふっと埃を吹き飛ばすと周りに埃が飛んでむせる。


「ゴホッゴホッ!……うぇ。

……なんだこれ?黒色の杖?」


手に持つと何故か凄く馴染む。


「真琴様?」


買い物を終えた凛が俺を見つけてよってくる。


「それ!黒木<こくぼく>の杖ですか?!」


「黒木?」


「はい!名前の通り黒色の木で、普通の木よりも多くの魔力を秘めた木なんです!」


「珍しいのか?」


「はい!とても珍しいです!」


「へぇ。そんなら凛が使うか?」


「ダメですダメです!その木から作られた杖には特殊な効果があるんですよ。」


「特殊な効果?」


「魔力が高い者でなければ握った途端に黒木に弾かれてしまうんです。」


「そうなのか?」


バチッ


凛が触れようとすると電気の様な魔力波が走って弾かれてしまう。


「マジか…」


「なので流通はしてないんです。お金があれば使える物でも無いですしね。

その代わり、その杖は他の杖とは比較にならない性能を持っているんですよ。

一説では黒木の魔力も上乗せされているとまで言われています。」


「へぇ。なんか面白いな。俺、こいつにしようかな。」


「よろしいと思います!」


なんやかんや言って新しい杖は嬉しいもんだ。


奥にいる店主の元に向かう。


髭面で髪もボサボサ、服には煤がついて黒くなっている、The職人なおっちゃんだ。


「こいつを売ってくれ。」


「ん……んん?!」


「なんだ?」


「こいつは探してた黒木の杖じゃねぇか!」


「探してた?先約でもあったのか?」


「いやいや、そんなんじゃねぇよ。使える奴がいなくてな。処分しようと思ってたんだがいつの間にかどっかにいっちまってな。探してたんだ。

兄ちゃんこれ使えるのか?」


「この通り持っても大丈夫だぞ。」


「こいつは驚いたな…まさか使える奴がいるなんてな。」


「いくらだ?」


「元々在庫処分対象の品だ。安くしといてやるよ!」


「良い杖だ。おっちゃんの腕も凄い。そんなもんになら金はしっかり出す。定価で買うよ。」


「はっはっは!言ってくれる!よし!坊主!気に入った!そいつはくれてやる!」


「俺の話聞いてたか?」


「安くしてもらって文句言う奴なんざ初めて見たわ!よし!そんじゃこうしないか?


実は今、ある鉱石が品薄でな。困ってんだ。自分で取りに行くつもりだったが、そいつをとって来てくれないか?」


「近いのか?」


「いや、ドルコト山にある鉱石でな。そこからの搬入が何故かここのところ無くなってな。」


「ちょうどそのドルコト山に行く予定だったからついでで良いな。」


「はっはっは!そいつは縁を感じるな!

ってもそうなるとそいつだけじゃ安すぎるからな。持ってきた鉱石でその杖をパワーアップさせてやる!」


「え?!そんなこと出来んのか?!」


「その杖は特別だ。普通の杖に同じ処理しちまうとぶっ壊れちまう。だがその黒木の杖は馬鹿みたいに硬くてな。それが可能なんだ。どうだ?」


「良いねぇ!乗った!」


「よっしゃ!」


「そんで?どんな鉱石が必要なんだ?」


「ペングタイトって鉱石だ。」


「ペングタイト?」


「透明な緑色の鉱石でな。溶かして武器の表面に塗布すると強度が上がるんだ。杖には使うと効率が向上する。」


「へぇ。知らなかった。」


「こいつの加工は難しくてな。その辺の奴らにゃ無理だ。」


「あ、さっきのショートソード!」


「あの嬢ちゃんの連れか?

その通りだな。あのショートソードはその処理をしてあるもんだ。」


「これは俄然やる気出てきたー!」


「じゃあ頼んだぜ?」


「任せろ!」


結局俺は特別任務を請け負ってドルコト山に向かう事になった。

この特別任務が大変な事になるとは知る由もなく…

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