第17話【勘違い】

「なぁ、透。

朝のメールといい昼飯の時といい何隠してるんだ〜?女だろ?どんなやつなんだ?やっぱりメイド関係で出会ったのか?

おい、教えろよ〜」


注文が終わってそうそう面倒なことを言ってきた。

完全にこいつは俺に彼女が出来たと勘違いしていじるテンションになってやがる。


「何もねーよ」


「そんなに言いたくねーのかよ?

別にお前の女取ったりしねーよ」


「はぁ、隠してることはあるのは認めるし女性が絡んでるのは認める。

だが、彼女じゃないし隠してる内容までは言えん。

結構複雑な事情でな」


「おっけ、わかった。

いじっちゃいけない感じな。

そうならそう言えよ。

最初からそう言ってくれれば深く聞こうなんて思わなかったんだからな?」


「今回のことは俺の事だけじゃないから迂闊なことはできないんだよ」


誠司は秘密もしっかりと守るし事情を説明すれば深く踏み込んでこないことも分かってしたが自分だけの問題では無いので少しのことですら話すのに迷ってしまったのだ。


「ふぅ〜ん。

まぁ、いいけどよ。

言えるようになるかどうしても助けが必要になったら言えよ?」


「おう、ありがとう頼りにしてる」


「でさ、かおりちゃんまた一段といいメイドになったな」


「まあ、俺が見つけて育てたからな」


誠司の言葉に俺は腕を組みウンウンと頷きながら返す。


「何言ってんだって言いたいところだけど実際にそうだしな〜」


かおりちゃんは初め人見知りだったのかオドオドしていたし失敗も多かった。だが、俺は何故か彼女から目が離せなくなった。別に一目惚れしたとかではなくただこの子は立派なメイドになると俺のメイドセンサーが告げていたのである。

それからというもの俺はかおりちゃんにアドバイスをしたり色々なことの練習台になってあげたりしていた。

そんな背景があるので俺が育てたというのも大袈裟かもしれないが全くの嘘という訳でもないのだ。


「でさ、透。

次いつここに来る予定なんだ?

俺は学校でも言ったが金ないから当分はここに通うことになるから土曜日とかどうよ?」


「おい、誠司。

君、お金が無いと言いながら今まで通りの頻度で通うつもりかよ。

お金が無いならまず頻度お減らせよ」


「いや〜。

少しづつ減らしていこうとは思ってるよ?

金貯めて遠くのメイド喫茶行きたいし」


あ、これ信用出来ないやつだ。

全国の煙草辞めないお父さん方と同じこと言ってるし。


「はぁ〜。

もういいよ、勝手にしろ。

どーせお前のお金だからな。

でも、絶対に俺はお金は貸さないからな!」


「わかってるよ〜。

そんときはママ活でもして稼ぐから気にすんな!」


「俺はママ活に着いてよく知らんが合法なん?

その辺調べてからやれよ。

嫌だからなお前が捕まって友人枠としてインタビューされるの」


「大丈夫だって!

それでどうなん?」


「あー、すまん。

俺当分ここに来ないことにしたから」


「お?

どうした?

メイトが嫌いになったわけじゃないだろ?」


「当たり前だろ?

俺とお前からメイドを抜いたら何が残るんだよ」


「同感!」


「だろ?」


「じゃあ、どうしてまた?

もしかして乗り換えか?

それともついにお前も俺と一緒で全国のメイド喫茶を回ることにしたのか!?」


「いや、違うって」


ガシャン!!!


俺の言葉と被るようにして俺の後ろで凄い音が聞こえてきた。


「ん?」


「何かあったのか?」


俺と誠司が音のした方に顔を向ける両手を口に当て涙目でプルプルと震えているかおりちゃんの姿があった。

少し視線を下げるとトレイが転がっており俺たちが注文したフライドポテトとカフェラテが散乱していた。


どうしたのだろう?

入ってまもない時ならばまだしも彼女はもう一人前のメイドだ。

注文の品を落としてしまったとしても難なく自分の尻拭いが出来る子である。

あんなに涙目になって震えることなど普通有り得ない。


「かおりちゃん、大丈夫?」


俺は取り敢えず優しくかおりちゃんに声をかけた。


「う、そ。

ご主人様が私を捨てて別のメイド喫茶に乗り換え?

はっ!」


「え?

ちょっ!

かおりちゃん!?」


かおりちゃんは震えた小さな声でそう呟きどこかへ走っていった。


「あー。

あれは何か勘違いしてますね〜」


「何他人事みたいに言ってんだよ!

お前が紛らわしいこと言うからだろ!」


「おうおう、俺なんかに構ってていいんかい?

早く追いかけないで」


「ッ!

お前後で覚えとけよ!」


「はいはい、行ってらっしゃい」


自分のせいだと言うのに呑気に手を振って居る誠司を苛立ちながら慌ててかおりちゃんを追いかける。

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